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クロネコとヤマト  作者: アルパカ
4/5

4.RPG

 風化した猟犬の跡地には銅貨と生肉(・・・・・)が転がっていた。

 

 星下は銅貨と生肉を手に入れた!

 レベルが2に上がった気がした!

 HPとMPとちからとまもりとすばやさがなんとなく上がった気がした!

 『まじかよ……』を覚えた。


「まじかよ……」


 よくRPGとかでモンスターを倒すと出現するアイテムとコインが謎だった。

 だって意味がわからないじゃないか?

 なんで野良(?)で生息しているモンスターを倒すとコインが入手できるんだ。しかし実際に自分がファンタジーの世界に来て、目の前で風化したモンスターがコインに変わる所を見ると変な気分になってしまう。


「なんか……VR説が再浮上してきたな」


 とりあえず抱きかかえた千歳をなんとなく頭の上に運ぶ。

 目の届く範囲にいないと不安になってしまうが、何だかんだ頭の上に置いておくと落ち着く。


「にゃはは……さすがにコインになるとは考えてなかったにゃ」


 サブカルチャー文化に染まった日本で育って来たせいか、ご都合主義(・・・・・)な現象には慣れている。しかしそれはあくまでもファンタジーの世界なので、現実に起きると現実感から離れてしまう。

 モンスターが急に風化して質量保存の法則を犯してコインになってしまったのは、実体が存在し、人々が生活しているであろうリアルな異世界よりもゲーム寄り(・・・・・)過ぎる。

 ゲーム内で起きたありえない現象も、『作り物だし』と感じることで納得できる。

 しかしここにいるこの世界を、今俺達は現実だと(・・・・)捉えている。

 だからここで起きた不都合な事象は、『ここは異世界ではなくて、作り物の中』と考えた方が納得できるのだ。


「でもあの時千歳と黒猫が闇に飲まれているのを見たんだよなー」


 俺達がこの世界に来るきっかけはアレだ。

 通学路が――世界が急に罅割れ、そこから溢れ出した闇に飲み込まれたのだ。アレが常識からの乖離現象。

 そのせいでまだVR説が有力に成りえないのだ。


「こっちの世界に来て遭ったのはヴリトラとさっきの犬っコロだけだからな。せめて人間に会いたい……とまあ考えていても仕方ないし。今生きている現実に直面しますかね」

「それってにゃんにゃ?」

「それは……」


 ぐーっと鳴る。


 俺の言葉を遮るように腹の音が聞こえた。


「……確かにお腹すいたね」


 きゅーっとなる。


 頭の上の千歳から似たような音が聞こえる。

 部活を終えて家で昼食を食べようと思っていたところに異世界召還。そして二時間の移動に加えて大型の獣との戦闘だ。

 正直腹がストライキを起こしそう。


「そんなわけでこれを食べるぞ」


 そう言うと俺はドロップされたばかりの生肉を拾う。草原に剥き出しで置かれていたせいで細かな汚れが付いているが、火を通せばいいだろう。


「……それ食べるの?」

「何を言ってるんだ当たり前じゃないか千歳。敵モンスターが落とした物が食べれないはずないだろう?」

「うぅ……せー君が何を持って確信してるか全くわからないよぉ……」


 ゲーマーの勘である。


「さーてこれを……どうやって食えばいいんだ?」

「とりあえず焼かないといけない気がする」

「……ライターしかない」


 清盛先輩から預かったライターがある。そんだけ。

 肉を焼くにはライター程度の火力では足りず、着火する物が必要だ。辺りを見渡しても草しかない。若草ばかりだ。

 確か枯れ木じゃないと燃えないんだよな……?


「街に着いたら売ったほうがいいんじゃないかな? この世界が異世界なら私達お金もないし」

「それらに関しては気にするな。多分大丈夫」

「本当に……?」


 訝しげな千歳の声が聞こえる。

 恐らく頭の上ではジト目をしているのだろう。

 

「大丈夫大丈夫。俺がどれだけ異世界トリップ物の妄想してきたと思ってるんだよ?」


 1000回以上はしている。

 そのうち900回はハーレム物だというのは黙っておこう。


「それって想像じゃにゃいの!?」

「想像に勝る現実なし。お前ももう少し(かぶ)いていけよ」

「全然意味わからないよ……」


 尻尾がへなへなと力を無くし、俺の後頭部に当たる。

 あ、そこ掻いて貰えるとありがたい。


「ヴリトラに会った事といい、さっきの戦闘といい、なんとかなったんだ。きっと街に着いても上手くいくさ」

「にゃあ……せー君は慎重なんだけど、考えるのが面倒になったんでしょ?」


 ばれたか。さすが幼馴染。

 異世界なんだから慌てず気楽に行こう。そうでも思わないと精神が持たない。


「俺達の冒険は始まったばかりなのだから……!」

「明後日の方向を見て駆け出そうとしないでせー君。まだ最終回じゃないにゃ」


 阿吽の呼吸でボケとにツッコミを差し込んでくる。

 これだから千歳と一緒にいると面白い。


 戦闘で使った竹刀を袋に戻し、ドロップした銅貨を適当な荷物に入れる。

 問題は生肉だったが、夏場に弁当が腐らないように持ってきた保冷バッグに詰める。


「さて、また歩くか。進行方向に小さく建物が見えてきたし」


 どこまでも続くかと思えた草原の先に、何かしらの建造物が視認できる。

 ヴリトラは王都があると言っていたから、城と城下町だろうか。


「出発進行~♪ にゃにゃにゃにゃ~♪」


 頭の上で響く少し音程の外れた鼻歌と、後頭部にリズミカルに叩きつけられる尻尾を感じながら旅路を行く。


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