悪夢の幕開け
深い闇。
そこには、深い闇だけがあった。
天野創一一等軍曹は、同僚達とshibuyaのバーでウォッカを
飲んでいた。
地平線から覗く、薄く赤い影。
それが、戦争の幕開けであった。
第1話 死の使い
「……まの……お…い…
あ…ま……………まの!!」
天野は、飛び起きた。どうやら飲みすぎてしまったらしい。
頭が割れるように痛い。
「なんだ、どうした、井上?」
井上と呼ばれた同僚は、すぐさま答えた。
「戦争だ…ついに始まったんだ!」
ここは、日本。といっても、2016年のような平和な時代ではない。
街中に穴があき、線路を傷付いた兵士を運んでいる。
そこには、日本軍の黒い影と、巨大な戦闘機が行進している。
名前を「ダガー」という。
日本軍の開発で産み出された、巨大な悪魔だ。
脚にはキャタピラを履いているが、
機動性は抜群で、これ1機でアメリカ軍は震え上がり、
中国軍は地面にひれ伏す。
2516年。
日本は、戦争をしていた。
ついにしびれを切らし、原子爆弾を作り上げ、
亜米利加に投下させたのだ。
元々中が悪かった中国軍は亜米利加と協定を結び、
日本に宣戦してきたのだ。
日本は独逸、仏國、伊太利と協定を結んだ。
全世界に戦火を広げ、攻めては守るを繰り返した。
ある時、日本軍は黒いロボットを開発した。
その黒いロボットは、たちまち中国軍を蹴散らし、
あっという間に遼東半島を占領してしまった。
強い火力と機動性を誇るロボットは、戦況を一変させ、
勝利へと導いた。
2756年、中国降伏。
2816年、英國降伏。
3126年、亜米利加降伏。
3526年、露西亜降伏。
日本は、次々と植民地を広げ、
独逸、伊太利、仏國と共に全世界を統治下に起き、
武器の開発や軍事開発を進めていた。
天野大佐は、井上中佐とバーボンを飲みながら、
思い出に浸っていた。
〈もうあんな争いはしなくていい。
これからずっと平和だ。〉
天野は浮かれていた。日本軍は、勝ったと。
亜米利加の脅威は、ついに去ったのだと。
しかし天野には、一つだけ、
心に引っかかることがあった。
「なあ井上、俺らってほんとに勝ったのか?」
井上は驚き、
「何故そんなことを聞く?俺らが勝ったじゃないか!
あの時の亜米利加兵の顔ときたら、たまったもんじゃないぜ!」
井上中佐は力自慢の大男で、敵がきたら我先にと押しかけ、
手榴弾を投げ、銃を乱射し、ミサイルを撃ち込んでいた。
そんな井上は、部下に「鬼の井上」と呼ばれ、
恐れられていた。本人はあだ名の事など気にもしていないようだった。
「だが、あのダガーっつうロボットは、戦争の時はそりゃ
役立ったが、戦争に勝った今、廃棄処分されるしかないか!
ひゃはははははは!」
たしかに亜米利加や中国などは、武器の開発や兵士の強化化を
すべて止められている。
「言ってみれば、そのロボットも日本人が作ったわけだろ?
ロボットなんかより人間のほうが強いってことよ!ロボットなんかただ生み出されて生産されて、全然役に立たないまま捨てられる、ただのゴミなんだよ!」井上は酔っ払っているのか、
本気なのか、見分けが付かなかった。
その言葉は、兵士が連絡様に使っていた連絡機に吸い込まれ、
中継所を通過し、本部を流れ、武器庫まで響き渡った。
「ダガー」と呼ばれた怪物は、
それを聞いた途端に、何かが切れた気がした。
プチン…
暗闇の中で、赤く光る玉が浮かび上がった。
人の命を奪った哀しみと、人間への怒りがこみ上げてくる。
日本国群馬県伊勢崎市平和町第2日本軍司令本部、深夜2時。
高橋源一郎将軍は、ズラリと並ぶ数々のモニターをチェックしていた。
「まずいな…」一人つぶやく。
「ドウナサイマシタカ」モニター内の電子頭脳、saraが
きいてくる。
「何でもない。」将軍は答えた。
アナタノヘントウニタショウノフルエガアリマス。
ケットウチガアガッテイマス。
ドウナサイマシタカ?
saraがきいてくる。
将軍は、今度は何も答えなかった。
そのモニターには、「ダガー」のエネルギー量や武器の
詳細設定などが細く記されている。
将軍は、「ダガー」の緊急停止ボタンを押した。
明らかに違っている。
通常時のダガーは、
司令部の応答に応えて作動するものなのだが、
今は自己の判断で起動している。
将軍はもう一度緊急停止ボタンを押す。
効果は無い。
将軍はマイクをとり、全国に放送した。
「ロボット『ダガー』が自己作動した。国民に避難命令を下す。急ぎ避難せよ。」
将軍は放送を終えると、自分も避難の準備を始めた。
孫の写真を見つめながら、思いをめぐらしていた。
暗闇の中、一つの黒い影が立ち上がる。
その目は赤く、どす黒く、そして哀しみに包まれていた。
「モクヒョウブツ。ニホンコクカザカミタイ イノウエチュウサ」
不気味な音が響き渡る。
大地がひび割れ、変形し、まるで悪魔が襲ってくるような
想像にとらわれる。
「ダガー」の頭の上から、巨大な銃器が発生。
それは、一見すればスナイパーライフルに見え、
一見すれば悪魔の尻尾のようだった。
緑に光る、スコープのような物が飛び出る。
そこには、約5万キロ離れた、亜米利加のニューヨークの
飲み屋の中の、小さな井上中佐の頭を、しっかりと捕らえていた。
正確に、照準がこめかみに当たる。
井上中佐がそれに気づいた時には、
彼の頭は吹き飛んでいた。
天野は、急な出来事に呆然とし、バーボンの
中身を危うくこぼしそうになった。
「井上…」
第2話 悪夢の幕開け
チィィーーン………
天野は、井上中佐の葬式のために、
日本に帰国し、墓に収めていた。
天野は、深い悲しみがこみ上げてくる中、
ロボット兵器「ダガー」のことを考えていた。
〈あのロボット…なぜ井上を殺したんだ?
奴には意思があるのか?
その時、スマホの着メロがなった。
天野は慌てながらも、かけてきた電話番号を見た。
覚えが無い。
小さく悪態をつき、ロックを解除した。
電話に出る。
「天野大佐か?」
聞き覚えの無い声だった。
「いいか、これから言うことをすべて記録しろ。
“明日の午前9時に中国北京郊外第2満州国統治事務所第1本部に来い。時間厳守だ。いいな”
記録したか?」
天野は必死にメモをとっていた。
どうやら、機会音声の様だ。
異様に高い。
「記録した」
そう言い終わった途端、通話は途切れた。
天野は、旅支度をする為に、そそくさと帰宅した。
長い1日になりそうだ、と嘆きながら。
翌日。
天野は中国行きのカプセルに乗っていた。
このカプセルは、ベッドや食料などもつんであり、
ちょっとした家になる。
今は飛行機よりかは値段は高いが、
着実に利用者を増やしている。
カプセルのタッチパネルに、
「中国 北京郊外 第2満州国統治事務所第1本部」と書き込む。
これで1時間後には着くはずだ。
「さて、と…」
天野はベッドに寝転んだ。
スマホで「ダガー」の情報を調べていた。
天野は國に仕える軍人なので、一定のパスワードを
入力すれば、軍が作っているサイトを1部覗くことが出来る。
まあ、天野がそのサイトを管理しているので、
1部では無く全て閲覧出来るのだが。
すると、新たな情報が目に入った。
“井上中佐、名誉の事故死”と見出しがきが書かれている。
〈何が事故死だ〉
天野は旧友に対する思いを押し殺しながら、
閲覧を続けた。
“先先日、亜米利加のニューヨークの飲み屋で酒を飲んでいた井上中佐が、何者かに暗殺された。國はこれを事故死と見て、
調査を進めている。”
天野はパスワードを入力し、
“裏”のニュースを見る。
「井上中佐を事故死としたのは、国民の恐れが膨らみ、
この機をついて亜米利加が戦争を仕掛けてくることを恐れたためである。独自の研究によると、ダガーと呼ばれる黒いロボットが狙撃したことが分かった。このロボットは、自分の細胞を変化させ、データに無い武器を作り上げ、自己の意思で動いていることが分かった。現在『ダガー』は軍の開発した電磁バリアによって暴走を止めているが、もうすぐ突破される見込みである。」
「マモナク、モクテキチニトウチャクシマス。
オンセイアンナイヲシュウリョウシマス。」
天野大佐は、この言葉で我に帰った。
ふと下を見ると、万里の長城が広がっている。
ここからは、自分で操縦しなければならない。
天野は旋回しながら、北京にある事務所に向かっていた。
第3話 真実を知る
天野は受付の男に挨拶をした。
男は答えもせず、
「ここに名前と住所を。
性別は書かなくてもいい」と冷たく言い放った。
天野は気にしない事にした。
『天野創一大佐 群馬県伊勢崎市平和町368-78第1兵士休養所』
と書いた。
男はそれを受け取り、奥の2番目の部屋で待機せよと
命令した。
天野はそれに従った。
奥の部屋には、天野の他に、10人ほどの男女が居た。
そこへ、この建物の管理者らしき人が入室した。
天野以外の男女は、一斉に起立した。
天野も慌てながらも少し遅れて立ち上がる。
その管理者らしき人は、そこにいる全員の顔を見廻して満足すると、「私は、この建物の管理者、石田翔だ。よろしく。」
簡単に自己紹介を終えた後、
「さて、君たちは、私や上のお偉さんがたに聞きたいことが山ほどあるだろう。しかし、今はわかることだけを言っておく。」
石田は咳払いを一つついた後に続けた。
「君たちが、あらゆる分野でプロの軍人だとは聞いている。
君たちは、つい先日、『ダガー』が自己的に作動したことは知っているな?」
全員がうなづく。
そうすると、ここにいる全員は、
“裏”のニュースが見れる、少なくとも中佐以上の軍人だという事か。
「そこで君たちには、単刀直入で申し訳ないが、
『ダガー』2号機に搭乗して貰う。
それほどの給料も提供するし、この場で中将に任命してもいいくらいだ。しかし、選ばれるのはこの中から2人のみとする。
これから、君たちの専門分野から問題を出す。
ぜひ合格してくれたまえ。」
石田は消えた。
天野は今になって、先程のものがホログラムだったのだと気づいた。
その後、個人に別々の資料が渡された。
これを解くというのだろうか。
すると、周りの軍人達は、一斉に問題に取り組み始めた。
天野は1歩遅れて取りかかる。
10分で解き終わった。
天野には手慣れた、戦闘ロボットのプログラミングについての事や、構造、今までの戦闘履歴からその機動性までが問われた。
もちろん、その戦闘ロボットというのは
「ダガー」の事である。
〈すると、やはり、ここに呼び出されたのは、『ダガー』と繋がっているのか。〉
他の軍人はかなり手こずっている様子だ。
すると、放送が流れてきた。
「試験終了。筆記用具を置け。」
周りの男女はほとんど解けていない様だった。
また、耳障りな機会音声の放送が流れてくる。
「合格者:高橋海人 小山桜 斎藤宗太 天野創一 佐藤慶」
放送が終わった。
天野は合格した。まあ当然の結果だったが。
不合格者は206号室へ。
ほかの者は404号室でそれぞれ待機せよ。
天野は404号室に向かった。
向かう途中、206号室をチラリと横目で覗く。
試験を共に受けた男女や他の部屋の不合格者は、
全員射殺されていた。
404号室。
すると、先程のホログラムがまた出てきた。
「おめでとう。君たちの様な人材を長い間待っていた。君たちには、『ダガー』2号機に搭乗し、『ダガー』を破壊するよう、命令する。」
すると、「斎藤宗太」とネームプレートに記入してある若者が
進み出た。
「石田殿、私は今の職場で満足しているゆえ、この職業は辞退させていただく。」
そう言い放った。
一瞬だった。
彼の頭は吹き飛んでいた。
井上のように。
天野達は選択の余地が、無くなった。
ここに、後に“英雄”と称される4人が集まったのだった。
どうぞ、楽しんで頂けたら幸いです。
中1です
更新日時はバラバラかもしれませんが、
なんとか頑張ります。