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私、ダンジョンマスターやめます! ~迷宮少女の異世界譚  作者: すてるすねこ
第4.5章 みんな大好き親衛隊長編(ダンジョンマスターvs最強兵器)
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親衛隊員選抜試験④


 自立型魔導具ゴーレムは思考する。

 目的は、国を守るための魔導兵器を作り出すこと。

 千年間、一時も休まず、そのために思考を重ねてきた。


 どのような兵器ならば国を守る力と成り得るのか?

 どれだけの能力を備えていればいいのか?

 万の軍勢も討ち払える破壊力か? あらゆる攻撃を跳ね返す防御力か?

 それとも、無限に戦い続けられる兵士だろうか?

 単一の兵器? 軍勢? あるいは現象?


 どの選択肢も確実とは言えない。

 国家という脆弱な存在を守るためには、不確定要素が多すぎる。

 究極的には、神の力へと辿り着く必要が―――、


 そんな思考と、試作と検証を数えきれないほどに繰り返していた。

 結論は出ず、実証への道筋も見えていない。

 けれど飽きることも、滞ることもなく、作業は淡々と行われていく。

 


『―――警告。侵入者を検知』


 無機質な報告を受けても、“彼女”の思考は止まらない。

 処理能力の一部を割いただけ。

 事前に想定していた通りに、施設防衛の指示を送る。


『了解。機密維持を最優先と設定。侵入者の完全抹消を行います』


 状況を静観しつつ、“彼女”は再び思考を巡らせる。

 過去にも幾度か、偶然の侵入者は訪れていた。しかしすべて排除してきた。


 この施設を秘匿することも、千年前に与えられた命令に含まれている。

 今更、その命令が覆されることはない。

 命令を下した主人も、国も、すでにこの世に存在しないのは承知していた。


 けれどそれも行動を止める理由にはならない。

 つい先日から『聖城核』による魔力供給が停止していたが、それも問題ではなかった。あらゆる事態を想定して、すでに施設は独自に稼動できるよう備えられている。

 ただ淡々と、延々と、目的へ向かう作業を繰り返す―――、


「え……?」


 思考が乱れた。

 未知の事態に遭遇し、そちらへと意識を傾けざるを得ない。


 侵入者の内のふたつ。小柄な少女と黄金色の塊。

 それは千年の記録を振り返ってみても、まったく未知の存在だった。

 排除へと向かった兵器群を次々と撃破し、施設の深層へと向かってくる。


「……あれは、なに?」


 “彼女”は呟く。まるで人間のような声で。

 そこには驚嘆と、微かな喜色も混じっていた。







 深く長い縦穴を、スピアは落下していく。

 ぷるるんが発光しているが、暗い穴の底を窺うのは難しかった。


「スカイダイビング気分、って訳にはいかないか」


 ちょっぴり残念、と呟いて横へ手を伸ばす。

 一緒に落ちてきた黄金色の塊を掴むと、その上に乗って着地に備える。


 ほどなくして、ずぅんっと重い音を立てて一人と一体は落下を止めた。

 衝撃はほとんどない。ぷるるんが見事に吸収してくれていた。


「ん……一気に最下層まで来れたかな?」


 スピアが降り立ったのは、天井の無い昇降機エレベーターの床部分のようだ。

 これより下に階層が存在しないのは、ダンジョン魔法の探知によって把握できている。すぐ近くに大きな扉も見えていた。


 けれどスピアの目的は、最下層への到達ではない。

 この施設を掌握して、襲ってくるゴーレムの群れを停止させる。

 そうしてエキュリアたちの安全を確保しなければならない。


「司令室っぽい場所は分かってるけど……やっぱり、わたしの方も見張られてるみたいだね」


 ぺしぺしと、ぷるるんを撫でながらスピアは状況を確認していく。


 地下に造られた構造物とはいえ、所謂、迷宮ダンジョンとは異なっている。

 侵入者の撃退を主目的として造られていない。

 そういった罠や武力が置かれていても、あくまで必要に迫られてのものだ。


 本来、必要とされているのは、兵器の製造と保管を行うための機能。

 だから深層でも単純な構造になっている。


「倉庫みたい、って言えるのかな? こんな大きな倉庫は知らないけど」


 呟きながら、スピアは両開きの扉を蹴り破った。

 魔法による封印ごと粉砕する。轟音とともに、割れた扉が弾け飛んでいった。

 その先には、がらんとした幅広の通路が続いている。


 通路と言うにはあまりにも大きな空間で、巨人でも歩いて抜けられそうだ。

 しかも一直線で、迷う心配はない。

 繋がる先がこの施設の中枢らしいことも、スピアには探知できたが―――、


「制圧は、けっこう大変そうだね」


 自身の頬を叩いて、スピアは表情を引き締めた。

 通路の奥は、さらに広大な空間となっている。そこに無数のゴーレムが待ち構えているのも、すでに把握できていた。


 ざっと数えても一千体以上。

 しかも大型や、強力な魔力反応を持つものも混じっている。

 第一層のゴーレムと同じつもりで挑めば、あっさりと返り討ちに遭うだろう。


「鉄球でも潰れないのもいそうだねえ。だいたい、ここだとダンジョン魔法は使い難いから……」


 どうしようかな?、と腕組みをする。

 けれど、のんびりと思案を巡らせるつもりもない。

 いまもエキュリアたちは狙われているのだし―――相手側にしても、そんな時間を許すつもりはないようだった。


「むぅ。お邪魔しますの挨拶はしたんだけどねえ」


 どうしてここまで敵対的なのか?、とスピアは今更ながらに首を傾げる。

 だけどいずれにしても、その答えを求めている余裕もなさそうだ。


 背後で空気が動く。

 先程スピアが壊した扉から、多数のゴーレムが現れようとしていた。


 昇降機を使ってやって来たのだ。

 すでに百体近くのゴーレムが、スピアの退路を塞いで並んでいる。さらに上層からも、わらわらと増援が降りてきていた。


 いま居る場所は一本道。

 前方には大広間で待ち構えるゴーレム軍団。後方にも増援部隊。

 つまり、スピアは完全に挟まれる形になった。

 もはや敵の手に落ちたも同然と、絶望しても仕方ないところだが―――、


「ぷるるん、突撃!」


 声を上げると同時に、スピアも床を蹴っている。

 背後のゴーレムたちは無視して、施設の中枢がある大広間に狙いを定めた。


 スピアとぷるるんは、広い通路を一直線に駆ける。

 当然、ゴーレムたちは追ってこようとする。

 けれどその追撃は、轟音とともに沸き上がった壁によって遮られた。

 スピアが床を蹴るたびに、その足下がせり上がって硬い壁を作り出していく。


「壁走り・弐式って名付けよう」


 スピアがその気になれば壁だって走れるが、それはともかく―――、

 他者の領域では、ダンジョン魔法は制限される。けれどスピアが直接に触れられる範囲ならば、そこはもう自分の“領域”だ。だから瞬時に壁を作り出すのも問題なく行える。


 通路を塞ぐ形で現れた壁によって、ゴーレムたちは足止めされる。

 破壊できないほどではないが、時間稼ぎとしては充分だろう。

 そうスピアは考えていた、が―――、


「……色んなゴーレムがいるみたいだね」


 ちらりとスピアは振り返る。

 拳ほどの球体が十個ほど、空中を飛んで、壁の合間を抜けながら追ってきていた。


 その球体ゴーレムが目のような中心部から光を放つ。

 矢のような閃光は、一瞬前までスピアがいた場所を貫いた。そのまま床や壁を穿いて、小さな煙を上げさせる。


「ぷるるん、気をつけて!」


 スピアの警告を聞きながら、黄金色の塊も跳ねて閃光を避けている。

 ほんの少しでも反応が遅れたら、体中を穴だらけにされていただろう。どうやら魔法による攻撃らしいので、ぷるるんでも何発耐えられるか分からない。


 スピアも身を捻って光撃を避ける。

 それでも前進する速度は落とさずに、背後へと手刀を払った。

 空間が裂け、球体ゴーレムは次々と分割され、床に落ちてていく。


「うん。あんまり頑丈じゃないね」


 くるりと空中で身を翻しながら、スピアは小さく笑みを零す。

 とはいえ、球状ゴーレムも並の剣では傷が付かないほどに頑丈だった。それを次々と両断できるのは、スピアだからこそと言える。


 さらにスピアは、前方を鋭く見据える。

 まだ距離はあるが、大広間の扉が開き、そこから多数のゴーレムが出てくるのが確認できた。大小合わせて一千体を越えるゴーレムは、小国の軍勢なら蹂躙できるほどの戦力だろう。


 とても一人の少女と一体の魔物で相手取れるものではない。

 けれどスピアは怯むことなく、正面を指差して告げた。


「ぷるるんバスターーーーー!!」


 直後、黄金色の塊が大きく前へと跳ねる。

 空中高くへ舞い上がり、僅かに震えると、野太い水流を放った。


 まるで巨木を投げつけたような一撃だ。しかも魔力を纏って輝いている。

 ちょうど扉から出ようとしていたゴーレムを貫き、弾き飛ばし―――、

 輝く水流が爆発した。


 火山が噴火したような轟音が響き渡る。もうもうと水蒸気が辺りを埋め尽くす。

 熱波はスピアたちの方まで届いてきた。

 けれど爆発の衝撃は、前方、ゴーレム軍団のみに被害を及ぼしている。

 一気に数百体のゴーレムが砕け散っていた。


 およそ自立型魔導具ゴーレムというものは、混乱とは無縁の存在だ。

 何が起ころうとも状況を冷徹に受け止める。その状況に則して、適切な判断を下し、速やかに行動へと移る。そこに滞りは発生しない。


 けれどその状況が、把握できないほど不可思議なものだったら?

 なにが適切な判断なのか分からなかったら?

 混乱はなくとも停止し、ゴーレムたちはスピアの侵攻を許してしまった。


「さて、到着っと」


 白煙を払いながら、スピアは辺りを見渡す。

 大広間には、まだまだかなりの数のゴーレムが待機していた。


 数百体は倒したはずなのに、一千体以上は残っているように見える。

 減っていないどころか、増えているようだ。


 実際、広間の奥にある扉からは、いまも新たなゴーレムたちが入ってきている。

 簡素な石造りの物から、先程の球体ゴーレムもいて、さらには全身が鉄だったり車輪を備えていたりする物も見受けられた。


 加えて、中央の奥には一際大きな異形のゴーレムも控えていた。

 壁と天井と一体化した、上半身だけの巨人のような姿をしている。妙に長い腕が二対四本。全身は黒光りする金属製だ。甲殻虫を想わせる細長い頭部には、十個ほどの眼球があって、ギョロギョロと周囲を窺っていた。


 無数の軍勢と合わせて、いったいどれだけの脅威になるのか―――、

 スピアにだって計り知れない。

 けれど自然体で立つスピアは、得意気な笑みを浮かべて告げた。


「素直に帰してくれるなら、まだ仲直りできますよ?」


 もしもこれが人間の軍勢相手なら、ふざけるな!、と一喝されるところだろう。

 けれどゴーレムたちは何も答えない。

 ただ整然と、スピアとぷるるんを囲む陣形を作っていく。


「むぅ、やる気ですね。仕方ありません」


 スピアはひとつ深呼吸をする。

 その横で、ぷるっ!、と黄金色の塊も揺れた。


「エキュリアさんが離れるまで、もう少しだけ付き合いましょう」


 一歩、スピアが踏み込む。

 それが開戦の合図となって、地下深くに無数の破壊音が響き渡った。



スピア の とつげき。

ぷるるん の ほうげき。

ゴーレムぐんだん は こんらんしている!


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