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私、ダンジョンマスターやめます! ~迷宮少女の異世界譚  作者: すてるすねこ
第4.5章 みんな大好き親衛隊長編(ダンジョンマスターvs最強兵器)
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親衛隊員選抜試験②

 騎士とは、己の命に代えても主君を守るもの。

 王族を守る親衛騎士となれば、その役割はけっして失敗など許されない。

 たとえ何時でも、何処でも、何者が脅威となろうとも。

 守るべき主君に傷ひとつとて負わせてはならない。


 それに関しては、選抜試験に集まった騎士の中からも異論は出なかった。

 だからスピアが言い出した試験内容にも納得した。


 実戦を想定して、襲ってくる敵から主君を守り通せるかどうか。

 守られる主君役はエキュリア。敵役はぷるるんが務める。


 広い練兵場の各所に、スピアが土壁を立てて道を作った。定められた順路を無事に抜けられれば合格、という一見すると単純な試験だ。

 キングプルンが敵役と聞いて、戸惑う者も幾名かいた。

 弱い魔物の代表として知られるプルン種だが、なにせ空から舞い降りてきたのだ。

 しかもその主人であるスピアは不可思議な魔法を使う。

 警戒するのは、まあ当然の判断だろう。


 けれど所詮は一匹なのだから、集団で掛かれば―――、

 そう騎士たちは意気込むと、三班に分かれて試験に挑んだ。


 ちなみに、試験開始時点ですでに三名が脱落していた。

 エキュリアの婚約者を詐称した男と、その取り巻きたちだ。

 いきなり現れたぷるるんに挑みかかって、あっさりと撃退されていた。その決断力は誉めるべきかも知れないが、ぷるるんは考え無しに挑んで勝てる相手ではない。

 最後の言葉は、「エキュリア殿に俺の活躍ぉぶへらっ!?」だった。


 ともあれ、試験は開始された。

 そしてもうじき終わろうとしている。


「んなぁっ!? ち、地下から現れただと!?」


「くっ……陣形を立て直せ! なんとしてもエキュリア殿を守るんぼぁっ!?」


「け、剣が取り込まれ、てぶぅっ!?」


 第三班も、奮闘むなしく全滅した。


 ちなみに第一班は―――、

「いいか、プルンとはいえ油断するなよ。相手は得体が知れないからな」

「ああ。特に物陰からの奇襲は要注意……ん? なんだこの影は?」

「っ、上だ! 散開し、ぶぼぁっ!?」

「班長! そ、空からの奇襲だと!? くそっ、隊列ぉどもぁっ!?」

 結果、全滅。


 第二班は上方にも注意していたが―――、

「ん? なんだ……キングではなく、只のプルンだと?」

「こんなのは聞いてないが、さては陽動か? ともかく片付けでぼらぁっ!?」

「なにをやってる! 相手は只のプルんだらばっ!?」

「ま、まさか小さくなったのか!? くそっ、見た目は弱そうなのにだがぶっ!」

 結果、同じく全滅。


 そうして三十名余りの騎士がぐったりとして座り込み、項垂れている。

 魔法による治療は行われたけれど、其々の装備はもうボロボロだ。

 心の傷も深いのはありありと窺える。

 哀れみすら誘う惨状を、エキュリアはぷるるんに乗って見下ろしていた。


「……少々、難易度が高かったのではないか?」


「手加減はしましたよ?」


 ぷるっ!、と誇らしげに揺れる黄金色の上に、スピアも腰を下ろしていた。


 その言葉通りではあるのだろう。

 六魔将すら切り刻むような、高圧水流の攻撃などは使われていなかった。

 それでも一度に十名以上の騎士を圧倒できるのだ。

 もはや常識では測れないぷるるんの強さに、エキュリアも頭を抱えてしまう。


「いや、常識外れだったのは最初からか……」


 苦笑を零しつつ、ぷるるんから降りる。


「それで、試験はどうする? このまま全員を不合格にするのか?」


「そうですねえ……」


 スピアは首を傾げながら、ぐるりと視線を巡らせる。

 座り込んでいる騎士たちの反応は、大きく二つに分かれていた。

 さっさと帰りたい。もう親衛隊なんて諦める、というのが半数ほど。

 残りの半数は、まだ熱を湛えた瞳でスピアを見つめてくる。


「んん~……希望する人には、次の試験も用意したいです」


 だけど、とスピアは腕組みをする。

 騎士を選ぶ試験の内容なんて、おいそれと思い浮かぶものでもない。

 そもそもスピアは、年齢的には試験を受ける側だ。


「数学と古文は苦手でした」


「よく分からんが、なにやらダメっぽい気配を感じたぞ?」


「気のせいです!」


 あからさまな誤魔化しだったが、エキュリアは肩をすくめるだけに留めた。

 それよりも、親衛隊員の選抜をどうするか―――。


「そうだ! 地下迷宮です!」


 スピアが朗らかな声とともに手を叩く。

 果たして問題が解決したのか増えたのか、どちらとも取れる発言だった。


「古文で思い出しました。古いのを発見してたんです」


「うむ。よく分からん。まずは説明をしろ」


「いまから行きましょう!」


 まるですべてが解決したかのように、スピアは笑顔を輝かせる。

 けれどエキュリアは嫌な予感を覚えて頬を歪める。

 他の騎士たちも同じく、冷や汗が流れるを堪えきれていなかった。







 その地下施設の存在は、『聖城核』の奥深くに記録されていた。

 秘匿され、年月の積み重ねによって忘れ去られたものだ。


 始まりは千年以上も前のこと。

 現在のベルトゥーム王国になる地域は、別の国によって統治されていた。

 その国の王が、ひとつの計画を立てた。

 『聖城核』の力を使い、強力な魔導兵器を作ろうという計画だ。


 魔法を技術として解明し、確立させるのが魔導。

 それが兵器でも、小規模な道具でも、新たな魔導具を作り出すのは難しい。緻密な設計が要求され、製造まですべてが試行錯誤の繰り返しになる。


 だから当時の王は、それらを自動化させようと考えた。

 自立型魔導具ゴーレムの製造は、『聖城核』さえあれば可能だった。

 まずはそのゴーレムに、自己の思考能力を強化するよう命じる。

 最初は簡単な命令しか受け付けなかったゴーレムも、やがて魔導技術まで理解できるようになっていった。

 あとはそのゴーレムを量産し、任せればいい。


 必要になる物資は、地下を掘って集めるように命じた。

 大量の魔力も必要だが、そちらは『聖城核』から送り込める。

 国民から僅かずつ集めた魔力の一部が、自動的に施設へ送られるよう設定された。


 そうして魔導兵器の開発、改良、製造は行われていった。

 国を守るため。あるいは、何者をも屈服させる力を得るために。


 命令を受けたゴーレムたちは働き続ける。

 延々と。施設も、自分たちすらも改良を続けて。

 ただひたすら、すでに存在しない主人の意志を実現させるために―――、

 といったことを、スピアが言葉にすると次のようになる。


「すごく古いんです」


「少しは説明する努力をしろ!」


 地下施設への入り口となる大きな穴を、スピアとエキュリアは見下ろしていた。

 場所は王都の外、馬で一刻ほど走った丘陵地帯だ。


 二人の後ろには、親衛隊員候補である騎士たちも控えている。

 人数は十五名となって、半数以上が脱落していた。

 過酷かつ行き当たりばったりな試験内容を思えば、よくこれだけ残ったものだと感心するべきだろう。


「それにしても……確かに、奥には石造りの通路があるな。明らかに人工物だ」


 大きな穴は、例によってスピアがダンジョン魔法によって空けた物だ。

 土に干渉する魔法を使えば、同じようなことは他の人間にも出来る。

 けれど辺りは緩やかな丘陵が広がっているだけ。

 一点を狙って隠された施設を掘り当てるなんて、スピア以外の誰にも真似できないだろう。


「これは一度、王都へ戻って報告した方がよいのではないか?」


「あ」


 スピアが思い出したような顔をする。

 怪訝にエキュリアが眉根を寄せると、スピアはそっと目を背けた。


「……そういえば、以前から知っていたようなことを言っていたな?」


「忘れてました!」


「こんな大事なことを忘れるな! 真っ先に報告しろ!」


 当然の指摘に、スピアはしょんぼりとして項垂れる。

 うっかりしていたのは間違いない。だけどスピアにだって言い分はある。

 この地下施設に関するものの他にも、『聖城核』には様々な情報がたっぷりと詰まっていた。それらを把握するだけでも手一杯だったのだ。


「でも報告なら大丈夫です。いまシロガネに伝えて、頼んでおきましたから」


「シロガネに……? そうか、念話のようなものが使えるんだったな」


「はい。セフィーナさんにはいまから……っと?」


 言葉を止めて、スピアは地下への入り口へ目を向けなおした。

 何気ない動作で足を開く。僅かに腰も沈めた。

 静かに張り詰める空気をエキュリアも察して、腰の剣に手を伸ばす。


「なにか、出てくるのか?」


「そうみたいです。けっこう大きいですね」


 スピアの言葉を肯定するように、ずんっ、と重々しい音が響いてきた。

 断続的で、近づいてくる音だ。

 なにか重い物が迫ってくるのを感じさせる。

 スピアたちの背後にいた騎士たちも、異常を察して其々に身構えた。


「総員、まずは深呼吸をしろ! 落ち着いて防御陣を組め!」


 エキュリアが声を張り上げる。

 以前は、領地で兵士たちの指揮を執っていた。それを思えば騎士をまとめるのも大して違わない。


 そうして警戒する一同の前に、無骨な影がのっそりと姿を見せる。

 地下から現れたのは、石造りの人型だ。背丈は大人の男を見下ろせるほどに高い。全身が太く、剣で斬りつけた程度では傷すら付かなさそうだ。


「ゴーレムか。こんな物に守られているとは、なかなかに厄介な―――」


「とりあえず挨拶してみます」


 身構えるエキュリアの横から、スピアがするりと歩み出た。

 まるっきり自然な動作で。家の廊下を歩くみたいに。

 こんにちは!、と元気一杯に手を振ってみせる。


 エキュリアも騎士たちも呆気に取られていたが、ゴーレムは驚いた様子もなく的確に反応した。接近しようとするスピアに対し、大きな拳を打ち下ろす。

 人間一人を丸ごと叩き潰せそうな拳だ。

 小柄な少女など一溜まりもないはずで―――重い音とともに、土煙が上がった。


「むぅ。敵対的ですね」


 振り下ろされた拳を、スピアはあっさりと回避していた。

 それどころか、すでにゴーレムの懐に入っている。


「意識も無いみたいだし、壊して進みましょう」


 言いながら、とんっ、と掌をゴーレムの胴部分へと当てる。

 そのままスピアは背後へと飛び退いた。


 直後、ゴーレムの胴体が弾け散る。

 まるで腹の内側に爆弾でも仕込まれたみたいに、背部へと派手に吹き飛び、石造りの体は真っ二つになって倒れ伏した。

 重い音に続いて、ばらばらと石片が転がる。

 あっという間に終わった戦いの様子に、他の面々は唖然とするばかりだった。


「それじゃ、探索を進めましょう」


 服についた土埃を払うと、スピアは笑顔を輝かせた。



選抜試験、第一弾は全員不合格でした。

そのまま敗者復活に挑戦。


次回から、地下迷宮探索です。

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