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私、ダンジョンマスターやめます! ~迷宮少女の異世界譚  作者: すてるすねこ
第4.5章 みんな大好き親衛隊長編(ダンジョンマスターvs最強兵器)
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親衛隊員選抜試験①


 その日、スピアは王城の外れを訪れていた。

 王宮の裏側にあって、ほとんど人が訪れない場所だ。

 ぽつんと土地が空いている。

 そんな場所に何をするためにやってきたのか?、不可思議ではある。


 まあスピアの行動は、大抵の場合は思いつきで、今回もそうだった。

 そんなスピアの背後に立って、エキュリアが腕組みをしながら問い掛ける。


「スピア、おまえは何者だ?」


「ひよこ村村長で、親衛隊長です!」


 元気一杯の返答だった。

 子供相手の教師だったら、「よくできました」と誉めたかも知れない。

 けれどエキュリアは教師ではないし、頬を引きつらせる理由は山ほど抱えていた。


「そうか、親衛隊長だな。ならば何故、その親衛隊長が、土いじりなどしている?」


「樹を植えました。桜です」


「勝手な真似をするな! 仮にも城内だぞ! だいたいサクラとは何だ!?」


 エキュリアが声を荒げる。

 偶には冷静に問い詰めようと試みたのだが、やはり無理だった。


 親衛隊長となる叙任式からは抜け出すし、

 いまだにレイセスフィーナへの無礼な言動も改めないし、

 王宮から厨房までちょこちょこと出入りして好き勝手しているし―――、

 真面目なエキュリアが腹を立てるのも当然と言えた。


「むぅ。今日はかなり本気のお怒りモードですね」


 スピアだって、エキュリアには怒るよりも笑っていてもらいたい。

 しょんぼりとした顔をして、土をいじっていた手を止めた。

 もっとも、すでに三本目の桜を植え終わっていたが。


「でもいきなり花だけ見ても、風情がありませんよ?」


「……待て。なにか話がズレているぞ」


「桜は育てるのも難しいんですが、その経緯も含めてこそ綺麗なんです」


「だから、意味が分からん! ああもう!」


 うがぁっ!、と吠えて、エキュリアはスピアの襟首を掴んだ。

 そのままズルズルと引きずっていく。


「あれ? まだお昼御飯の時間には早いですよ?」


「食事に行くのではない! 今日は親衛隊員の選抜を行うと話したはずだ!」


「……ああ!」


 引きずられたまま、スピアは陽気な声を上げる。


「もちろん覚えてましたよ?」


「そうか。覚えていた上で、またサボろうとしていたのだな?」


 問い返されて、スピアはそっと目を逸らす。

 エキュリアの足取りがさらに荒々しくなっていった。







 親衛騎士は、王族から直々に任命される。

 つまりはその地位に就くことは、直接の信頼を得たという証明でもある。

 騎士ならば誰もが憧れると言っても過言ではない。


 しかしいまの王国は混乱が残っていて、何処でも有能な人材を欲しがっている。

 親衛隊の再編は必要だが、実際にはそう急ぐ事柄でもない。

 普段の仕事は、訓練と、王族の護衛くらいなのだから。


 護衛にしても、いまのレイセスフィーナは安全な城の中に篭もりっきりだ。

 治世を立て直すために、貴族との会談や書類仕事に追われている。

 たとえ大規模な部隊を編成しても、現状では活躍の機会はないだろう。

 だから少数、ほんの十名ほどが揃えば充分だったのだが―――、


「いっぱい集まりましたねえ」


 城に隣接した練兵場には、三十名余りの騎士が集まっていた。

 いまはエキュリアの指示で、一対一の模擬戦を主体とした訓練を行っている。

 その間に、スピアを呼びに来たという訳だ。


 さすがに親衛隊への入隊希望なだけあって、腕に覚えのある騎士ばかりだ。

 その剣や魔法の技を見せようと、模擬戦にも熱が入っている。

 これも選抜試験の内だと、誰もがそう考えていた。

 副隊長であるエキュリアが席を外したのも、怠ける者がいないか見定めようとしているのだろう、と。


 まさか肝心の選抜を行う隊長を探しに行っていたなど、想像できるはずもない。


「おまえが募集など始めたからだぞ。慣例では、実力のある騎士にこちらから声を掛けていくのだ。このような試験など前例がない」


「初物ですね。ピチピチです」


「魚みたいに言うな!」


 そうして言い合いをしながらも、二人は訓練をしている騎士たちの方へと近づく。

 騎士たちも気づいて、エキュリアが合図を送ると剣を止めて集合した。

 全員が綺麗に整列し、その正面にエキュリアとスピアが立つ。


「皆、訓練ご苦労。真剣に取り組んでいるのは見させてもらった」


 一応の労いをしてから、コホン、とエキュリアは咳払いをひとつ。

 一拍の間を置いて、横に立つスピアを示した。


「まずは紹介しよう。こちらが親衛隊長であるスピアだ」


「スピアです。はじめまして」


 返ってきたのは、静寂。

 それはそうだろう。だってスピアは子供にしか見えない。

 騎士たちが抱く栄誉ある親衛隊隊長の姿とは、あまりにも掛け離れている。

 思わず、呟く者もいた。


「こ、子供……?」


「はい。そこの貴方、失格です!」


 呟いた騎士を指差し、スピアは唇を尖らせる。

 子供じゃありません!、と。

 横でエキュリアが頭を抱えていたが、スピアは構わずに続けた。


「親衛隊員になったら、セフィーナさんと一緒に重要な相手と顔を合わせる時もあるんですよ。例えば他国の王族です。もしもそれが子供で、いまみたいな反応をしたらどうなります? セフィーナさんにも恥をかかせてしまいますよ?」


 意外にも、筋の通った言葉だった。

 騎士たちは言葉を詰まらせ、反論もできない。


 けれど納得もできないといった表情をしている者も大勢いた。

 目の前にいる自称親衛隊長は、やはりどう見ても子供でしかない。

 しかも礼儀知らずで、とても非常識な子供に思える。

“セフィーナ”というのが愛称なのは察せられたが、それも王族に対しては不敬に過ぎる。


 いったい、コイツは何処の何者なのか?

 出身は? 家柄は? どうして親衛隊長と名乗っているのか?

 さては、ふざけているのか―――、

 そう眉根を寄せて、あからさまな反発を露わにする者も少なくなかった。


「ではここで、問題です」


 騎士たちの反感を綺麗に無視して、スピアは人差し指を立てる。


「セフィーナさんを護衛しながら旅をしています。野営の際、まず用意するべき物は何でしょう?」


 左右に視線を巡らせてから、スピアは一人の騎士を指差した。

 答えを求められた騎士は、やや困惑しながらも姿勢を正す。


 突拍子もない問い掛けだったが、落ち着いて考えれば、答えるのは難しくない。この場に集まった騎士は、魔物討伐などでそれなりに実戦も経験している。当然ながら野営の心得だって持ち合わせていた。


「そういった状況であれば、事前に役割を決めておきます。主人の護衛をする者や、天幕を張る者、薪や食料を集める者など手分けをして……」


「ぶー! 不正解、失格です!」


 両手で×印を作って、スピアは声を弾ませる。

 答えた騎士は、ひくひくと頬を歪ませた。

 殴り掛からなかっただけでも、いっそ誉められるべきかも知れない。


「正解は、小屋を作る、です」


 はぁ!?、と騎士たちが揃って疑念を表す。

 そんな物を簡単に作れるはずがない、と。


 けれどスピアはひとつ足踏みをすると、地面に魔力を流した。

 少し離れた場所に一軒の小屋を作ってみせる。セフィーナとの旅で何軒も作っていたので、もはや慣れたものだ。


 しかしそれを初めて目撃した騎士たちは、唖然として声も出せない。

 立ち尽くす一同に、スピアはまた人差し指を立ててみせた。


「では第二問! 旅の途中、謎の魔族が襲ってきました。どうしましょう?」


 また適当に選んだ騎士を指差す。

 真面目そうな騎士は、眉根を寄せながらも大声で答えた。


「無論、戦って道を切り拓きまする。姫殿下の安全は最優先なれど、魔族を見過ごすことや、ましてや逃げることなど騎士の名折れであり……」


「ぶー! 惜しいけど不正解、減点です!」


 スピアはまた×印を作って、足下から魔力を流した。


「正解は、底無し沼に沈める、です」


 今度も反論はなかったが、代わりに騎士の数名が悲鳴を上げた。

 地面の一部がいきなり泥沼に変わったのだ。

 抗う間もなく、数名が腰まで飲み込まれる。すぐに周りの騎士によって助け出されたが、綺麗だった鎧は泥まみれになっていた。

 どうにか地面に上がった騎士たちは、荒い息を吐きながらスピアを睨む。


「あー……その、なんだ……」


 スピアがまた口を開こうとしたところで、エキュリアが割り込んだ。

 さすがに放置はできないと判断したのだ。

 騎士たちの困惑と反発は、そろそろ限界に達しようとしていた。


「このように、我らの隊長殿は少々、いやかなり常識外れで……」


「―――ふざけるな!」


 声を上げたのは、やけに豪奢なマントを付けた男だった。

 着ている鎧にも派手な装飾が施されていたようだが、ほとんど泥に塗れている。

 両脇にいた騎士が制止しようともしたが、男は乱暴に振り払うと、大股でスピアへと詰め寄った。


「先程から妙なことばかりしおって! 救国の英雄であるエキュリア殿の顔を立てて黙っていたが、もう我慢ならん!」


「ま、まあ、待て。え~と……」


 誰だったか、とエキュリアは記憶を探る。

 取り巻きらしき騎士がいるのと、身なりからして、爵位持ちの縁者だと察せられた。けれどすぐには名前が出てこない。

 その僅かな間にも、男はさらに言葉を続けた。


「エキュリア殿も、このような小娘に遠慮する必要はございませんぞ。どのような事情があろうとも、婚約者である自分が味方となりましょう」


「はぁ!? 待て、婚約者とは何だ!?」


「小娘じゃありません!」


「主張するのはそこか!? いま聞き逃せない単語が出たのだぞ!?」


「エキュリアさんに婚約者なんているはずないです」


「嬉しいのかどうか微妙な信頼だな!」


「ふっ、やはり小娘は分かっておらぬようだな。エキュリア様に相応しい男など、俺以外に存在せぬのは明らかで……」


「貴様もまた妙なややこしいことを言うな!」


 なんかもうグダグダだった。

 ともかく!、とエキュリアが額に青筋を浮かべながら叫ぶ。


「どちらも一旦退け! この場は私が預かる!」


 強引に話を断ち切ると、スピアの肩を掴んで離れた場所へと移動した。

 そうしてエキュリアは顔を寄せて、問い掛ける。


「……で、どういうつもりだったんだ?」


「そうですねえ……『小粋な冗談で仲良くなろう作戦』は失敗みたいです」


「やはり真面目にやってなかったのか!」


 小さな頭を掴んで、ぐりぐりと拳を捻り込む。

 スピアはわたわたと暴れたが、エキュリアの怒りはなかなかに治まらなかった。


「ともかくだ。次こそは真面目に試験を始めることだな。妙な男も混じっていたが、一応は王国を支える騎士なのだ。啀み合っても意味はないだろう?」


 ひとしきりスピアに反省をさせてから解放する。

 優しく諭すエキュリアに、スピアも渋い顔をしながら頷いた。

 異論はない。ただ、コメカミがじんじんと痛んだ。


「分かりました。では次こそ本番の、最終試験です」


「待て。本番はともかく、いきなり最終というのはどういう―――」


 エキュリアは嫌な予感を覚えて、制止しようとする。

 けれど、すでに遅かった。


「ぷるるん先生ーーーーー!」


 スピアが上空へと呼び掛ける。

 と、まるで待っていたかのように、丸く大きな影が差した。


 空中を跳ねて降下―――重々しい音とともに、黄金色の塊が着地した。



この章は断章、って形ですかね。そんなに長くないです。


そして試験の合格率も、きっと高くない。

次回は先生による大胆なふるい落としです。


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