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私、ダンジョンマスターやめます! ~迷宮少女の異世界譚  作者: すてるすねこ
第四章 たった一人の親衛隊長編Ⅱ(ダンジョンマスターvs魔将王)
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ダンジョンマスターvs魔将王⑤


 濁った悲鳴を上げて、グルディンバーグは崩れ落ちる。

 まるで草を刈るように膝を圧し折られたのだ。

 紛れもなく重傷。そのまま泣いて謝ってもおかしくない。


 だが、そんな暇も与えられなかった。


「ば、ガ……なっ!?」


 剣を持っていた手が捻り上げられる。

 そのまま体ごと投げ落とされ、頭から石畳に叩きつけられた。

 常に張っている多重の障壁も、何故かまったく役に立たない。


「ダンジョン武闘術初伝―――」


 仰向けに倒れたグルディンバーグの視界が影で覆われる。

 空中に、重量感たっぷりの石柱が出現していた。


「―――名前はありません」


 ないのかよ!、とツッコミを入れる余裕もない。

 グルディンバーグは慌てて飛び退こうとした。

 けれど膝を折られ、腕も一本捻じり折られて、頭から投げ落とされたのだ。


 満足に動けるはずもない。

 石柱が落下する。重々しい震動とともに、肉と骨が潰れる音が響いた。


「があああぁぁぁぁっ!」


 片腕を磨り潰されながらも、グルディンバーグは辛うじて身を捻っていた。

 床を転がりながら、さらに逃げる。

 落下する石柱は一本だけではなかった。

 二本、三本と、立て続けに出現し、落下してくる。


「むぅ。必殺技にはなりませんか。やっぱり名前がないとダメですね」


 呑気に言いながらも、スピアも見ているだけではなかった。

 転がるグルディンバーグを睨み、床を蹴る。

 直接に追撃を掛けようとした。


 距離を詰めるのは、ほんの一瞬のことだ。

 しかしそれでも、グルディンバーグには反撃へと移る時間が与えられた。


 瞬時に魔法を発動させ、十数発の光弾を放つ。

 そのほとんどはスピアが振り払った手刀で、あっさりと散らされた。

 けれど数発が、大きく曲線を描いてセフィーナたちへと向かった。


 護衛についていたシロガネによって、光弾はすべて防がれる。

 ただ、スピアはちらりとそちらを窺った。

 一瞬の間が、数瞬へと伸びる。


 グルディンバーグは無事な片腕で、力任せに床を叩いた。

 そうしてスピアから距離を取ると、さらに飛行術式を発動させて空中高くへと舞い上がっていた。


「くっ……はは、誉めてやるぞ! 確かに接近戦では、貴様に分があったようだ」


 スピアだけでなく、城全体を見下ろせる高さまで上昇する。

 唇の端を吊り上げたグルディンバーグは、断ち切られた片腕に魔力を流した。

 見る間に腕が再生していく。

 圧し折られた足も、笑声を零す間に回復していた。


 元より魔族として強靭な肉体を持っている上に、グルディンバーグはいくつもの術式を自身に仕込んでいる。放っておいても傷は回復するのだ。

 弱点と言えるのは、心臓にある魔石のみ。

 そこさえ無事ならば、たとえ頭を潰されても復活できる。


 だからいまも、けっして追い込まれたのではない。

 人間の小娘ごときに恐怖を覚えたのではない―――、

 そう自分を宥めて、グルディンバーグは冷や汗を隠した。


「こうして空に浮かんでしまえば、もはや打つ手もあるまい。私の魔法で一方的に蹂躙してやろう。人間など、所詮は地を這う虫けらに過ぎぬと思い知らせて―――」


 キラリ、と。

 地上でなにかが輝いた。


「ぷるるん、射出!」


 そんな声も発せられたのだが、上空のグルディンバーグには届かない。

 直後、小さな黄金色の塊が飛んできた。


 正確には、跳ね上がった床によって射出された。

 そしてグルディンバーグの横を抜ける。命中はしなかった。


「は……? プルン、だと?」


 いったいなにを企んでいたのか?

 まさか、プルンを当てて攻撃しようとしたのか?

 そんなもので魔族である自分を倒せると? 馬鹿にしているのか?


 それにしても黄金色のプルンとは珍しい―――、

 などと、しばし困惑してしまったグルディンバーグだが、はっとして振り返った。


 大きな魔力を感じた。

 たったいま、黄金色の塊が飛んでいった方向から。


「んなっ……!?」


 そこには、飛び去っていったはずのプルンがいた。

 空中に留まっていた。

 魔法によって、空中に足場を作っている。黄金色の塊の下には青白く輝く魔法陣が浮かんでいた。


 しかしグルディンバーグが感じた魔力反応は、その足場の方ではない。

 ぷるぷると震える黄金色の塊が、下級の魔物とは思えないほどの魔力を励起させていた。


「ぷるるん、フルバースト!」


 その声もグルディンバーグには届かない。

 けれど目撃する。

 小さな黄金色の塊が、一気に巨大な粘液体へと膨れ上がった。


 同時に、高圧水流による砲撃が放たれる。

 それはもはや人の目で捉えられる攻撃ではない。魔族でも同じだ。

 しかも分厚い鉄板を貫くだけの威力がある。

 惜しみなく魔力も注がれ、魔法障壁も強引に砕き散らす。


 それが、瞬時に、何発もまとめて放たれた。

 黄金色の水流が、グルディンバーグの全身を貫く。

 そのまま切り裂き、五体をバラバラに散らしていく。


「な゛、ぁぅ、ガ……」


 生首となったグルディンバーグが落下していく。

 もはや呼吸もままならず、満足な言葉さえ発せられない。


 だが意識は残っていた。

 そしてそれは、グルディンバーグにとって最後の不運だった。


 いったい何が起こったのか?

 自分は、敗北したのか? 細切れにされた?

 しかも相手はプルン? 六魔将である自分が、下級な魔物であるプルンに?

 いやしかし、あんなプルンがいるはずがない。

 黄金色というだけでも珍しいが、巨大化するなど―――、


 そう混乱し、空中を落下しながらも、僅かに残った冷静な思考を巡らせる。

 そのグルディンバーグの目に、ひとつの硬い輝きが入ってきた。

 赤黒い、見覚えのある輝きだ。


 それは魔石。グルディンバーグの心臓にある、自身の核となるもの。

 凄まじい威力の水流撃の中でも、まだ無傷で残っていた。

 小さな物なので、たまたま攻撃が逸れたのだろう。


 核さえ無事ならばいくらでも再生できる―――、

 そうグルディンバーグが思った直後、魔石は黄金色の粘液体に包まれた。


「ぷるっ!」


 それが、グルディンバーグが最後に聞いた声?となった。

 赤黒い魔石がゆっくりと溶けていく。

 黄金色と同化していく様子を、まざまざとグルディンバーグは見せつけられた。


 自分の命が消えていく。

 魔物に喰われて、次第に小さくなっていく。

 絶望的な光景に、グルディンバーグは堪えきれず声を上げようとした。


 しかしもはや咽喉を震えさせることも叶わない。

 意識も朦朧として、魔力を練ることも出来ない。

 ゆるゆると揺れる粘液体を見つめるしかなくて―――、


「結局、この人は誰だったんでしょう?」


 どうでもよさそうな声も耳に届かず、グルディンバーグは完全に消滅した。







 重々しい音を立てて、ぷるるんが着地する。

 珍しい魔物であるキングプルンだが、けっして特別に強い訳ではない。

 そもそも、魔法という弱点もある。

 だから魔族と戦うのは、あるいは自殺行為かも知れなかった。


 しかしぷるるんは、その魔族の中でも最強格とされている六魔将を屠った。

 正しく大金星と言ってもいい。

 だからといって勝ち誇るでもなく―――、


「うん。これまでの特訓の成果だね」


 ぷるっ!、と嬉しそうに震える。

 強力な敵を仕留めたことよりも、スピアに誉めてもらえるのを喜んでいるようだった。


「さて、それじゃあ……」


 ぷるるんをひとしきり撫でると、スピアは振り返った。

 辺りには瓦礫が散らばっている。

 破壊しつくされた礼拝堂は、晴れやかな陽射しを受けながらも静けさに包まれていた。


「『聖城核』を探しましょう」

「ちょっと待てぇっ!」


 大声でツッコミを入れたのはエキュリアだ。

 その手には剣が握られている。

 セフィーナたちを守りつつ、スピアの手助けをするべく切り込む隙を窺っていた。

 もっとも、ただ眺めている間に戦いは終わってしまったが。


「おまえは、いったい何をしたのか分かっていないのか!?」


「敵を倒しました!」


「さらりと言うな! いや、確かに胸を張って誇れることだが、相手は六魔将だったのだぞ! それを、おまえは、ああもう! 何を言えばいいのか分からん!」


「落ち着いてください」


「おまえは落ち着きすぎだ!」


 結局、グルディンバーグは名乗ることすらなかった。

 しかし相手が魔族であったのは明らかだし、何者なのか、スピアが戦っている間にロマディウスが語っていた。


 六魔将の一人、『生命』のグルディンバーグ―――、

 その名はエキュリアも聞き及んでいた。恐るべき、人類の敵として。

 だから死をも覚悟していたのだが、そのグルディンバーグはあっさりと屠られた。

 スピアと、そしてぷるるんによって。


「まったく……この目で見ても信じられん。まさか六魔将を破るとは……」


「ぷるるんフルバーストです。相手は死にます」


「それも訳が分からん! なんなのだ、あの技は!?」


「改良技として、ぷるるんアルティメット・バーストも予定してます」


「そうか! 楽しみだな!」


 もはや理解するのを諦めて、エキュリアは自棄気味に声を投げた。

 セフィーナやエミルディットも唖然としている。

 状況を受け止めることすら出来ていない。


「あー……ともかくも、脅威は去ったと考えていいのか?」


「そうですね。あの魔族の人は仕留めましたし―――」


 ズン!、と重量感のある音が、スピアの言葉を遮った。

 微かな震動が足下から伝わってくる。

 その震動は徐々に大きくなって、セフィーナなどは膝をつくほどだった。


「な、なんだ、これは!? 地揺れか!?」


 エキュリアが慌てた声を上げる。

 他の面々も蒼褪めた顔をして、咄嗟に身を寄せ合った。


 地震に慣れているスピアにとっては大した揺れではない。

 けれど、もっと別の脅威を感じ取っていた。


「……まだ終わらないみたいですねぇ」


 外へと目を向けながら、スピアはうんざりした様子で呟いた。



今更ですが、魔将+王で魔将王でした。単独じゃありません。

次回はイベントをおかわり。

ある意味では、お約束です。

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