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私、ダンジョンマスターやめます! ~迷宮少女の異世界譚  作者: すてるすねこ
第四章 たった一人の親衛隊長編Ⅱ(ダンジョンマスターvs魔将王)
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王都侵入

 朝早くに屋敷を出て、スピアたちは街の外れにある倉庫を訪れていた。

 街が造られた時からある古い倉庫だ。

 都市長の管理下になっているが、中央の屋敷から離れているので、収められた品々も埃を被っている。


「建物の補強はされてますけど……」


 スピアも口元を押さえて言葉少なになる。

 倉庫の中へ一歩踏み込んだだけで、もわっと埃が舞った。


「わたくしも、以前に訪れた際には驚きました」


「申し訳ありません。時間があれば、お掃除もしたいのですけど」


「いや、いくら侍女とはいえ、それはエミルディットの仕事ではないだろう」


 セフィーナたちも手にした布で口元を覆って、倉庫の奥へと先導する。

“秘密の出入り口”の場所を知っているのは、セフィーナとエミルディットだけだ。

 管理者である都市長にも秘密にされている。


「この壁の奥です。えっと、まずは荷物を退かさないといけないみたいですね」


「姫様はお待ちください。このくらいは私が……」


「力仕事なら私がやろう。そこの壁が通れるようになるのだな?」


 積まれていた幾つかの木箱を退けて、セフィーナが壁を探る。

 隠されていた仕掛けを押したり引いたりすると、ガコン、と重い音が鳴った。

 そうして壁が横へと開いて、奥に部屋が現れる。


「ここから地下へと入ります。暗いので気をつけてください」


「では先頭は私たちが……スピア、どうした?」


 やけに大人しいな、とエキュリアが振り返る。

 そして顔を引きつらせる。

 倉庫の狭い入り口から、にゅるん、と黄金色の塊が入ってきたところだった。


「んん~……やっぱり狭い所だと、ぷるるんが動き難くなっちゃいます」


「……慣れたつもりだったが、やはり驚かされるな」


 ぷるるんを見つめながら、エキュリアは苦笑を零す。

 王都まで続く秘密通路は、地下にある狭い道だ。

 当然、キングプルンのような大きな魔物が通ることは考えられていない。

 なので、この街に置いていくことも選択肢のひとつとして挙がっていた。


 ちなみにサラブレッドとトマホークは、すでに王都へ向けて出発した。クマガネを乗せて空路を行き、後から合流する予定だ。

 いざという時の援軍としての意味もある。


「やはり無理ではないか? 戦力としては惜しいが、今回は隠密行動の予定だからな。ぷるるんはどうしたって目立ってしまうぞ」


 ぷるるんはいまも倉庫の天井に頭をつけている。

 いやまあ、全身粘液体なので頭と言うのが正しいのかどうかはともかくも。


 王城へ忍び込み、『聖城核』を奪う。

 それが第一の目的だ。

 誰にも発見されず、戦いも起こさずに事を済ませるのが理想だろう。


 そういった意味では、ぷるるんはむしろ足を引っ張ってしまう可能性もある。

 これまでずっと一緒だった仲間、という意識はエキュリアにもある。

 だけど今回ばかりは、別行動が最善だと思えた。


「見たところ、地下への入り口はもっと狭い。通るだけでも難しいのではないか?」


「むぅ。仕方ありません」


 渋々といった様子で頷くと、スピアは黄金色の塊をぺしぺしと撫でた。

 エキュリアはほっと息を吐く。

 もしかしたら通路を広く作りなおす、なんて言いだすのではないかと危惧していた。


 でも違った。

 スピアだって素直に合理的な考えはできる。

 大きいのなら、小さくすればいいのだ。


「この技は、もっと違った場面で見せたかったんですけどね。隠し芸大会とか」


「……待て。何の話だ?」


「名付けて、ぷるるんミニマムです」


 スピアが合図を送る。

 と同時に、ぷるるんがぎゅむっと縮んだ。

 ふわふわのパンを一気に押し潰したみたいに。

 あっという間に、スピアの膝丈ほどの高さまで小さくなっていく。


「んなぁ……!?」


「これで狭いところでも活躍できますよ」


 得意気に胸を逸らすスピアに同意するように、小さな黄金色の塊が跳ねる。

 その途端、ずしんっと重い音が響いた。

 小さくなった分だけ比重が増したからだろう。

 ぷるるんが跳ねた足下で、石畳が粉々に砕けていた。








 地下通路を、小さな黄金塊がゴロゴロと転がっていく。

 いつものように跳ねると石畳を割ってしまう。

 衝撃を吸収しながらの移動にも慣れているぷるるんだが、小さな身体の扱いにはまだ不慣れだった。


「まあ、灯り代わりにもなってくれているが……」


「ぷるるんライトです」


 発光するぷるるんを先頭に、スピアたちは通路を進んでいる。

 小さくなれたり、発光できたり、もはやキングプルンの枠をぶち破っているぷるるんに、セフィーナたちは困惑を覚えずにはいられなかった。


 それでもひとまずは、頼りになる仲間として受け入れている。

 スピアのやることでもあるし、と。


「しかし……小さくなれるのなら、街へ入る際にもそうすればよかったのではないか? 手間を掛けてまで隠れる必要もなかっただろう」


「忘れてました」


「……そうか。うむ。次からは気をつけるように」


 そんな大事なことを忘れるな!、とエキュリアは突っ込みたい。

 しかしいまは置いておくことにした。

 これから城へ忍び込むというのに、余計なことに注意を取られている余裕はない。


 そうして狭い通路を進んでいくと、ほどなくして広い場所に出た。

 太い水路が中央を流れていて、桟橋が掛けられている。さらに水路には小型の舟も浮かんでいた。


「なるほど……これなら王都までの距離も行き来できるという訳ですな」


 舟を軽く押して確かめながら、エキュリアが頷く。


 王都と衛星都市との間は、人の足では最低でも数日は掛かる。

 それだけの距離を歩くのは王族でなくとも厳しい。

 いざという際にこの通路へ逃げ込んだとして、食料を持っていなければそのまま空腹で倒れることも有り得る。


 かといって、馬車が通れるほど広い通路を造るのも手間が掛かる。

 そこで用意されたのが、舟という移動手段だ。


「魔力を流せば、船底の装置によって進むようになっています。およそ半日ほどで到着するはずです」


 そう説明をしてから、セフィーナは視線を斜め下へ向けた。

 窺うような眼差しを感じ取ったのか、ぷるっ?、と黄金色の塊が震える。


「えっと、あまり頑丈には作られていないので……」


 ぷるるんの重さには耐えられないかも知れない、とセフィーナは言外に述べる。

 もっともな意見だった。

 けれどスピアは不思議そうな顔をする。


「ぷるるんは泳げますよ?」


「え……まさか、泳いでついてきてもらうつもりですか?」


「はい。折角ですから、この舟も引いてもらいましょう」


 言うが早いか、スピアは『倉庫』からロープを取り出す。

 ぷるるんもまったく躊躇することなく、水路へと飛び込んだ。そうしてすぐにまた水面から黄金色を覗かせる。


「きっとこの方が早いです」


 エキュリアやセフィーナは困惑顔を向き合わせる。


 ぷるるんの能力が高いのは承知している。

 泳げるのも、エキュリアは実際に海で目撃していた。

 馬車のような物だと思えば、早く目的地へ着くのは歓迎できる。


 ただ、どうしても不安を覚えて仕方ない。

 なにせスピアがやることなのだ。

 きっと平穏な結果にはならないと、妙な信頼感があった。


「ですが、急ぐのも確かですし……」


「そうですね。もしもの時は、私がすぐに止めましょう」


「私もしっかりと見張ってます!」


 そうして四人を乗せたぷるるん舟は出航する。

 いきなり最高速度で。


「んなぁ―――!?」


 激しい水飛沫を上げ、小舟が突っ走る。

 制止の言葉を出す余裕もなく、地下通路には三人分の悲鳴が響き渡った。








 ◇ ◇ ◇


 地下通路に、四人の騎士が腰を下ろしていた。

 帯剣こそしているものの、壁に背を預けて、完全に気を緩めている。

 四人が受けた命令は、この地下通路の見張りだ。侵入者が現れた場合は、何者であろうとも殺さず、生かして捕らえるよう命じられている。


 王から直々の命令を、騎士たちは忠実にこなすつもりでいた。

 とはいえ、何時間もずっと緊張を保っていられるものでもない。

 しかももう何日も薄暗い通路ばかりを見ているのだ。他の騎士とも交代で休憩を取っているとはいえ、退屈を覚えるのも仕方ない。


「……今日も、何事も起こりそうにないな」


 騎士の一人が呟く。

 また別の騎士が、溜め息混じりに頷いた。


「このような場所に侵入者など、そうそう来るものか。我慢するしかあるまい」


「しかし、ここはいったい何なのだ? 地下だというのは分かるが……」


「どうでもよい。それよりも、このままでは王命が果たせぬ。なんとしても侵入者を捕らえねばならんのだぞ」


 本来の命令は、この通路の安全を守ることだ。

 しかし誰も間違いを指摘しない。気づいてもいない。

 明らかに判断力が低下しているのは、洗脳による副作用だ。


 それでも死すら恐れず命令を実行しようとするのだから、駒としては役に立つ。

 非常時の戦力として使うだけならば、並の騎士より有用だろう。


「このまま待ち続けても変わらぬ。辺りの見回りもしてはどうだ?」


「だが陛下の命令ではこの場で……待て、何か聞こえぬか?」


 気を緩めていた騎士たちだが、それでも最低限の警戒は保っていた。

 すぐに立ち上がり、身構える。


 水路の奥からバシャバシャといった音が流れてきた。次第に大きくなる。

 しかも、小さな明かりが揺れ動いていた。


「なにか来るぞ! 網を用意しろ!」


「分かってる。確実に捕まえて―――」


「ぷるるんダーーーーイブ!!」


 地下通路には不釣合いな子供っぽい声が木霊した。

 直後、「ぶぐぇっ!?」と騎士の一人が濁った悲鳴を上げる。

 その騎士の脇腹に、黄金色の塊がめり込んでいた。


 小さな粘液体が凄まじい勢いで突撃してきたのだ。

 身体をくの字に折られて悶絶した騎士は、そのまま通路を転がり、動かなくなる。


「なっ……なんだコイツは!? 新種の魔物か!?」


「いや、見たところただのプルンだぞ。光ってはいるが……ぶへっ!?」


「バカな、プルンがこんなに素早、ぐもはぁっ!?」


 凝縮されたキングプルンの戦闘力に、騎士たちは瞬く間に叩きのめされる。

 そうしてすぐにまた、地下通路には静寂が訪れた。


 ほどなくして、スピアたちを乗せた小舟がゆっくりと到着する。


「目撃者は無し。侵入成功です」


「侵入って、おまえは、ああもう! 何処から突っ込めばいいのか分からん!」


 うがぁっ、とエキュリアは頭を抱える。

 けれどその顔にも声にも、いつもの覇気がない。

 セフィーナやエミルディットも蒼い顔をしていて、船酔いを堪えるだけで精一杯だった。



お風呂回の代わりに、ぷるるんの水浴シーンでサービスを……。


ともあれ、ようやく王都へ着きました。

次回はひっそりと、誰にも見つからないように、お城の中を探索します。

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