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私、ダンジョンマスターやめます! ~迷宮少女の異世界譚  作者: すてるすねこ
第三章 たった一人の親衛隊長編(ダンジョンマスターvs魔侯爵)
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幕間 エキュリアの旅日記 ひよこ村風味


 旅は順調に進んでいる。

 私もサラブレッドの騎乗に慣れてきたし、馬車が加わってさらに楽になった。

 問題があるとすれば、全体的に普通じゃないという点か。


 キングプルンがいる。しかも、喋る。

 雷撃を放つ鷹がいる。六魔将の配下を倒すほどに強力だ。

 翼と角が生えた駿馬がいる。天馬なのか一角獣なのか、はっきりして欲しい。

 毎晩、小屋に泊まれるというのも、野営の常識が覆りそうだ。


 まあ、つまりは。

 だいたいスピアが原因だ。


 実害は無いので、文句どころか感謝しなくてはいけないところが始末に負えない。

 この手記も、たとえ公開してもどれだけの人間が信じてくれるのやら。

 他にも問題はいくつかあるが―――、

 今日は、夕食を取った後、スピアが珍しく難しい顔をしていた。


「名前が決まりません」


 話の切り出しが唐突なのも、もう慣れたものだ。

 まずは、ひとつずつ確認をしていく。


「いったい何の名前だ?」


「シロガネシリーズです。新しい妹を増やそうかと。今度は執事タイプにするのも考えたんですけど、ひとまず置いておきます」


「そうか。確認するべき項目が増えたな」


 シロガネシリーズとは何なのか? 妹とはどういうことか?

 そもそも、そんな簡単に増やせるものなのか?

 だいたい奉仕人形というのは―――、


 スピア風に言うならば、ツッコミ処満載、というやつだろう。

 しかし、聞き流すのもよろしくない。

 突拍子がなく、ふざけているようでも、スピアの言動は意外と真っ当だったりもする。だからこそ性質が悪いとも言えるのだが。


「あの……シロガネさんに妹が生まれるのですか?」


 横にいたセフィーナ様が興味ありげに目を輝かせる。

 そういえば、説明をしていなかった。

 だが、こういった誤解を訂正するのも、あまり良くない気もする。

 常識の壁を、またひとつ壊してしまうのだから。


「ええとですね、殿下……シロガネは人間ではないそうなのです。スピアは奉仕人形と呼んでおりまして、どうやら魔導人形オートマタの一種ではないかと……」


 返ってきたのは、幾度も瞬きを繰り返す驚きの表情。

 初めて聞かされた時は、私もこんな顔をしていたのだろう。


「えっと……人間にしか見えなかったのですけど、本当なのですか? “魔導国”には人間そっくりの魔導人形もあるとは聞いておりますけど……」


「まあ本人が認めておりますし。眠らずに働いているようでもありますから……」


 シロガネたちが本当に人形なのか?

 実のところ、私だって確証は得ていない。

 まさか解剖して中身を見せてもらう訳にもいかないからな。

 けれど、スピアの言葉なので信じられる……というのも評価しすぎか?


「首を百八〇度回すくらいはできますけど?」


「いや、そこまでしてもらわなくても……それよりも、奉仕人形を増やすという話だったな。気軽にできることなのか?」


「いまは魔力に余裕がありますから」


 ワイズバーン侯爵の軍勢からちょこっと貰ってきた―――、

 先日、スピアはそんなことを言っていた。


 スピアは頻繁に『魔力』という言葉を使う。

 しかしどうやら、一般的な『魔力』と違った意味も含んでいるようだ。

 例えるなら……財貨のように、溜め込めるものとして扱っているきらいがある。

 それに、他者からの吸収も可能なようだ。


 良質な魔石を揃えれば、いくつか条件はあっても出来ないことではない。

 けれどスピアは、個人でそういった魔力の扱いを行える様子だ。


 普通ならば有り得ない話だ。

 だがそう考えると、これまで起こした数々の不思議現象も納得できなくもない。

 特異な体質なのか? それとも、特別な技を使っているのか?

 もしかしたら、彼女が攫われた理由がそれなのかも知れない。


 やはり一度、腰を据えて話をしておきたい。

 とはいえ、そうして話をしようとする都度、新しい問題が起こる。


「ひよこ村の仕事が、なかなか大変みたいなんですよね」


「む……また事件でも起こったのか?」


 一応は、我が領地内にある村だ。

 スピアは村長でもあるのだし、相談があると言うのなら無視はできない。


「基本的には順調です。住んでるみなさんも元気ですし、家族が移り住んできたりもしてます。冬篭りの支度も整ってますし……」


「ふむ……今後を見据えると人手が欲しい、ということか?」


 好き勝手しているようで、先々を考えてもいる。

 これもまたスピアの不思議なところだ。

 口に出すつもりはないが、私が見習うべきところもあるのだろう。


「そうなんですよね。シロガネには村の管理と、ユニちゃんの付き添いをしてもらってるのに、いきなり呼び出す時もあります。クロガネは人魚村との取引担当ですし、アカガネが村管理の補佐役なんですけど、忙しすぎるんじゃないかと」


 聞けば、実に真っ当な判断だ。

 セフィーナ様やエミルディットがまた驚いた顔をしていた。

 いつもこれくらい真面目でいてくれれば、私の苦労も減るのだが―――、


「ってことで、出でよ、オモイカネ! そしてクマガネ!」


「悩みは何処に行ったぁっ!?」


 スピアが床に手をつくと魔法陣が浮かび上がる。

 これまでも幾度か見た、複雑な紋様の輝きが辺りを照らした。


 その輝きの中から、ふたつの人影が現れる。

 真っ直ぐに背筋を伸ばしてメイド服を着ていて、とても整った顔立ちをしている。

 眼差しが冷ややか、という点もシロガネと同じ。


 一方は、長い黒髪を頭の後ろで編んで垂らしている。

 眼鏡を掛けていて、切れ長の鋭利な眼差しが印象的だ。

 外見を素直に受け止めるならば、理知的な女性と言えるだろう。


 もう一方も黒髪だが、こちらは短めに整えられている。

 特徴的なものは二つ。

 人を丸ごと叩き潰せそうな巨大ハンマーを片手で携えている。

 怪力なのか? その力が発揮されるのを、見たいような見たくないような。

 それと、頭の上で丸っこいものがピクピクと揺れていた。


「その耳は……獣人なのか?」


「名前の通り、熊タイプにしてみました」


 まともな部分に感心していたら、これだ。

 説明が欲しいところだが、根気良く問い質すしかない。

 ともあれ、奉仕人形であるのは間違いないらしい。


「はじめまして、オモイカネと申します。ひよこ村の管理補佐及び、庶務雑務を担当させていただきます」


「がぅ」


 頼りになりそうな人材が加わった、と喜んでいいのだろうか。

 それとも、また妙な問題が増えたと頭を抱えるべきなのか。

 などと私が戸惑っている内に、二人は『倉庫』を通ってひよこ村へ向かっていた。


「これで一安心です」


「私はまたひとつ悩みが増えたがな!」


 怒鳴っても、スピアは不思議そうに首を傾げるばかりだ。

 くっ、腹立たしい。コイツには常識を教え込む必要がある。

 やはり一度、徹底的に話し合う場を設けなくてはならないようだ。



明日も更新します。

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