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私、ダンジョンマスターやめます! ~迷宮少女の異世界譚  作者: すてるすねこ
第三章 たった一人の親衛隊長編(ダンジョンマスターvs魔侯爵)
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王都へ向けて


 白い翼を大きく広げて空を舞う。

 サラブレッドの背には、エキュリアとセフィーナが乗っていた。


 その影を追う形で、ぷるるんに乗ったスピアとエミルディットが地上を行く。

 それと、トマホークも空から周囲を見渡している。


「エミルディットちゃんも、もっと楽にしてた方がいいよ」


「ま、魔物に乗ってるんですよ! どうしてそんなに落ち着けるんですか!」


「ぷるるんは、友達だから」


 抗議の声を上げるエミルディットの頭を、ぽんぽんと撫でる。

 直接に乗るのではなく、スピアの膝の上にエミルディットが座る形になっているのだが、それでもまだ落ち着けないようだった。


 まあ小柄なスピアでは、抱える側になるのは頼りないというのもあるだろう。

 ほとんど年の変わらない子供姉妹にしか見えない。


 空を行くセフィーナの方も、最初は縮こまって震えていた。

 けれどエキュリアに宥められながら駆ける内に、落ち着いてきたようだ。

 いまは空からの景色を眺めて、楽しそうな声を上げている。


「街があんなに小さく……このような風景は初めてです。素晴らしいものですね」


「殿下に楽しんでいただけて、サラブレッドも喜んでいるようです」


「ふふっ。利口な子なのですね」


 上空から、一際高い嘶き声が響いた。

 ひよこ村を発ったスピアたちは、街道に沿って東へと向かっている。

 目的地は王都で、密かに城へと忍び込むつもりだ。


 『聖城核』を手に入れる。

 セフィーナの提案は、反対の声を押し切って実行へと移された。

 エミルディットはいまもセフィーナの身を案じているし、エキュリアも最後まで制止しようとしていた。けれど王族に対する遠慮もあって、セフィーナの意志には逆らいきれなかった。


 クリムゾン伯爵は、感情ではなく利を取った。

 非情な判断になるが、セフィーナよりも『聖城核』の方が重要なのだ。

 たとえセフィーナが倒れても、アルヘイス公爵家などには王族の血が流れている。血筋が絶えることはない。権威によって味方を増やすにしても、セフィーナから他の貴族へ手紙をしたためて貰えば充分だった。


 そうして合計七名は王都を目指すことになった。

 ちなみに、ユニはひよこ村で留守番だ。

 ユニには“ちょっとした頼み事”もあった。そのためにシロガネと二人で行動してもらっている。


 ロウリェも人魚族の村へと帰った。

 元より国の争いに関わるのは嫌がっていたし、族長としての務めもある。


 エキュリアの同行は、今回も本人が言い出したことだ。

 スピアのお目付け役兼、セフィーナの護衛役ということになっている。


「わたしがまず王都へ行って、転移陣でみんなを呼んでもよかったんだけどね」


「あ、そうです! どうしてそうしなかったんですか!?」


「旅は移動だって楽しむものだよ?」


「納得できません!」


 エミルディットは唇を尖らせる。

 真っ当な反応なのだが、スピアの膝に乗ったままなので子供が我が侭を言っているようにしか見えない。


「だいたい、あなたが変なことを言いだすからです!」


「変なこと? なにか言ったっけ?」


「『聖城核』のことです! どうして偽物だなんて言ったんですか!? あれを持ち出すのに、姫様はとても苦労なさっていたんですよ!」


 エミルディットは重ねて声を荒げる。

 溜め込んでいた不安と怒りを、一気にスピアへぶつけるみたいに。

 仮にも助けられた相手に対して文句をつけるのは、主人の前では抑えていたのだ。いまはセフィーナは上空にいるので、エミルディットの声も届かない。


「また危険に飛び込むような真似をなさって。いざとなったら、また情けないお姿を晒すかも知れないんですよ! 全部あなたの所為です!」


 どうやらよっぽど溜め込んでいたらしい。

 なにやら謂れのない怒りまで、スピアにぶつけてきた。


「エミルディットちゃんは、本当にセフィーナさんが好きなんだね」


「え……? わっ、ちょっ!?」


 小さな侍女を背後から抱き締めて、わしゃわしゃと頭を撫でる。

 そうしてスピアは自信たっぷりに告げた。


「大丈夫だよ。ちょっと王都まで行って、お城に忍び込むだけなんだから」


「ちょっとで済むことじゃありません!」


「それに、わたしは親衛隊長だから」


「それが一番納得できません!」


 ほっぺたを膨らませて、エミルディットが暴れる。

 感情的になるのも仕方なかったのかも知れない。

 でもいまは、よろしくなかった。


「立ち上がると危ないよ」


「わ……あぅっ!?」


 ちょうど、ぷるるんが跳ねたところだった。

 衝撃が吸収されているので忘れがちになるけれど、下手な馬よりも速度は出ている。立ち上がるなんて自殺行為だ。


 でもスピアが素早く手を伸ばす。

 放り出されそうになったエミルディットは、また抱きかかえられた。


「ぁ……ありがとうございます……」


「ううん。旅の安全を守るのも、わたしの役目だから」


 屈託のない笑みをみせながら、スピアは自身の隣を示す。

 村を出る際、エミルディットは魔物に乗るなんて非常識だと反対していた。

 いまも恐る恐るといった顔をしている。

 一度ぷるるんを手で撫でてから、しっかりと腰を預けた。


「座り心地はいいと思うよ」


「……はい」


 しゅんとエミルディットは肩を縮める。

 だけどその指先では、黄金色のぷにぷに感触を何度も突ついていた。








 陽が暮れる頃になって、スピアたち一行は街道から逸れた。

 近くの森へ入って野営の準備を始める。

 あまりコソコソするのは、スピアの趣味ではない。

 だけどワイズバーン侯爵領は敵対的だと聞き及んでいたし、わざわざ危険に飛び込むほど考えなしでもなかった。


 まあ、傍目からの評価は違う場合もあったりなかったりするのだが。

 ともかくも、木々に囲まれた広場を見つけて足を止めた。


「転移陣を使ってもいいんですけど、あれを作るのはけっこう大変なんです」


「そう簡単に作られては、世界の常識が覆りそうだな」


「超激マズ薬を飲めば、なんとかなるんですけどね」


 エキュリアも辺りを見回しながら苦笑する。

 その薬の不味さは、匂いだけだがエキュリアも承知していた。


「まあ、おまえにも苦手なものがあって安心したぞ」


「む。それは違います。わたしではなく、美味しくならない薬が悪いんです」


「妙な屁理屈をこねるな!」


 それよりも、とエキュリアはすぐに話を切り替える。


「テントを張るのだろう? 殿下は随分と空の景色を楽しんでおられたようで、気づいていない。しかし今日だけでも疲労はあるはずだ」


「早目に休んだ方がいいってことですか」


 手元に『倉庫』の影を浮かべながら、スピアはちらりと背後を窺う。

 セフィーナとエミルディットは談笑しながら、サラブレッドの毛繕いを手伝っている。近くにはぷるるんもいるので、まず危険はない。


 ただ、二人とも心なしか顔色が悪い。エキュリアの言った通りだ。

 セフィーナは王宮育ちで、外出の経験すら少ない。

 エミルディットにしても子供なので体力的に劣るのは否めない。

 魔物や夜盗よりも、健康管理が旅の課題になりそうだった。


「栄養のある食事も考えた方がよさそうですね。あとは、暖かくしないと」


「そういえば、上空でも寒くなかったぞ。風の流れが操られていたようだが、あれはサラブレッドの魔法か?」


「気の利く良い子ですから」


 今後の予定なども話しながら、スピアは開こうとしていた『倉庫』を閉じた。

 代わりに、地面へ手をつく。

 すぐに大きな魔法陣が描き出されて、強い輝きを放った。


「お、おい、今度は何をするつもりだ?」


「ゆっくり休める場所を作ります」


 エキュリアが驚いている間にも、変化は起こっていた。

 地面に広がった魔法陣が、吸い込むように周囲の木々を引き倒す。その木々は光に飲み込まれながら、ギチギチと奇妙な音を立てた。

 セフィーナとエミルディットも異常に気づいて駆け寄ってくる。


「スピアさん、これはいったい……?」


「姫様、近づくのは危険です!」


「危険じゃないよ。それにほら、もう出来上がるよ」


 ほどなくして光が消える。

 視界が開けると、そこには一軒の小屋が建っていた。

 樵が家族で住んでいそうな、木造のしっかりとした家屋だ。


「これで野営でも安心です」


 むふぅん、とスピアは得意気な顔をする。

 他の面々が驚きで言葉を失っているのはともあれ、快適な旅を送れそうだった。



RPG的に言うと、パーティメンバーの入れ替えですね。

旅の風情は行方不明中。


次回は、ダンジョンマスターvs???です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 散々言われていそうだけれど、この王女と侍女は駄目だね。 主人公とは別方面で非常識、女王になっても碌な結末になりそうにないけどどう料理するのかな。
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