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私、ダンジョンマスターやめます! ~迷宮少女の異世界譚  作者: すてるすねこ
第二章 ひよこ村村長編(ダンジョンマスターvsダンジョンマスター)
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幕間 ギルドマスターとダンジョンマスター


 野太い笑声と下品な言葉が乱れ飛んでいる。

 冒険者ギルドのホールでは、荒くれ者どもが昼間から騒いでいた。


「活気がありますねえ」


 広いホールは酒場も兼ねている。

 けれどそのカウンター脇に座ったスピアは、ミルクの注がれたカップを抱えていた。


 冒険者には粗暴な者も多い。

 だから普段なら、ギルドに寄り付く子供なんていない。

 場違いなスピアに対しても、絡んでくる冒険者がいてもおかしくなかった。

 まあ、その際には手痛い目にあって追い返されただろうが―――。


「ダンジョンから帰ってきた連中が多いからな。お宝目当てだった連中には悪いが、街の仕事を色々と片付けてもらってる」


 カウンターの奥には、ディティモーブが座ってスピアの話し相手になっていた。

 さすがにギルドマスターの前で騒動を起こそうとする者はいない。


 スピアはのんびりと冒険者たちの様子を眺めていた。

 ギルドを訪れたのは、少々気掛かりなことがあったからだ。


「ダンジョンから帰ってこない人も多いんですよね?」

「ん? ああ……まあ、危険な仕事だからな」


 ディティモーブの声に憂いが混じる。

 セイラール領に現れたダンジョンは、突然に活動を停止した。

 そこに棲んでいた魔物たちも駆逐されて、街が襲われる危険も消えた。

 けれどダンジョン内で命を落としたり、潜ったまま帰ってこれなかった冒険者も多かった。


 捕らえられたまま“消し飛ばされた”冒険者がいるのも、スピアは知っている。

 拾ったコアに記録として残っていた。

 スピアが口にしなければ、けっして表には出て来ない事実だ。

 だから、誰に責められることもない。

 責められるとしたら、スピア自身の良心だけだろう。


 冒険者になる者は、いつだって命を落とす危険と隣り合わせだ。

 それを承知でダンジョンにも潜ったのだから、仕方ないとも言える。

 殲滅魔法の巻き添えになるなんて、当時のスピアでは予想もできなかった。


 いまだって、後悔はしていない。

 むしろダンジョンを早目に潰せてよかったと思っている。

 ただ、ほんの少しだけ、心にしこりは残っていた。


「みんなが、もっと安全に暮らせればいいんですけどねえ」

「難しい話だな。まともな仕事からあぶれる奴は何処にでもいる。魔物だってそうだ。俺たちが狩らなきゃ、もっと多くなってるだろうぜ」


 街の兵士だけでは、外の魔物に対処しきれない。

 その穴を埋めるのが、冒険者に期待されている主な役割だ。

 他にも開拓できそうな土地を調べたり、古代の遺跡を探したりといった仕事もあるけれど、いずれにしても命懸けになる。


「そうですねえ……あ、魔物と戦うのも安全になればいいんでしょうか?」

「理屈ではそうだが、簡単じゃねえぞ。自分の力量を見誤って大物に挑む、なんてのは有り触れた話だからな」


 頬杖をつきながら、ディティモーブは苦い顔をする。

 どうやら自分の経験でもあるらしい。


「冒険者ってのは、自分の力量を把握できてようやく一人前だからな。そうなる前に命を落とす奴が多いのが問題なんだが……」

「初心者講習とかはやってないんですか?」

「いや、一応やってるぞ。しかしあまり人気もなくてな。命懸けの仕事をしてるってだけで、根拠の無い自信になるのかもなあ」


 ミルクのカップに口をつけながら、スピアは珍しく真面目に話を聞いていた。

 なんだかいい考えが思い浮かびそうな気がしたのだ。

 それが、周囲にどう受け止められるかは分からないが。


「つまり、みんなが喜んで初心者講習を受けるようになればいいんですね?」

「んん? まあ、そういうことになるか……?」

「そうなれば、冒険者の人たちも安全に仕事ができますね」

「……嬢ちゃん、なに考えてる?」


 不安げに、ディティモーブが尋ねる。

 対してスピアは、にんまりと口元を吊り上げた。


「新人王戦とかどうです? 賞品とか豪華に出して、講習を受けた人だけ参加できるようにするんです。年間のリーグ戦とかもして、いっそ大きな競技場ごと建てちゃった方がいいかも知れません」


 新人同士が積極的に競い合い、腕を磨き合うようにする。

 敗北を知れば、自分の実力も理解できるようになるかも知れない。

 魅力的な賞品を用意すれば、訓練にも取り組むようになるだろう。

 そんなことを、スピアは思いつくままに語っていく。


「ちょっと待て、嬢ちゃん。理屈は分かった。しかし賞品とか言われても……」


 それを用意するのは主催者、つまりはギルドの役目になる。

 新人王戦なんてすれば、お祭り騒ぎになって大変だろう。

 つまりはまた金が掛かる。


 そうディティモーブは問題点を指摘しようとした。

 けれど、スピアの方が早かった。


「こんな物でどうでしょう?」


 スピアがカウンターに手をつくと、そこに魔法陣が描き出された。

 光粒が舞い、一瞬の後、大きな金属の塊が現れる。


「フルプレートアーマーです。防御魔法も組み込まれた、なかなかの品ですよ」

「んなっ……!?」

「他にも武器も用意しましょうか。剣とか杖とか」


 いまのスピアは、魔力に関しては随分と余裕がある。

 特訓で回復薬を飲み続けていたおかげで、たっぷりと溜め込めていた。

 それに、二つ目のコアを手に入れたことで、自身が生み出す魔力量も増えてきている。


「えっと……これを譲ってくれると? いいのか? いや、もちろんギルドとしては有り難い話なんだが……」

「構いません。先行投資というやつです」


 スピアは朗らかに頷く。

 こうして、冒険者ギルドでひとつの改革が行われることになった。







 新人のみによる競技会。豪華優勝賞品つき。

 その話は、瞬く間に冒険者たちの間に広まった。


 ちょうどダンジョンが潰れて、新しい儲け話が望まれていた時でもあった。

 ギルドが定めた“新人”の条件は、冒険者暦三年以内。

 それと、一定ランク以下であること。


 うだつの上がらない冒険者にも機会が与えられる条件だ。

 そうして話が広まると、ギルドの初心者講習はかつてない盛況となった。


「さて、もう初心者とは言えない連中も集まっているようだが……」


 ギルドの建物に隣接した訓練場では、大勢の講習参加者が整列していた。

 その一同を眺めて、ディティモーブは苦笑を零す。


 本来、講習の教官役などギルドマスターが務めるものではない。けれど今回の企画はディティモーブが言い出したことなので、多少の手伝いはする必要があった。職員に苦労を掛けるだけでは、上手くギルドをまとめられないのだ。


 それに、ディティモーブも楽しんでいる。

 体を動かすのは性に合っているし、後輩を育てるのも悪い気分ではなかった。


 ただし、参加者の中には、真逆の思惑を抱いている者もいた。

 新人を潰して、競技会を楽に勝ち抜こうという連中だ。

 そこそこに経験を積んだ“スレた”冒険者には、そういった悪知恵に長けた者も混じっている。

 意地の悪い薄ら笑いを隠そうとしない者もいた。


 けれどいまは、参加者たちは一様に困惑顔を浮かべている。

 理由は、ディティモーブの隣にいる補佐役だ。


「まずは魔物の恐ろしさを学んでもらおう。そのための特別教官だ」

「ぷるっ!」


 黄金色の塊が猛威を振るう。

 参加者たちの悲鳴が訓練場に響き渡る。

 阿鼻叫喚な風景を、スピアは訓練場の端っこで眺めていた。


「やっぱり傷の治療薬も必要かな。でも、あれも超激マズなんだよねえ」


 やがて各地のギルドにも、厳しい新人講習は広まっていく。

 冒険者たちの生存率が格段に上がるのは、そう遠くない未来のことだった



ぷるるん先生と呼ばれるようになったとかならないとか……。


さて、第二章はここまでです。

次回から第三章、たぶん二日後には始めます。

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