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私、ダンジョンマスターやめます! ~迷宮少女の異世界譚  作者: すてるすねこ
第二章 ひよこ村村長編(ダンジョンマスターvsダンジョンマスター)
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もうひとつのエピローグ

 無骨な石壁が紫色の光に照らされている。

 家一件がすっぽりと入るほどの部屋だが、そこには何も存在しなかった。

 窓どころか、外と繋がる扉もない。完全に密閉された空間だ。牢屋と言うよりも、拷問部屋と言った方が近いだろう。


 そもそもは神にとって危険な相手を封じておくための場所だ。

 はじめは完全な暗闇でしかなかった。

 けれど徐々に封印が弱まり、光や音が現れ、いまでは部屋の中央に大きなベッドも置かれている。


「ねえ、ユーちゃん?」

「ん~、なに~、クロちゃん?」


 ベッドには二人の若い女が寝そべっていた。

 もっとも、“若い”と言っても見た目だけのことだが。

 一人は赤紫色の髪を長く伸ばしていて、ぼんやりと煙管を吹かしている。

 もう一人は青紫色の髪で、ぱたぱたと足を揺らしながら四角い板を眺めていた。


 魔神クロメアとユーディア。

 堕落と享楽を司るとして、人間には畏怖される双子神だ。


「さっきから、なに見てるのん?」

「ん~、地上の様子~?」

「地上って、あの退屈連中のん? また喧嘩でもしてるん~?」

「んんん~。そっちじゃなくてぇ、もっと弱っちゃい人間のほう~?」


 ユーディアの手元に浮かんだ画面には、大勢の人間が行き交う様子が映し出されている。街の大通りで、三角帽子を被った少女が通り過ぎていくのが見えた。


「へえぇ、いつの間にか、そんなのも見えるようになったんねぇ」

「うん~、まだまだ外には出られないけどねぇ~?」


 煙管を吹かしながら、クロメアも体の向きを変える。

 ユーディアに寄り添い、白い足を絡めながら、ぼんやりと画面を覗き込んだ。


「それでぇ、なにか面白いものでも見つけたのん?」

「すごいよ~、殲滅魔法を使える子がいたの~?」

「んんぅ? 殲滅魔法ぅ?」

「そうだよ~、しかも二人もいたの~?」


 三角帽子が揺れる映像を眺めながら、ユーディアは声を弾ませる。

 クロメアも興味に目を輝かせたけれど、首を傾げてもいた。


「あぁ、思い出したぁ。たしか人間に伝えたんだよねん?」

「うん~、クロちゃんが調子に乗って~、三十個も詠唱作っちゃったの~?」

「ユーちゃんだってぇ。二十個は作ってたのん」


 互いに顔を寄せ合って、くすくすと笑う。

 そこに他者を害しようという悪意はない。

 ただ、ひたすらに自分たちの楽しみを優先させるだけに、良い趣味とは言えなかった。


「でも本当に使えてるのん? バカ発見魔法なのに」

「びっくりだよ~。バカバカ連発してる~?」

「へえぇ。じゃあ本当に、自信たっぷりなんだぁ」

「うん~。失敗するなんてぇ、欠片も思ってないみたい~?」


 映像の中では、海を穿って巨大な柱がそびえ立っていた。

“真っ黒い”柱が広がって、高波とともに衝撃を撒き散らしていく。


 およそ人が扱うには危険すぎる威力を持つ、殲滅魔法。

 数十もの詠唱があるのは、それが無闇に放たれるのを制限するためとも言われている。あるいは神の理に触れられる人間を探すため、とも。

 けれど実際には、そんな優しい神の配慮なんて存在しなかった。


 殲滅魔法を発動させるトリガーはもっと簡単なもの。

 一定量の魔力と、“絶対に発動する”という自信だけ。


 何故なら、そういう自信を持った人間を探すために撒いた餌だから。

 傲慢な、あるいは単純バカな人間が力を持てば、面白い具合に破滅してくれるから。

 一方的に神が愉しむための思惑しか存在しなかった。


「ねえぇ、ユーちゃん? ちょっと悪いこと思いついちゃったん」

「なに~? この子たちに、ちょっかい出しちゃう~?」


 クロメアとユーディアは見つめ合う。

 コツン、とおでこ同士をぶつけると、軽やかに咽喉を鳴らした。

 整った顔にも嗜虐的な笑みが浮かぶ。


 そもそも、ろくでもないことを仕出かして封印された二柱だ。

 思いつくのは、やはりろくでもないこと。


「そういうのは、やめてくれると嬉しいです」


 背後、誰もいないはずの場所から声が投げられた。

 クロメアとユーディアは見つめ合ったまま、ぱちくりと瞬きを繰り返す。


 そうして、ゆっくりと振り向く。

 ベッド脇に黒髪の少女が立っていた。


「こんにちは。はじめまして」

「えっとぉ、誰ちゃん?」

「はじめまして~? んん~、何処かで見たことあるような~?」


 扉すら存在しないこの牢獄には、神ですら踏み込めないはずだ。

 だから退屈の嫌いなクロメアたちも、我慢して寝るばかりの日々を送っている。


 なのに、どうして他の者がいるのか?

 疑問を覚えながらも、魔神二柱は興味に目を輝かせる。


「わたしはただの通りすがりです。というか、迷いました。ここら辺は時空が捻じ曲がってるみたいですね」

「へえぇ、迷子ちゃん? それも珍しいねん」

「ちょっと邪神さんと話をしようかと。でも、逃げられちゃったんです」

「そっか~、よく分からないけど大変だね~?」


 なにやらとんでもない話を、呑気な口調で交わしていく。

 気の合いそうな三名だったが、少女の方はあまりのんびりとはしていなかった。


「ということで、もうお暇しますね。それと、さっきの話ですけど……」


 手元に影を浮かべると、少女はそこから木箱を取り出した。

 ベッドの上に広げてみせる。

 木箱の中には、綺麗な作りのチェスのセットが収められていた。


「通行料も含めて、これを置いていきます。人攫いさんのところで拾ったんですけど、変なちょっかい掛けてるより面白いと思いますよ」

「ふぅん。なんだか妙な玩具だねん」

「そうね~、危なそうだけど、遊んでみてもいいかも~?」


 不自然な輝きを発する駒へと、魔神二柱は目を移す。

 それはほんの一呼吸ほどのことだった。

 だけどクロメアが顔を上げると、少女の姿は消えていた。


 現れた時と同じく、忽然と。

 ユーディアも気づいて首を傾げる。


「んん~、なんだか不思議な子だったね~。あの紅い瞳も珍しかったし~?」

「そうだねぇ。また会えるといいねん」


 のんびりと言いながら駒を並べていく。

 封印された魔神は、もうしばらくは大人しく退屈を潰していられそうだった。



邪神を追っている少女……いったい何スピアなんだ?

といった感じで今後を匂わせつつ、ひとまず第二章終幕です。

まあ、まだ幕間とかあるんですが。


もうちょっとだけ連続更新の予定です。


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