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私、ダンジョンマスターやめます! ~迷宮少女の異世界譚  作者: すてるすねこ
第二章 ひよこ村村長編(ダンジョンマスターvsダンジョンマスター)
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南方、セイラールの街へ


 クリムゾンの街からは南にも街道が伸びている。

 街道と言っても、ただ迷わない程度に踏み慣らされた道が続いているだけだ。宿場も無いので野営の準備は必須。腕に自信がなければ護衛を雇う必要もある。

 そんな道が、馬車の速度でも五日ほど続く。

 けっして安全とは言えないが、ベルトゥーム王国の街道はどこも似たようなものだ。


 それでもクリムゾンとセイラール、両領地の間には一定の交流がある。定期的に兵士による街道巡回が行われて、商人の行き来を後押しもしている。

 そういった一団に同行すれば、まず平穏な旅路を過ごせただろう。

 相手側にしても、キングプルンが警護役となれば心強かったはずだ。


 だけどスピアは思いつきで行動する。

 集団に合わせた日程調整など考えもしなかった。

 旅の準備に一日掛けただけでも、スピアには”とっても計画的”だった。


 ユニにしても、一日も早い出立を待ち侘びていた。

 海に行く。殲滅魔法をぶっ放す。

 平原や山の形を変えるのがダメなら、海で撃てばいいじゃない。

 これが、旅の目的のひとつだからだ。


 暴走しがちな二人を止めるのはエキュリアの役目なのだが―――、

 エキュリアも気を回す余裕がなかった。街道警備の経験はあったけれど、その時は指揮する立場だったし、日程も商人などの付いて来る側が合わせていた。

 今回はまるで立場が逆になる。

 伯爵家の権威を使えば、緊急で十数名程度の兵士を動かすのも可能だった。けれどスピアとともに行動している間は、謂わば、お忍びのようなものだ。そもそも権威で無理を利かせるのは、エキュリアの嫌うところでもある。


 そんな事情が重なって、スピア一行は三人のみで街道を進んでいた。

 正確にはぷるるんとトマホーク、そしてエキュリアが乗る馬も含めて数は倍になるのだが。


 ともあれ女性のみであることに違いはない。

 結果として、これが不幸を生んだ。

 もっとも、不幸になったのは盗賊団だけだが。


「へへっ、女だけで旅をするとどんな目に遭う、がぼぁっ!?」

「お、親分!? なんだコイツは!?」

「た、ただのプルンじゃねえのか? くそっ、デカイからって調子にぶわぁっ!」


 どうやらキングプルンの存在そのものを知らなかったらしい。

 まあ学のない盗賊なら当然とも言える。

 プルンはともかく、キングプルンはとても珍しい魔物だ。街でも「大きなプルン」としか認識していない者もいた。


 ただのプルンなら、あっさりと剣で切り倒せる。

 大人の男が殴っただけで飛散してしまうくらいだ。


 けれどキングプルンであるぷるるんは違う。

 振り下ろされた剣ごと絡め取って盗賊を押し潰す。

 突進ひとつで数人をまとめて弾き飛ばす。

 逃げ出そうとした者も、長く伸びた黄金色の体に薙ぎ倒された。


「ぷるるん、息の根を止めない程度に手加減してあげてね」


 一方的な蹂躙を、スピアたちは高見の見物と洒落込んでいる。

 三名の足下は円柱状に地面から屹立して、盗賊たちからは手出しできなくなっていた。もちろんそれは、スピアがダンジョン魔法で行ったものだ。

 ただ、ユニとエキュリアは頬を引きつらせていた。


「……やっぱり、スピアは常識外れ」

「これに慣れるべきなのか、慣れてはいけないのか、迷うところだ……」


 二人が呆れている内に、戦いの決着はついていた。

 スピアたちも地面に降りて、盗賊たちを縛り上げていく。


「全員、ちゃんと息はあるね。ぷるるんも手加減が上手くなったねえ」


 黄金色の塊を、スピアはぺしぺしと撫でる。

 ぷるるんは嬉しそうに揺れていた。


「……キングプルンが、手加減?」

「言いたいことは分かる。私だって何度も頭を抱えたものだ」


 二人はやはり呆れ顔を隠せない。

 ともあれ、旅は順調に進みそうだった。







 捕らえた盗賊十数名は、まとめて荷車に乗せられた。

 スピアの『倉庫』があるので荷車なんて用意していなかった。けれどそれもダンジョン魔法の”創造召喚”に頼れば問題にならなかった。

 大きな荷車を、ぷるるんが引きながら跳ねていく。


「けっこうな重量のはずだが、本当に大丈夫なのか?」

「はい。ぷるるんは力持ちですから」


 ぷるっ!、と跳ねる黄金色の塊は疲労も感じていない様子だ。

 その上に乗るスピアが撫でてやると、嬉しそうに跳ねる速度を上げる。

 背後では、派手に揺られる盗賊たちの悲鳴が大きくなった。


「……ああはなりたくない。これからも真面目に生きる」

「いや、おまえは充分にふざけた生き方をしているぞ」


 盗賊団との騒動から一日、街道は静かなものだった。

 やがて上空のトマホークが高い声を上げる。

 ほどなくして、セイラール領との境にある関所が見えてきた。

 石壁で囲まれた建物には見張り塔も併設されている。高い塀越しに、幾名かの兵士が立っているのも見えた。


「関所っていうか、砦みたいですね」

「あれくらいは頑丈に作らないと、魔物の襲撃でやられるからな」


 さて、とエキュリアが馬の速度を上げて前に出る。


「おまえたちは少し離れて待っていろ。キングプルンを見て警戒されるかも知れないからな。私が話をつけてくる」


 エキュリアの言葉に従って、スピアはぷるるんの速度を緩める。

 関所には、両領地から兵士が派遣されていた。エキュリアの顔を知っている者もいたので、事情説明は簡単に終わった。


 盗賊団の受け渡しも、すんなりと行われる。

 クリムゾン領内のことだが、セイラール領の兵士も喜んでいた。


「こいつらは以前、セイラールでも暴れていたんだ。だけど冒険者が増えてから逃げたみたいでな。捕まえてくれて安心したよ」

「わたしじゃなくて、ぷるるんのお手柄です」

「お、おお。そうか。しかしキングプルンがなあ……」


 応対に当たってくれたのは気の良い兵士だったが、さすがにキングプルンと向き合うと表情を強張らせていた。


 関所の中にいたのは兵士だけではない。

 広場には幾つかの天幕が張られて、小さな市場のようになっていた。商人や旅人ばかりでなく、とりわけ冒険者風の姿が目立つ。

 露店も出ていたので、スピアもなんとなしに巡ってみる。


「んなっ……なんだ、あのデカいプルンは!?」

「落ち着け、従魔ってやつだろ」

「そういえば噂になってたな。クリムゾンの街に、凄腕の魔物使いがいるって」

「ああ。五千匹のオークを一人で片付けたらしいぞ」

「プルンの目から光線を放つとかも聞いたな。あと、踊るとか……」

「目って何処だよ」


 あれこれと妙な噂が囁かれている。

 どうやら商人だけでなく、冒険者にも耳聡い者は多いらしい。

 そんな噂を聞き流しつつも、スピアは首を傾げた。


「関所に人が集まってるって、変ですよね?」

「なんでもこの近くでダンジョンが発見されたそうだ。その攻略のため、拠点代わりに使っているようだな」


 答えたのは、隣を歩いていたエキュリアだ。

 それにユニが反応した。


「ダンジョン……!」

「ユニちゃん、どうかしたの?」


 尋ねるスピアに答えもせず、ユニはすっと足の向きを変えた。


「ちょっとそのダンジョンを殴ってくる」

「行くな! 殴ってどうする!」


 エキュリアに襟首を掴まれて引き戻される。

 そこで大人しくなったユニだが、不満げに唇を尖らせてさらに主張した。


「……寄り道したい。そのダンジョンへ」


 いつものように口調は控えめだった。けれどユニの瞳には真剣な色が宿っている。

 殲滅魔法以外のことでそんな反応をするのは珍しかった。


 どうしたものか、とスピアも真面目に思案する。

 新しいダンジョンと聞いて、興味を引かれないでもなかった。


 もしかしたら、自分と同じようにダンジョンマスターを強制された人間がいるのかも知れない。

 だとしたら、話をしてみたい。

 仕方なくダンジョンを管理しているのなら、助けられる可能性もある。

 そうでなくとも放っておいていいものか―――。


「待て。私たちは探索の準備などしていないぞ。行ってどうするつもりだ?」


 考え込むスピアに代わって、エキュリアが冷静に意見を返す。

 ユニも難しい顔をしていたが、その口調に迷いはなかった。


「ダンジョンは、早く潰すべき」

「それは当然だが……しかしいま言った通り、準備も無しでは自殺行為だ」

「……殲滅魔法で丸ごと消し去る」

「中の冒険者まで消え去るではないか! とにかく、ダメだ!」


 いつもなら、エキュリアは頬っぺたを抓るくらいはしただろう。

 けれど怒鳴るだけに留めた。

 ユニは沈黙して肩を落とす。だけどその様子も、普段よりどこか刺々しかった。

 まるで、なにか辛いことを我慢しているようで―――。


「ユニちゃん……」


 スピアも神妙な顔をして、ぽん、と優しくユニの肩を叩いた。


「トイレなら、あっちだよ」

「……違うから。あんな醜態は、もう二度と晒さないから」


 眉根を寄せながらも、ユニの態度は心なしか柔らかくなる。

 ひとまず、魔法の暴走は避けられそうだった。



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