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私、ダンジョンマスターやめます! ~迷宮少女の異世界譚  作者: すてるすねこ
第六章 神出鬼没の特務巡検士編(ダンジョンマスターvs帝国軍)
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幕間 ラヴィチャンとユニチャン


 姉妹同然に育ったユニが転移刑へと処された―――。

 その報せを聞いた時、ラヴィは目の前が真っ暗になった。いっそ意識を失わなかったのが不思議なほどで、立っているのさえ困難だった。


 どれだけ自分が錯乱したのかも、はっきりとは覚えていない。

 気がつけば自室は滅茶苦茶に荒れていて、壊れた調度品が散乱していた。


 やがて落ち着きを取り戻したラヴィは、ユニの救済を申し出ようとした。

 ラヴィの家は、代々優秀な魔術師を輩出している。王族に対してさえ多少の無茶は要求できるのだ。だから一人の罪を消すくらいは簡単だと、ラヴィは考えていた。


 しかしユニの罪は、けっして誤魔化せるものではなかった。

 なにせ、手違いとはいえ王城の一部を爆破したのだ。

 一族郎党皆殺しにならないだけでも、充分に恩情を与えられた結果だった。


「でも、それでも……私は納得できない!」


 そうしてラヴィは島国を出て、大陸へと渡った。

 まだ十二歳の子供が一人で国を出るというのは大変なことだ。ちょっと隙を見せれば野蛮な者たちに襲われる。奴隷に身を落としてもおかしくない。


 家族や親しい者からは止められた。けれどラヴィの決意は固かった。

 まずラヴィは自分の年齢を偽ろうとした。

 子供よりも大人である方が、いくらか危険は少なくなる。


 そのために禁忌とされる身体改造魔法に手を出した。

 一歩間違えれば肉体が四散してしまう魔法だが、ラヴィは上手く成長した体を得ることができた。

 やたらと豊かになった胸の膨らみには、ラヴィ本人も戸惑ったが―――。


 ともあれ、身内の反対も振り切って大陸へと渡った。

 しかしラヴィの苦労は、そこからさらに増えていった。

 一番の難題は、ラヴィを狙う『国からの追っ手』が現れたこと。


 紫妖族が暮らす島国は小さい。

 しかしそれは国土面積が狭いだけであって、高度な魔法技術を根幹としていて、民の暮らしも豊かで、けっして国力が低い訳ではない。

 その魔法技術の一端を、幼いながらもラヴィは抱えている。

 しかも貴重な殲滅魔法の使い手だ。将来は国を支える重鎮になると期待されていた。


 だから国外に出るなど許されなかった。

 命こそ狙われなかったが、追っ手はあらゆる手段でラヴィを捕らえようとした。


 宿で眠っているところを襲ったり。

 旅人に変装して近づき、痺れ薬を飲ませようとしたり。

 時には無関係な子供を人質にするといった、卑怯な手段を取ったり―――。


「へっへっへ、この幼く罪も無い子供の命が惜しかったら杖を捨てな」


「くっ……なんて卑劣な!」


「大人しくすりゃあ殺しはしねえよ。ちょぉっと痛い目は見てもらうがな」


「私は負けられない……喰らえ! ターゲット指定、殲滅ミサイル魔法!」


「な、なんだと!? ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ―――」


 数多の苦難に晒されても、ラヴィはけっして諦めなかった。

 願いはひとつ。姉と慕う人を救うこと。

 安否すら知れずとも、ただひたすら無事であると信じて。


 そしてラヴィは帝国に辿り着き、苦難を乗り越えるために修羅と化した。

 あらゆる敵を容赦無く屠る姿は、『黒の殲滅術師』として恐れらるようになる。


 しかしそんな修羅の日々にも終わりが訪れる。

 それは悲劇的な運命とも言えた。

 戦場の中、ずっと探し求めていた姉と、敵同士として再会して―――。






「―――っていう物語があったんだと思います」


「またそれか! 何度も騙されるものか!」


 声を荒げたエキュリアだが、その瞳には同情の涙が滲んでいた。

 頬っぺたを摘み上げられたスピアも、別の意味で涙目になる。


「えっと……御二人は、随分と仲がいいんですね」


 そんな二人の様子に、対面に座るラヴィは頬を引きつらせていた。

 隣にはユニも座っているが、こちらはいつもの眠たげな目をして昼食を口へ運んでいる。


「一応言っておきますけど、身体改造魔法なんてありませんよ?」


「むぅ。だったら、急成長魔法ですね?」


「ないですって。そりゃあ少しだけ発育が早いのは自覚してますけど……」


 オルディアン城砦の食堂で、四人は席を囲んでいた。

 一時は王国と敵対していたラヴィだが、いまは客人として迎えられている。ユニの親族という事情を考慮して、エキュリアの口利きもあっての待遇だ。


 もちろん、殲滅魔法の使い手であるのも影響している。

 いまのところ、王国は他国に対して武力を振るう予定はない。

 それでも優秀な魔術師を確保しようとするのは、まあ当然の判断だった。


「ともかくだ……ラヴィの目的は、ユニの捜索だったのは間違いないのだな?」


「あ、はい。そうです。だからスピアさんの話も半分くらいは当たってます」


「半分だけか? 人質を取られたり、悪辣な老魔術師に手柄を取られたり、そんなことはなかったのだな?」


「え、ええ……あの、どうしてそんな真剣なんですか?」


 ラヴィが問い返すと、エキュリアは無言で目を逸らす。

 以前にスピアの作り話に騙されそうになった、とは言えなかった。


「まあ、すでにある程度の話は聞いていたがな。やはりユニと一緒に居てもらうのが無難だろう」


「はい。お姉ちゃんの世話は任せてください」


 ラヴィは嬉しそうに微笑む。

 普通なら姉が妹に向ける台詞だが、お世話される方のユニは気に留めていない。

 それどころか、当然のように言ってのける。


「ラヴィ、お茶をもらってきて」


「あ、もう食べ終わったんだ。ちょっと待っててね」


 顎で使われているようなラヴィも、文句を言う素振りすらない。

 傍目には奇妙な姉妹だが、当人たちはそれを受け入れているようだった。


「あまり甘やかすのも、どうかとは思うがなあ」


 満腹になって一息ついているユニを見て、エキュリアは苦笑を零す。

 怠けた態度には苦言も呈したかったが、ひとまずは置いておくことにした。帝国との戦いで活躍したユニを、エキュリアなりに認めてもいたのだ。


「しかしまさか、殲滅魔法の使い手が二人も揃うとはな」


「そういえば疑問があります」


 思い出したように、スピアが声を上げた。

 お盆にカップを乗せて戻ってきたラヴィも、その言葉に首を傾げる。


「どうして、極黒殲滅魔法なんでしょう?」


「……スピアの疑問は正しい。極光殲滅魔法こそ正義。最強」


「ちょっと! いくらお姉ちゃんでも、それは聞き捨てならないよ。極黒の方が凄いんだから!」


 たった今まで仲良くしていた二人だが、眉根を寄せて睨み合う。

 同じ殲滅魔法の使い手で、姉妹のような存在。それでも一人の魔術師として、自分が使う術には拘りがあるらしい。

 そんな二人を横目に、エキュリアも思案顔をする。


「私も詳しくは知らんが、殲滅魔法は使い手によって属性が別れるらしいぞ?」


「でもこの二つって、対になってるんですよね?」


「ああ、そう聞いているな。条件が同じならば威力も互角だそうだ」


「なら、光と黒って変じゃないですか? 白と黒とか、光と闇なら分かりますけど……」


 ピキリ、と凍りつく音がしたように、口論していた二人が固まる。

 どうしたのか?、とスピアとエキュリアは揃って首を捻った。


「スピア……それは、触れてはいけない」


「言い伝えにあります。その疑問を解き明かそうとした魔術師は、神の怒りに触れ、塩の柱になり、踊り狂って命を落としたと……」


 どんな言い伝えだ!、とエキュリアが呆れ混じりのツッコミを入れる。

 さすがにスピアも反応に困っていた。


「不思議な話もあるものですねえ」


「それで済ますのも、どうかと思うがな。まあ伝承というものは、何処かしら歪んでしまうものだが……」


 そもそも殲滅魔法自体が、神が伝えたとされている。

 その信憑性もあやふやで―――ふと思いついて、エキュリアは口にした。


「光と黒も、うっかり間違って名付けただけかも知れんな」


「真実は意外なところにある、ってやつですね」


 格言めいたことを述べたスピアだが、適当に受け流しただけだ。

 すでに興味は、ラヴィが淹れてくれたお茶に向けられていた。


「チャイですか。こういうお茶もあるんですね」


「帝国の南の方で知ったんです。王国の茶葉に合うかは分かりませんけど、試してみました」


 お菓子のように甘くなった紅茶に口をつけて、スピアは頬を緩める。

 ややしつこい甘さだったが、エキュリアやユニも口元を綻ばせた。


「疲れが取れそうな甘味だな。悪くない」


「ん……ラヴィは、いつでも侍女になれる」


「えへへ、そうかな? おかわりもあるから遠慮しないでね」


 照れ混じりに笑いながら、ラヴィはユニの隣で身を寄せる。

 なにかと手の掛かる姉と、世話好きの妹。

 実際に血は繋がっておらず、姉妹が逆に見えても、二人は仲良く肩を並べていた。



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