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私、ダンジョンマスターやめます! ~迷宮少女の異世界譚  作者: すてるすねこ
第六章 神出鬼没の特務巡検士編(ダンジョンマスターvs帝国軍)
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チーム:ダンジョンマスターvs帝国軍③


 光と熱、そして衝撃が、広い草原のなにもかもを蹂躙していく。

 極光殲滅魔法は、人が扱える魔法の中で最大の破壊力を持つと言われている。

 そんな魔法の発動地点にいるユニも、何もしなければ消し飛ばされていただろう。


 けれどユニの周囲には、独自の魔法無効化空間が作られていた。

 それもまた、シロガネの理不尽な特訓による成果だ。

 過酷な手法はともあれ、得られる成果は確実なものだった。


 そして、術者であるユニ以外は正しく殲滅する。

 帝国軍五千も跡形もなく消滅―――という訳でもなかった。


「い、生きてる……?」


「殲滅魔法を撃ち込まれたはずじゃ……いったい、どうなったんだ?」


「お、おい、なんだよあの壁は!?」


 頭上から大きな影が差しているのに気づいて、幾人かの帝国兵が声を上げた。

 草原の真ん中に、黒々とした壁が聳え立っていた。

 いきなり現れた巨大な壁に、帝国兵たちは驚愕するばかりだ。

 何が起こったのか、詳しく分かるはずもない。けれどその壁が殲滅魔法を防いでくれたというのは、なんとなく察せられた。


 そうして帝国兵が戸惑っている内に、黒い壁はガラガラと崩れていく。

 無数の破片が落下して、重々しい音が響き渡る中で―――、


「とりあえず、みんな無事みたいですね」


 パカリ、と宝箱を開けてスピアが顔を覗かせた。

 黒壁を出現させて帝国軍を守ったのは、当然ながらスピアの仕業だ。あらゆる魔法を無効化する壁は、以前にもクリムゾンの街を殲滅魔法の巻き添えから守っていた。

 今回もやったことはそれと同じ。

 ただし、事前に予定していた行動だった。


 なるべくなら帝国軍を追い払うだけに留めたい、というのが新女王であるレイセスフィーナの意向だ。下手に犠牲を増やせば泥沼の戦争になるのは、エキュリアにも想像できた。

 先に攻撃を仕掛けてきたのは帝国軍だが、それでも犠牲を減らせるのが望ましかった。最初に容赦無く殲滅魔法が撃ち込まれていたら、事態はまた違っていただろう。

 けれど帝国軍も犠牲を減らそうとしていた。

 ならばまだ話し合いの余地はあるだろうと、王国側も可能な限り穏便な方針を採ることにした。


 スピアも納得していた。

 だからユニに頼んだのは、あくまで“示威行為”だ。


 相手が殲滅魔法を使うなら、こちらも殲滅魔法―――なんて単純な考えではない。

 まあ思いついた切っ掛けはそうだったが。

 得体の知れないダンジョン魔法では、“脅威”よりも“混乱”が勝ってしまう。だから広く知られている殲滅魔法の方が、脅威となるには適していた。


「でも国同士の関係って、本当にややこしいですね」


「そう言うな。おまえとて、犠牲者は少ない方が喜べるだろう?」


「わたしは平和の味方ですから」


 自信たっぷりに言ってのけたスピアに、エキュリアは苦笑を返す。

 否定はしなくとも素直に肯定もできない、といったところだ。

 エキュリアが知る限り、スピアほど騒動を引き起こす者はいないのだから。


「その平和のためにも、向こうが撤退してくれればいいのだが……」


 宝箱から出て、エキュリアはあらためて状況を窺う。

 殲滅魔法によって、辺り一帯の地面は抉れ、焼け焦げた土砂が広範囲に飛ばされていた。まだ熱気も漂っている。


 それでも王国側の砦までは被害が及んでいない。

 混乱していた帝国軍も、次第に落ち着きを取り戻している。

 そんな騒然とした場の中心で、ぽつりと。

 破壊の発生源であるユニは、真っ直ぐに背筋を伸ばして立っていた。


「ユニちゃん、お疲れさま」


 まるでちょっとした買い物から帰ってきたみたいに、スピアは軽く声を掛ける。

 ユニはまた黒杖を握ったまま、ゆっくりと首を回した。


「……次の敵は?」


「もういないよ。休んでも大丈夫」


「……休む?」


「うん。シロガネも邪魔しないよ。ゆっくりベッドで眠って」


「……そう」


 まだ緊張を纏っているユニの肩を、ぽんぽんとスピアが叩く。

 しばらくユニは辺りを見回していたが―――やがて、ふっと力を抜いた。

 そのまま目蓋を伏せて倒れ込む。

 小柄な体をスピアが支えて、ぷるるんへと預けた。


「よっぽど酷い特訓だったみたいですね」


「他人事のように言うな! おまえが命じたのだろうが!」


「今回はさすがに反省してます」


 珍しく殊勝な物言いをして、スピアはしょんぼりと頭を下げる。

 友達ユニが辛い目に遭うなんて望んでいなかった。

 とはいえ、そこはスピアだ。立ち直りも早い。


「今回の勝利は、ユニちゃんの犠牲があってこそです」


「死んだように言うな! それと……まだ勝利だと油断するのは早いぞ」


 エキュリアは帝国軍の側へと目を向ける。

 無事だったのは、後方にいた軍勢だけではない。ラヴィの護衛についてきた騎士たちも、殲滅魔法の直撃から守られていた。


 黒壁が現れた地点よりは手前にいたが、彼らは“下へ”脱出していた。

 スピアのダンジョン魔法は、瞬時に落とし穴を作るのも容易だった。


「なるべくなら、一騎討ちなど断りたかったのだがな」


「エキュリアさんは負けませんよ?」


「ああ、負けるつもりはない。受けてしまった以上、約束も守るつもりだ」


 二人が話している間に、護衛騎士たちが穴から這い出してくる。全員が土埃で汚れているけれど、大きな怪我をした者はいないようだ。

 ただ、とりわけ苦々しげに顔を歪める男がいた。


「クソが……よくもやってくれたな! ラヴィを返しやがれ!」


 落とし穴から出てくるなり、ジュタールは拳を握って叫ぶ。


「そいつは俺の女だ! 魔物の餌になんてさせねえぞ!」


 昏倒したラヴィは、ユニとともにぷるるんに乗せられている。事情を知らない相手からすれば、酷く粗雑な扱いにも見えるだろう。


 けれどスピアもエキュリアも、非道な真似などするつもりはない。

 殲滅魔法の使い手であるラヴィを放置はできないが、勝者が敗者を預かるのは、事前に取り決めてあったことだ。

 いまにも飛び掛かってきそうなジュタールの前に、エキュリアが歩み出る。


「彼女の身の安全は保障する。だが、勝敗への文句は聞き入れられん」


「うるせえ! あんなのが魔術師同士の勝負かよ!?」


「その点はまあ、同情するがな。しかし真剣勝負なのだから、あらゆる手を使うのは当然ではないか」


 杖で近接戦闘を挑む魔術師も、珍しいが居ない訳ではない。

 いずれにしても、ジュタールの文句は言い掛かりに過ぎなかった。

 当人もそれを自覚してきたのか、眼光には怒りを湛えたままだったが、ひとつ息を吐くと一歩退いた。


「ちっ……確かにラヴィが負けたのは事実だ。でもな、まだ勝負は終わってねえぞ」


「私と戦うのが、貴様ということか?」


「そうだ! テメエをぶっ倒して、ラヴィを取り返す! それで俺に惚れ直させてやるぜ。勝負だ、『紅蓮騎士』エキュリア!」


 欲望剥き出しではあったが、ジュタールの宣言は堂々としたものだった。

 剣を向けられたエキュリアも、槍を握る手に力を込める。

 妙な二つ名を否定したいところではあったけれど、雑念は頭の隅へと追いやった。


「スピア、分かっているとは思うが手出しは無用だ」


「むぅ。そう言われると、一番いいところで乱入したくなります」


「真面目な話だ。私は騎士として道を踏み外したくない」


 穏やかな口調で諭されては、スピアも静かに頷くしかなかった。

 そうしてエキュリアはジュタールと対峙する。


「……あっちの子は何なんだ? 魔物使いみてえだが」


「気にするな。ただ、真の『王国最強』は私ではないとだけ言っておこう」


「秘密か。まあいいぜ、一騎討ちなら関係ねえからな」


 両者の距離は充分に開いていて、まだ剣も槍も届かない。

 ジュタールが手にしたのは刺突剣と短剣。二刀流のようだが、短剣の方は防御に重点を置いているようだ。


「レイピアとマインゴーシュって言うんだっけ? 正統派の組み合わせだね」


 勝負を見守るスピアは、ぷるるんを撫でながら呟く。

 エキュリアの勝利を信じてはいる。

 でも手出ししないと決めると、どうにも落ち着かない心持ちになった。

 それに、ひとつだけ懸念もあって―――。


「最初に断っておくぜ。俺は、武技の神マルドースから加護を授かってる」


 思わぬ告白に、エキュリアが眉を揺らす。

 スピアが気に掛けていたのも“それ”だ。ジュタールが神の使徒であるのは見抜いていた。


 だから、余計な干渉があるかも知れない。

 厳密な意味では一騎討ちにならないのでは―――そんな懸念も生じていた。

 けれど対峙するエキュリアは、まったく気に留めていない様子だった。


「使徒か。やけに自信を持っているのは、それが理由か」


「負けを認めるなら今の内だぜ? 後から、神の加護に頼るなんて卑怯だ、とか言うなよ?」


 挑発的な口調を投げながら、ジュタールは刺突剣を揺らす。

 すでに戦いは始まっていた。舌戦の合間にも、互いに隙を窺っている。

 エキュリアも油断無く、静かに槍を下段に構えている。


「無用な心配だ。私とて、一人で戦っているつもりはないからな」


 微かに口元を緩めたエキュリアは、自身の篭手に魔力を流す。

 存在を誇示するように、篭手が青白い輝きを放った。


「そいつは、魔導武具か? 多少の物じゃあ俺は驚かないぜ?」


「驚くさ。すぐにな」


 不敵な笑みを向け合って、両者は言葉を止めた。

 あとは無言のまま、距離を測り、次第に詰めていく。

 まだ数歩分の距離は開いている。

 けれど強化術を使いこなせる騎士ならば、一瞬でゼロにできる間合いだ。

 じりじりと空気が張りつめていって―――クシュン、とスピアが頭を揺らした。


 思わず、エキュリアが頬を歪める。

 こんな時にクシャミをするな!、とツッコミたくなった。

 ほんの小さな隙だったが、ジュタールは見逃さない。


「―――っ!?」


 目で追えないほどに苛烈な一撃が突き出され、鮮血が舞い散った。



第二戦開始。

緊迫した場面ですが、クシャミは仕方ありません。

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