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私、ダンジョンマスターやめます! ~迷宮少女の異世界譚  作者: すてるすねこ
第六章 神出鬼没の特務巡検士編(ダンジョンマスターvs帝国軍)
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チーム:ダンジョンマスターvs帝国軍②


 スピアがまだセフィーナとともに王都を目指していた頃―――。

 ひよこ村に残ったユニは、魔法制御の特訓に励んでいた。


 ユニは極光殲滅魔法を得意としている。

 というか、それしか頼れるものがないと言った方が正しい。

 魔術師を名乗っているのに、他の魔法は満足に発動すら出来ない。

 そして唯一使える殲滅魔法ですら、何処に命中するか分からないという重大すぎる欠点を抱えていた。


 その欠点の克服は本人も望んでいた。

 だからスピアも協力した。以前には、海でひたすら魔法を撃つ特訓も行った。

 それでも満足な成果は得られなかったので―――、


「ねえシロガネ、なにか良い方法はないかな?」


「お任せください」


 スピアは任せた。具体的な訓練方法など聞きもせずに。

 そして主人の望みを叶えるために、シロガネは手段を選ばなかった。


「な、なんで、魔法の特訓でこんな……」


 いきなり山籠りを強いられて、ユニは抗議の声を上げた。

 道なき道を延々と歩かされたり、崖を命綱もなしで登らされたり、短剣一本のみで狩りをやらされたりした。

 だけど、そんなものは序の口に過ぎなかった。


「し、死ぬ! こんなの死んじゃう! 助け、っ……!」


 激流渦巻く泥沼に放り込まれたり、


「んんんんぅぅぅぅ~~~~~~~~っ!?」


 得体の知れない蟲が蠢く壺の中に閉じ込められたり、


「……ふふ、うふふ……可愛いよカトリーヌ……」


 ひたすら羊の毛を刈る作業をやらされたりした。

 魔物が跋扈する荒野が天国に思えるほどの、非人道的な特訓が繰り返された。


 詳細を聞いていたら、さすがにスピアも止めただろう。

 後で知って、エキュリアの気持ちがちょっぴり理解できた。

 ツッコミは大切だ、と。


 ともあれ、ユニは地獄の特訓を乗り越えた。正しく魔改造と言えるほどに鍛え上げられたのだ。

 スピア曰く、「スーパーユニちゃん」が完成した。


 そうしていま、その成果が帝国軍ラヴィへ叩き込まれる。

 当人の意思がどうなっているのかは分からないが―――。







「え……と、突撃!?」


 ラヴィは思わず唖然としてしまう。

 戦いの緊張感は保っていたが、まさかユニが距離を詰めてくるとは想像していなかった。


 魔術師同士の対決だから、遠距離での魔法の撃ち合いになるはず。

 そうラヴィは当然のように考えていた。

 けれど事前の取り決めには違反していない。相手の命を奪うか、戦闘不能にするか、あるいは降伏させるといった、曖昧な取り決めでしかなかったが―――。


 ともあれ、ユニの行動は魔術師らしくなかった。

 小柄な体を丸めたまま、猪のように真っ直ぐに突っ込んでくる。

 ラヴィは完全に虚を突かれた。

 だけどまだ随分と距離はあったし、すぐに対処するべく立ち直れた。


「それくらいで勝てると思わないで。私は紫妖族、ううん、歴史上最強の魔術師なんだから―――力持つ光弾よ、我に従え!」


 早口に詠唱をして、ラヴィは魔法を発動させる。

 十個ほどの光弾が空中に浮かぶと、一拍の後、ユニを狙って撃ち出された。


 初歩的な魔法だが、ラヴィのそれは速度と威力が違う。

 帝国を訪れて以来、多くの騎士と模擬戦をして鍛えられてもいた。


 魔術師が接近戦に弱い、というのは常識だ。

 ラヴィもまともに騎士と剣を交えれば、簡単に打ち倒されてしまうだろう。

 けれど、近づかせないための戦い方を身につけていた。


「お姉ちゃんには悪いけど、少し痛い目を見てもらうよ!」


 ユニを囲う形で、光弾が殺到する。

 一発一発が、屈強な騎士を悶絶させるほどの威力だ。

 魔術師ならその威力を推察して、何かしらの対処を取るはずだった。

 少なくとも向かってくる速度は落ちるはず―――そうラヴィは確信していた。


 けれどユニはまったく足を緩めなかった。

 小柄な体を僅かに沈ませ、手にした黒杖をくるりと回す。


「……ぬるい。羊の方がまだマシな動きをする」


 黒杖によって、光弾はすべて掻き消された。

 まるで熟練の騎士が、迫り来る矢弾を剣で打ち払うように。


「んなっ……!?」


 有り得ない、とラヴィは大口を開けてしまう。

 驚愕に立ち尽くす間にも、ユニは地面を蹴って距離を詰めていた。


 虚ろな眼差しがラヴィを捉える。

 まるで死霊に見据えられたような寒気を覚えて、ラヴィは小さく悲鳴を漏らした。


 それでも咄嗟に身を守るための魔法を発動させる。半透明の障壁が作られ、ラヴィとユニの間に立ちはだかった。

 一瞬でも足止めをして次の魔法を―――、

 そうラヴィは目論んだ。けれど無駄だった。


「……一点、集中」


 ユニの黒杖が突き出される。

 先端が青白く輝き、そこに魔力が集束されているのが見て取れた。

 そして、あっさりと障壁を貫き砕く。


「う、そ……っ!?」


 いくら魔力を集めて叩きつけても、普通は魔法障壁を破れるものではない。それにラヴィが作り出した障壁は、咄嗟のものとはいえかなりの強度を持っていた。

 腕力自慢の騎士が渾身の力を振るっても、一撃程度なら耐えられただろう。

 有り得ない事態の連続に、ラヴィの思考は止まってしまう。


 そこで、とん、と。


 黒杖の先端が、ラヴィの腹部に押し当てられた。

 もしもそれが剣だったなら、身体を貫かれていてもおかしくなかった。

 杖でも完全に勝負ありだ。ラヴィも己の敗北を悟った。

 でも悔しいといった感情はなくて、ほっと安堵を漏らしてしまう。


「……お姉ちゃん、いつの間にか強くなってたんだね」


 柔らかく目を細めて、自分より低い位置にいるユニを見つめる。

 慕っている相手を傷つけずに済んだ。

 敗北したけれど、自分も無傷でいられた。

 そんな喜びもラヴィの胸には浮かんできたが―――まだ、終わっていなかった。


「……爆ぜろ」


 ユニが低く呟く。

 直後、ラヴィも気づいた。己の内で暴れる違和感に。


 突き出された黒杖の先端から、極小に練り固められた魔力が打ち込まれていた。

 特訓の“副産物”としてユニが修得した技だ。


 打ち込まれた魔力は体内を駆け巡り、膨張する。

 ラヴィが異常を察した直後、全身から青白い光が溢れ出した。

 まるで爆発とともに炎が吹き上がったみたいに。


「んんにゃああああぁぁぁぁぁぁ――――――!?」


 やや間の抜けた悲鳴を上げて、ラヴィは悶絶した。

 体中の魔力が暴れる。それは例えるなら、自身の内側を燃やされ、ムカデの群れに全身を撫で回されるようなものだ。


 味わったことのない激痛と不快感に貫かれて、ラヴィはそのまま倒れ伏した。

 どさりっ、と。

 完全に意識を失ったラヴィを見下ろして、ユニは小さく舌打ちする。


「ちっ……まだ生きてやがる」


 虚ろだった瞳に、凶悪だが微かな光が戻ってきていた。

 それはラヴィにとって喜ぶべきことだったかも知れない。けれど喜ぶどころか、もやはユニの呟きも耳に届いていなかった。


 泡を吹いているラヴィから目線を外すと、ユニは黒杖を高々と掲げた。

 黒杖に備えられた魔石が、仄かな輝きを発する。


「―――我が名を知れ! 天よ、大地よ、汝らさえも我の前では矮小となる!」


 響き渡った言葉は、勝ち鬨のようにも聞こえた。

 けれど違う。それは呪文詠唱だ。

 その証拠に、ユニの頭上に巨大な魔法陣が浮かび上がった。


「我は破壊の御子。極限の光を束ね、闇夜の嘆きにも崩壊を齎さん。

 怯え、震え、許しを請え! 汝らに下されるは殲滅の裁き也―――」


 詠唱は続き、魔法陣が輝きを増す。

 その傍らで、スピアがちょこちょこと駆け寄って倒れたラヴィを回収していた。

 すぐに後方へと下がって、スピアはエキュリアとともに大きな宝箱に飛び込む。

 もちろん、ぷるるんやサラブレッドも一緒に。


 そちらもまた非常識な行動だった。

 いったい、いつの間に宝箱が現れたのか?

 その宝箱に入ってどうなるというのか?

 そう疑問を抱くところだったが、生憎と、帝国軍にはもっと大きな問題が迫っていた。


「あの巨大な魔法陣……まさか、殲滅魔法か!?」


「王国にも使い手がいたのか! 撃ち込んでくるぞ!」


「た、退避だ! 逃げろ! とにかく走れ!!」


 後方で戦いを見守っていた帝国兵や、ラヴィとともに来ていたジュタールたちも、慌てて距離を取ろうとする。

 殲滅魔法の効果範囲を知っていれば、逃げられないのは分かりきっているだろう。

 しかし、だからといって座して死を待てるものでもない。


 およそ五千の軍勢が、慌てて退こうとする。

 混乱する場を嘲笑うように、空に浮かんだ魔法陣が一際強く輝いた。


 そして一気に収縮し、ユニが掲げた杖の先端で光の玉となる。

 その光諸共に、黒杖が地面へ叩きつけられた。


「―――極光殲滅爆雷陣オメガリカ・フレア!!」


 ユニの欠点は、殲滅魔法の狙いを定められないこと。

 ならば、始めから狙いを定める必要をなくせばいい―――。


 そんな理屈によって、殲滅魔法にも魔改造が加えられた。

 離れた一点を撃つのではなく、自身を中心として破壊が広がるものになった。


「ふっ……ふふ、あはははははははははは――――――!!」


 哄笑が響き渡り、ユニの足下から真っ白い光が湧き上がる。

 なにもかもを破壊し尽くす光は天を焼き、辺り一帯に広がっていく。

 無数の絶叫も、破壊の轟音に呑み込まれていった。



魔改造第一弾。色々とアレ。

きっと次の魔改造は上手くいってくれるでしょう。

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