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私、ダンジョンマスターやめます! ~迷宮少女の異世界譚  作者: すてるすねこ
第六章 神出鬼没の特務巡検士編(ダンジョンマスターvs帝国軍)
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チーム:ダンジョンマスターvs帝国軍①


 王国軍が守る砦の東方、やや距離を置いて帝国軍は停止した。

 まだ弓矢や投石器でも届かない距離だ。それでも互いに相手の様子は窺える。


 しばし静かな睨み合いが続いて―――、

 先に動いたのは王国軍だ。砦の扉が開いて、二つの影が駆け出してくる。


 二つとは言っても、二人という訳ではない。

 それと、駆け出すと言うよりは、跳ね出してきた影もあった。

 ぷるるんに乗ったスピアとユニ、並んで走るのはサラブレッドに乗ったエキュリアだ。


「少々懐かしいな。セイラールの街へ向かう旅も、この顔ぶれだった」


「そうですね。でもサラブレッドが増えました」


「……敵は、殲滅する……殲滅……」


 呑気なのか殺伐なのか分からない会話を交わしつつ、二体と三人は帝国軍の正面へ向かう。

 対する帝国軍は、まだ事態を見守っていた。


「あれは……キングプルン?」


 遠目からでも分かる珍しい魔物の姿に、ラヴィは思わず声を漏らす。

 周りにいた帝国騎士たちもざわついた。


「あの天馬に乗っているのがエキュリア殿か。なかなかに風格があるな」


「いや、ただの天馬ではないぞ。角が生えている」


「それよりも……キングプルンに乗っているのが、ラヴィ殿と戦う魔術師なのか?」


 ここまでの流れは、ひとまず予定通りではあった。

 矢文によって王国側から提案されたことだ。殲滅魔法を使う魔術師と、魔術師同士の対決をしたい、と。


 帝国側としては困惑させられる提案だった。

 そもそも魔術師同士の対決とは、いったいどういうものなのか?

 対決の内容は? その後に勝者は何を得るのか?

 殲滅魔法の使い手であるラヴィに匹敵する魔術師が、王国に存在するのか―――。


 様々な疑問はあっても、無視するのは惜しい提案だった。

 帝国側の望みは、形こそ違っても、『魔将殺し』のエキュリアとの一騎討ちだ。

 本来の王国への侵攻という目的を忘れかけているのはともかくも。


 なるべく被害を少なくして戦争に勝てるならば、帝国にとっても悪くない。

 対決に駆り出されるラヴィとしても、強く拒絶する理由はなかった。


 魔術師として非凡な腕前であると、ラヴィは自負している。一対一の対決となれば殲滅魔法には頼り難いけれど、それでも己の勝利を疑わなかった。


 無論、他にも問題はあった。

 王国側の罠である可能性も捨て切れない。細かな条件を擦り合わせる必要もある。

 そういった諸々を解決するため、帝国からも使者を送った。

 幾度かの話し合いが行われて、対決に合意し、現在いまに至る。


「では、こちらも参りましょう」


 騎士に促されて、ラヴィは馬腹を蹴った。

 帝国側からはラヴィの他に、念の為に護衛騎士も数名つく。そしてエキュリアとの一騎討ちを行うジュタールも横に並んだ。


「かなりの美人だな。なるべく傷つけずに倒したいぜ」


 真剣勝負が始まるというのに、ジュタールは相変わらず軽口を叩いている。

 その言葉は不快だったが、ラヴィはもう無視すると決めていた。

 他の騎士も、王国側の様子に注意を向けている。


「エキュリア殿はともあれ、他の顔ぶれは異様としか言えんな」


「ああ……それに子供を出してくるとは、いったい何を考えているのだ?」


 ビクリ、とラヴィは肩を縮める。

 年齢に関しては、ラヴィもあまり偉そうなことは言えなかった。

 見た目のおかげで実際より年長に見られがちだけど―――、

 そんなことを考えている内に、相手との距離が縮まってくる。


「え……?」


 ラヴィは大きく目を見開く。

 これまでは随分と距離があったので、相手の姿はぼんやりとしか捉えられなかった。

 まだ辛うじて声が届く程度の距離だが―――。


 ラヴィは息を呑み、黄金色の塊から降りた魔術師風の少女をまじまじと見つめる。

 大きな三角帽子を被っている上に、俯いているので判別し難い。

 だけど、ラヴィがその顔を見間違えるはずはなかった。


「ユニ、お姉ちゃん……!」


 同じ紫妖族、というだけではない。

 思わず呟いてしまったように、ラヴィにとっては姉と慕う相手だ。

 血は繋がっていないけれど、幼い頃から親しくしていた。殲滅魔法を習得したのもユニによる影響があったからだ。


「どうしてここに……ううん、やっぱり無事だったんだ!」


 喜色満面の声を上げると、ラヴィは一気に馬を駆けさせようとした。

 帝国と王国に別れた状況だったが、そんなもの頭から消え去った。

 だって、そもそもラヴィが大陸に渡ってきたのは―――。


「なっ……い、いったい何を!? 待たれよ!」


「おいおい、いきなり慌ててどうしたってんだよ?」


 護衛騎士とジュタールが焦った声を上げた。

 すぐさま馬を並ばせ、横からラヴィの手綱を握る。


「う、わぁっ!?」


 馬が棹立ちになり、乗っていたラヴィは放り出された。

 後方にいた護衛騎士が咄嗟に受け止める。

 ラヴィに怪我はなかったけれど、しばし混乱したまま瞬きを繰り返して―――はっと我に返った。


「えっと……すいません。知っている相手だったので、少し取り乱しました」


 その言葉で、帝国騎士たちも事情を察した。

 まだ距離を置いて立っているユニを、あらためて窺う。


「朱の混じった黒髪……紫妖族の特徴ですな。まだ子供のようですが……」


「まさかこのような事態になるとは……対決はどうなされる? 親しい知人であればやり難いのでは?」


 気遣う言葉をラヴィへ向ける。

 好戦的ではあっても、帝国騎士は基本的に紳士だった。これが同じ騎士だったなら態度も違っただろうが、ラヴィはまだ若い女性で、帝国騎士からすれば守る対象にも含まれるのだ。


「……ひとまず、話をしてみます」


 騎士たちに見守られながら、ラヴィは静かに歩み出る。

 取り乱しはしたものの、もう気持ちは落ち着いていた。戦争の中心にいるのも思い出して、油断無く杖を握り締める。


 十歩ほど歩み出たところで、ラヴィは大きく息を吸い込んだ。


「―――ユニお姉ちゃん!」


 精一杯に声を張り上げる。けれどユニからの反応は無かった。

 黒杖を握ったまま、ユニは項垂れて立っているだけ。


「どうしたの!? 私だよ、ラヴィだよ! なんで答えてくれないの!?」


「…………」


「何か言ってよ! 大陸に飛ばされたって聞いて、すっごく心配して―――」


「……てズドン、魔力を一点に集めてズドン、魔力を一点に集めてズドン……」


 ぶつぶつと、ユニは呟きを繰り返していた。

 小声なのでラヴィの耳までは届かない。けれど尋常でない気配は伝わっていた。

 まるきり人が変わってしまったようで―――。


 困惑しながら、ラヴィは視線を巡らせた。

 ユニの背後、何事か囁き合っている二人の姿が目に留まる。


「おい、本当に大丈夫なのか? ユニが話していた以上に親しい間柄のようだぞ?」


「心配いりません。特訓の成果はバッチリです」


「いや、そういう問題ではなくてだな……」


「いまのユニちゃんは、敵を容赦なく殲滅する機械まっすぃーんです」


 その会話も、ラヴィには聞き取れない。

 だけど異様なユニを見ていると、なにやら悪巧みをしているのではと思えてきた。


「かなり厳しい特訓だとは聞いていたが……本当に、正気に戻るのだろうな?」


「……シロガネはそう言ってました」


 エキュリアに詰め寄られて、少女スピアは目を逸らす。

 そこでちょうど、ラヴィと目が合った。


 スピアはぱちくりと瞬きをしてから、手を振って無邪気な笑みを見せる。

 でもそれも、ラヴィの目には違って映った。


「そうか……貴方たちが、お姉ちゃんを騙したんだね!」


 手にした杖を突き出し、ラヴィはエキュリアたちを睨む。

 勘違いではあった。でも当たらずとも遠からずだ。


 エキュリアとスピアは顔を見合わせ、なんとも言えないような表情をする。

 曖昧な態度は、ラヴィの勘違いを加速させた。


「いつも明るかったお姉ちゃんにこんな、死んだゴブリンみたいな目をさせて……絶対に許さない! 待ってて、お姉ちゃん。私がすぐに助けてみせるから!」


 決意とともに宣言して、ラヴィはユニを強く見据える。

 今回の勝負では、勝者が敗者を捕らえて連れ帰れるという条件もあった。

 殲滅魔法の使い手を無力化したい王国側からの提案だったが、それはラヴィにとっても好都合だ。


 ユニを倒せば、自分の下へ連れてこれる。

 無傷とはいかなくとも、救い出せるはず―――、

 そう頷くと、ラヴィは杖を構えて戦意を漲らせた。


 ラヴィにとって、ユニは敬愛する姉のような存在だ。だから魔術師としての技量も正確に把握している。殲滅魔法しか満足に扱えないのも承知していた。

 紫妖族の者に聞けば、百人が百人ともラヴィの勝利を疑わないだろう。


 当然のように、ラヴィも己の勝利を確信できた。

 しかし一方、王国側にも勝算があった。

 すでに戦いの準備は整っていて、応援する側も落ち着いている。


「どうやら彼女は、ユニの味方らしいぞ? 話せば引きこめるのではないか?」


「でもいまは帝国側ですし。残念ですけど、叩きのめしてからにしましょう」


 呑気でありながら物騒な会話が交わされていた。


「殴り合って友情が芽生えるのは、お約束です」


「いや、殴り合い程度で済む気配ではないのだが……」


 不穏な会話を余所に、ユニはふらりと足を進める。

 一歩、二歩と、頼りない足取りはさながら幽鬼のようだった。

 そんな調子で戦えるのかと、帝国側には疑問を持つ者もいたが―――、


「……情けは、無用―――」


 呟いた直後、ユニは強く地面を蹴る。

 いまは敵であるラヴィへ向けて、まるで雷撃のように突貫した。



洗脳?

大丈夫。シロガネの特訓だよ!

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