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私、ダンジョンマスターやめます! ~迷宮少女の異世界譚  作者: すてるすねこ
第六章 神出鬼没の特務巡検士編(ダンジョンマスターvs帝国軍)
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秘策を練る


「あれほど広範囲に大地を焼き焦がすとは、さすがはエキュリア様だな」


「俺も見たかったな。凄まじい戦いぶりだったんだろ?」


「帝国軍が一気に退いていったからな。『紅蓮の乙女』は伊達じゃないぜ」


 笑い声とともに、そんな会話が交わされていた。

 城壁の上には見張りの兵士たちが立っている。カーディナルの領都から少し離れた東側に、小さな砦が建てられていた。


 スピアのダンジョン魔法で造り出したものだ。帝国軍を追い払った際に造った壁をそのまま利用している。四方を囲む壁と、いくつかの見張り塔しかない簡素な砦だが、普通に建てれば一月以上は掛かっただろう。

 当然、それを目撃した騎士や兵士たちは驚いた。

 けれど王国の極秘事項ということにして、エキュリアが強引に誤魔化した。


「控えめにしたつもりなんですけどねえ」


「何処がだ!? 充分に目立っているではないか! いやまあ、戦いに備えた物なのだから、手を抜けとは言えないのだが……」


 複雑な想いを抱えて、エキュリアは渋い顔をしている。

 ただでさえ妙な噂に悩まされていたけれど、そちらはもう諦めたらしい。


「まさかこんな時に、帝国が攻めてくるとはな。士気が高まっている以上、私の方からは消極的なことは言えん」


 ぼやきながら、エキュリアは砦の内部へ目を向けた。

 スピアとエキュリアも城壁の上を回って、砦の様子を確かめていた。


 オルディアン城砦から脱出してきた兵士たちは、ほとんどが街へ入って休んでいる。数日後にはこの砦に戻って、帝国軍の襲撃に備える予定だ。


「仮設の家も建てた方がいいですかね?」


「いや、そこまで頼りきりになるのも良くないだろう。街も近いし、天幕などを張る程度ならすぐに対応できる。寝泊りするには充分だ」


 砦の内部には更地が広がっている。スピアとエキュリアが寝泊りする小屋は建てられているが、他の設備はなにも整えられていない。

 それでも砦としては、かなり頑強な造りだ。

 帝国軍を迎え撃つならば、街に篭もるよりも良いだろう。


 王国内の街が、そもそも人間よりも魔物を警戒した造りになっているのも問題だ。

 一番の懸念材料は、帝国軍が『殲滅魔法』を使うということ。

 下手をすれば街の住民ごと消し飛ばされる。何万もの命が失われる。

 そんな最悪な事態を避けるためにも、街の前で帝国軍を迎え撃つ必要があった。


「それにしても殲滅魔法か……」


「ユニちゃんが使うのとは、少し違うみたいですね」


「黒い力場と言っていたな。私も詳しくはないが、恐らく極黒殲滅魔法だろう。いずれにしても脅威には違いないが……なにか対策はあるのか?」


「そうですねえ……」


 スピアがぼんやりとした顔をしたところで、上空から高い鳴き声が響いてきた。

 トマホークだ。空中を旋回して、街の方を指し示す。

 そちらへ目を向けると、騎馬の影がいくつか砦へ近づいてきていた。


「メィア殿もいるな。今後の方針は、彼女も交えて話し合うとするか」


「ちょうどお昼御飯の時間ですし、一緒に食べましょう」


 呑気たっぷりの返答に、エキュリアは苦笑を零す。

 深刻な状況であるのは間違いない。

 だけどスピアの笑顔を見ていると、なんとでもなるような気にさせられた。







 四千の兵を街に帰した時点で、メィアの役目は終わっていた。

 元々、騎士ではないのだ。貴族の令嬢とはいえ戦場に立つ必要はない。自宅に篭もって、皆の無事を祈っていても構わないはずだった。


 けれどそれで納得するメィアではない。

 憧れのエキュリア様の活躍を目にして、余計なやる気を出してしまった。


「兵士たちは私がまとめます! なんなりと命じてください! あ、あと魔眼持ちですから偵察でも役に立てますよ。もちろんエキュリア様の活躍も見逃しません!」


「そ、そうか……」


 メィアは跪いて、キラキラと目を輝かせている。

 対するエキュリアは、困惑を顔に表さないよう懸命に堪えていた。


 これまでの経緯は、他の騎士などにも話を聞いて把握していた。メィアが伯爵家の令嬢で、騎士を目指していることも。

 エキュリアとしては、夢見るメィアを応援してあげたい気持ちもある。


 女だてらに剣を振るのは―――などと、エキュリアも過去に言われた経験があった。同じ女性騎士として、メィアに共感を覚えなくもない。

 それでもメィアの格好を見ていると不安が大きくなる。

 甲冑に“着られている”ようでは、とても戦場で身を守れるとは思えなかった。

 どう対応したものかと迷っていると―――、


「面白い鎧ですね」


 隣にいたスピアが、メィアへと興味深げな視線を向けた。

 ちょっと失礼しますと言って、重甲冑をぺたぺたと触ったり、軽く拳を当てたりしていく。


「え? あの、いったい何を……?」


 いきなり近づかれて、触られて、メィアは目を白黒させる。

 失礼を通り越した行為だったが、押し退けることもできない。親衛隊長であるスピアは、メィアよりもずっと上位の立場にいる。

 もっとも、スピア本人にはそんな自覚も無いのだが。


「ぶかぶかなのに、ちゃんと身を守れるようになってる。魔法も組み込まれてるけど、元の構造が絶妙なんだね。職人技だよ」


「そうなんですか? でもこれ、訓練用って渡されただけで―――」


 突然、メィアが吹っ飛んだ。

 重い甲冑ごと宙を舞って、ゴロゴロと地面を転がる。

 スピアが掌底突きを繰り出したからだが、周りの人間には何が起こったか分からない。しばし愕然とした空気が流れた。


「い、いきなり何するのよぅ!?」


「ほら、やっぱり頑丈。これならオーク百匹に囲まれても大丈夫だね」


「不吉なこと言わないで! オーク百匹とか、囲まれる前に逃げるから!」


 地面に転がったまま、ブンブンと手を振ってメィアは抗議する。

 重く丸っこい鎧は、一度倒れると自力では起き上がれなかった。


「その様子だと、逃げるのも無理そうだよ?」


「む、無理じゃないもん! 私は立派な騎士になるんだから!」


「大丈夫。オークに囲まれても助けに行くから。エキュリアさんが」


「エキュリア様が!? それは嬉しいかも!」


 なにやら話も予測不可能な方向へ転がっていた。

 スピアに引き起こされて、メィアは嬉々として声を弾ませる。口調が崩れているのにも気づかない。


「エキュリアさんはオークキラーだからね。わたしと初めて会った時も戦ってたし」


「間近で見てたんだ。うわぁ、いいなあ」


「オークキングも倒したよ」


「その話は聞いたことある! どんな戦いぶりだったの?」


「ん~……こう、グシャッ、と?」


「一撃必殺だったんだね! さっすがエキュリア様!」


 微妙に話が噛み合っていない。だけど二人は楽しそうだ。

 そんな会話を横目に、エキュリアは溜め息を落とす。

 こうやって噂話は広まっていくのか、と。


「徹底的に否定したいのだが、どうしたものか……」


 スピアは嘘を吐いていないし悪意もない。

 おまけにメィアの無邪気な笑顔を見ていると、頭ごなしに怒鳴りつけるのも気が引ける。


「あの、エキュリア様、申し訳ございません。メィア様はまだこういった場にも慣れておらず……」


「ああいや、気にしないで欲しい。こちらもスピアが騒いで申し訳ない」


 世話役の騎士に頭を下げられて、エキュリアは手を振って返す。

 ひとまず二人のことは置いておこうと、表情を引き締めた。

 いま一番気に掛けるべきは、帝国軍への対処だ。


「メィア殿は兵士をまとめると言っていたが……街には、カーディナル伯爵の嫡男殿もおられるのでは?」


 やる気充分のメィアだが、地位としては微妙なところにいる。

 この地の最高責任者はカーディナル伯爵だが、いまは城砦に残ったまま安否すら知れない。そうなると伯爵の息子、つまりはメィアの父親が代行を務めるべきだ。


「それが、いまは街を留守にしております。レイセスフィーナ陛下の即位式がございましたので」


「そうだったな。なんとも時期が悪い……」


「ですので、このままエキュリア様に指揮を執っていただきたく、我らからもお願い申し上げます」


 騎士たちから頼られて、エキュリアは微妙な顔をしてしまう。

 部隊指揮の経験はある。親衛隊の副隊長となった時点で、ある程度の重責を背負う覚悟も固めていた。


 けれどいきなり最高指揮官と言われては、困惑せざるを得ない。

 ましてや敵となるのはゼラン帝国。

 ベルトゥーム王国にとっては最大の脅威とも言える強国だ。

 頭を抱えたくなる。緊張だって隠しきれる自信はない。

 立場としては、エキュリアより上位の人間もいるのだけど―――。


「……まさか、スピアに指揮権を渡す訳にもいかんからなあ」


 溜め息を堪えると、エキュリアは騎士たちへ頷いた。

 現状、誰かが先頭に立つ必要があるのは確かだ。そうでなければ帝国軍へ対抗するまでもなく、逃げ出す者が続出してしまう。

 王都からの援軍が到着するまで、ともかくも持ち堪えねばならない。

 他に適任者が現れるのを期待しつつも、エキュリアはひとまず腹をくくった。


「それで、残りの兵は三日後には集まるのだな?」


「はい。街からも戦える者を集めて、総勢でおよそ五千となります」


「帝国軍の数がそのままなら、数の上では互角か。しかし一番の問題は……」


 殲滅魔法―――、

 そうエキュリアが口にすると、騎士たちも揃って表情を曇らせる。


「俄かには信じ難いが、間違いないのだな? 極黒殲滅魔法が撃ち込まれたと……」


「大丈夫です!」


 横合いから元気一杯の声が投げられた。スピアだ。

 空気など一切無視して、笑顔を輝かせる。


「殲滅魔法と聞いて思いつきました。わたしに秘策があります」


「待て。嫌な予感しかしないぞ。いったい何をするつもりか詳しく説明しろ」


「え? 話したら秘策にならないじゃないですか」


「味方にまで秘密にしてどうする!」


 エキュリアは怒鳴り声を上げて、スピアの頬っぺたを摘み上げる。

 対帝国戦は、作戦会議の時点ですでに前途多難だった。



対帝国戦へ向けて、ひとまず兵力を整えての準備です。

そして秘策?も。

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