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私、ダンジョンマスターやめます! ~迷宮少女の異世界譚  作者: すてるすねこ
第五章 王宮図書館の司書見習い編(ダンジョンマスターvs英知の神)
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幕間 ミミック百体の恐怖


 城の練兵場で、スピアとエキュリアは並んで立っていた。

 二人とも腕を組んで同じ物を見上げている。

 箱が積まれていた。正確には、百体の偽宝箱ミミックが整然と積み上がっている。

 妖乱黒蛸との戦いで活躍してくれたミミックたちだ。


「……どうしましょう?」


「と、言われてもなあ」


 珍しく、スピアが困ったような顔をしている。

 普段は困らせる側なのに、エキュリアとともに思案を重ねていた。


「活躍してくれたのは理解している。なるべくなら無碍には扱いたくないが……」


 ミミックと言えば、なかなかに有名な魔物だ。迷宮に潜み、どれほど腕の立つ者でも油断すれば一瞬で喰われると恐れられている。

 そんな魔物が、目の前に百体もいる。

 普通なら落ち着いて話などしていられる状況ではない。


 スピアを知る者ならば、従魔だと理解して安心していられる。だからいまは親衛隊の管理下に置いているのだが、城内には出入りする者も多い。

 ふとしたことで無関係の者に見つかって、騒ぎになるかも知れない。

 おまけに、人が抱えられる程度の大きさとはいえ、百体もいれば場所を取る。


 端的に言ってしまえば、置き場所に困っているのだ。

 とにかく数が多いので、ぷるるんやサラブレッドとはまた事情が違っている。

 まあ、ひよこ村の倉庫にでも仕舞っておく手はあるのだけど―――。


「どうせなら、もっと活躍させたいです」


「また妙な騒動になる未来しか想像できん。だいたいミミックが目立ってどうする。そもそもが密かに活動する魔物だぞ?」


「むぅ。確かに見た目は地味な宝箱ですけど……」


 スピアは不満げに口元を捻じ曲げる。

 ミミックたちも反論するように、何体かがカタカタと揺れた。


「じゃあ、目立つところも見せます」


「は? 待て、いったい何をするつもり……」


「まずは、ピラミッド!」


 スピアが号令を掛ける。と同時に、すぐさまミミックの群れは動いた。

 積み上がっていた百体が、綺麗な四角錐を組む。


「続いて、花! 扇! 螺旋!」


 掛け声に合わせて、ミミックたちは綺麗な組み技を披露する。

 息の合った、というのも生命ではないミミックには妙な表現だが、ともかくも見事なものだった。

 でも、だからといってあまり役には立ちそうもない。


「……下手なことをされる前に、ともかくも試してみるか」


 エキュリアは溜め息とともに呟く。

 こうしてミミックたちの挑戦が始まった。







「では、これより模擬戦を開始する!」


 エキュリアの宣言を皮切りに、両軍は距離を詰め、ぶつかり合った。

 東西の軍に分かれた、集団戦闘の訓練だ。

 練兵場の西側に位置するのは、親衛隊と、ワイズバーン侯爵が率いる兵士たちの混成軍。対する東側では、ミミック百体が空中に浮かんで綺麗な陣形を組んでいた。


 混成軍の数はおよそ五百。単純に見れば数で圧倒できるだろう。

 けれどそれは、相手が人間だった場合の話だ。

 魔物が相手となれば、数の優位などほとんどアテにならない。五千の軍勢で三百の魔物を包囲したら、追いつめた魔物に自爆されて大変な被害が出てしまった、なんて話もある。


 魔物と相対する際には、その特異な能力に注意しなければならない。

 その点では、正面からミミックと戦うのはさほど難しくはないだろう。


 ミミックの特徴はなんといっても擬態能力。最初から敵と分かっているので油断することはない。浮遊し、頑丈な体を持ち、相手を一撃で呑み込むのも脅威ではある。けれど動き事態は鈍いので、慎重に戦えば充分に対処可能だ。


 特異な相手との戦いを経験するには良いのではないか?

 そうエキュリアは考えて、この模擬戦を企画した。

 魔族との戦場へ向かう予定のワイズバーンも、喜んで参加した。しかし―――。


「……まさか、こんな事態になるとは」


「うむ……これでは戦場に連れていけるかどうかも怪しい」


 エキュリアとワイズバーンは揃って頭を抱えた。

 模擬戦の結果は痛み分け。互いに健闘したと言って良いだろう。

 しかし二人が見つめる先では、何十名もの兵士が膝を抱えて震えていた。


「怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い……暗闇が、迫ってきて……あぁぁ……」


「箱が、箱がぁぁぁ……」


「ぬめりとするんだ……へへ、ぴちょり、ぴちょりと、耳に音が染みついて……」


 ミミックに呑み込まれた者も、戦いの後に解放された。

 身体には怪我もない。けれど心の傷は深刻だった。

 スピアもミミックたちを回復させながら、神妙な顔になっている。


「あの攻撃は手加減が難しいですからねえ」


「かといって、体当たりだけというのもな。緊張感に欠ける」


 結局、模擬戦は一度きりで終了となった。

 ちなみに、心に傷を負った兵士たちも立ち上がれるようにはなった。

 シロガネによる洗脳、もとい集中治療のおかげで。

 また別の問題が刻み込まれたようだったが、そちらはきっと時間が解決してくれるだろう。


「訓練相手はダメですか。役に立てると思ったんですけど」


「大人しくしてくれるだけで充分なのだがなあ」


 ぼやきながらも、エキュリアは耳を傾ける。

 放置しておけば大惨事になるのは確実。事前に計画を話してくれるだけでも、スピアにしてはまともな行動だった。


「魔物だから、堂々と表では活躍できないんですよね?」


「まあ、そうだな。どうしても警戒される」


「ただの動く箱と言い張るのはどうでしょう? 荷物運びとかでも役立てますよ?」


「不自然すぎるだろうが! 却下だ!」


 魔導具だと強引に言い張れないこともない。

 だけどバレる未来が容易に想像できて、エキュリアは首を振った。

 まあスピアも無理に押し通したい案でもなかった。

 ミミックたちが雑用係で満足できるか、という問題もある。


「やはり城の倉庫などで待機してもらうのが一番ではないか? もしも不審者などが現れたら捕縛する。ミミックには最適の役目だろう?」


「むぅ。でもそれには、大きな問題があります」


 不満げに、スピアは口元を捻じ曲げる。

 その眼差しは真剣だったが―――。


「まともすぎて、面白くありません」


「余計なものを求めるな! とにかく決定だ。おかしなことを企むんじゃないぞ!」


 こうして城の宝物庫や倉庫などに、ミミックたちは配置されることになった。

 偽宝箱としての本領を発揮していく内に、やがて噂が流れ始める。

 ベルトゥームの王城には語るのも憚られる守り手が潜んでいる。

 侵入者は死よりも恐ろしい目に遭う、と。



特化型の魔物は活躍してもらう場面も限られちゃいますね。

あとは、手品くらいには使えるかも知れません。


次回は、副隊長の胃の痛い日々です。

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