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私、ダンジョンマスターやめます! ~迷宮少女の異世界譚  作者: すてるすねこ
第一章 さすらいの少女(ダンジョンマスターvsオークキング)
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オークキングの策蠢

※不快な描写があります。オークに耐性のない方はご注意を。

 幾本にも分かれた坑道が長く続いている。

 暗く湿った洞窟は、オークたちにとっても居心地がよくない。

 しかし我慢できないほどではないし、人間との争いが続いている以上、洞窟の奥にいた方が安心できる。


 もっとも、大半のオークはそんな理屈など考えてもいない。

 王の命令に従い、与えられた住処に居るだけだ。

 あとは食べて、寝て、己の欲望のままに生きている。


『人間からすれば、下等種族に見えるんだろうな』


 腰を振りながら、もはや反応の失せている女を見下ろす。女の腹は、彼の浅黒い腹と同じくらいに膨らんでいる。

 王による種付けが済んだ女だけが、遊び道具として下げ渡される。

 たまには腹の膨れていない女を試してみたいとも思うが、文句は言えない。

 それに運が良ければ、女にとっては悪ければ、王以外の子供を孕むこともあるだろう。


『なあ、おまえも同じように思ってたんだろ? その下等種族に玩具にされてる気分はどうなんだ?』

「……て、っ……ころして……ころして……」


 女は同じ言葉を繰り返すばかりだ。

 人間の言葉は、オークには理解できない。彼も同じだ。

 筋肉の詰まった体と、下顎から伸びる牙の鋭さが自慢だが、人間からは醜いオークとしか見られない。それくらいは理解していた。


『なんだ、ルーク。また人間相手に妙な話をしてんのか?』

『……ドークか。おまえだって、暇潰しに来たのは同じだろ』


 ルークよりも粗暴そうな豚面が、牢屋に入ってくる。

 牢屋と言っても、鉄格子どころか扉のひとつもない。広く掘られただけの穴倉だ。


 女たちが逃げ出さないのは、手足を砕かれているからだ。それに加えて、いつも何匹かのオークが遊びながら見張っている。逃げるどころか死ぬことも叶わない。

 ルークの他にも、いまも周りには女で遊んでいるオークたちがいる。

 そのオークたちを小突きながら、ドークは肉付きのいい女を抱え上げた。


『ポーク様に言われたんだ。おまえを呼んでこいってよ』

『何かあったのか? この前、狩りの部隊がいくつかやられたのは聞いたが』

『知らねえよ。ポーク様に聞けばいいだろ』


 投げやりにドークは言う。

 何も考えてなさそうな態度に呆れながら、ルークは腰の動きを早めた。

 ふぅ、と一息ついて、ズボンを履き直す。


『おい、待てよ。俺も一緒に行くように言われてんだ』

『……なら、なんでヤり始めたんだよ』

『あん? ヤりたくなったからに決まってんだろ』


 湿った音の混じる返答を受けて、ルークはまた溜め息を落とす。

 けれど履き直したばかりのズボンを下ろすと、別の女に手を伸ばした。







 並のオークでも、人間より一回りは大きな体躯をしている。

 屈強な体は、オークが種族として誇る武器だ。

 オークキングともなれば、その腕だけで人間の胴回り以上の太さがある。”キング”というのは人間が呼んでいるだけだが、正しく王に相応しく、堂々とした体躯と威圧感を持っていた。

 その王の前で跪いて、ルークとドークは深々と頭を垂れた。


『お召しにより、参上致しました』

『来たぜ、ポーク様』


 言葉遣いこそ粗雑なドークだが、態度だけはしっかりと畏まっていた。

 オークジェネラルであるこの二名は、他のオークなど片手で捻り潰せるほどの力を持っている。それでもキングとはまるで別格だ。向き合うだけで、自然と体は萎縮してしまう。


 今更、ポークも言葉遣いなど気に留めない。

 彼だって女を犯している最中なのだから。

 湿った音が響き続ける広間には、十人以上の女がぐったりと横たわっている。全員が裸だが、人間の男でも欲情するよりも目を覆いたくなるだろう。

 ポークは座った姿勢のまま、次々と女を取り替えては腰を振り続けていた。


 なにも欲望を満たすことが目的ではない。これはオークキングとしての、彼の仕事でもある。

 種族として、オークに女は生まれない。

 繁殖のためには、他種族の女を利用する必要がある。

 けれど他のオークが女を孕ませても、子が産まれるには百日以上も掛かる。それでも人間に比べれば三倍も早く繁殖できるのだし、一度に数匹の子が産まれる。この繁殖力の強さこそが、オークの最大の武器だと言えた。


 しかしオークキングであるポークは、僅か十日で子供を産ませられる。

 おまけに一度犯せば、確実に孕ませられるのだ。相手が子供であっても老婆であっても関係なく。生きていれば、という条件は付くが。


 過去のオークキングも、これほど異常な繁殖力は持っていなかった。

 この力に因って、ポークは一大勢力を築き上げた。

 そして、さらにその勢力を広げるつもりでいる。


『女が足りない』


 舌なめずりをしながら、ポークは濁った声を零す。

 それは要求でも命令でもない。ただの欲望の吐露だ。


『もっと子を増やしたい。女が欲しい』


 脂ぎった顔を歪めて、ポークは眼をギラつかせる。

 ルークとしては、なんでこいつが王なんだ、と思わなくもない。しかし睨まれただけで体は縮こまる。欲望に応えずにはいられない。


 それに、女が足りなくなってきているのも事実だ。

 凄まじい勢いで子を増やせても、その分だけ早く女も壊れてしまう。

 出産の際に命を落とす女も多くなっていた。


『また森を探って人狩りを行いますか? もう集落は無いとも思いますが……』

『デカイ街があるんだろ? そろそろ攻めようぜ』


 萎縮して地面を見つめながらも、ドークも欲望のままに述べた。

 人の街は、オークにとって宝物庫のようなものだ。女も食料も山ほど詰まっている。けれど宝を守る壁は高く頑丈で、群れた人間は侮れない。下手に近づけば自分たちの方が狩られることは、オークの知能でも理解できた。


 しかし大勢で攻め込めば、人の街でも潰して奪える。

 この鉱山も小さな街と言える規模だった。数百名の兵士が守っていたが、その何倍もの数で攻めるオークには為す術もなく叩き潰されていった。


 おかげで、たくさんの女が手に入った。

 ポークの力によって、また数え切れないほどの子が産まれている。

 いまならば大きな街も奪えるのではないか、とルークにも思えた。


『この女が次の子を産んだら、街を攻める』


 欲望のままに動くのなら、いますぐにでも街を攻めるところだ。

 けれどここ一番という場面では、ポークは慎重な判断もできた。だからこそ群れを大きくして、人間に勝利し続けてきた。

 僅かな期間でも、オークの繁殖と成長は早い。

 間違いなく街を攻め落とせるだけの数を揃えられるだろう。


『おまえたちも準備しておけ』


 王であるポークに、ルークとドークは再び頭を下げる。

 そして二名は、揃って醜い笑みを浮かべていた。







 鉱山の入り口を中心に、森が拓かれている。

 切り立った崖を背にして大きな集落が作られている形だ。集落を囲む木柵や見張り塔は壊れたまま放置されているが、家屋や倉庫は再利用されている。


 元は、人間が作った鉱山街だ。

 住んでいたのは鉱夫だけでなく、物資を運ぶ商人や、彼らを守る兵士たちもいた。一部ではあるが家族ごと引っ越してきた者もいた。


 しかしいまは、完全にオークの手に落ちている。

 生きている人間は、倉庫に集められた遊び道具である女だけだ。


『おまえら、聞け!』


 広場に大勢のオークを集めて、ドークが高らかに声を上げた。

 その隣で、ルークも機嫌良く口元を歪めながら様子を見守っている。


『ポーク様の命令だ。次は、デカイ街を攻める!』


 ドークが握った拳を掲げ上げる。

 一拍の静寂を置いて、歓声が響き渡った。


 鉱山の外には、数千のオークが集まっていた。

 坑道の奥こそが本拠地ではあるが、そちらに住んでいるのは全体の二割に満たない。ポークをはじめとした幹部は坑道内を住居としているが、外の集落の方が主力とも言えた。


 その数千のオークが一斉に歓喜の声を上げたのだ。

 欲望に満ちた醜い声が、山を揺らさんばかりに轟いていく。

 ここのオークは皆、人間から奪う勝利の味を知っている。その快感をまた味わえるとなれば狂喜するのも当然だった。


『攻めるのは、これより十日後だ』


 いますぐに駆け出しそうなオークたちを、ルークの声が諌める。

 もっとも、そのルークの声も醜く弾んでいたが。


『それまでに準備をしておけ。いいか、人間どもは弱い。だが侮ると―――』


 轟音がルークの声を掻き消した。

 集まっていたオークたちも目を見開き、音のした方向、背後へと振り返る。


 その目に飛び込んできたのは壁だ。

 巨大な石の壁が、集落全体を囲む形で出来上がっていた。建物二階分ほども高さのある壁が、いきなり地面からせり上がってきたのだ。

 轟音が鳴り続けている。地面も小刻みに震えていた。


 なにがなんだかわからない―――、

 その場の全員が立ち尽くしている内に、また変化は起こった。

 ふっと影が差す。広場全体を黒く覆うように。


 異様な気配に引かれて、ルークは視線を頭上へと向けた。

 そこにあったのは黒い球体。巨大な鉄球だ。


『は……?』


 ぶひ?、とルークは間の抜けた声を上げた。


 それが最期に発した言葉となった。

 直後、落下してきた巨大な鉄球が、無数のオークをまとめて轢き潰していった。



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