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私、ダンジョンマスターやめます! ~迷宮少女の異世界譚  作者: すてるすねこ
第五章 王宮図書館の司書見習い編(ダンジョンマスターvs英知の神)
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自称、司書見習い


 図書館入り口の横には、質素な部屋が設けられている。

 広さはそこそこ。司書たちの執務室だ。

 その部屋に入って、スピアは利用者として登録を行った。


 大型の魔導具が設置されていて、そこに微量の魔力を流す。個々人で違う魔力の質を記録し、結界で弾くかどうか判別するものだ。

 あとはアリエットが簡単な書類を整えて、登録が完了する。


「図書館の利用時間は、朝から日暮れまでとなっています。ですが、司書がいない時は鍵が掛けられていますので、その時は申し訳ありませんが諦めてください。いまは司書が私しかいなくて、なるべく開けられるようにはしているんですが……」


 本の貸し出しや重要な書物の扱いなど、図書館には様々な規則が設けられている。

 印刷技術もまだあまり広まっていないので、本というのは貴重品だ。国の財産とも言えるそれらの本を守るため、図書館に厳重な決まりがあるのは当然だった。


 細かな部分まで、アリエットはつらつらと述べていく。

 真面目なアリエットは、司書としてすべての規則を暗記していた。


「なるほど、分かりました」


 スピアも大人しく説明を聞いていた。

 まあ、しっかりと頭に入れていたかどうかは定かではないけれど。


「要するに、本を大切にすればいいんですね」


「え、ええ……身も蓋も無い言い方をされると、そうなります……」


 長々とした説明を一言でまとめられて、アリエットは肩を落とした。

 溜め息とともに、眼鏡もずり落ちる。


「んん? お疲れですか? 本の読み過ぎはよくありませんよ?」


「いえ、べつにそういう訳では……」


「それじゃ、今度こそ図書館へ突撃です」


「あ、はい。って話の切り替えが早すぎですよぅ」


 すたすたと図書館へ向かうスピアの後を、アリエットは慌てて追いかける。

 両開きの扉を抜けて、二人は書架の間を進んでいった。


 静寂に包まれていた場に、軽やかな足音ばかりが響いていく。

 やがて、スピアはぴたりと足を止めた。


「図書館で静かにするのは分かります」


 言いながら、両手を広げる。ぐるりと回って周囲を示した。


「でも、静かすぎです。誰もいないじゃないですか」


「それは、その……あまり人が訪れる場所でもありませんから……」


「貸し切りですね。騒ぎ放題です」


 くるくると回って鼻唄まで歌いながら、スピアは書架の間を抜けていく。

 まるっきり行儀の悪い子供みたいな行動だ。

 司書であるアリエットとしては注意すべきだろう。


 だけど相手は王族直属の騎士で、下級貴族のアリエットよりも身分は遥かに上だ。

 出来ることと言えば、困った顔を見せるくらい。

 それにまあ、騒いだところで迷惑がる利用者がいないのも事実だった。


「たまに、文官の方が調べ物には来るんですけ、ど……?」


 ぱたり、とスピアが倒れた。

 糸が切れたみたいに、床へ突っ伏して動かなくなる。

 アリエットはしばし呆然としてしまう。


「あ……す、スピアさん!? 大丈夫……ぅ?」


「目が回りました!」


 元気一杯の返答をして、スピアは跳ね起きる。

 まったく心配なんて要らなかった。


「それで、歴史の本は何処でしょう?」


「えっと……あ、はい。ちゃんと本を読むつもりはあったんですね……」


 溜め息を零しつつ、アリエットはいま来た方へ足を向けなおす。

 最初に言ってくれれば、という文句は辛うじて呑み込んだ。







 机の上に、何冊もの分厚い本が置かれた。

 目についた歴史書を適当に、スピアがまとめて持ってきたものだ。

 その内の一冊を開いて、次々とページをめくる。スピアの目は忙しなく文字を追っていく。


「凄い集中力……」


「数字がなければ楽しく読めるんです」


 思わず呟いたアリエットに、スピアは朗らかな声を返す。

 だけど視線は文字を追い続けていた。

 やがて一冊を読み終えたスピアは、ふぅっと息を吐いた。


「随分と違います」


「えっと、何が違うんです?」


「歴史です。それと、千二百年以上前の部分が抜けてますね」


「古代の部分ですか……その辺りに関しては、史料もほとんどありませんから。あ、でも待ってください。古代遺跡を探索した方の手記がどこかにあったと思います」


 早口に述べて、アリエットは席を立った。

 すぐに図書館の奥へと向かっていく。

 止める間もなく、スピアは細い背中を黙って見送った。

 ほどなくして、一冊の本を抱えたアリエットが小走りに戻ってくる。


「図書館で走っちゃいけません!」


「あぅ……す、すいません。私ったら調べ物になるといつも夢中になって……」


 ぺこぺこと頭を下げながら、アリエットは抱えていた本を差し出す。

 それを受け取るスピアも困った顔をする。


 本気で謝られるとは思っていなかった。

 だけど、そこで悪びれないのがスピアという生き物だ。


「アリエットさんは、歴史に詳しいんですか?」


「え? いえ、誇れるほどではないです。それなりに歴史書には目を通していますけど……」


「なら、教えてください」


 そう述べて、スピアは背筋を伸ばす。聞く姿勢だ。

 真っ直ぐな眼差しをアリエットへと注ぐ。


「わ、私の知識なんて、大したものじゃありませんよぅ。教えるとか、そんな……」


「ダメですか?」


 スピアはしょんぼりとした顔をする。

 そんな態度を取られては、アリエットも断るのは気が引けた。


「あの……歴史って、どの辺りでしょう? 細かい部分は私も分からないので……」


「はじめからです。大雑把で構いません」


「そうなると大陸史でしょうか? ですが歴史の始まりを何処に置くかは、専門家も議論するところだと聞いています」


 眼鏡を上げ直しながら、アリエットはゆっくりと語り出す。

 躊躇ってはいたものの、知的な話をするのは嫌いではなかった。アリエット以外にも司書がいた頃には、歴史についての議論を交わしたこともある。

 その時の相手は上級貴族で、無礼だと叱責されたりもしたが―――。


「神が人間を創造なさった時を始まりだと言う方もいます。でも文明という意味では、『はじまりの国』の興りを基準にするべきだという意見も強いです。あるいは『永世王ラグナローグ』が生まれた時、それと『天崩大戦』の終結こそ歴史の始まりだというのも、賛同する方は多いみたいです。どの説でも千二百年前が大きな節目になりますが、やはり無視できないのは『ヤルタホルスの書』に記された……」


 一旦語り出すと、アリエットの口調はどんどん熱を帯びていく。

 勢いある言葉の流れに、さすがにスピアもちょっぴり押されてしまう。

 自分から話を振ったのでなければ、そっと身を隠していただろう。


「千二百年前に、『はじまりの国』が滅んだんですよね? その国が続いたのは、どれくらいの期間なんです?」


「それさえも不明なんです。数百年とも、数千年とも言われています」


「随分と開きがありますねえ。記録のひとつくらい残っていそうなのに」


「魔神や邪神は、文明そのものを嫌ったそうですから。あるいは永世王が神々を降臨させる際に、歴史を代償として差し出したとも言われています。いずれにしても、それだけ『天崩大戦』が激しかったのだと……」


 遥か昔には、人類はたったひとつの国に統一されていたという。

 スピアにはなかなかに信じ難い話だった。

 調べたかったのは、その国を治めていたという『永世王』に関してだ。


 人の身でありながら、永遠の寿命を持ち、没した後には神の座へ迎えられたと歴史書には記されている。

 それを見習いたい、などとスピアは考えていない。

 けれど手掛かりはあるように思えた。

 元の世界へ帰るため、神を自称する人攫いを殴りつけるために―――。


「それにしても……」


 話が一段落したところで、スピアはぽつりと呟いた。

 じっとアリエットを見つめる。


「やっぱりアリエットさんは物知りですね」


「え? な、なんですか急に。私なんか他の方と比べたら全然で……」


「知的な人もかっこいいです」


 あからさまなお世辞、と普通なら受け取られるところだろう。

 けれどスピアにそんな意図はない。

 ただ正直な感想と、思いつきを口にしただけ。


「ってことで、わたしも今日から司書見習いになります」


「ど、どうしてそうなるんですか!?」


 戸惑いながらも、アリエットは声を荒げる。

 でもそんなキレのないツッコミでは、スピアを止められるはずもなかった。



図書館司書見習い(仕事しない)

ダンジョンマスターって本来、知略で勝負するものですよね。

なので、そこらへんを称号効果でちょこっと強化です。


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