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夜明けの月  作者: びるす
シュペッツ王国
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第八節:開戦の引き金

「入り口を固め制圧せよ!」


 剣同士の金属音を響かせながら怒声が部屋を支配する。

 俺も近くにいる騎士と同じように剣を携え、目の前の兵を切る。

 兵士たちの練度は可もなく不可もなく、決して弱くはないがここにいる騎士達と一対一で勝つことはまず不可能だろう。


「道を開く! オズ右側を頼む!」


「わかった!」


 短い了承の言葉とともに会談用に用意されたテーブルへと飛び上がる。

 オズも同じようにテーブルへと飛び上がり、入り口まで駆ける。

 途中、同じようにテーブルへと上がろうとするルクロワイヤル兵を切り捨て一蹴し、会談場所の入り口をこじ開けた。


(しかし拙すぎるぞルクロワイヤル王!)


 入り口を制圧しつつ次々とやってくる増援を切り捨てる。

それにしても数が多い。

切り捨てたと思ったらその後ろには兵がいる。

相手の領地での出来事のため、当然と言えば当然だろうがあまりの人数に嫌気がさしてくる。


(やはり、あの時すぐに殺すべきだった!)


 俺はそう思いつつも兵を切り捨てていく。


 少し時間を戻そう……

 事の発端は一時間ほど前のことである。


「シュペッツ王国の皆様方、ご案内たしますのでお手数ですがこちらへお越しください」


 簡易的な会議室にノックの後に入ってきた侍女が案内する。

 国王とのお目通りは、やはりこの部屋では行わないようだ。

「わかったすぐにいく」


 その声とともに全員が身支度を整え、侍女の後へとついて行く。

セリアの左前には今回の騎士団のまとめ役であるアルバート、左右一歩後方にはオズとシルメリアが付きその後にジェシーと俺、そしてさらに後方には侍女と騎士が続く。

 コツコツという音と鎧の擦れる音が場内を駆け巡る。


(気配がおかしい?)


 不意にそんな違和感に苛まれた。

なんというのだろう静かなことは静かなのでが、視線というか人の気配というのだろうか、それがあまりにも多い気がする。

ジェシーに目を向けると彼女も怪訝な顔をしている。

俺だけが感じている違和感ではないらしい。

 最初の会議室から会談用部屋まで約5分ぐらいだろうか、ゆっくりとしたスピードであったためそれなりの時間がかかっての移動だった。

案内していた侍女が部屋の戸を開け中に入るように促す。


「一番奥の席へお願いいたします。すぐにルクロワイヤル王をお連れいたします」


 中に入ると深々とお辞儀をし去っていく。


「それにしても失礼もほどがありますな。姫様に対して2度も待つようになどと」


「アルバート気持ちはわかるが抑えておれ、それにしても今回の案内もそうだが、どうも釈然とせん」


「たしかにそうでございますね。いかにルクロワイヤルといえど、ここまでおかしな対応はしなかったはずなのですが」


 アルバートの愚痴に対しセリアが諌める。

 しかし、やはりこの対応はおかしいのだろう。

初見の俺ですら疑問に思うのだ、複数回来たことのある二人ならばその疑問もより深いもののはずだ。


「セリア少し良くて?」


 ジェシーがそんな会話に割って入る。


「どうした?」


「人の気配かしら、どうも多すぎるわ」


「そうなのか?」


「私はお城というものがどれくらいいるかはわかないけど、ん~すごく密集している感じがします」


「俺もねぇさんと同じ……」


 どうやら勘の鋭いものなら気づいているらしい。


「シルメリアさん、オズ少しというかかなり警戒したほうがいいかもしれないな。俺もさっきから違和感というか、嫌な予感がする」


 俺はそう言って、スカートの下に仕込んである剣をすぐに抜き放てるように準備する。


「アキラお主もか?」


「あぁ、視線が絡みつくような感覚がすごい。一人二人ならともかく何人にもみられている感覚がする。しかもそのほかにもなんていうんだろうな。人が大勢いますって感じがしてならない」


「なるほど……アルバート!」


「はっ!」


「抜刀の許可をしておく。それと侍女たちは騎士たちの邪魔にならぬように後ろに控えていろ」


 緊張の糸が張り詰めていく。

そしてそんな会話押した数分後不意に扉が開かれた。


「ようこそおいでくださいました。シュペッツ王国の皆々様」


 開口一番に紡がれた言葉は嫌にねっとりとした声であり、おそらく誰しもがいい気分になることはないだろう。


「お招きいただきありがとうございます。ルクロワイヤル王」


 そんな気持ち悪い声を受け流しセリアは立ち上がりスカートの裾をつまんで軽く礼をする。

とても優雅な礼である。

それに合わせ従者一行も続いて礼をする。


「とりあえず座りたまえ。余としても貴君らとは良い話ができるとは思っているのでな」


 ルクロワイヤル王がにやりとした笑みとともに座るように促し、そして王自身もセリアと対極にある入り口に一番近い席へと座った。

 ルクロワイヤル王の容姿だが、なんというか整ってはいた。

鼻はすっと伸びており低くはない。また、体型は痩せ型だがけしてガリガリといったわけではなく、しゅっとした筋肉質である。目は多少吊り上ってはいるが程よい大きさ。ブロンズの髪を携え各パーツだけ見ればかなりの人がうらやむレベルである。

だが、男の醸し出す雰囲気がそれらをまとめ上げると途端に気持ち悪いという感情を持たせるものに変わっていた。


「こちらもよい話ができればと思っています。それでプロイセン様、此度の対談についてなのだが国境付近の土地についてという形でよろしいですか?」


 席に着いたセリアが口を開く。


「そうだな。確かそのような書状を送ったのだった。まぁなんだその話は別に後でもいいだろう」


「後でもいい?」


「あぁ後でいい。それよりもだセリア姫もっと重要なことがある」


「今回の対談についてですが、わらわには土地について以上に重要な話というのはないと思いますが?」


 セリアの眉がつりあがる。


「いやたしたことはないだろう。もともとあの土地は我がルクロワイヤルのものだしな。それにそれ以上の重要な話だが、セリア姫俺に嫁げ」


「!?」


 何いってだこのいかれポンチは?

 誰しもがそう思ったことだろう。

現に平静を装っていたセリアでさえ信じられないといった表情だ。

そんな中一人笑みを浮かべるプロイセンは、その表情を見てこれは好機と思ったのか、話を続ける。


「なに驚くことはないだろう。お前が嫁いでくるときの持参金としてあの土地をルクロワイヤルにということで丸く終わらせてやると言っているんだ悪くないだろう」


「何を言うか貴様!」


 アルバートが声を上げる。


「だまれ! 一介の騎士が口をはさむな」


「いや黙るのはルクロワイヤル王あなたの方ですよ?」


「なんだ貴様?」


「これは失礼しました。私はジェシー=G=シリウストと申します。セリア姫の従姉であります」


 ジェシーがそう答えた。どうやら真明は伏せるようだ。


「ほぅ、それでその従弟さまがなぜ黙るのが余の方だと?」


 にやつきつつも、眼光は鋭い。


「はじめに、このように私たちをこちらに呼び出したのはルクロワイヤル王あなたのはずです。その内容は国境付近の領土について、しかも、来なければその土地は自分たちのものだという横暴な内容ではありませんか。そのように書かれてしまいましてはシュペッツ王国としてはルクロワイヤル帝国へと赴かねばなりません。そして赴いて蓋を開けてみれば、あの土地はもともと自分たちのだからそんなことはどうでもいい。姫をよこせ。丸く収めてやる。あなた様はこういっているのですよ? 無礼を通り越して呆れすら感じる内容を発しているのですがお分かりでして?」


 ゆっくりと落ち着いたような口調ではあるが、語気がきつい。

やはりジェシーも怒っている。

しかし、そんなことかと言わんばかりにあざけりの声がとどく。


「はっ、そんなことか無礼も何も余は王だぞ? 何を勘違いしている? お前こそ無礼ではないのか? まぁ余は心が広い許してやろう。それにお主はなかなか美しいな。妾ぐらいにはしてやる。セリアとともに帝国に参れ」


(こいつ殺す!)


 俺は怒気を発しつつ、スカートの中の剣へと手をかけベルトから剣を外す。

そして切りかかろうとしたのだが、すっとジェシーの手がそれを止めた。


「ルクロワイヤル王、貴方に嫁ぐ気は一切ありません。世迷いごとは申されてはかないません」


「ふん、しょせんシュペッツの豚か、まぁいい。だがセリアには来てもらうことは変わらん」


「わらわも嫁ぐ気はないぞ? ルクロワイヤル王。お主はもう少し政とはなんなのか学んでから顔を出すのじゃな」


 その言葉が引き金になった。

 ルクロワイヤル王、プロイセンの顔に怒気がこもる。


「……交渉は決裂だな。セリア姫とそこの従姉以外すべて殺せ」


 そう言ってプロイセンは立ち上がり部屋を出ていく。

 それとともに押し寄せる兵士。

これが今に続く現状である。

 それにしてもシュペッツ王国の方々もそうだが、血の気が多い連中だ。

……今回に関しては俺も人のことは言えないが。

かくして従者12人と姫1人対ルクロワイヤル王国が開戦したのである。


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