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夜明けの月  作者: びるす
シュペッツ王国
83/89

第二節:騎士への誘い

 天気は晴れ。

気温も暑すぎもせず寒すぎもせず、時おり頬を撫でる風がくすぐったく感じる。

 道中咲く花々や木々も、その風に揺らされサワサワと心地よい音を立てている。

こんな気持ちが落ち着く日は、草原に寝転がって一日雲を眺めながら過ごしたい気分だ。

 しかし、そんな気持ちを押し殺して歩みを進めなくてはならない。

なにせ目の前をハイテンションで歩く彼女から離れるわけにはいかないのだから。


「アキラ! ここを真っ直ぐでいいのだな!?」


「あぁ、真っ直ぐだ。とりあえず今は先頭でいいけど森に入ったら真ん中に来てくれよ。いくら剣術が出来るようになったからって、あくまでお前は護衛対象なんだからな」


「わかっておるわ」


 本当に言葉どおりに分かっているのかもう一度聞き返したいところである。

うきうき気分で歩を進めるセリアの歩みは同世代のものよりも速い。

しかも途中で、横道に逸れることもあるので護衛する立場のものは、すがすがしい一日を味わうなど出来るはずもなく、ただ姫様の安全を気遣って疲れだけ増していった。

 もちろんその中の1人として俺も含まれて入るが、俺よりもリット、それ以上には城の騎士と侍女達が一目で分かるくらい気疲れの色を顔に出している。


「ちょっとアキラ。本当にお姫様が先頭でいいの?」


「仕方ないだろ? そういう要望なんだから。外にはめったに出られない姫様のわがままだ、聞いてやるのが大人の対応ってものだろう?」


 耳打ちしてきたエマに、前を行くセリアには聞えないように返す。


「確かにそうだけど、なにかあったら責任問題よ?」


「そこはそれ、俺は一応副団長だから責任はねぇ」


 と言葉と共に視線をエマに向けると、彼女はむっと口をへの字に曲げた。


「なかなか狡いことしてくれるじゃない……」


「いつも副団長を理由にいろいろやらされてるんだ。たまにはいいだろう? それにセリア自身も俺達の負担についてはある程度把握しているさ。だから森の中では一番安全な中心にいるって話になったんじゃないか」


「まぁ、そうだけど」


「とにかく今はセリアを監視するしかないさ。幸いジェシーが話し相手として隣にいるんだ、なにかあったら彼女が対応してくれる」


 セリアの隣にいるジェシーを指差すと、エマはその指の先を追う。

きっと彼女の目にも、セリアと放しながらも回りに気を配るジェシーの姿が映ったことだろう。


「……そうよね。うん、そうだわ。心配して損した~。よしそれなら私はリオと喋ってるわ。だから後はよろしく」


「お、おいそれはってもういねぇし。リット大丈夫か」


 ジェシーの姿に安心すると、すべて任せたとばかりにエマは殿についているリオの下へと行ってしまった。

 さすがに持ち場を離れるのはまずいと思い呼び止めようとしたが、呼び止めようとしたときにはすでにエマの姿はない。

セリアのことだからこんなことは許してくれるだろうが、許さない人もいるだろう。

そんな許さない人達の矢面に立つのは俺と残されたリットだった。


「な、なんとか。それよりもアキラさん後ろの方々の視線が痛いのですけど」


 顔だけ振り返ってみる。

 そこにはセリアを運ぶための馬車のほかに護衛の騎士、他にも侍女や馬引きなどすべて合わせると30人近い人物がこちらをじっと睨んでいた。

 こちらが目を合わせても逸らすことは無い。


「ぽっと出の庸兵団が姫様に身辺警護ってのが気に入らないんだろう。しかもさっきのエマの対応で火をつけちまったらしい」


 これ以外にも、視線の理由はありそうだが、とにかく今は耐えるしかないだろう。


「ど、どうりで。それにしてもアキラさんは良く平気ですね。こんな変なプレッシャー食らって」


「ゼルバのおっさんに比べたら軽い軽い。あの人の睨みは人間じゃないし」


「はぁ」


 あの人のプレッシャーはどれだけ人のものじゃないと、リットの話しているといつの間にか森の入り口へとたどり着いていた。

 セリアも森の入り口で待っており、約束どおり森の中では列の真ん中へ移動し魔物に対して警戒を取ってくれた。

 幸いにも魔物達はこの異様な列に恐れをなしてか、姿を現すことは無く俺達は目的の場所であった小さな一軒家へ何事もなく無事にたどり着いたのだった。

 赤い屋根に煙突、白い壁に四角い窓、最初に来たときと変わらない姿でたたずんでいる。

そんな家を背景に、物干し場へ洗濯物を干す者が一人。

数十人の列がこちらに向かってくると言うのに、その動作をやめようとしていない。

 そんな人物も顔がはっきりと見えるようになり、こちらと視線が合うとその動きを止めた。


「あらあらあら~アッキーさんお久しぶり」


 俺としては数日振りであるため、あまり久しぶりと言う感じではないが、彼女からすれば数ヶ月ぶりなのだ。

本当に久しぶりと言う感じなのだろう。

 洗濯物を干すのをいったんやめたシルメリアは、こちらに手を振りながら近づいてきた。


「どうもお久しぶりでっうおぅっと」


「あぁごめんなさいアッキーさんなかなか止まれなくて」


「い、いえ大丈夫ですよ」


 こちらも手を振り待っていると、彼女はすぐに俺達のいる場所に到着した。

ただ、到着するのが彼女のイメージよりも早かったためか、減速が間に合わず勢い良く俺の胸へと飛び込むことに。

飛び込まれた俺はと言うと、最初は衝撃で少し体が揺れたが、シルメリアの体は柔らかく怪我などは無い。

むしろ気持ちいい位の感触であった。


「ほぉ、アキラもなかなかやるではないか」


 その声に気がついて抱き止めたシルメリアを離す。

そして声のほうを向けばセリアがにやついた顔で立っていた。

ただ、その脇ではじっと睨むジェシーの顔があり、ゼルバのものと変わらないぐらいのプレッシャーを放っていた。

 頬に汗が流れる。


「な、何のことだ。この人はえ、えっとだな」


「あらあらあらあら、こんにちはあなた達はアッキーさんのお友達ですか?」


「そのようなものかのう」


「まぁ! そうですの! アッキーさんが言っていたお土産ってこういうことですのね」


 焦る俺とは対照的にプレッシャーを感じてはいないのか笑顔のシルメリア。

俺の友達と聞いた途端、笑みは体全体から発せられているのではないかと言うくらい輝きをましていた。

 そして彼女は俺の隣にいたセリアへと向き直ると、彼女に抱きついたのだった。


「ようこそ。かわいいアッキーさんのお友達さん。私はシルメリアって言うのよろしくお願いしますね」


 その行動に騎士達は唖然とし、侍女たちはおろおろしていた。

抱きつかれた本人も急な出来事だったため対処できず、ビックリした顔を一瞬覗かせている。

 敵意も悪意も無く、それでいて前触れも無い行動に対応できなかったのだ。

 シルメリアは自分の紹介を言い終わると、すぐにセリアを放した。

そしてまた彼女へと笑顔を向けて歓迎の意を表すと、セリアも彼女の性格を把握したようで彼女の笑顔に鏡のように満面の笑みを返したのだった。


「うむ、よろしくお願いされた」


 美女2人、並んでの笑顔。

 しかもその1つは自分達の尊敬してやまない主君のものだ。

 彼女のめったに見せることの無い笑顔は後ろで見ていた従者達に、感嘆の声を上げさせ、頬を赤く染めうっとりと見つめるものさえ出現させた。

 セリアへの簡単な挨拶を済ませたシルメリアはこちらへと向き直る。


「素敵なお土産ありがとうございます。だけどこんなにお友達を連れてくるなら事前にお知らせして欲しかったかかしら」


「すいません。急で」


「でも、本当に素敵なので許します。でもどうしましょう皆さんに座って頂く椅子がありませんの。う~ん、あっオズ君」


 小首をかしげ悩むシルメリア。

どうにかしようと知恵を絞っているようだが、いかんせん人数が人数だ。

すぐに用意するなど無理である。

 少なくともセリアが座れればいいので、そんなに悩む必要ないと声を掛けようとした時、森の中からかすかな音が聞えてきた。

その音に反応し、皆、一様にそちらへと顔を向ける。

 出てきたのは長身で腰には普通のものよりも50センチは長いだろう刀を携えた人物。

俺と同じく黒髪、黒眼なのだがあまりの造りの違いに、自信をなくさせるには十分な容姿の持ち主で、彼に声を掛けたシルメリアの実の弟、オズラードその人があらわれたのだった。


「ただいま」


 普通これだけの人数が家の前にいれば何事かと、慌てるはずなのだが彼はそういった様子を見せることは無く、ただ一言帰ってきた挨拶を返した。

オズの背中には、森で仕留めたのか食用とされる魔物が担がれている。

 どうやら食料調達に出ていたらしい。

そんな彼に視線を合わせていると、どうやらこちらに気づいたらしく彼と目があった。


「よっ、ひさしぶり」


 軽く手を上げて挨拶をすると、オズは何を思ったか仕留めた魔物を地面へと置くとこちらへと歩み寄ってきた。

俺の目の前まで表情を変えることは無く。


「悪いな。遊びに来るのが遅くなって」


「いい。許す。ちゃんと着てくれたから」


「!?」


 彼はそういい終わるとシルメリアがセリアにしたように俺に抱きついてきた。

これまた俺も不意の出来事に対応することは出来ず、ただなされるがまま抱きつかれたのだった。

 俺が抱きつかれると、侍女たちからはなにやら色めき立った声が上がる。

また、セリアからも『ほほぅ~』などといった声がもれ、ジェシーからもなにやら先ほど以上に熱い視線が背中に注がれた。

とりあえずは、そういった関係ではないのでやめて欲しい。

 そんな誤解を招くようなオズの行動だが、彼に遊びに来ると言ってから待たせすぎた気もしていたので、今回の彼のハグは甘んじて受けることにした。

 オズのハグはそんな考えをめぐらせているとすぐに終わった。

時間にしたら5秒ぐらいだっただろうか。

ハグが終わった後は辺りをキョロキョロと見回してから一言口にした。


「……この人達……何?」


「多分その質問はただいまの前に言うことだと思うのだが」


「ごめん」


「いや別にせめてるわけではないんだが……ちなみにこの人達はお土産だ。今度来る時にはお土産持ってくるっていっただろ?」


 オズは首を縦に振った。

彼もお土産については覚えていたらしい。


「色々考えたんだが、オズ達には物なんかよりもこっちのほうがいいと思ってな」


「……うん、こっちのがいい。ねぇさん……喜んでる」


 オズはお土産について納得したのか俺からいったん離れ、シルメリアのほうへと歩みを進めていった。

そしてシルメリアの一番近くにいるセリアへと視線を向ける。


「まぁそういうわけじゃ。よろしく頼むぞ、え~っと」


「名前オズラード、皆……オズ呼ぶ」


「オズラードか良い名じゃな。わらわはセリアじゃ」


「わかった。セリッチ」


 オズはそう言うとセリアから差し出された手をとって握手する。

だが、握手されたセリアは予想以上の切り返しだったのか、姉に抱きつかれたときよりも驚いた表情を見せたのだった。

 俺も会ってすぐにあだ名で呼ばれたので、彼女の気持ちが良く分かる。

後ろの臣下達はいつもは見せることの無い表情の変化に、戸惑いを覚えている。

先ほど以上におろおろと、どう対処していいのかわからない様だった。


「ダメよオズ君。気にいったからってあだ名をつけちゃ。セリアちゃんはかわいい名前を持ってるんだから」


「……わかった。ごめん……セリアちゃん」


 素直に謝るオズ。

そして謝られたほうはと言うと、またも彼女の想定の範囲外だったのだろう。

今日何度目かの眼を丸くする表情を見せた。

 それにしても俺の名前はかわいくないからあだ名にしていいってことなのだろうか?

 そんな思いが少し浮かんだがそれもすぐに消える。

セリアがこれまでの反応とはまた別の反応を示したためだ。

今度は下を向いて小刻みに震えだしていた。


「どうしたのセリアちゃん?」


 心配するシルメリアをよそに、セリアはその問いには答えず体を震えさせたまま。

侍女達も心配になったのか、いままで命令により近づいてこなかったのだが、徐々にセリアのそばによってきていた。

 だがそれは杞憂であると、彼女の正面に立っている俺からはわかった。

何せ口が笑っている。


「はーはっははははは! いいぞいい。ここまでおもしろいのは久しぶりじゃ! アキラわらわはこやつらを気に入ったぞ!」


「そいつは良かった。こっちはひやひやものだったんだがな」


 ここまでのセリアの笑いを聞いたのは初めてだ。

おそらく眼に涙をためながら笑うセリアを見るのは、臣下達も初めてではないだろうか?

 そのせいもあってかセリアが変調した時にその原因となる2人と、ここへ導いた俺に対して騎士たちは厳しい目向けるのだから肝が冷えると言うもの。


「じゃが、気に入ったのとあれとはまた別じゃ。こやつらの実力は……」


 一通り笑い涙をぬぐうと、セリアは俺へと近づき2人に聞えないように口から言葉をつむぐ。

だが、その途中シルメリアからのある提案がなされた。


「セリアちゃん立ち話もなんだから、お茶しながらにしましょう。今みんなの席を用意するから」


 セリアの笑いで彼女と同じように上機嫌になったのか、そう言ってシルメリアは鼻歌交じりで家の中に入るとチェック柄のテーブルクロスを持って出てきた。

そして外にある大きな木製のテーブルにこれまた大きなそのテーブルクロスを掛けてお茶の準備をし始めた。

 お茶をはじめるのは別にいいのだが、少し疑問が残る。

先ほどまであんなに気にしていたのだから、彼女も忘れているはずは無いのだが……。

そう思いつつも、やはり気になった俺はシルメリアに質問したのだった。


「用意ってシルメリアさん、確かそこまで椅子は無かったはずじゃ」


「そうなのよ。だからちょっと困っていたんですけど、ちょうどオズ君が帰ってきてくれたから何とかなるかなって」


「なんとかって」


 かなりの数の椅子が足りないのだ。

はっきりいって何とかなるものではないと思うのだが、それでも何か策があるのだろう。

シルメリアの顔は何とかできるといった顔をしていた。


「オズ君ちょっといい」


「ねぇさん……何?」


「皆の椅子を用意したいから、そうね~あ、あれぐらいがいいかしら。あれぐらいの木を切って椅子にしてくれる?」


 俺の心配をよそに彼女はオズになにやら指示を出した。

シルメリアが指す指の先には直径50センチほどの木が生えており、椅子としては幅が少し小さいかもしれないがそれでも簡易的に座るには十分な大きさの木が生えていた。


「わかった」


「わかったってお主さすがに……」


「セリア、とりあえずけんに徹してみよう。俺が言っていた意味がわかるはずだ」


 お願いねと付け足して頼まれたオズは、首を縦に振るとその木へと歩いていった。

オズと対比すると木の大きさは良くわかり、斧があったとしてもそれなりの時間がかかるだろうと思われる。

 セリアも切るのは無理だと感じたのだろう、止めの言葉を口にしようとしたが俺はそれに待ったをかけた。


「…………そうじゃな」


 少し考えた後納得したセリアはオズに止めの言葉を掛けるのをやめ、じっと彼の動きを見ることにしたのだった。

 木の前に立ったオズは指でなにやら数を数える動作を見せた。

どうやらこの一本の木でいくつ椅子ができるか数えているようだ。

 オズは数え終わると腰の剣の柄に手を伸ばした。

少し空気が張り詰めた気がする。

そして風が軽く木々を揺らした時、彼は大きくジャンプしたのだった。

 宙に飛んだオズは最高点に達し自由落下が始まる刹那、剣を抜く。

抜いた直後、甲高く澄みきった音が耳に届いた。


「はやい!」


 言葉のとおり剣を目で追うのはやっとであり、光の反射でどうにか捉えられる程度。

だがその剣の軌跡はしっかりと木の幹を横切っていた。

 斧でもやっとと思われる木をたった一太刀で切っているのだから、その技のすごさがうかがえる。

だが、それだけではなかった。

 オズの剣は一度抜き放たれたあとまた、鞘へと戻され自由落下中に納刀と抜刀を繰り返し地面に足がつく頃には4回ほど木は切っていたのだ。

 着地したオズが木を軽く手で押すと、彼がやったことが事実であることを裏付けるように木は押されたほうへとバラバラになって倒れていった。


「あっオズ君後5、6本お願いね」


「わかったよねぇさん」


 落ち着いて次の指示を出すシルメリア。

そしてその指示に従い、涼しい顔で神業をやってのけるオズ。

 そんな彼を目のあたりにした騎士たちは、ただ呆然と彼の剣技を見つめるのだった。


「どうだセリア。拾い物だろう?」


 作業を続けるオズに視線を向けつつ、セリアへと話しかけると感嘆の言葉が彼女から漏れる。


「あぁ、まさかこれほどとはな。しかもあの剣術、よく似ている。ハーバルトのそれとな」


「確かにそうですわね」


 少し考えたが聞いたことのない名前である。

セリアが漏らした言葉にジェシーが答えてはいたので彼女達が共通で知っている人物のようだが、いったい何者なのだろうか。

 少なくともオズの剣術を似ていると評しているので、かなりの実力者であることは間違いなさそうではあるが。


「……知らないな。誰なんだそいつは?」


「国の騎士の1人じゃ。くわしくは後で話してやる」


 俺に答えるよりもセリアは自分の疑問を解決することを優先したようで、俺に顔を向けることなく言葉を残すと、シルメリアへと向き直った。


「なぁ、シルメリアや」


「ん、なに? セリアちゃん」


「お主達の父親の名前はハーバルトではないか?」


「えぇそうだけど、セリアちゃん知ってるの?」


 彼女はきょとんとした目でセリアを見つめそう返した。

するとまたもセリアは震えだし、大きく空へと声を上げた。


「くはっははははは! 全くあの堅物めが! 何がまだまだ未熟じゃ。十二分ではないか」


「ど、どうしたのセリアちゃん!? 私何かおもしろいこといった?」


 急な笑いは、シルメリアに不安を抱かせた。

けれどセリアの次の言葉で、不安は消え笑顔を覗かせる。


「あぁこれほどおもしろいことなどそうは無い。お主とオズには話したいことが山ほどできたわ」


「まぁうれしい。私もたくさんお話したいから」


 セリアとシルメリアはニコニコと笑みを浮かべている。


「全く話の流れについていけないんだが」


「大丈夫よ。私達もついて行ってないから」


 笑顔の2人を見て和みはしたが、呟いた言葉の通りに話の内容が見えない。

どうやらハーバルトと言う人物に関係があるようだが、詳しいことはわからないのでさっぱりだ。

 すると俺と同じ気持ちであったのだろう、いつの間にか俺の両隣にエマとリオがきておりエマが俺の言葉に同意の言葉を続けた。


「うお! い、いつのまに」


「別にそこまで驚くことはないでしょ。それよりちょっとアキラ。あんな人材いたのに、なんで私に黙ってたのよ!」


 俺の質問に答えることなく、俺の胸元をぐっとつかんで顔を近づけさせ耳打ちで抗議する。


「黙ってたってな。時間的にはかなり前に知り合ってはいたんだけど。俺自身が知り合ったのはつい最近だったんだよ」


「それでもよ! たく! あんなに優秀なら夜明けの月のメンバーにしたかったのに」


 そう言うとエマは掴んでいた服を放して、俺を解放する。

俺は服を正しながら、団長の考えとしてならエマが言うことももっともだなと思う。

あれほどの実力者が一緒に傭兵団として働いてくれるのなら、心強いことこの上ない。

 そう思いながらもそれが無理であることを俺は知っていた。


「あぁそれなら無理だ」


「なんで?」


「俺も一応副団長だ。あんな腕見せられて誘わないわけ無いだろう? しかもフリーだって言うし。でも結果はダメだった」


「なんで!?」


 今度は周りを気にすることなくエマは俺の話しに食いついた。

そのせいで笑顔で話していたセリアとシルメリアにも聞えてしまい注目を集めてしまった。

 俺は楽しそうに話す2人に、『なんでもない』と笑顔で返し、彼女達がまた自分達の話を始めたのを確認してからエマの質問に答えた。


「さぁな。とりあえずオズやシルメリアさんの話によれば親父さんに止められてたんだってよ」


「さっき言ってたハーバルトって人のことね」


「たぶんな」


 一通りエマとの会話が終わる。

するとセリア達の会話も一段落したのか、シルメリアはお茶の準備を再開しセリアはこちらへと歩いてきた。


「アキラ」


「なんですかい」


「わらわは決めたぞ。あやつ以上にふさわしい人材などいないわ」


「そいつは良かった」


 俺が答えると今度はエマへと向き直る。


「それとエマ」


「何でしょうか?」


「悪いがあやつはやれん」


「そうでしょうね。はぁ~うちの傭兵団強化できるかもってうっすら思ったんだけどな~」


 オズを指差すセリアを見て、エマは体全体から落胆の色をだした。


「あきらめろ。一度断られてるし」


「はぁ」


 ポンと肩に手を置いて慰めると、エマはため息をつく。

未練はたらたらのようだ。

だが、セリアが彼をもっていくことには納得したようで、『リオ後ろいこうか』と言って傍観に徹していたリオを連れて後ろのほうへと下がっていった。

 エマを見送ったセリアは俺に一言『後で何かくれてやる』と述べ、苦笑を浮かべるとシルメリアへと歩み寄る。


「さて、シルメリア」


「なにセリアちゃん?」


「折り入って頼みたいことがあるのだがな」


 まぶしいぐらいの笑顔で答えるシルメリアに対し、セリアは前置きをひとつはさんだ後、誘いの言葉を口にしていったのだった。

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