第十六節:親鳥と卵
最初に目に飛び込んできたのは黒。
明るいクレアの館からきた俺にとってそれは漆黒にも似た色だった。
次に感じたのは足の裏からの感触。
森の土などとは違い、石のように硬い何かを踏んでいる。
(いったいどこにとばされたんだ?)
視界がはっきりせず自分の居場所がよくわからない。
もしかしたらすごいところに飛ばされてしまったのでは? と一抹の不安がよぎる。
しかし、その心配はすぐに吹き飛ぶことになる。
「…………止まれ」
徐々に暗闇に目が慣れ、なんとなくではあったが輪郭が見え始めた頃、急にあたりは明るくなった。
俺は自分が安全な場所に立っているのか確かめるために、下ばかり見ていたのだが、明るくなったことにより地面に書かれていたその文字を真っ先に捉えた。
太く白色で書かれているそれ。
信号の無い道路では必須ともいえるそれは停止線と止まれという文字である。
その止まれという文字は異世界の文字ではなく、紛れも無く漢字とひらがなで書かれたものであった。
俺は顔を上げ辺りを見回した。
うっすらではあるが民家が見える。
どうやら間違いなさそうだ。
今回飛ばされた場所は地球。
そして、俺の生まれ育った土地、日本であることが。
なんとも感慨深いものだ。
よりにもよって最後に飛ばされた場所が日本であるとは。
しかも自分の家から数百メートルしか離れていない田舎道。
感傷に浸りつつ顔を空へと向ける。
空には雲が若干残っていた。
急に明るくなったのは、月を隠していた雲が晴れたからのようだ。
「さてどうするかな」
見上げた視線を元に戻すと、次の行動を考え出す。
ここが日本であるならば時間を過ごすのはさして難しいことでもない。
異世界とは違い、魔物に襲われることは無いのだ。
しかし、問題が無いわけではない。
そう自分の格好である。
迷彩色の服に、銃刀法違反もいいところの剣を腰に引っさげているのだ。
怪しさ爆発ではないだろうか?
もしこんな姿を巡回中の警察官にでも見つかられたら、職質必至。
へたをすればそのまま連行だ。
やはりここはいったん自分の家へ行くのが得策ではないだろうか?
もしかしたら、自分がいるかもしれないが、それでも暇をつぶすのにはもってこいだろう。
俺は暗い夜道に気をつけながら、自宅への道へと歩みを進めていった。
だが歩き始めてすぐに、1つ疑問が浮かんだ。
ここは間違いなく俺が住んでいた場所ではあったが、自分がいた時代なのかと。
そう思うと途端に不安に駆り立てられる。
もし自分が住んでいない時代ならば、自宅に入った途端不法侵入となり御用だ。
出来ればそれは避けたい。
そんな風に色々と思うことはあったが、歩みを進めていくうちにそれが杞憂であることに気づく。
田んぼをまたいだ隣の道路にその道路に面して建てられているコンビニを見たためだ。
あのコンビニが出来たのはちょうど自分が引っ越してから2ヶ月ほど経った後、しかも自分が異世界へ行く前にあった大きな季節用ポスターも窓に貼り付けてある。
どうやら今いる時代は自分が飛ばされてすぐか、飛ばされる少し前のようだ。
(大丈夫そうだな)
俺はそのコンビニから出てくる人に気づかれないように、すぐさま移動し自分の家へと急いだ。
少し歩くとすぐに自分が住むアパートがみえた。
自分の部屋の窓からは明かりが見えないため留守のようだ。
住人に気づかれないようにドアまで行くと、電子ロックの扉にパスワードを入力する。
4桁の数字を入力するつくりの物で、やめたほうがいいとはわかっていたが誕生日がパスワードとなっている。
ガチャリと扉の鍵が開いたのを聞きすぐさま俺は部屋へとはいった。
「埃は溜まってないな」
部屋の状況を見てみると、生活感が漂っている。
台所には朝使われたと思われる食器が、流しにそのまま置かれていた。
「とりあえずは日付だよな」
俺はリビングへと進む。
リビングにあるコタツの上に置かれているリモコンを手に取り、テレビをつける。
テレビはブゥンと音を立てゆっくりと映像を映し出す。
やっていた番組はニュース。
それも俺が良く見ていた朝の4時過ぎにやっている番組だ。
「今は朝方だったか」
それがわかった途端何か焦りのようなものを覚えた。
投げるようにリモコンをコタツの上に載せ、ベッド脇の目覚まし時計を手に取った。
時間は4時12分、日付は5月2日。
「俺が飛ばされた日じゃないか!?」
偶然に未来から飛ばされてきたこの日、そうこの日こそが俺の運命を大きく変える日だったのだ。
リビングの光がかすかに点滅し、俺のざわめきを煽る。
俺はすぐさま家を出た。
向かうは海岸沿いの道。
今の時間誰もいやしないその道。
しかし、そんな道に1人確実に歩いている人物がいる。
そう、俺である。
俺は俺自身に会うため走り出したのだ。
(間に合うか!?)
家に着いた時点で、感覚的にすでに40分は過ぎている。
妙に周りを警戒しすぎたせいで、短い距離なのにずいぶんと遅くなってしまっていたのだ。
そしてここから海岸の道までは歩いておおよそ20分。
1時間という制限がある中では、もう少し余裕が欲しい。
俺は必死に走った。
途中新聞配達のバイクとすれ違い、驚きのまなざしを向けられようとも気にせずにただひたすら早く進めるように足に力を込めて。
(あの時感じた肩に誰かが触れたような感触、俺が今いる時間、そして俺が異世界に飛ばされたという事実、これらを総合するときっかけは俺のはず。俺が俺を異世界へと導いたに違いない!)
異世界へと飛ばされた。
あまりの衝撃に、わずかな感触などとうの昔に忘れ去られていた。
だが記憶は蘇る。
そう俺はあの時、うっすらと空が白ずん出来た頃俺は会社の文句を垂れながら、あの場所を歩いていた。
そしてふと空を見上げやさしく輝く満月を見て、感慨深くなっていた。
そんな時に肩に触れられた感触、振り返るまもなく変わった視界。
これがあの時俺が体験したものだ。
俺の推論が間違っていなければ、ここで俺が俺に触れなければ異世界にいくことは出来ない。
すると俺自身の存在が矛盾となり、タイムパラドックスを生むだろう。
そうなれば存在しない俺どうなるのだろうか?
最悪の場合存在自体消えてしまう。
冷や汗が頬を流れた。
(急げ、急げ、急げ! ここを曲がったところにいるはずだ!)
T字路を右に曲がると、人影が見える。
視線は上向き。
間違いない俺だ。
走っている途中で淡く輝きだした指輪に、さらに焦りを上乗せされた俺は、息をするのも忘れるぐらい自分へと一直線へと向かっていった。
目の前の俺は未だに視線を上へと向けたまま。
足音がするはずなのだが、気づいていない。
あと少しだ!
指輪の光は光量を上げている。
いつ飛ばされてもおかしくない。
また光の強さからして気づかれてもおかしくはない。
だがそんなことはお構いなしに、ただひたすら俺は俺自身を目指し走った。
「きれいなもんだな」
自分が独り言をつぶやいた。
あぁ、確かにこの時の月は綺麗だったよ。
俺は最後に見たこの風景を思い出しつつも、まばゆいばかりに光り輝く指輪をつけた左手で自分自身の方へと触れたのだった。
「あら? こんなところでどうしたの?」
触れた感触が指先から脳へと達すると、すぐに後ろから女性の声が聞えてきた。
伸ばした手を引っ込めて、振り返ってみる。
立っていたのはクレア。
手にはトレイを持っており、初めてクレアとあった日に食べた料理が載っていた。
「たしかまだキッチンにいなかった?」
「たぶんキッチンにいるはずかな」
ちょっとしたニュアンスを含みつつ切り返す。
「!? もしかして帰って来た?」
「かな? ちょっと早かったみたいだけど」
何のことか気がつき少し驚いた表情のクレアに、ちょっとした苦笑いを浮かべる。
だがそんな笑いとは違い、心の中は帰れた喜びで溢れていた。
すべてを悟ったクレアはやさしい微笑を向けてくれる。
「そう、お帰りなさい」
「うん、ただいま」
「それじゃ、皆に気づかれるとまずいからこっちにきて」
近くにあった個室へと導かれる。
「それから詳しい話については、このあと食事が終わってからね」
「了解です」
俺がその個室に入ると、クレアはすぐに踵を返しウィンクと少量の言葉を残して扉から出て行った。
俺もそんな彼女に一言だけ返すと、備え付けてあったベッドへと横たえた。
疲れた。
これは素直な感想の1つである。
そんなことを思っていると、いつの間にか俺は夢の中へと誘われていくのだった。
「……き……て。お……きて。起きて!」
「!?」
体が揺れ、耳には誰かの声が聞える。
いつの間にか寝てしまった体を起こすと、そこにはクレアの姿があった。
「おはよう」
「おはようございます」
窓から差し込む日差し。
どうやら朝まで寝てしまっていたようだ。
寝ぼけ眼の目を擦りつつ、挨拶を返すとまずは謝罪の言葉を述べた。
「すいません寝ちゃったみたいで」
「気にしてないわ。疲れていたのはわかってるから」
「それでこんな朝早くからいったいどうしたんです?」
「ちょっと指輪を拝借にね」
「あぁ! これですか」
左手につけられた指輪を外すとすぐさまクレアへと渡した。
受け取ったクレアは指輪をつまんで何かを唱える。
すると指輪は淡く輝いた。
だが、すぐにもとの姿へとかわり、いたって普通の指輪となった。
「ありがと。これで今日ちゃんとあなたを送り出せるわ」
「?? どういうことです?」
本当にどういうことだろうか?
今渡した指輪とは別の指輪があるはずだと思うのだが?
「あれ? 未来の私は言ってなかったの? これ指輪実は映像のほかにも時代別に必要な情報が入っているからこれじゃないといけないって?」
「……初耳ですが」
「それじゃ、この指輪は一回、子供の頃の私に魔術を受けて壊れたってことになっているけど、実はただ魔力の回復が行われただけとか、転送場所は元々決まっていたってこととか、指輪を持っている人の目で見たものを記録しているとかも?」
「……初耳です。できればそれは送り出す前に行って欲しかったですね」
がっくりとうなだれた。
ランダムだとばかり、ランダムだとばかり思っていたのに……。
「あらら、でもそれは無理かな。送り出す前に教えちゃったら今の会話もなくなっちゃうから」
「たしかにそうですね」
頭ではタイムパラドックスを生んでしまうため仕方ないと思って入るが、でもやっぱり教えて欲しかった。
そうすれば前もって心構えが出来たのだから。
だが、その心構えをしてしまうと結果が変わってしまうので、やはり教えるわけにはいかない。
なんとも難しいものだ。
「ごめんね。教えて上げられなくて」
俺の心のジレンマを察してか謝罪の言葉が述べられる。
仕方のないことを謝られては、もう許す以外選択肢はない。
「仕方ないですよ。過去が合って未来がある、未来があって過去があるんですから」
「おっいい台詞。今度私もつーかおっと」
「それで用事ってこれだけですか?」
「うんそれだけかな。朝食は持ってくるから他の皆に会わないようにここで待っててね。それと地下室に行くときも呼びに来るわ」
「了解です」
ドアを閉めるクレアを見送ると、俺はまたベッドに横たえたのだった。
「それじゃアキラ君、準備はいいかしら?」
「えぇ大丈夫ですよ」
「それじゃいってらっしゃい」
クレアは笑顔をもう1人の俺に向け手を振り見送った。
するとその場にいたはずの俺は瞬きするまもなく、ぱっと視界からいなくなったのだった。
「消えた……クレアちゃんアキラは過去に行ったってこと?」
「そうよ」
「ちゃんとアキラは戻って来れますわよね?」
エマに続いてジェシーが口を開く。
自分のことを心配してくれるその質問は胸を熱くする。
「大丈夫大丈夫。すべてこのクレアにお任せあれ~~」
くるくると回りながら地下室の入り口に移動するクレア。
ミュージカルのように演出したかったのだと思うが、裏から見ている俺としてはお間抜けこの上ない。
だが、つっ込んで機嫌を悪くされては後々面倒なので、彼女の舞台に乗りアドリブを利かせるとしよう。
「それじゃアキラちゃんどうぞ~」
「「えっ!?」」
クレアの言葉に促され俺は入り口の影から姿を表した。
すると何人かの驚愕の声があがる。
それはそうだろう。
目の前で確かに消えた人物が、地下室の入り口から何の前触れも無く現れたのだから。
「この場合はただいまでいいんだよな?」
「そうね。私以外にはただいまで合っているわね」
「っというわけでいろんな時代から帰ってきました。ただいま」
呆然としている仲間達。
驚きのあまり次の言葉が出ないようだ。
そんな仲間たちとは違い、俺は久しぶりにそんな仲間達に会えて、少し照れくさくはあったが笑顔でただいまの挨拶をしたのだった。
しかし、ただ1人、驚きとは違う表情をしている人物がいた。
「…………あんたいつからそこにいたの?」
その人物というのはエマである。
彼女は怪訝そうに腕を組み、じっと俺を見据えていた。
なんだかその視線が怖い。
「いつからって言われても……昨日のうちには帰っていたから元から……かな?」
そう俺が言い終わると、彼女は無言でこちらに近づいてきた。
いったい何なんだろうか?
他のメンバーもそんなエマをじっと見据えている。
「あ、あのエマ? なにか……」
「とりあえず、口を閉じなさい」
「えっ?」
次の瞬間左の頬に衝撃が走る。
何事か理解できない。
視線を仲間達に向けてみる。
彼らも理解できていない様子で、驚きの表情を浮かべていた。
「ったく! 帰ってきてるなら帰ってきてるで、すぐに私達に連絡を取りなさい! 無駄な心配掛けさせんじゃないよこのバカたれ!」
痛みを頬に感じ、拳をしまうエマを見て、自分が殴られたとわかり、頬に手を当てたるとまくし立てるようにエマが声を上げた。
「ジェシーだってあんなに心配してたのよ! ほら見なさい! あの驚いた表情! あんたが突然帰って来たから驚いているじゃない!」
エマの指の先に視線を向ける。
確かに驚いているジェシーの顔がそこにはあった。
だがそれは突然俺を殴ったエマに対してだと思うのだが、とりあえず今は口にすることはやめておこう。
「ほんとに……。無事に帰ってくるってわかっていたら心配せずに送り出せるんだから」
「すまん」
「まぁまぁエマちゃん。アキラちゃんだって本当はすぐに皆に会いたかったんだよ? だけど歴史とずれが生じちゃまずいからって私が止めたの。だから責めないで上げて? ねっ?」
「……クレアちゃんがいうなら仕方ないか……わかった、アキラ、今回は許してあげるわ」
「そうしてもらえるとありがたい」
クレアのフォローに感謝しつつ、エマに許してもらったことにほっと胸をなでおろした。
それにしても、安全かどうかも知らないで俺を過去に送り出したのに、帰ってきたら心配させるなと殴られる。
あまりに理不尽だと思うが、とりあえず俺を心配していたということもあるので今回はこの理不尽を受け入れておくことにしておく。
そのほうが問題も少ないだろうから。
こんな考えになるのは、地球の空気を吸ってあちらの仕事を思い出したせいだろうか?
「とりあえずアキラさんは過去に行って戻ってきたってことでいいんですよね?」
場の空気がひとまず落ち着き、皆が平常に戻り始めるとリオが不意に口を開いた。
その問いにはクレアが答える。
「あっうんそうよ。ちゃんと渡した指輪も回収したから」
「それじゃもうすでにロコちゃんのかわいい映像は見たんですよね?」
「えぇ」
「それならアキラさんを送る意味ってあったんですか? 送る前から自分の欲しい映像は手に入っていたのに」
たしかに自分が必要としている映像がすでに手に入っている状態で、頼む必要など1つもない。
だが、それは過去にも未来にも行ったことのない人物がいう台詞だろう。
「確かにそうかもしれないけど、それじゃダメなのよ。この世はすべて過去があって未来があるの。つまり過去がなければ未来がない。もし私がアキラちゃんを送らなければその映像もなかったことになり、なおかつ記憶すらも改変されることになるわ」
「はぁ」
あまりよくわかっていないようで、リオの頭には疑問符が浮いている。
「ふふふ、ちょっと難しかったかな? 時間移動を体験すればわかると思うわ。もっともリオちゃんが過去や未来に行く必要はないけどね。どうしても納得できないようだったら、あとで実際に行ってきた人に聞くといいかしら」
不意にクレアのウィンクが飛んできた。
後々の説明は丸投げですか。
「さて、それじゃここでの用事は済んだし、上に行ってお昼にしましょう」
パンパンと手を叩きクレアは笑顔で場を締めた。
皆、たしかにと思ったのと、時間的に少し早いが小腹が空いた頃だ。
彼女の意見に賛同し、クレアの後を追いリビングでの食事となった。
さてこの食事だが俺にとっては大変なことになった。
質問攻めである。
ほとんど食べる暇もなく、矢継ぎ早に質問され、いつもの半分も食事をすることが出来なかったのだった。
そしてそんな食事が終われば、名残惜しいがクレアとはお別れである。
もともと迷わずの森に来たのはここの迷わない原因の究明のためだ。
それがクレアのせいだと判明したのだから、早急に報告しなければならない。
予想以上に早くその原因が判明したため、この館に一泊してしまったが、本来ならこんな危険な森で何日も過ごすのは良くないだろう。
セリアの従姉、ジェシーもいるのだ。
へたをしたら救助隊を派遣されるかもしれない。
そんなわけで、俺達はクレアの館を後にし、強力な魔物に追いやられながらも森を抜け、なんとかあの村長が待つ村の近くまで来たのだった。
「はぁ~クレアさん綺麗だったな~」
何度目かのつぶやき。
何か思い出したのか惚けた顔がにやける。
まさかあのリットがこうなってしまうとは……。
そんな様子を見かねてか、ジェシーがリオに声を掛ける。
ただ、リットには聞えないよう彼から少しはなれ小声で。
「いいんですの?」
「いいも良くないも関係ない。恋愛は個人の自由。それにクレアさんなら私の妹になってもらって全然問題ない。むしろ喜んでそうして欲しい」
リオにとって年の違いについては問題ないとのこと。
むしろ推進している。
そんな話をしているとやはりこの人物が黙ってはいない。
飛びつくようにリオとジェシーの間に文字通り割って入ってきた。
「それじゃリオは賛成なわけね。よし! 今度会うときは夜明けの月に入ってもらいましょう。もちろん副団長として」
「はははそれはい……それって俺の立場はどうなるんだ?」
「もちろん降格」
親指を立てて、エマが言い切る。
なんとなく切ないな。
「…………コメントに困るほどきっぱり言い切ったな」
「冗談よ。あんたみたいに使いやすい副団長そうはいないんだから。誇りに思いなさい」
「褒められている気がしないな」
「気にしないで、一応褒めてる」
気にしたら負けよとその後付け加え、2人から手を離すと惚けているリットの方へと行ってしまった。
おそらく奴で遊ぶ気でいるのだろう。
そんな一陣の風が去ると、今度はジェシーが話を振ってきた。
「それにしてもアキラあなたずいぶん貴重な体験できたんじゃなくて?」
「んっあぁ確かに。でもまさか過去や未来に行くとは思ってなかったけどな」
「それでどうでしたのその旅?」
「昼の時も話したかもしれないけど、貴重で辛くておもしろい。そんな旅かな。ただ一言で現すなら……」
「現すなら」
じっと見つめるジェシーに、少し見とれながら考え出した答えを1つ放つ。
「親鳥と卵かな」
「親鳥と卵? いったいどういうことですの?」
聞いた途端小首をかしげるジェシー。
まぁそれだけでは言葉が足りないか。
「う~ん質問を質問で返すようで悪いんだが、親鳥と卵、最初に存在したのはどっちだと思う?」
「親鳥じゃなくて? 親鳥がいなければ卵は生まれませんわ」
「でも卵がないと鳥自体が生まれないんじゃない?」
「「あれ?」」
「そういうこと」
話を聞いていたジェシーとリオは堂々巡りの答えにぶつかったようだ。
そう。
俺が体験したのはまさにそれ。
まるでメビウスの輪のような旅だった。
未来の俺があったから過去の俺があり、過去の俺があったから未来の俺がある。
「ってどういうことですの?」
疑問しか残らない答えは答えではないのだろう。
答えを求める声がジェシーから上がる。
でもその答えを求めるのは出来ない。
質問を出した俺でさえその答えは持ち合わせていないのだから。
「さぁね? それよりもほら見てみろ。もうすぐ村だぜ。早く飛びっきりの成果を話してやろうじゃないか」
「なんか納得いきませんけど、確かにそのほうが先ですわね」
「それじゃ競争な」
「え!?」
「あっちょっと!」
ポンと2人の背中を押して、俺は走り出した。
前を歩く、惚けている奴とそれで遊ぶ奴にも声を掛け、村へと走る。
この後は何があるかは分からない。
だが、俺は過去の俺と未来の俺に感謝し、進んでいこう。
そう思った俺は消え入りそうな夕日を見送って、明日への期待を胸に膨らますのだった。