第一節:戦闘
「ちょいと、エマさん」
「なんです? アキラさん?」
「こいつはちょっと、数が多くありませんかい?」
「私もちょ~~と、多いかな~なんて思ったりなんかしちゃったりして」
特に日差しが暑いわけでもなく、また湿度が高くじめじめしているわけでもないのに、俺達2人の頬に汗が流れる。
現状は俺とエマ、2人で背中を合わせ、武器を構え、戦闘態勢をとりつつ周りを警戒している。
本来、俺達は今日1日かけてドーガーを5、6匹狩って終わらそうとしたのだが、なぜか俺達の周辺にはその3倍のドーガーがいるではないか。
しかも、彼らはほぼ等間隔に俺達の周りを陣取って、逃走できない状態にしていた。
この手の奴等は足が速いので、こんな風に取り囲まなくても逃げるところを襲いかかれるだろうにご苦労なことである。
「かなり危険だな。下手したら俺らこいつらのディナーにならないか?」
「言わないで、私だってちょっとそんなこと思っちゃったんだから」
俺達は背中を合わせたまま、円を描くように動く。
今のところ相手の様子をどちらの陣営も伺ってはいるが、明らかにこちらが不利だろう。
数的なものもあるが、まずこちらの位置が悪すぎる。
まだ森など、木が生えていて、ある程度攻撃の方向が限られた場所ならばそちらに集中していればいいのだが、今いる場所は見通しのいい草原。
しかも、円状に囲まれているため全方向に注意が必要である。
そんな危機的状況だが、いつまでもこうしているわけにはいかない。
俺は意を決し、こちらから攻撃を仕掛けることを提案した。
「エマ、このままじゃジリ貧だ。こっちから仕掛けよう」
「えぇそうね。それで何か策はある?」
「気張って生き残る」
「素敵な作戦だわね」
「俺が合図を出すぞ。結構でかい音がでると思うから気をつけてくれよ」
俺はそういった後、ベルトに挟んであった短銃を取り出し構えた。
エマも同じように自分の胸ポケットから投擲用ナイフを取り出しドーガーを見据える。
2人の緊張感が高まり、頬をつたい顎から汗が滴り落ちた時、俺は撃鉄を上げ、前方のドーガーに狙いを絞った。
ダーン!!!!
強烈な音とともに、1匹のドーガーがその場へと崩れ落ちる。
それを皮切りに、両陣営いっせいに動き始めた。
俺は右手に短銃を構え、右グローブには爪のパーツ、左グローブにはソードパーツをつけてドーガーたちを迎え撃つ。
エマは、ジャエナと戦ったときと同じナイフを右手に構え、左手には投擲用のナイフを3本ほど構えていた。
俺達2人の行動は、まずはどちらも同じように遠距離武器でのけん制から入った。
右手に短銃を構える俺は、すぐさま向かってくるドーガー達へと照準をあわせる。
銃に残されている弾は5発、そのすべての弾丸をドーガー達に向けて撃ち放った。
連続して聞こえる轟音と共にドーガー達は何かにけつまずいたかのように、転がりそしてその動きを止めていく。
だが、ドーガー達は止まらない。
すべての弾丸が当たったわけではないのだ。
銃に慣れていないせいもあるだろうし、動くものを連続で撃つのもほぼ初めてである。
運よく銃で倒すことができたのは、集団で襲ってきたドーガー3匹だけであった。
3匹減らすことが出来たとはいっても、ドーガーの数はまだ多い。
俺はリロードに時間がかかると判断し、銃を捨て、左のソードでけん制しつつ、右のクローで止めをさすスタイルに移行することにした。
一方、エマはというと、きっちりナイフを3頭にあて、ひるんだところをナイフで首を切っている。
首を切られたドーガーは、自分が死んだことをまだわかっていないようで、切られた後も一直線に突っ走り、数メートル進んだ後に息絶えた。
生命の強さを感じる。
エマは首を切り終わった後、あまり俺とはなれないように、バックステップで元いた位置に戻ってきた。
エマは、ヒットアンドアウェイで何とか切り抜けるつもりのようだ。
この戦法は彼女本来の戦法だと思うので、俺がへましなければ倒されることはないだろう。
だが、俺達の攻撃により仲間を失い、先ほどよりも興奮しているドーガー達相手に、へましないようにするにはかなり厳しいかもしれない。
仲間を倒されたことを確認したドーガー達は、クァーと甲高い鳴き声を発し怒りを露わにしながら、勢いを増してこちらに突っ込んでくる。
俺に襲い掛かってきているドーガーは全部で8匹、そのうち銃で倒したのが3匹、残りは肉弾戦で倒さなければならない。
土煙を巻き上げながら突進してくる様は、恐怖を覚える。
しかし、その恐怖に飲まれ、この場でたたずんでいれば死が待っているだけということを安易に想像できた。
俺は何とか恐怖を押さえ込むと、先陣を切ってやってくるドーガーにソードを横なぎし、牽制する。
牽制といっても、止まらなければ致命傷になる位置への横なぎだ。
ドーガーにもそれがわかったのだろう、先陣を切ってきた1匹は、急停止し動きを止めソードが自分の前を通り過ぎるのを待った。
だが、ほかのドーガー達は、止まることは無い。
動きの止まった仲間の脇をかけ抜け俺へと襲い掛かかってくる。
同時に攻撃してきたのは3匹、そのすべてが俺の腹めがけて、鋭いくちばしで攻撃してきた。
俺は、横なぎしたソードを勢い殺さずにそのまま加速させ、バックハンドブローの要領で、もう一度横なぎを放った。
独特の肉を絶つ感触が左腕から伝わってくる。
手の動きに目線が追いつくと、そこには赤い血を舞い上がらせながら綺麗に両断されたドーガーが2匹。
どうやら1匹はすんでのところで回避したのか、それとも軌道上にいなかったのか横なぎをくらうことはなく、敵を切って隙が出来た俺の足を、思いっきり爪で引き裂こうとしていた。
脳にその状況が信号で送られると、左足を軸にし、無理な方向に力を入れてでも逃れようと必死にあがいた。
本能的な判断だったがそうすることによって、俺の右足は致命傷を負わなくてすんだ。
しかし、無傷というわけにはいかなかった。
ズボンは破れ、赤い血が滴り落ちてくる。
そして、無理な方向に力を入れたため、体制を崩し転んでしまっていた。
これは好機。
きっと奴等はそう思ったのだろう。
俺に向かってきた残りのドーガー達がいっせいに襲い掛かかってきた。
顔のすれすれを、鋭いくちばしが通り過ぎ地面をえぐる。
鋭い爪が、容赦なく俺を追い立てる。
俺はそんな攻撃を転がるようにして逃げ、取り囲まれたときに落とした鞄へとむかった。
激しい攻撃を避け、または食らいながらも痛みを無視して何とか鞄までたどり着くと、その鞄を盾にして攻撃を防ぎ、隙ができたところを思いっきり鞄で殴りつけた。
何匹かは鞄に当たってひるみ、あとずさる。
当たらなかったものも急な攻撃に驚き、後方へと避けたようだ。
これにより相手との距離をとることが出来た俺は、すぐさま立ち上がり、鞄を足元に置くと、武器を構えドーガーと相対しているエマと背中を合わせた。
「アキラ、大丈夫?」
「何とか、まだ生きているよ」
「そう、それはよかったわ。こっちは後5匹なんだけどそっちは?」
「3匹まで減らすことはできたが、ミスって足を怪我しちまったよ」
興奮状態のためあまり痛みは感じていないが、ちらりと見たその先にはじんわりと血が広がっている。
「そう、残り8匹さて、どうしましょうね!」
俺に話しかけるエマの口調が一瞬強くなったかと思うと、エマが激しく動いたのが感じ取れた。
どうやら、お構い無しにドーガーが襲いかかってきたようで、エマはそのドーガーに対し、右手のナイフを振り切り、牽制としたのだ。
「作戦はなんかある?」
「なくはないかな……ただ時間はかかるとおもう!」
エマに襲い掛かってきたように、話の途中でドーガーが襲い掛かってきた。
迎え撃つため力が入り、話す言葉は自然と大きくなる。
力の込められた右ストレートは、クローパーツでドーガーの羽を軽く引き裂き、元の位置へと後退させた。
「どれぐらい?」
「10、いや、20秒」
「…………20秒でいいのね?」
「あぁ20秒だ」
足元に置かれる鞄に視線をやり俺がそういうと、エマは全方位を見渡しこうつぶやいた。
「20秒で出来なかったら承知しないからね」
彼女は気を高ぶらせ軽快なフットワークを刻み始めた。
周りのドーガー達は異変に気がついたのか、一斉に襲い掛かってくる。
俺はすぐさましゃがみ込んで、鞄を開けた。
鞄の中には、最後のパーツであるウィップパーツが入っている。
彼女の与えてくれた20秒を、このパーツの切り替えに使うのだ。
左手についているソードパーツをはずすと、すぐさま鞄の中に入っていたウィップパーツを取り出し俺の左腕につける。
何度か付け替えの練習をしていたため、わかったことだが、この武器の付け替えはミスる事無く付け替えたとしても、どうしても時間は10秒以上かかってしまう。
この武器の最大の長所は、付け替えができることなのだが、もう少し切り替え時間の短縮を考えないと戦闘中の付け替えは命取りになりかねない。
それでも武器の付け替えに集中した俺は、武器の付け替えの最中、何度かドーガーに蹴られそうになったり、突き刺されそうになる。
だが、すんでのところでエマがカバーに入り致命傷を追う事は無かった。
そして付け替えが終わり、立ち上がって体勢を整える頃には、エマは肩で息をするまで呼吸を荒くしていたのだった。
もともと、他人を守りながら戦うスタイルで無いエマにとってこの20秒は相当長く感じられただろう。
「ごくろうさん、後は俺が何とかしてみせる」
「はぁ、はぁ、何とかって……はぁ、いったって……はぁ、どうするのよ……」
「こうするの! っと!」
そう言って俺はエマの頭を右手でおさえ屈ませると、おもいっきり左手を振るった。
風を切る音が聞こえる。
エマしか戦いに参戦してなかったことにより、先ほどよりも近づいてきていたドーガー達は俺を中心にして動く鞭に飲み込まれていく。
ドーガーに鞭がぶつかるたびに、肉を裂くような音が奏でられ、左腕には鈍い衝撃が走る。
そのたびに、左腕には負担がかかり、悲鳴を上げるがここで止めてしまっては元も子もないので、その悲鳴を無視して勢いに任せさらに勢いがつくように力いっぱい回転させた。
そして、丁度鞭が一周し終わるころには、俺達を囲んでいたドーガー達はただの肉塊となりはて、草原を赤く染めていた。
必要以上に力を入れた左腕は、ところどころ内出血し、赤と青のコントラストをつけながら膨れ上がっている。
動かすだけで痛みを感じるようになってしまった左手だが、その代償にふさわしいぐらいの働きをしてくれた。
俺はあたりにドーガー達がもういないことを確認すると、勢いよくその場で大の字に倒れ寝そべった。
「だぁーーー! つかれたーーーー!」
大声で今の状況を思いっきり叫び、体の疲れを紛らわせた。
エマは頭に乗せられていた右手がなくなったので、周りに視線を向け、周囲の様子を伺っている。
「アキラ、あんた結構力あるのね…………まさか全部まとめて鞭で一掃できるとは思って無かったわ」
エマが、感心しつつそうつぶやいた。
俺自身もこうまでうまくいくとは思っていなかった。
これは予想していたよりも、体の異変が進んでいるようだ。
その異変というのは、重たいと思ったものが、ほんの一時間ほど経っただけで、軽いと感じるようになったり、もともと、眼鏡無しでは何も見えなかった視力が、朝起きてみれば、眼鏡無しで50メートル先の人物の顔を把握できたりなど、時が経つにつれ身体能力が全般的に向上するという現象である。
おそらく、異世界に飛ばされた影響なのだろう。
急激な変化なため、怖くないといえば嘘になるが、今のところプラスの方向に働いているため気にしないようにしている。
「火事場の馬鹿力ってやつだよ。あんな状態だ、必要以上に力が出てもおかしくないさ」
俺は、エマを見上げながら右手首を動かし笑顔で答えた。
「ん~まぁそんなところでしょうね。それよりも、疲れているのはわかるけどすぐにここを出発するわよ。ほかの肉食の魔物に見つかったら大変だから」
エマが右手を差し出してきた。
俺はそれにその右手を掴むと、すぐに体を起こした。
体を動かすたびに、左腕に衝撃が走り、痛みを伴うがそんなものは無視である。
こんな状態で、魔物ともう一戦っていうのはご遠慮願いたからだ。
「それと、ドーガーの殲滅証明部位は青色の尾羽よ。手分けして、回収しましょう」
俺を引き起こしたエマは、すぐにドーガーの死体へと近寄り尾羽を取っていく。
俺もそれに倣い、ドーガーの尾羽を集めるため、できるだけ左腕を動かさないようにしながらドーガーの死体へと近づいていった。
その時だ。
草原の場所でも草が生い茂り、ほかよりも草の背が高い場所からガサガサと、なにやら動くものがいる。
それに気づいた俺とエマはすぐさま戦闘態勢をとり、ドーガー達と相対した時のように神経を集中させた。
「もう、ほかの魔物が集まってきたのかしら」
「今は、本当に勘弁して欲しいのに」
泣き言を言いながら、俺は草むらを凝視しすぐ動けるよう重心を右足に乗せる。
そして勢いよく飛び出てきたところを、クローで引き裂こうとした瞬間現れたのは、白色の小さな体で鱗を持ったトカゲのような動物。
日本で言う竜、西洋で言うドラゴンがそこには現れた。
「かわいいーーーー!」
そう叫ぶエマの腕の中には、小さな白竜がもぞもぞともがいていた。
エマがこの白竜が姿を見せた瞬間、警戒していたのが馬鹿らしくなるくらいの笑顔で飛び込んでいったためだ。
確かにクリクリとした目、時々こちらを見て首をかしげる仕草はなんとも愛くるしい。
うん、たしかにかわいい。
「エマ、かわいいのはわかるが、じたばたもがいているじゃないか放してやれよ」
「無理、かわいすぎ。ベビーホワイトに初めてあったけどこれは強烈すぎよ」
ギュ、ギュっと何度も抱きしめなおすエマ。
それを振りほどこうと必死にあがくベビーホワイトと言われる魔物を見て、俺は一言エマに言ってやったが、彼女はいっこうに放そうとしない。
じたばたと動く姿がまた愛らしく、離せない気持ちもわからないでもないが、俺にとって得体の知れないものを近くにおいて置くのはいささか心配である。
「そいつベビーホワイトって言うのか? いきなり抱きついたりしたのだから危険は無いとは思うが、どういう奴なんだ?」
「規定外魔物の一種よ。規定外魔物って言うのは、人に対して危険が無かったり、人と一緒に過ごしたりする魔物のことよ。その中でも特別かわいいのがこの子、ベビーホワイトよ。こんなちっちゃいけど、これでも立派な大人なの。体が小さくて、自分を守る手段が無いから、ほかの魔物の餌になったりして、個体数が少ないけど、この愛くるしさから、人に飼われてなんとか生き延びているの。野生のベビーホワイトは本当に貴重なのよ」
説明するエマの両腕は、しっかりとベビーホワイトを抱きしめていた。
エマの説明を聞いた俺はパンダを思い出したが、あれは大人になるとでかくなるので、こちらのほうがかなり可愛げがあるだろう。
「とりあえずはそいつが何者かはわかったが、どうするつもりだ? 飼うのか?」
「もち! こんな可愛い子置いていくなんてそれは犯罪の一種だわ!」
今まで以上に強い口調で話しだしたエマ。
これはどうやら、連れて行かないとダメなようだ。
俺も、動物が好きだからいいが傭兵家業にペットというのはどうしたものだろか。
こんな根無し草の俺達とともに過ごしていたら、下手したら俺達の仕事の敵に食べられたりしないだろうか?
疑問に思った俺はペットを飼うことについてエマへと尋ねた。
「飼うのはいいんだが、俺達傭兵だぜ? しかも俺なんかなりたてのペーペー、そいつ守りながら戦うなんて無理だと思うんだが?」
俺の質問に、エマは満面の笑みで答える。
どうやらそのことについてはあてがあるらしい。
「それは問題ないわ、ギルドにペット用の託児所あるし」
「…………ギルドって意外と充実しているんだな」
ベビーホワイトをしっかりと抱きしめながらも、ぐっと親指を立ててエマが答えた。
驚きである。
まさか、ギルドに託児所があるなんて。
確かに予想していたのとはだいぶ違ってはいたが、それでも託児所があるとは思っても見なかった。
この世界での傭兵というのは意外に、優遇されているのかも知れない。
「預けるとお金はかかるけど、この子の可愛さに比べたら安いもんよ。てなわけで飼うのは決定。反対しても、団長権限で拒否するわよ」
「拒否はしないさ、俺もこういう奴は好きなんでね」
そう言って、俺はベビーホワイトの頭をなでた。
ごつごつとした肌触りだが、体温が感じられる。
変温動物の一種に思えたが、恒温動物のようだ。
「で、飼うのはいいとしてこいつの名前は?」
そう、俺が言うとエマはう~~~ん、とうなってしまう。
団名といい、ベビーホワイトの名前のことといい、結構エマは行き当たりばったりである。
そんな性格だから俺を受け入れてくれたのかもしれないので、悪いとは言わないが、さすがに考えものではあるかもしれない。
などと俺が思っていると、耳を疑うようなエマの発言が聞こえてきた。
「なんにしようかしら、ハチベェ、サルマタ、ステテコ、ん~どれにしよう?」
時が一瞬止まった。
こいつは危険だ!
エマの名前候補を聞いて、俺はすぐさまベビーホワイトの名前を考えることにした。
こんな愛くるしい奴に、ハチベェなんて名前をつけられちゃたまったものではない。
俺は思いついた名前を口にする。
「コドラ」
「きゅ~?」
そう言うと、ベビーホワイトは『何?』と言わんばかりにこちらを見て答えた。
先ほどのエマの名前候補の時には反応しなかったので、これならばエマの名前になることを防ぐことができそうだ。
だが、エマはそのベビーホワイトの反応が面白くないのか、自分の中で決定した名前を告げる。
「え~~、ダゴサクにしようよ」
「却下。コドラで決定だ」
「きゅ~?」
いったいエマは、どこをどう見て、こいつをダゴサクにしようとしたのだろうか?
幸いエマの名前候補には一切反応せず、俺のコドラという単語にベビーホワイトは反応するのでほぼ決まりだろう。
「お前もコドラがいいと思うよな?」
エマの両腕に抱かれている、ベビーホワイトに話しかける。
その愛くるしい瞳を正面にすえると俺も抱きかかえてみたくなった。
「きゅ~い~」
俺の言葉に反応し、ベビーホワイトが答えた。
その潤んだ瞳と、小動物を思わせる鳴き声、そしてじたばたと動く姿は胸を捉える。
まずい、こいつは可愛すぎるぞ。
「ちがうよね~ダゴサクだよね?」
俺がコドラと話しかけ、反応したのが悔しかったのだろう。
負けじとエマも話しかける。
しかしベビーホワイトは一切返事をしない。
その様子を見て俺は、勝ったなといわんばかりの表情でエマを見つめこう答えた。
「決まりだな」
「ちぇ、絶対ダゴサクのほうがいいと思うのにな~」
頬を軽く膨らませるエマ。
不満のようだが、こいつがもしダゴサクになったら俺も大変不満である。
「とにかく、こいつの名前はコドラで決まり。これからよろしくな。コドラ」
そう言って、コドラの頭をなでてやる。
コドラはそれを気持ちよさそうに受け入れ、目を閉じうっとりしていた。
少しの間、コドラを撫でていたが、左腕とドーガーに負わされた右足がうずき撫でるのを切り上げ、コドラが現れる前にしようとした作業へと戻る。
「さて、ちょっとしたイベントがあったけど早く町に戻ろうぜ。今日中にこいつらの報酬もらわないと、飯も食えないし」
「そうね。何だかんだ時間食っちゃったし、アキラも怪我したしね。それじゃ殲滅証明部位を集めて、とっとと帰りましょう」
気持ちを切り替えた俺達は、一匹一匹の尾羽を集め町へ戻るのだった。
もちろん、俺が投げ捨てた銃も忘れずに拾って。