第七節:英雄の戦い
「最悪だ……」
無数の見たことも無い魔物達に囲まれ、俺は1人そうつぶやいた。
ここがどこだかはわからない。
クレアの話を聞く限りでは彼女、もしくは俺と関係のある場所、または人物の近くに転移するはずなのだが、どう見ても俺とは関わりのある場所でも人物がいるわけでもなさそうである。
草木1本生えていない、荒れ果てた大地に踏み立った俺はクレアの関係について嘆くしかなかった。
俺がこんなことになったのは、数分前にさかのぼる。
俺がいた時代のクレアでなく、過去のクレアの手伝いによるものだ。
「これでよし」
何がどういいのかはまったく分からないが、彼女は俺にあの指輪を手渡した。
「何をしたんだ?」
「なに少しばかり調整しただけのことだ。アキラ、お前がちゃんと未来に戻れるようにな」
クレアは自慢げに髪をかきあげ、余裕の笑みを浮かべる。
「本来その指輪は、目的が達成されると、元いた座標と時間軸に転移するようにできていたものだ。だが、昔の私が魔力を直撃させたせいでそれが変異した。その変異のせいで指輪はランダムテレポートとでも言おうか、そういうものになってしまったんだ。座標や時間軸がランダムに切り替わるように」
俺はクレアの説明にうなずいてみせる。
「つまりお前が元いた座標と時間軸に戻るのは、ほぼ不可能となった」
「それも昨日聞いたよ。お願いだからあまり焦らさないでくれ。結構ショックなんだから。結局クレアは何をしたんだ?」
クレアの説明に少しずつ絶望感を増徴されながらも、それが何かの前振りであることを知っている俺は、彼女に確信たる説明を促した。
すると彼女は少しつまらなそうな顔をしたが、それでもちゃんと答えをくれるのだった。
「ふ~ん、まぁそうだな。焦らしても意味はないか。私がしたことは単純だ。時間軸の逆行を止めたんだ」
「時間軸の逆行?」
言葉の意味がわからない俺は、その単語を繰り返した。
「そうだ。だが、それを説明する前に確認しておくぞ。さっき転送される場所はランダムと言ったが、完全なランダムでないことは昨日の説明でわかっているだろう?」
俺はクレアが昨日説明したことを思い出す。
「たしか、俺かクレアと関係ある場所、または人物のところへ転移するって奴か?」
昨日クレアが言った事を、口にするとクレアはうなずき肯定の意を返す。
「うむ。つまり少なくとも私かお前の名前を出せば、その時代の協力者を得られる可能性がある場所にお前は転移されるわけだ」
「確かにそうかもしれないけど、結局はランダムなんだろ? それよりもさっき質問した時間軸の逆行ってのは何なんだ?」
「まぁ慌てるな。すぐに説明してやる。時間軸の逆行とはそのままの意味だ。未来から過去に来ることこれを逆行という。逆に過去から未来に行くことを時間軸の順行という。ここまで言えばわかるな?」
クレアは軽く微笑んで、間を取る。
どうやら俺に考える時間を与えたようだ。
その好意を無にするつもりの無い俺は、頭の中で今までの話をまとめてみる。
すると、大して考えることも無くおのずと答えが導き出されることとなった。
「……つまり、過去に行くことはなくなり、俺は未来に向いながら、俺かクレアに関係ある場所、または人物のところへ転移し続ける。そういうことか?」
「正解だ。もっともそれでも確実に元いた所に戻れるかどうかは運次第ではあるが、少なくとも時間軸がランダムになるよりは確率が相当上がったはずだ」
クレアはそう言って満足そうな顔をしたのだが、俺には少しばかり不満が残っていた。
何でこんな不確かな要素しかないのかと。
どうしてもそのことが気にかかり、一番俺が望んでいる答えとともに質問をぶつけてみた。
「…………クレアあんたがしてくれたことについてはわかったんだけど、俺が元いた時間軸に1発で戻ることは不可能なのか?」
クレアは一瞬悲しそうな表情を取ったかと思うと、何も言わず微笑んだ。
「残念ながらそれは不可能だ。私としてもそうしてやりたいのは山々だが、この指輪の魔術式は相当未来の私が作ったものだろう? それをすべて解析して修復など今の私には無理だ。せいぜい一部を解析して変更するくらいしかできない。もっともこの指輪を使わずに確実に未来へと帰る方法は無いわけではないがな」
「え! どんな方法だよ! あるなら最初に言ってくれなくちゃ」
思わず声を大きくして聞き返すと、彼女は微笑んだまま答えてくれた。
「私とここでその時がくるまで暮らすことだ。もっともお前が転移で不老不死を手に入れていればの話しだが、――その様子じゃまだ自分が不老不死かもわかっていないようだしやめといたほうがいいだろう」
「…………そうしておく。それで指輪の使い方は?」
確実に帰れるかもという気持ちの高ぶりは、クレアの一言で一瞬にして収まった。
落ち着きを取り戻した俺は素直に、最初クレアが提案した案に乗ることにする。
「簡単だ。はめていればいい。そうすれば勝手に転移される。転移によって指輪の魔力が消費されるから、1度転移すると魔力が回復するまでその時間軸にいなければならないが、まぁたいして問題にもならんだろう」
「そんないい加減な……、でもそれしかないようだし何とかするしかないのか」
「そうだ。頑張れ」
クレアはこれまでで一番の笑顔を向けてくれた。
俺はその笑顔に、笑顔と皮肉で答える。
「無責任な応援ありがとう。それじゃ俺はそろそろ行くわ」
「ん、もう行くのか? もう少しいてもいいんだぞ?」
俺の出発の台詞に、クレアが呼び止めの言葉をかけてくれたが、このままずるずると居座っては決心が鈍りそうなのですぐ発つことにする。
「ありがたい申し出だが、仲間達や未来のお前を待たせるわけには行かないからな」
「そうか……、また後でな」
「あぁ、またな。それとまだ寝ているヒカリによろしく」
そして俺に向かって手を振ってくれるクレアに、一言、言葉を残し、指輪をはめて転移したのだった。
そうここまではよかった。
だが、ついてみればびっくり。
荒れ果てた大地にポツリと立たされ、挙句の果てに魔物の群れである。
どう考えても状況は最悪だ。
しかも、周りを囲まれているため逃げることすら危ぶまれる。
一筋の汗が頬を流れる。
このままでは、間違いなく魔物の餌となってしまうだろう。
だからといって闘うのも敵の数からして、得策ともいいがたい。
しかし、いくら考えていたとしても事態が好転するとも思えなかった俺は、意を決し取り囲む魔物へと戦いを挑むのだった。
武器のパーツが入った鞄を置くと、念のために装備しておいた盾とソードパーツを構え、取り囲んでいる中で一番手薄な場所を狙い突撃していく。
勢いよく踏み攻められた大地は、砂埃を巻き上げる。
魔物達は俺が動き出すと、前方の魔物は俺の攻撃を避けるように左右へ、後方にいた魔物達は隙ありとばかりに声を上げ俺を攻め立てる。
俺は後ろの魔物の気配を察しながらも、前方の魔物へと切りかかった。
右手に負荷がかかる。
逃げ遅れた魔物に一太刀浴びせたのだ。
俺のソードを受けた魔物は剣が刺さったまま、そのまま絶命した。
ここまでは上出来である。
俺はすぐさま後方の魔物へと注意を向けた。
後方の魔物は敵である俺に一太刀浴びせようと、その鋭い爪で切りかかろうとしているのが感じ取れた。
しかし、感じ取れたまではよかったのだが、俺は後ろに振り向くことはできなかった。
なぜか?
それは一太刀浴びせた魔物が予想以上に硬く、途中で刃が止まってしまったためだった。
俺は剣を振るった勢いで後ろを振り向こうとしていたのだが、振り向くことができず、切られるのを待つしかなくなってしまったのだ。
「伏せろ!」
やられる直感的にそう感じた時だ。
後ろから人の声が響く。
すでに自分ひとりではどうしようもない状況であったため、俺はその声に反応し、言われるがまま地面へと伏せた。
するとどうだろう。
声の主が何をしたのかはわからないが、魔物が血を流しながら俺の頭上を通り過ぎて行った。
いったい誰だ?
立ち上がると同時にすぐさま剣を引き抜きぬくと、俺は声のした方へと振り向いた。
視線の先には切り捨てられた魔物達と剣を構えた男が1人。
金色の髪に緑の目、男の俺が見ても綺麗とあらわしてしまうような顔立ち。
そしてその端正な顔立ちの中にある右頬の傷は、綺麗だけでなく男らしさを併せ持っている。
そんな男が、立っていたのだ。
「何をしている!? 早くこっちへ来るんだ!」
急な来訪者に一瞬硬直してしまった俺に、男が怒鳴るように声を上げる。
どうやらその男に見惚れていたらしい。
俺は男の声によって自分が固まっていることに気がついた。
周りの魔物に気を張る男の指示に従い、俺は脚に力を込めて男の元へと走って行った。
「逃げるぞ! 後について来い!」
男の近くまで来ると再度指示がだされた。
状況を把握してない俺は言われるがまま男の後を追った。
前を走るその男は、立ちふさがる魔物達を、右の剣でいなし、左の細剣で止めを刺して道を切り開いく。
(つよい……)
素直にそう思いながら、俺は男が作る道を彼の背中を見つめながら走っていった。
途中、地面へと降ろした鞄を忘れずに拾って。
全力で走ると普段重いとは感じていない鎧が、さすがに邪魔であると感じる。
けれど、それでも一般人の全力疾走と変わらないほどの速度で走ることは出来ていた。だが、目の前を走る男は、両手に剣を構え、魔物達をいなしながら俺より少し速い。
胴以外鎧は着込んでいないというのもあるだろうが、それでも異様な早さである。
荒野の凹凸や、鎧によって走りづらさを感じたが、それでも一定の速度を保ったまま走り続けることができた。
けれど、魔物は俺達よりも早かった。
最初は、目の前を走る男の奇襲により魔物との距離を開くことができたが、徐々にその距離は埋まりだす。
空を飛ぶ魔物を先頭に、4つ足で走る魔物、人のように二足歩行するもの、そして足がなく体を蛇のようにくねらせて走るものと、順に差を縮めてくる。
このまま逃げ続けたとしても、すぐに追いつかれ後方からの攻撃を受けてしまうことだろう。
鎧に包まれている体であり、なおかつ再生能力は人一倍だとしても、大量の攻撃を受ければ意味がない。
背中に冷たいものを感じ始めた俺は、目の前を走る男へと話しかけた。
「おい! このままじゃ追いつかれるぞ!」
「わかっている! いいからとりあえず走れ! もうすぐなんだ!」
走りながらも、力強いその返事は何か思うところがあるらしい。
他に頼るすべが無い俺は、男の台詞に黙って従うことにした。
だが、だからといって状況が好転するわけでもない。
スタートダッシュで魔物達につけた差は、もうすでに無いものになっている。
後数十秒もすれば、追いつかれ無防備な背中を狙われることは必至だ。
迫りくる恐怖を押し込めながら走り続けると、少し先に大きな岩山を2つほど見つけた。
凸凹とは言っても基本平らであった荒野の中では注意を引くのに十分な大きさのものだ。
その岩山に徐々に、近づいていくようなので、どうやら男はそこを目指しているらしい。
目的地に見当がついたことにより、漠然と逃げるよりは幾分楽になったが、さすがに全力で走りつづけたため、息が切れ、疲れが見え始めていた。
けれどここが正念場である。
俺は体力に気力を注入し、目の前の男を追い越す気持ちで足を動かし続けた。
しかし、そんな俺の足掻きをあざ笑うかのように、魔物達は差を詰め、鳥のように優雅に飛ぶ魔物は俺の影と重なる位置にたどり着いていたのだった。
ぞくりと、悪寒が走る。
第六感とも言うべき感覚にしたがい、全力で走りながらも後ろを振り向くと、魔物の鋭い爪が鎧に覆われていない俺の首もとへと迫ってきていた。
腕を振り回して撃退するには、すでに遅く、だからといって体勢を低くしてよけようにも、勢いがつきすぎており、おそらく転んでしまう。
そうなれば地を走る魔物の格好の餌食である。
空か地か、どちらを選んでも結果は変わらないことだろう。
まさに打つ手なし。
この世界に来て早々、2回目の絶体絶命危機である。
徐々に近づいてくる一撃は、後ろを振り向きながら走る俺の目にゆっくりと捕らえられ、鮮明に映し出された。
全身の毛が逆立ち、毛穴が一気に開くような感覚を覚える。
そして、魔物の攻撃が後数十センチというところまで迫った時、それは起こった。
すでに諦めにも似た達観した気持ちでいた時、急に視界から魔物が消えたのだ。
いったい何が起きたのか?
その答えは、すぐに分かった。
魔物が消えたと思った次の瞬間、その魔物は地面へと転がっており頭部には一本の矢が刺さっていたのだ。
打ち落とされた魔物は、わずかに生きていたのかピクピクと体を動かしていたが、後から来た地を走る魔物達に踏みつけられるとピクリとも動かなくなっていた。
いったいあの矢はどこから?
俺の中で疑問が浮かぶ。
矢の向きから飛んできた方向は前方であることは間違いないのだが、前を振り向いても走る男の姿があるのみ。
目を凝らしてその先を見てみるが、やはり誰もいない。
けれど、矢の2射目が放たれた時、その所在がわかることに。
男が目指していると思われる岩山の丁度真上に、姿を隠しながら矢を射る人影を見つけたのだ。
その姿の隠し方は見事で、矢の先の鉄が光を反射しなければ俺は気づきかなかっただろう。
謎の人影の援護射撃を受けながら、俺達は岩山へと全力で走って行った。
岩山のまでたどり着くと、前を行く男は減速することなく2つの岩山の間を走りぬける。
俺も男に続き同じように、岩山の間を走り抜けた。
さすがにここまで来ると、岩山の上から放たれる矢の援護は位置的に期待できないのだが、なぜか魔物達は、ここで少し減速する。
少しだけ振り返ってみると、岩山の間を抜ける際に、我先にと走るあまり魔物達は入り口で支え、時間を食っていたのだ。
「すべて籠に入った! 落とすぞ!」
「わかった! やってくれ!」
魔物達が送れたことにより、追いつかれること無く岩山の間を半分ほど走りきった時だ、不意に上のほうから声が上がった。
するとその声に反応し、目の前の男も声を上げる。
どうやら、罠を張っていたようだ。
話の内容からして、何か落とすらしい。
そんな風に考えが回ると、からからと小石が落ち始める。
危険だと、感覚が告げる。
俺はすぐさま視線を上に向けると、巨大な丸い岩が谷間に落とされようとしていた。
「飛べ!」
大きな声とともに、目の前の男は前方へ大きくダイブする。
この行動と、先ほどの巨大な丸い岩で想像できるものは1つ。
全身の毛が逆立つのを感じながら、俺はすぐさま男と同じように、目の前へとダイブした。
地面につくか否か、そんな状態の時にすさまじい轟音とともに粉塵が後方から襲い掛かってきた。
もちろんそれらが、何が原因で起きたのか俺にはわかっている。
盾や、鎧の部分を地面へつけうまく受身をとり振り返ると、その先にあったのは落とされようとしていた巨大な丸い岩。
この岩により、俺達を追っていた魔物のほとんどが、下敷きとなり地面に赤い絨毯を敷いていた。
(助かったのか?)
ここで少し気が緩んだ。
だが、これで終わったわけではなかった。
俺達のように岩の下敷きにならず、生きていた魔物が3体ほどいたのだ。
その魔物達は、俺達が体勢を立て直す前に粉塵にまぎれて襲い掛かってきた。
体勢がよろしくないのもさることながら、死んだと思っていた魔物の奇襲は俺の反応が追いつかないほど。
目の前に繰り出された鋭い爪が、肉をえぐろうとしていた。
粉塵で目が良く開けていられないこともあり、俺は無意識に目を瞑ってしまう。
やられた!
そう思うには十分だった。
けれど、攻撃が届くことは無かった。
いっこうにくる様子を見せない攻撃を不思議に思い、恐る恐る目を開けてみると、襲いかかろうとしていた魔物の額に、鋼色に輝くナイフが突き刺さっていた。
「これで一通り終わったな」
一緒に走ってきた男とは別の声が聞こえてくる。
声のするほうに目をやると、長い髪を後ろで縛り、ポニーテールのような髪型の男がニカッと笑っていた。
この男もそれなりに美形ではあるが、その声と笑顔から何故か三枚目という言葉が浮かぶ。
助けてもらって失礼極まりないが、第一印象は三枚目。
これで決定だった。
その三枚目に手を貸してもらい、目の前を走っていた男が立ち上がる。
「あぁ、後はあいつだけだ」
「そのようだな」
「上から見た限りじゃ、見当たらない。また潜っているのかもしれないわ」
立ち上がりながら男が言葉を口にすると、岩山から下りて来る大男がそれに返答した。
この大男、体形だけならば以前ギルバーンで戦ったガバンとよく似てはいるが、雰囲気が彼とはまったく違っていた。
もちろん明るい、暗いといったそんな単純なもとではなく、強さに関するものだ。
ガバンはまだどこか付け入る隙がある雰囲気があったが、この大男にはそれがない。
人一人分ぐらいの重さはあるだろうと思わせる、体格にあった巨大な斧を担ぐ男を見て感じたことは強い。
それだけしか言葉が浮かばなかった。
そんな大男の返答の後に、今度は女性の澄んだ声が聞こえてきた。
その声の主が現れたのは反対側の岩山のほうから。
大男に向けていた視線をはずし、そちらに向けてみると、光の加減で青色に見えるショートヘアー、藍色の瞳にぷりっとした唇、色気がある体だが弓が引けるのかと思うほどの細腕、そしてその体に似合わない強弓をもつ女がそこにはいた。
「そいつは厄介だな……」
女の話を聞くなり、男が顎に手を当て唸る。
他の仲間も、何か考えているらしく神妙な顔をしている。
なにやら非常にまずい問題を抱えているようだが、こうまで無視されるとさすがにつらいものがある。
「なぁあんたら、いったい何者なんだ?」
「あぁ悪い。自己紹介してなかったな。俺の名はアーサー。よろしくな」
考えをやめた男は自分の名前を俺に告げると、右手を差し出し微笑んだ。
その右手を握るとアーサーという男は、地面へと座り込んでいる俺を引っ張り上げた。
「そんでこっちの髪の長いのがサーベスト、でかい斧を持ったのがアイザックで、弓を持っているのがシルメリア」
アーサーは次々に自分の仲間の名前を告げていく。
仲間達は自分の名前が呼ばれるたびに、手を上げるなどをして、自分がその名前であることを示した。
「よろしく。あ、俺の名前はア――!!!! な、なんだ!」
全員の紹介が終わり、俺が自分の名前を告げようとした瞬間、地面が揺れ始めた。
するとサーベストが先ほどの三枚目の表情からがらりと変わり、深刻な表情で声を上げる。
「アーサー!!」
「わかっている! 奴だ!」
何が起こったのかはまだよくわかっていないが、緊張を肌で感じることはできた。
揺れは徐々に大きくなっていき、立っているのもままならないぐらいの震度へと変わる。
そしてその震度がピークに達すると、地面から巨大な魔物が奇声とともに這い出してきたのだった。