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夜明けの月  作者: びるす
タイムトラベル
68/89

第四節:過去へ

「それでその後どうなったの?」


「その後はね~~~」


 楽しそうな声が部屋全体に響き渡る。

 俺はそんな声を聞きながら、リットの包帯を替えていた。

 リットの額の傷は包帯を取ると、綺麗なかさぶたができていた。

殴られた場所は少しこぶになっていたが、クレアが用意してくれた氷によって、少しずつだが引いてきている。

 それにしてもあの話から彼女達は、仲のいいただの女友達となっていた。

 あの話というのは、クレアの年齢が高齢であるとわかった絵本の話である。

 今までの話を聞くと彼女は少なくとも233歳以上だ。

それなのにもかかわらず、見た目は20代。

化粧の仕方を変えれば10代に見える若さだ。

 その若さの秘密を彼女達が聞いているうちに、なぜか世間話へと変わり、意気投合。

 今ではいい意味では楽しい会話、悪く言えば何の意味も無く結論のない会話をしている。

 そんな状況下では男の俺は邪魔者だ。

 話していても彼女達の言葉に意味を求めてしまい、楽しい会話などできないため、早々に立ち去りリットの看病に切り替えたのだった。

 リットが起きていればこんな暇をもてあますことはないのに、と寝息を立てるリットを睨む。

ベッドで眠るリットの安らかな表情は普段なら和むところなのに、今は鼻をつまんでやりたい気持ちだ。

 そんなこんなで俺は手持ち無沙汰のなか、彼女達の話は日が暮れるまで続いた。


「それでね。その後なんだけどね。ん? あ、やだ! もうこんな時間!」


 楽しく語られていたテーブルからクレアのそんな声が聞こえてきた。

 振り返り見てみると、彼女は窓からのぞく空の景色を見ながら、口に手を当て驚いて見せている。

 俺としてはようやくかといった感じだ。

 日が暮れたのは1時間ほど前。

 彼女達が騒いでいる間に静かに太陽は落ちていった。

 ただ気づかないのも不思議ではない。

なぜかというと部屋の暗さがさほど変わらなかったからだ。

 その原因は部屋の真ん中につるされているシャンデリアだと思うのだが、ここまで部屋全体を照らす照明機器は見たことがないので、おそらく彼女の魔術という力でおこなっているものなのだろう。

 まぁそれは俺の推察であるため一先ず置いておくとして、クレアが声を上げると、エマ達も彼女に釣られるように窓の外を見ていた。


「あっ本当ですわ」


「どうするの団長?」


「どうしようか」


 リオに尋ねられたエマ。

 その顔はよほど会話が楽しかったのだろう、明るい。

だが、リオの質問はかなり深刻な問題だ。

 俺達の荷物の大半はこの森の近くの崖下にあるため、寝るためにはそこまで戻らなくてはならない。

しかしこの森の魔物は強いうえ、夜で視界が悪く危険で命がけ、おまけにまだリットは気絶中ときている。

 そんな俺達のピンチを察してか、はたまたただ単に気に入った友達と一緒にいたいだけなのかはわからないが、クレアがこんな提案を持ちかけてくれた。


「今から帰るのが嫌なら泊まって行きなさいよ。ここは部屋数だけはあるから」


「えっ! クレアちゃんいいの?」


 うれしそうにエマが答えると、クレアは笑顔で答えた。


「いいのいいの」


 その言葉を聞くとエマはニカッと笑い、彼女の提案を受け入れたのだった。


「それじゃ、お言葉に甘えて」


 俺としてもこんな暗い森の中を歩いて帰るのはご遠慮願いたかったので、きっとそう答えていたことだろう。

 俺達がクレアの館に泊まることになると、クレアはパンパンと手を叩いてこう話を切り出した。


「そうと決まれば、まずは夕ご飯にしましょう。誰か手伝ってくれる?」


「私が」


「私も」


 ジェシーとリオの2人はちょこんと手を上げ、手伝うことを主張した。

 ちなみに料理のできないエマはニコニコと笑ってはいたが、手を上げてはいない。

もし上げたとしても、クレアのお願いには答えられないだろう。


「ありがとうリオちゃん、ジェシーちゃん。それじゃ台所に行きましょう」


 席を立つと、クレアはそのまま扉まで歩いていき、リオとジェシーに手招きをしてから部屋から出て行った。

 リオとジェシーはそんなクレアを追っていった。

 3人の気配が部屋から遠ざかっていく。

 そのすべての気配が、今の位置からでは感じられなくなると、俺は部屋に残るエマへ視線を移した。


「ずいぶん仲良しだな」


「ん? 何か問題?」


 優雅に紅茶を飲みながら、答えるエマ。

自分ひとりだけ手伝わないことには、罪悪感は感じていないようだ。

 そんなことを思いながらも、俺は話を続けた。


「いや今のところは。ただなんか釈然としないんだよな」


 エマはカップを置き視線をこちらへと向ける。


「どういうこと?」


 俺は今まで不思議に思っていたことを彼女に打ち明けた。


「クレアさんの話が本当だとしたら、絵本の初版を持っていることがここに来るための条件で、そんな風にしたのはファンに会いたいからなんだろ?」


「えぇそうね」


「じゃぁ何であの本には、ここに作者がいることが記してなかったんだ? 絵本自体にそのことが書いてないとこの森の抜け方がわからないだろ」


 この俺の問いは、絵本が森を抜けるための鍵であることを知った時点で俺が感じた疑問だった。

 本当はクレア本人に聞きたいところだったのだが、なにやら途中から話が脱線してしまい聞けずじまいにいたのだ。

 俺のそんな問いかけに、エマは何だという表情。

どうやらクレアから聞いていたらしい。

 俺は彼女が口を開くのを待ったのだった。


「あぁそれ、それね。私も気になってたから聞いたんだけど、クレアちゃんが言うには、この本を買って、なおかつこの森に来ても大丈夫そうな人には、物語の主人公がこの森に案内する魔術をかけておいたんだって。でもアキラが買った時は、そんなことは無かったんでしょ? だからついでにそのことも聞いたんだけど、そしたらクレアちゃん、魔術をかけたのがずいぶん前だから、もしかしたら保存の魔術とかち合って誤作動起こして無くなっちゃったんじゃないかって言ってたわよ。しかもその魔術は1回だけしか作動しないらしいから、アキラの本が中古だったりしたら作動しない可能性大ってこと」


 その答えに俺はあの日のことを思い出した。

 ロコと会った本屋のことを。


「……なるほどあれか」


 あれはなんだったかわからなかったが、ついに答えが出た。

 でも魔術の誤作動か……。

できることなら本の妖精ってことにして欲しかったな。

 そんなことを思いながらも、俺は自分の顔が笑っているのを感じた。


「あれかって、なにかあったの?」


 思わず口に出した言葉は、エマに聞こえていたようで、俺はそのことをはぐらかす様にこの話を中断する。


「いや特に、まぁなんだ、とりあえずなんとなくわかったからいいわ」


 どこかぎこちない対応だったと思うが、エマもその後のことは追及することは無かった。


「そう、それじゃ夕食ができるまで待ちましょう」


 話題を変えた彼女は、そう言ってまた紅茶を楽しみだした。

 のんきなものである。

仲間が料理を作っているのに。


「待ちましょうって、お前も手伝ってくればいいのに」


「無理~私料理できないもん」


 自分の顔の前で手を交差させ、×印を作ると彼女は舌を出して笑って見せた。

 まったく、うちの団長は宿代ぐらい働こうとは思わんのかね。

 俺はそう思ったが、まぁいつものことかと笑って見せた。


「そうでしたね、お嬢さん。ふぅそれじゃ俺も手伝ってくるとするわ。いないよりはましだと思うし」


「おう。行っといで」


 部屋から出る俺にエマは笑顔で手を振り送り出した。

 笑顔で送り出された俺はキッチンまでたどり着くと、主に力仕事を手伝った。

力ではリオに負けているとはいえ、男である俺が力仕事をしないでリオに任せるとなるとなんともいえない気持ちになるので。

料理が完成すると、エマのいる部屋まで料理を運んで、皆で食べた。

 作っていたのはごく一般的な家庭料理だったため特別おいしいというわけではないのだが、それでも新たな友と食事をすると見た目よりもおいしく感じられる。

 それからしばらくして、リットが目を覚ました。

起きた時は寝ぼけていたのか、なんとも間の抜けた表情だったが、意識がはっきりしてくるとリットは自分の失態を俺達に謝るとともに、治療場所を提供してくれたクレアさんに感謝の言葉を述べた。

俺達に謝るときとは違いクレアと向き合い感謝の言葉を述べるリットは、なぜか顔を赤らめていた。

今まで女性と向き合っただけではあぁはなら無かったので、もしかしたら惚れたのかもしれない。

 まぁそんなこんなで俺達はこの館で、一夜を過ごしたのだった。

 翌朝、俺達はクレアの作ってくれた朝食を堪能し、食後のお茶を楽しんでいた。

そんな席で、彼女は実に言いずらそうにしながらも、俺達に1つ頼みごとをしてきたのだった。


「あのさ、昨日会ったばっかりで何なんだけど実は頼みごとしたいんだけど」


 クレアの前置きに、エマは何を改まってといった感じに答える。


「なに? クレアちゃん。クレアちゃんの頼みごとなら私達は喜んで聞いちゃうよ」


 エマからクレアはにこやかな笑みを受ける。

昨日知り合ったばかりとは思えないほど、エマは彼女に気を許していた。


「それなら遠慮なく。えっとねちょっとばっかり時間旅行してもらいたいの。1名だけ」


「「「「「はぁ?」」」」」


 人差し指を立て申し訳なさそうに話す。

そんなクレア以外の全員が同じタイミングで、思わず疑問の声を上げた。


「いや~実はね。久しぶりにこの本読んだら、昔が懐かしくなっちゃって。実はこの話って私の体験を元にして作ったものだから。それでさ、誰か1人に時間旅行してもらって、この物語の主人公ロコって女の子の映像を取ってきて欲しいんだけどだめかな?」


 疑問符を浮かべている俺達にたいして、クレアは上目遣いで訴え、その後絵本で口元を隠し俺達の審議を待った。

 依頼された俺達は助けられた恩もあるため、断ろうとは思わないが、あまりに突拍子も無いことなので頭は混乱している。

 そしてその混乱はリットの口から溢れでた。


「あの僕にはさっぱりわからないのですけど」


「安心しろ。俺も良くわからん」


 クレア以外の全員が小首をかしげている。

 一方クレアは先ほどの説明では俺達に伝わらないとわかると、どう説明したらいいのかといった感じで、唇に右の人差し指を当て視線を上へ向けて考え出した。

 だが、それもすぐに終り、彼女はこちらに視線を向ける。


「ん~簡単に話すと、私の魔術で過去まで飛んで、ロコちゃんのかわいい映像を取ってきてってことなんだけど」


「うん、いいよ~」


 あまりにも軽い返事。

 まるで近くにあるものを取ってと頼まれたときのような返事である。

先ほどまで小首をかしげていたのに、たったこれだけの説明でクレアの依頼を受けると言うのはいったいどういうことであろうか。

 俺はエマが内容を理解せずに、友達感覚で依頼を受けたようにしか感じられず、クレアの説明を理解しているのか問いただした。


「ちょ、ちょっとまて。クレアの説明聞いたのか!?」


「えぇ聞いたわよ? 誰か1人が過去に言って、ロコちゃんって子の映像とってくればいいんでしょ?」


 どうやら依頼の内容は把握しているようだが、時間旅行をするというおかしなことを理解していないようである。

 俺がそのことについて口を出そうとしたのだが、クレアが大声でエマに物言いをつけたため言葉を飲み込むことになった。


「違います!」


 憤然とした態度でエマを見るクレア。

 どうやら時間旅行について危機感がないエマに、一言言ってくれるらしい。

 俺は意外にも常識人であった彼女の名を口にして、ほっと胸をなでおろした。


「クレアさん……」


「かわいい映像です!」


 一瞬、なんのこっちゃわからなくなった。

 しかし時が経つにつれ、徐々に俺は意識を取り戻すと、その的外れなハズレな反論に口を開いたのだった。


「……って、そうじゃなくて! 何なんです過去に行くって!? 魔術ってそんなことできるものなんですか!」


「できます」


 クレアは笑顔で受け流す。

 その笑顔は俺の怒気を奪い全身の力が抜ける感覚を覚えた。

だが、それによって興奮していた頭に冷静さが戻り、なぜ自分で行かないのかという疑問が思い浮かんだのだった。


「できるんですか……まぁできるならできるで良いとして、なんでご自身でいかないんです? 映像を見るよりも自分が行ったほうが良いじゃないですか」


「そうなんだけど、それだとちょっと疲れるのよ。私みたいに魔力の多い人間が時間を越えると、いろいろと問題が発生するからそれの対応で魔力が空になっちゃって、もとの時間に戻るのにすごく時間がかかるの」


 少し困ったように答えるクレア。

そんなクレアを見ながら、エマは納得したように首を縦に振り、そしてなぜか俺を指差した。


「うん、うん、なるほどなるほど。それじゃアキラ。あんた行ってきて」


「えっ……俺!?」


 ビシッと綺麗に伸びた人差し指は、命令が決定事項であることを告げている。

 しかし、あまりに唐突だったため、俺は思考が停止していた。

けれど、それが何を意味するのかわかると、俺は思わず声を上げたのだった。

 それからしばらくすると、俺は館の地下室へ来ることになってしまった。

 左手には盾パーツ、右手には剣パーツを取り付けて。

 他の装備は武器を入れるいつもの鞄にしまい、俺の右手に握られている。

最新武器の砲撃パーツも今は鞄の中だ。

 絵本の話によれば、主人公であるロコは森の中に入るので、必然的に俺も入る可能性がある。

そのため魔物に会うこともあるかもしれない。

 そう考えれば武器を持っていくのは間違いではないだろうが、ここまで重装備にしなくてはいけないのだろうか。

 疑問に思った俺はクレアに過去の魔物は今以上に強いんですか? と問いかけたが、別にそんなことは無く念のためということらしい。

 とりあえず、そんな感じで身支度が整った俺は、地下室にある謎の魔法陣の上で、クレアのぶつぶつと唱える呪文を聞きながら、この時間にさよならする準備を整えていた。


「…………うむ、これでよし」


 目を閉じながら呪文を唱えていたクレアが目を開き、にこりと笑顔を見せた。

 どうも終わったようなのだが、魔法陣にも俺にも変化はない。

 自分自身では変化はわからないのかとも思ったが、部屋の端のほうで見ていたエマの声によってそれは否定された。


「何かしたの? 何も変わってないみたいだけど」


「時間軸の調整をちょっとね。過去に遡ったけど目的の時間じゃなきゃ意味ないでしょ?」


「確かにそうですわね。それはいいとして、ちゃんとアキラが戻ってくることはできますわよね?」


 その疑問は少しばかり俺の胸にジンときた。

あぁ心配してくれる人がいるってやっぱりいいな。

 俺が微妙に感動した質問に、クレアはこの場にいる全員に聞こえるよう説明する。


「大丈夫大丈夫、ちゃんと戻ってこれるよ。アキラ君にはこれを持っていってもらうから」


 彼女は、黒いワンピースから覗かせる胸の谷間に手を突っ込むと1つの指輪を取り出した。

 取り出された指輪はいったい何なのか?

 普通ならその指輪に一番関与する俺がそう質問するはずなのだが、悲しいかな。

男の性というものは、取り出した指輪よりも取り出された胸のほうに意識を集中させてしまう。

そして、その指輪がなんであるか質問することを忘れさせた。


「こほん」


 ジェシーの咳払いで、視線がクレアの胸にいっていることに俺は気がついた。

慌てて視線を指輪に戻したがもう遅い。

 突き刺さるジェシーの鋭い眼光が、俺に嫌な汗を流させる。

 一方ジェシーは俺に一瞥くれた後、視線をクレアへと戻し、俺がしなければいけなかった質問を彼女へ投げかけた。


「それでその指輪は何ですの?」


 クレアが取り出した指輪は、赤色の小さな宝石が埋め込まれているだけのただの指輪である。

 その指輪をクレアは指でくるくると回しながら、ジェシーの質問に答えた。


「これはここに帰ってくるために必要な、この場所の時間軸と位置が記憶されているの。目標の達成、つまり今回はロコちゃんのかわいい映像なんだけど、それが取られると自動的に作動するようになっているわ」


「な、なるほど……指輪についてはわかったが、映像はどうやって取るんだ?」


 ジェシーの一睨みから何とか立ち直った俺は、気まずさを取り払うべく指輪が口を開いた。

 ただ、立ち直るのがちょっと早かったせいか、何故かもう一度ジェシーに睨まれる。

 とりあえず今は許してください。


「それは簡単よ。指輪をはずしてその穴からロコちゃんを覗き込めば、その映像が指輪に記憶されるわ」


 クレアはそう言って指輪の穴を覗き込んでこちらを見る。

 すると映像を取っている事を示すかのように、宝石が淡く光りだした。

穴を覗き込むのをやめる、宝石もまた光を放つのをやめる。

クレアはどう? とばかりにこちらを向くと、俺はコクリとうなずいて見せた。


「これは絶対になくさないでね。帰れなくなるから」


「常につけておくとするよ」


 近づいてきたクレアから指輪を受け取ると、右の人差し指にはめようとしたのだが、サイズが合わず結局は左の小指にはめることになった。

 そんな感じで俺が指輪をはめていると、クレアがぽんと手を叩く。


「あぁそれと、これももっていって。何かの役に立つはずだから」


 彼女はまたも胸の谷間に手を突っ込むと、今度は3枚のカードを取り出した。

 その動作に思わず俺は先ほどと同じように彼女の胸元にじっと視線がいきそうになる。

だが、急に背中に寒いものを感じ、俺はすぐに視線をはずし取り出したカードのほうへと移した。

 自分のことだ、そろそろまじめになっておこう。

 気持ちをまじめなほうへと切り替えた俺は、彼女の取り出したカードに意識を移したのだった。


「それは何ですか?」


「これは私の魔術が入っているカードよ。単純な願い事ならかなえてくれる優れものなの。使い方は簡単でこのカードに願いを込めながら破けばその願いがかなえられるわ。もっとも簡単な願いだけで、時間を越えるとかの力はないけどね」


 クレアはそういってカードを手渡してくれた。

 俺はそのカードの裏表を確かめながら見てみる。

 別にこれといって重いわけでもなく、見た目どおりの印象、唯一普通のカードと違うところは俺の下にある魔法陣とよく似た図形が描かれていることぐらいだ。

 俺がカードを確かめていると、エマが物欲しそうにカードを見つめていたが、やがて耐えられなくなったのか、クレアに話しかけた。


「へ~~~すごい便利そうね。ねぇねぇクレアちゃん。後で私にも頂戴」


 そのあまりのずうずうしさに、少しあきれる。

 だが、クレアはそんなエマに微笑みかけた。


「いいわよ~。でも作るのに結構時間かかるから後でね。ジェシーちゃんやリオちゃん、リット君のも作っておくわ」


「ありがと~~!」


 エマは勢いよくクレアに抱きついた。

 1日しか付き合いがないというのにここまで仲良くなるとは……。

 他のメンバーも、カードがもらえるとわかると喜びを口にしている。

 そんな彼等を見ながら、俺はズボンのポケットへとカードをしまいこんだ。

 数分間、色々とカードの話で盛り上がったが、それも徐々に収まりいよいよという顔つきで彼女がこちらへ振り返った。


「それじゃアキラ君、準備はいいかしら?」


「えぇ大丈夫ですよ」


 クレアは笑顔でこちらに手を振りこう見送った。


「それじゃいってらっしゃい」


 彼女が言い終わると同時に、ちょっとした浮遊感を感じると、俺はいつのまにかどこかわからない泉の近くへと佇んでいたのだった。


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