第三節:魔女クレア
「あら、いらっしゃい。久しぶりね」
魔物が来てもいいように神経を尖らせていた俺は思わず呆けてしまう。
扉を開けた張本人は、魔物でも、怪物でもなく、燃えるような赤い髪と瞳を持った綺麗な女であったため。
しかもその顔に浮かべていたのはとても好意的な笑顔。
強力な魔物が森の中でそんなものを見たのだ。
まるで狐か狸に化かされた気分である。
「久しぶりって……」
人が出てきたことに呆気に取られていた俺だったが、赤い髪の彼女が発した言葉に違和感があり、その言葉を自然と繰り返していた。
すると彼女はあっ! と何かに気づいたような顔を見せる。
「あっごめんごめん、勘違いだったわ。それより君達、訳ありだね? こんなところで立ち話もなんだし中に入りなよ。そこの男の子も早く手当てしたいでしょ?」
話し終わると彼女はちょいちょいっと手招きをしてみせ、中へ入るように促した後、そのまま館の奥へと消えていく。
怪しいことこの上ない。
だからと言ってこのまま引き返すと言うのも、何である俺は後ろに控えるエマ達へと顔を向けた。
「どうする?」
「どうするったってねぇ……戻るわけにも行かないし、とりあえずついて行きましょう」
決定は下された。
俺は立ち彼女の後を追って館の中へと入っていく。
中の様子は外で見るよりも大きく感じられたが、歩くとそれ以上に感じられる。
幸い館の主はゆっくりと歩いていたため、すぐに追いつくことができ迷うことは無く歩みを進めることができた。
「ちょっとよろしくてアキラ」
先ほど館の前でリオにリットを渡したため、荷物を持ち運ぶことになり背中と両手はふさがっている俺に、ジェシーが声のボリュームを落としながら俺に耳打ちをしてきた。
俺はそれに倣うように声のボリュームを下げ、彼女に聞き返す。
「何だ、ジェシー?」
視線が合うとジェシーは、まじまじと俺の顔を見つめる。
「さっき勘違いとか言っていましたけど、本当に彼女とは一度も会ったこと無いんですわよね?」
「あるわけないだろ。ここに来たのも初めてなのに。何でそんなこと聞くんだ?」
ジェシーの目線が少し泳ぎ、軽い沈黙が流れる。
しかしそれも少しの数秒で、すぐに彼女は口を開いた。
「一応、念のためですわ」
「……念のためか」
「そう念のため」
なんとなく耳に残ったその答えを俺が反復すると、彼女もまたそうよとばかりに今度はしっかりとした声で言ったのだった。
「いちゃつくのはそれぐらいにしてくれる? 一応まだ安全とわかったわけじゃないのだから」
小声で話していたため、寄り添うように歩いていた俺達の間ににゅっとエマが割って入ってきた。
彼女の出現と、その台詞は、俺とジェシーに焦りを発生さる。
「べ、べつにいちゃつくとかだな」
「そ、そうですわ」
先ほどのジェシーとは違いじろ~と俺とジェシーの顔をなめるようにエマは見る。
そして一通り見終わると、くすっと笑ったような顔をした。
「まぁいいけど。とりあえず気だけは抜かないでよ」
「わかってるよ」
「わかっていますわ」
平静を装い、そう俺達はエマに返したが、なにか気まずいものを見られたような、気恥ずかしさが後には残った。
その後、女についていき、屋敷の中を歩いていくと広いリビングに出た。
中央にはまるで彼女が待っていたかのように、ちょうど人数分のカップがテーブルの上に置かれており、その上ベッドが1台、リビングの端のほうに治療道具とともに存在していた。
「彼はそこに寝かせるといいわ。治療道具もそろえてあるからそれを使って。終わったらそこのテーブルでお茶でも飲んで待ててね。私はちょっと準備があるから席をはずすけど、5分ぐらいしたら戻ってくるから。あぁそうそう、別にとって食おうなんてこと考えてないから警戒しなくていいよ」
ベッドを指差しながらそういうと、彼女は奥のドアへと向っていく。
このままでは疑問を残したまま取り残されることになる。
それをエマも感じたのだろう。
奥へと進む彼女を呼び止めようと声をかけた。
「あの、それよりも聞きたいことが……」
「そういうのは後、後、ちゃんと説明してあげるから。それじゃくつろいでいてね」
彼女はエマの言葉を遮るように口を開くと、ドアの向こうへといってしまう。
訳も分からないまま取り残された俺達は立ち尽くす。
しばらくその状態が続いたが、このまま立っていても意味はない。
そう誰もが感じ始めた頃、リオが行動し始めたのだった。
「とりあえず、リットを寝かせてもいいかな?」
リオが背負うリットに視線が集中する。
今のところただ寝ているようにも見えるが、頭に怪我をしているのでこのままリオが背負ったままよりベッドに寝かせたほうがいいことは明らかだ。
「いいんじゃない? さっきの女の人も寝かせていいって言っていたし」
「確かに言っていましたわね。でも不思議じゃありません? まるで私達が来るのがわかっていたみたいに用意されていますわ」
「確かにな。けどそれはたまたまかもしれない。いくら俺達がここで話し合っていてもわからないことだ。とりあえず今は素直にしたがって体を休めることにしようぜ?」
「そうね。それじゃリットを寝かせちゃいましょう。ジェシーはお茶の準備をお願い。アキラは荷物の確認を」
「「了解」」
リオはベッドへとリットを寝かせ、隣にあった治療道具で頭の傷を消毒し包帯を巻いて止血する。
エマもそれを手伝い、治療は程なくして終了した。
その後俺達は手持ちぶさたとなり、館の主に言われたとおりお茶を淹れることにした。
お茶やそれを入れるお湯には、毒などは入っておらずどうやら本当に客人を迎えるためのものらしい。
安全であることが分かると、それぞれカップを片手にお茶を飲む。
リオだけはベッドのそばに椅子を持って行き、そこでリットの様子を見ながら飲んでいた。
いなかった。
お茶のおかげで、少しではあるが緊張がほぐれたところで俺はこう口にした。
「なぁ、どう思う」
この質問はあまりにも漠然としていたが、皆同じようなことを考えていたのだろう。
すぐに答えは返ってきた。
「素直な感想としてはわからないわね。お姫様や村長の言うことじゃ、ここは迷わずの森はどんなに奥へと進んでいっても元の位置に戻される。けれど実際に私達が森に入ってみると、戻るどころか情報にない館に到着」
「そしてその館の主はまるで待ち受けていたように、私達を招き入れましたわね」
エマは茶請けとして用意されていたクッキーのようなものをつまみながら、ジェシーは紅茶で口を潤してからそう言葉にした。
そしてそれに続くように、リオが話し出す。
「まったくもってわからない。それが答え。彼女はあんな事を言っていたけど、実は魔女で私達を招き入れて食べる気だったりして」
「それじゃこのお茶は薬でも入っていて、俺達をおいしくいただくためのスパイスとか?」
冗談に冗談を重ねる。
するとドアの方から声が聞こえてきた。
「残念。それはただの好意よ」
先ほどドアの奥へといった女が、なにやら丸い玉のようなものと、羽ペンとインクを抱えながら現れた。
そしてそのまま俺達のほうへと近寄ってきて、自らも椅子に着席し荷物をテーブルに置く。
「まぁ不思議に思うのは無理ないと思うけど、そんな警戒しないでくれるとうれしいかな。さっきそこのお嬢さんが言ったこと実は半分は正解なのだけどね。あぁだから警戒しないでって。とって食うって方が間違いなんだから。とりあえず名前教えておくね。私の名前はクレア」
彼女が話し出して半分が正解といった時点で俺達は、いっせいに椅子から立ち上がり、彼女に対して身構えた。
すると彼女はそれをおさえてといった感じに両手の手のひらを、俺達に向けてまぁまぁと縦に動かす。
彼女がそう言ったが俺達はすぐに警戒を解きはしなかった。
もともとここに館がある時点でおかしいのだ。
警戒するなと言うのが無理である。
「クレアさんとか言いましたわね?」
「えぇそうよ」
「半分が正解ってことは、あなたは魔女ですの?」
「その通り。魔女って言うか魔術師なんだけどね」
クレアという魔女はあっけらかんとした態度で余っていたカップに紅茶を注ぐ。
それを口へと運んで喉を潤すとまた口を開いた。
「せっかく紅茶を用意したのだから飲みながら話しましょうよ。そちらのお嬢さんは、看病しているみたいだから無理強いはしないけどね」
リオにウインクをして見せ、もう一度紅茶を口にした。
俺達は顔を見合わせ、警戒しながらも彼女に言われたとおり、再び椅子に腰を落とす。
その様子にクレアは満足したように、ニコニコと笑うとクレアは椅子を引きその場で立ち上がり天井に向け人差し指を立てながら、こう宣言した。
「さぁそれじゃ質問ターイム。あなた達の質問に答えたいと思います」
言い終わると、腕を組みかかってきなさいとばかりに目をきらきらさせながら、彼女は質問を待ち受けた。
ポカンと開いた口がふさがらない。
警戒しているのが馬鹿らしくなるぐらい明るい行動をする彼女。
そんな彼女を見ていると俺の中の警戒と言う壁は、削岩機で穴を開けられたようにぼろぼろと崩れ去っていく。
「……なんか馬鹿らしくなってきたわ」
「本当ですわね……」
エマとジェシーも俺と同じように壁を壊されたらしく、呆れた表情でクレアを見ている。
テーブルを囲んでいないリオの顔も、遠くからでもはっきりと呆れているのが見て取れた。
「それじゃクレアさん。質問してもいいですか?」
「はいどうぞ! ってその前に皆の名前教えてくれない? 名前を教えたのに相手の名前が知らないって言うのはなんとなくいやだからさ」
どうぞの掛け声とともに、手のひらを差し出され話すよう思いっきり進められた。
だが、その次の言葉をクレアはすねた様な顔をしながら、潤んだ瞳で口にする。
その瞳にちょっとドキッと気持ちが揺らいだ。
けれど動揺として外面にその態度は出ることは無く、俺は彼女に言われたとおり名前を告げたのだった。
「あぁすみません。俺の名前はアキラっていいます。俺の右隣にいるのがエマで左隣がジェシーです。それとベッドのほうにいるのがリオで、寝ている男のほうはリットです」
夜明けの月のメンバーの名前を告げていく。
告げられたメンバーは名前を呼ばれるとともに、彼女に目線を合わせ軽く会釈して答えた。
「うんうん、覚えた。それじゃアキラ君、続きをどうぞ」
質問の続きを促す。
彼女は目を輝かせなんとも楽しげだ。
そんななんともいえない彼女のテンションに、俺は押されていた。
「……えっとですね。クレアさんは魔女なんですよね?」
「えぇそうよ。この世界で唯一の魔女」
エッヘンとばかりに両手を腰に当て胸を張る。
服の上からでもわかる彼女の大きな胸が揺れ、男心を揺さぶったが、子供っぽさの残るその行動に笑いと呆れも感じさせた。
「魔女なんて聞いたことありませんわよ? いったい何ができますの?」
「そりゃ私しか魔女はいないからね。何ができるってこの森を迷わずの森にすることとかかな」
その答えを聞いた瞬間、俺達の依頼の半分が片付けられることとなった。
俺は驚きのあまり、クレアに聞き返す。
「ちょ、ちょっとまってくれ。それじゃこの森を迷わずの森にしているのはあんただっていうのか?」
慌てる俺とは対照的に、さも当然とばかりに落ち着いているクレア。
「そうよ。ここって何かと危険でしょ。だから迷っても戻れるようにしているのよ。まぁ私の隠れ家を隠すって意味合いもあったけど、ほかに聞きたいことは?」
彼女が言う通り、確かにここは危険である。
もし迷ってしまったら魔物の餌食になるのは間違いない。
だが、だからといって迷わずの森を作り出すことが出来るというのは驚きである。
あまりのことに唖然とする俺達ではあったが、それ以上に好奇心を刺激された俺は少しの間を置くと次の質問をしたのだった。
「それじゃ、ここの魔物が強い原因とかも知ってますか?」
「えぇ知ってるわよ。ここってどういうわけか魔力が集まるのよ。しかも世界中の。きっとそれが原因ね」
小指を立てて紅茶を飲むしぐさは優雅であったが、その口からは意外な言葉が飛び出してきた。
ゲームの世界だけでしか聞いたことの無い言葉に、俺は思わず反復してしまう。
「魔力?」
「そ、私が魔法を使うために必要な力で、自然界にはどこにでも存在するものなんだけど、どういうわけか、ここは魔力が大量に集まるのよ。人と違って魔物はそれの影響をもろに受けるみたいでね。その魔力のせいでここの魔物は強いってわけよ」
クレアはそう言ってにこりと微笑む。
「もしクレアさんが言っていることが正しいなら、魔物は環境に影響を受ける生物ってことですか?」
「環境の影響を受けない生物なんていないわ。ただ、ここ以外の地域の魔力はここと違ってほとんど一定の量から変わらないからそう感じるのかもね」
「なるほど……」
俺は彼女の説明に納得の言葉を返した。
魔力についてはいささか疑問が残るものの、彼女の言うとおり魔力が存在し、そして彼女の説明どおりであるならば、今までの生物学者が出した研究の結果を覆す魔物の強さも納得ができたからだ。
魔物の強さについてわかると、今度はジェシーがクレアに話しかけた。
「ちょっとよろしくて」
「なに? ジェシーちゃん」
まるで親しい友達の返事である。
クレアのその態度にビックリしたのか、ジェシーは思わず自分の呼ばれた名前を繰り返した。
「ジェシーちゃん……」
「ジェシーちゃんどうかした?」
自分の名前を口にしたジェシーを心配するかのように、身を乗り出してクレアは彼女の顔を覗き込んだ。
その顔の距離は約20センチ。
何かの拍子でくっついてしまうような距離だ。
いきなり顔を近くに持ってこられたジェシーは顔を赤らめると、身を引き両の手のひらを彼女へと向けプルプルと振るって、何でもないことをアピールした。
「い、いえ、なんでもありませんわ。こほん、先ほどクレアさんはここを迷わずの森にしていると言っていましたわよね?」
何でもないと言われると、クレアはにこりと微笑み、自分の席へと静かに座る。
「確かに言ったわね」
「それならなぜ私達はこの屋敷にたどり着けたのですか? 普通ならば私達も戻されているはずですわ」
「たしかにそうね、どうしてなの?」
ジェシーの質問は、エマも疑問に思っていたことだったようで、彼女も話に乗っかった。
俺もそのことは不思議に思っていたので、ぜひ答えを聞きたいところだ。
「あ~それはね、あの鞄の中にある本のせいよ」
質問されたクレアは忘れていたといった感じに、原因を指差しながら答えた。
彼女が言うには、原因は俺の鞄にある本らしいのだが、なんで本が原因なのかわからなった俺は、またも疑問の言葉を反復してしまう。
「本ですか?」
「そう」
うなずきにこやかな表情のクレア。
しかし、今だピンと来ない俺は、どの本が原因なのか確かめるため、彼女に指差された鞄を開け、入っていた本を取り出した。
取り出したのは、魔物が書かれている本。
俺が本屋で買った図鑑だ。
それを彼女に見えるように表紙を向けた。
「本ってこれのことですか?」
彼女は本の表紙を見ると、首を横に振る。
「違う違う、それじゃなくて絵本のほう」
もう一度鞄の中を探り、魔物の本と並んでしまっておいた絵本を取り出し、先ほどと同じように彼女へ見せた。
「絵本ってこれですか?」
「それそれ! それが初版だったせいよ」
絵本を見せるとクレアは身を乗り出して、その本を指差した。
彼女が言うにはこの本が初版だから、迷わずの森を抜けてここまでたどり着いたことになるのだが、それだけではまだはっきりと理由がわからない。
この本を読んだことがある俺は、なんとなくではあるがこの本とクレアの関係は予想がついていたが、あえて理由をはっきりさせるため尋ねた。
「初版だったせいって、何が関係しているんです?」
「聞きたい?」
「えぇ」
「どうしても?」
「どうしても」
この手の流れだと聞き渋っても教えてくれるが、時間が無駄なので俺は素直にどうしても、と答えた。
「むは~それじゃ教えて進ぜよう。その絵本を作ったのは実は私なんだよね」
クレアは自慢げに、胸を張ってそう主張した。
また胸がぷるんと揺れる。
俺はその答えが予想通りであったため、先ほど素直にどうしても、と言ってやった代わりに今度はあえてリアクションを薄くして彼女に対応した。
「はぁ、それが何の関係で?」
「あっれ~ちょっと反応薄いよ! アキラ君。わーすごいですねー! とか、本当ですか!? サインください! ぐらいの反応が欲しいよ」
そう言ってびしりと俺を指差した。
「さすがにそれは……」
クレアのあまりのテンションに、若干引き気味で答える。
すると彼女は口を尖らせながら、椅子へと座った。
「ちぇ、のりが悪いんだから」
クレアが座ると、場が落ち着く。
とりあえずは絵本とクレアの関係がはっきりした。
しかし、まだ肝心の何で迷わずの森に進めるのかが話されていなかった。
そこで俺はそれについて質問しようとしたのだが、今まで話に参加していなかったリオが先に訪ねたのだった。
「それでその本と迷わずの森の先に進めることと、何が関係しているの?」
「えっとそれはね。実はこの絵本の初版に限り私の魔術がかかっていて、私の館までこられるようにしてあるの」
クレアはリオのほうを向きながら答えた。
するとまたリオからの質問が。
「何でそんなことしたんです?」
リオが質問したのは当然の疑問だった。
なぜそうしたのか?
俺もその答えを知りたかったため、彼女の言葉を待った。
皆の視線がクレアに注がれると、彼女は勢いよく立ち上がり右のこぶしを握りながら高らかに宣言した。
「何でって、だってファンの子達と触れ合いたいじゃない!」
予想外すぎて今日何度目かの唖然とした表情を見せてしまう。
とにかく熱く語るクレアに、何か言葉をかけなければと思った俺は彼女に話しかけた。
「…………触れ合いたいって……ならこんなところにいないで町にいれば……」
話しかけた内容は、ファンと触れ合いたいなら町にいればというものだった。
実際こんな危なっかしい森になんていたら、会いに来る人など皆無だろう。
しかしクレアは町にいればということを否定した。
「あぁそれはだめ。だって私魔女だし」
魔女だし、その言葉には何か引っかかるような気がしたが俺は気にせず話す。
「別に魔女でも人間と変わらないじゃないですか」
「そう思う? うれしいこといってくれるね君は」
にこりと微笑みかけられる。
しかし、その微笑みの中には何か悲しいものを見たような気がした。
彼女はその後こう話す。
「でも、だめなんだ。ちなみに君達この初版がいつ発売されたかわかる?」
「いつって、いつなんだ?」
歴史についてはまったく知識のない俺は、以前この本を読んだことのあるエマへと話を振った。
話を振られたエマは絵本について考える。
「たしか……私が小さいときにはあったから10年以上前だけど、もっと前にもあったと思うから20年ぐらい前?」
エマが大体の年数をクレアに告げた。
しかし、どうやら不正解だったらしく、彼女は首を横に振る。
そして、答えを話してくれたのだが、その答えは予想のはるか上のものであった。
「残念。正解は233年前、あなた達は生まれてないわね」
彼女が初版が何年前に発売されたか告げると、俺は驚きのあまり口をポカンと開けたままになってしまった。
どう見ても20代にしか見えない人が、200歳を超えているのだ。
驚くなと言うのは無理というもの。
だが、うちの女性陣はなんと驚かなかった。
俺は彼女達が驚かなかったことにも少し驚いた。
だが、それ以上に俺を驚かすことが発生した。
「「「クレアさん、若さの秘訣は!」」」
一字一句違わず、これでもかという意思がこもった言葉とその熱い視線はクレアへと向けられたのだ。
皆、いつの間にかクレアのすぐ近くまで来ていた。
リオも先ほどまでリットのそばにいたというに、気づけばクレアの横にいる。
エマ、ジェシー、リオに見つめられたクレアは照れながらも、まんざらでもない様子で答える。
「毎日のオイルマッサージかしら」
いろいろと考えながら、エマ達に話すクレア。
突然の彼女達の変化に、驚かされてばかりであったが、何とか我に返ると俺はあることを聞きたくなってしまった。
それを聞いちゃだめだと俺はわかっているのだが、聞きたいという好奇心に負けて口を開いてしまう。
「そ、それじゃちなみに、実年齢は?」
しまったと思ってももう遅い。
俺が放った言葉が、クレアに届くと、彼女は顔だけこちらに向けこう言った。
「女の人にそんなこと聞くの?」
「いえ、その、すみません」
今日一番の笑顔の彼女に見つめられた俺はそう答えるしかなかった。
その後、話に取り残された俺は、美について語り合う夜明けの団の3人娘とクレアを眺めていたのだった。