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夜明けの月  作者: びるす
シリウスト
63/89

休話:結果発表

「さぁいよいよ審査員による試食です!」


 その言葉を合図に観客はオー! と声を上げ会場を盛り上げる。

 やれることはやった。

 額に汗がにじみだしながら、俺たちは審査席をじっと見つめるのだった。


「それではまずは、彼氏募集中チーム! え~このチームリーダーによるとなになに、私たちを彼女にしたかったら今ここで立候補してください、とのことです」


「彼女募集中ー!」


「立候補するぜ!」


 司会が試食されるチーム名を挙げると、観客席からは手を上げ自らを売り出す男たちが見られる。

 その数はざっと見て20人。

 このチームは顔のつくりがそこそこいいので、きっと俺もエマ達と一緒に傭兵団をやってなかったら、あの中に混ざっていたことだろう。

 そんなことを思いながらも、彼女たちが作った料理を試食する審査員たちを見つめた。

 彼女達が作った料理は、材料の関係上か1品料理。

 しかも家庭料理としてポピュラーな、ケムサムサンドというものだ。

 このケムサムサンドだが、基本は肉と野菜をパンで挟み、各家庭で作ったオリジナルソースをかけて食べるもの。

 そのソースの出来栄えにより味に大きな差が出るため、ソースの良し悪しでその家庭の料理の腕が見極められるといっても過言ではない。

 しかしこのケムサムサンド、おいしいことにはおいしいのだが、さすがに家庭でよく見る料理であるため優勝を狙うにはインパクトが足り無すぎる。

 現に今食べている審査員達も、『おいしいですね』『えぇおいしいことにはおいしいですけどね』とごく当たり前の感想になっている。

 けれど彼女達は審査員の言葉を聞いても一向に反応を示さないので、チーム名どおり彼氏を募集するためにここに来たのかもしれない。

 審査員達の試食が終り、彼女達に料理の感想を述べると、司会が次のチームの名前を読み上げ進行していく。


「さて続きましては、バラの踊り子チーム、ギルド隣の酒場クァーサーで営業中だそうです」


「サリーちゃん頑張れ!!!」


「今度飲みに行くからねー!」


 こちらもまた紹介されると、男どもが騒ぎ出した。

 それと同時に紹介された踊り子チームは観客に向かって投げキッスをしている。

 うむ、こちらも営業が目的のようだ。

 しかしまたなんでバラの踊り子チームなのか、と思っているとピンときた。

 あのチームには俺をぶん殴ったやつがいる。


「なるほど、確かにバラだわ」


 思わず口走ってしまった。

 そんなバラの踊り子チームの料理はこれまた一品。

しかも料理というか、おつまみだ。

 濃く味付けした肉をただ油で揚げただけのもの。

 酒と一緒だと非常においしく感じられるものだが……。

まぁそれはいいとして俺から奪った野菜はどこに使ったんだよ。

 明らかに使われていない食材に腹を立てながらも、彼女達の優勝が消えたことを喜び、次のチームに視線を移す。


「続きまして、今回の優勝候補! シリウスト領、領主の娘、ジェシー=G=シリウスト嬢がいるチーム、夜明けの月です!」


「ジェシーちゃん、頑張りな!」


「ジェシーさん結婚してください!」


 今回ジェシーのホームグラウンドということもあり、ほかの綺麗どころエマやリオに対する声援は少ないがそれでも今まで紹介されたどのチームよりも、彼女達を応援する声は多い。

 しかし、その中でもやはりジェシーの声援が飛びぬけていた。

 彼女には老若男女とわず誰からも送られている。

 今までのチームは主に男どもの声援だったので、単純に倍の声援といっていいだろう。

 そのなかで一際大きい声援は、以前ジェシーと一緒にあった花屋のおばさんの声。

 最前列で発せられるそれは、ジェシーに笑みを浮かべさせた。

するとその笑みを見てか、どこからともなく男どもが騒ぎ出し、次々に求婚の申し入れし始めた。

 ジェシーはそんな声を聞くなり、顔を赤くし手でそれを隠す。

 えぇもうその仕草のかわいいことかわいいこと。

 とりあえずその仕草をめでた後、俺は求婚を申し入れた野郎どもにたいし、殺気をたっぷりと込めてにらみつけたことは言うまでも無いだろう。

 そんな彼女達の料理は驚くほどの出来栄えだった。

 いっちゃなんだがここまでできるとは思っていなかったのだ。

 必要な食材をきっちりと入手できたというのもあるだろうが、それを考えてもできがいい。

くっ、エマがまさか料理できるなんて……。

 そう思った俺はちょっとした皮肉を込めて彼女にこう言った。


「まさかお前がここまでやるとはな」


「当然でしょ? 私が料理してないんだから!」


「はぁ?」


 俺の言葉にエマが反応し答えたが、その答えは予想外のものだった。

 思わず気の抜けた声が出てしまう。

 そんな俺に彼女はこう言い放つ。


「自慢じゃないけど私は料理なんかできないわ! だから見てるだけ。この料理はすべてリオとジェシーが作ったものよ。まぁ作らせたのが私だから私の料理ともいえなくは無いけど」


 開いた口が塞がらない。

 あそこまで自信たっぷりに勝負事を仕掛けてきた当の本人が調理をせず、ほかの仲間にやらせるだけだったとは……。

 自信たっぷりのエマを冷めた目で見つめた後、俺はリオとジェシーにご苦労さんと合図を送った。

 けれどここで彼女達の労をねぎらっている場合ではない。

 なぜなら彼女たちが作った料理は5品と数が多い。

 さっと茹でた野菜を彩がいいように盛り付け、その上から特性ソースをかけた温野菜の盛り合わせ、作り方は以外に簡単で手軽にできるが、盛り付けにより豪華に見えるローストビーフ、セリシの葉を散らし、ベーコンとオンリオを刻んで入れたコンソメスープに、小麦粉から作った自家製のパン、そしてデザートとして甘いシロップに漬け込まれたフルーツの盛り合わせ。

 これがこの序たちの作った料理だ。

 ちなみにセリシはパセリ、オンリオは玉ねぎ、といった感じのものである。


「これは見事ですな」


「えぇ、味もさることながら見た目もいいですしね」


 審査員の反応も今までに比べれば断トツで、このままでは非常に危ない。

 それにしてもエマが作ってないということは、2人だけで作ったということか。


「あれは全部、お前達が作ったんだよな?」


「えぇ、調理は私が、盛り付けはジェシーが担当で」

 

 リオに料理について尋ねてみると、それぞれの担当を教えてくれた。

 確かにそれなら納得がいく。

 盛り付けがいやに綺麗でプロかと思わせるほどのものであったため、誰がと思っていたのだがジェシーならばおそらく見慣れているためそれを可能にしたのであろう。

 納得した俺は、ついでにエマの役割も聞いては見たのだが。


「なるほど、それでエマは?」


「自分で言っていたとおり、見てましたよ。私達が作ってるのを」


「さいですか」


 どうやら本当に見ていただけらしく、料理には食材をゲットすること以外は、かかわっていないようだ。

 それでよくあんなに堂々と賭けができたものだと、ある意味感心させられる。

 なんだかんだでちゃんと料理を出してきたのだから。

 彼女達の料理が出され数分がたつと試食も終り、次のチームの名前が呼ばれる。


「続きましては、泣き虫チームなのですが……どうやら料理を完成させられなかったようですね」


 司会が泣き虫チームと呼ばれる3人の人物に、そう尋ねると彼女たちはコクリとうなずく。

 そしてすでに涙目だった目に、水分を送り込みヒックヒックと泣き始めてしまった。


「えーーえっとでですね」


 突然のことで司会は慌てながらも彼女たちを慰めようとしたのだが、彼女たちは泣き止まずついには声を上げて豪快に泣き出してしまった。


「司会ー! なに泣かしてんだ!」


「あやまれや!」


「私は何もしていないんですよ!?」


「いいからあやまれ! かわいそうだろ」


 彼女達が声を上げ泣き出すと、観客からは司会に対して非難の嵐。

 それに対して司会は弁解するものの、効果を見せずよりいっそう観客の非難が増すばかり。

 これが女性の司会ならこんなことにはならなかったのだろうが、司会は男である。

 不条理かもしれないが、彼があやまらなければこの場は収まらないだろう。

 そのことをわかっているのか、司会は泣き喚く泣き虫チームにこう述べたのだった。


「ごめんなさい! えーその皆さんは頑張ったんですよね! 偉い! 素晴らしい! ですからお願いします! 泣きやんでください……」


 後半は逆に司会に泣きが入っていた。

 なんともかわいそうな司会である。

 けれど、その司会の説得が功を奏し、彼女達は泣き止み舞台を後にすることとなった。

 まったくチーム名どおりの連中ばかりが集まったものだ。

 ちょっと変わった流れになってしまったが、いよいよ俺達のチーム名が読み上げられる番となった。


「ふぅ……さて、いよいよ最後のチームとなりました。巨大なハンマーサイズを生け捕りに、メイン食材として調理したアキラチームです! 豪快な剣技を見せてくれたこのチームですがいったいどんな料理が飛び出すのでしょうか!?」


 司会の口上が終わると、審査員席に料理が運ばれた。


「これは……」


「変わってますな」


「今まで見たことの無い料理ですね」


 運ばれた料理を見て審査員たちはみな似たような反応を示す。

 そりゃそうだろう。

 俺もこちらの世界ではこんな料理見たことがないのだから。

 疑問を浮かべる審査員達に、ここぞとばかりに俺は料理の説明をし始めた。


「見たことも無い料理ばかりで不思議に思うかもしれませんが、私のいたところではいたって普通の料理なんで安心して食べてください。まず目の前にあるトツブを使った料理ですが、これはカニメシといってハンマーサイズの身に味をつけトツブと混ぜ合わせたものです。本当ならトツブをハンマーサイズでとっただし汁で炊き込むのですけど、今回は時間が無かったので炊いた後に混ぜ合わせる方法で作らしてもらいました。それでもハンマーサイズの味がしっかりしているんで十分味がしみていると思います。そしてもう一品、こちらもあまり見かけないと思いますが、これはみそ汁といいます。茶色く見えるのはソソといわれる調味料の色で、最初は不思議に思うかもしれませんが、飲んでみるとコクとうまみのあるスープだとわかるはずですよ」


「ほ~なるほど」


「興味深いですな」


 俺の説明を聞くと審査員達は、なるほどと唸った。

 ふぅ、まずは第一関門突破。

 かにめしはいいとして、みそ汁は拒否されるのではないかと思い不安だったのだ。

 なぜそんな不安要素を入れたかというと、俺のレパートリーがそれしか浮かばなかったため。

 ほかの材料なら違うレパートリーも浮かぶのだが、カニなんてめったに調理しないから出てこなかったんだよ。

 けれど、説明を入れたおかげで、審査員たちには口にしてもらえそうである。

 俺はその食べてみようという気持ちが変わらないうちにと審査員達に食を進めた。


「冷めないうちにどうぞ」


「うむ、それじゃいただこうか」


 そう一言口にして審査員達は俺達の料理に手をつけた。

 果たして結果はどうなることやら。

 俺を含む賭けをしている全員が審査員達の次の言動に注目するのだった。

 すべての試食が終り、後は各チームの点数が読み上げられるだけ。

 そんな緊張する場面で、俺はコドラに約束どおり飯を与えていた。

 もちろん与えているのはかにめしとみそ汁、そして残ったハンマーサイズを焼いたもの。

それらを与えられたコドラは満足そうに食べるのだった。

 一方対決をしている女性陣達はというと、こちらも俺達の作ったカニ料理を食べていたりする。

 俺の作った料理が珍しかったため、食べてみたいとエマが口にしたのがきっかけだ。

 これぞ男の料理といわんばかりに、ちょっとというかかなり多めに作ってしまい料理が残っているので、俺は彼女達に料理を振舞った。

 その代わりにと、彼女達の料理を食べてみたかったのだが、彼女たちが作った料理は食材が審査員分しかなかったため、残念ながら味わうことはできなかった。

 

「なかなかいいもんだろ?」


「そうね。くやしいけどうまいわね」


 みそ汁をすすりながらエマが答える。

 彼女は自分で言ったとおり、悔しそうな顔をしているが、すでにみそ汁は2杯目へと突入していた。

 エマ以外のリオやジェシーもおいしそうに食べてくれているので、勝ち負けに関係なくうれしい。

 そんな感じに和んでいると、エマがスプーンでかにめしを食べながらこんな質問を投げかけてきた。


「そういえばアキラ、ハンマーサイズのあれはちゃんととった?」


「あれって……あぁこれか?」


 最初何のことかとわからなかったが、頭でそのことを考えてみると、ぽんとあるものが思い浮かんだ。

 俺はエマの言っているものがそれなのか確かめるため、取り出してエマに見せてみた。


「なんだ、ちゃんととってたか。それならいいわ。後でギルドに行きましょうか」


 どうやらそれは正しかったらしく、勝負とは関係なしに後でギルドに行こうと誘われた。

 ちなみにそれとはハンマーサイズの殲滅証明部位の目である。

 普通ならハンマーサイズの象徴であるハサミが殲滅証明部位になると思うのだが、どういうわけかこいつの殲滅証明部位は目となっている。

 まぁはさみが殲滅証明部位だと、おいしくいただくことができないので、深くは考えないでおこう。


「だな。でもこいつ依頼書のやつなんだけど、事後承諾で大丈夫か?」


 エマの誘いに了承を返した後、契約書を見せながら事後承諾について俺はエマに尋ねた。

 状況が状況だっただけに、契約を結んでからとはいかなかったためだ。


「大丈夫でしょ。てかあんた依頼書持ってるなら契約してからやりなさいよ」


「いやそりゃそうなんだが、時間無かったし何より……」


 俺の疑問にエマはどうってことないでしょっと言った感じで答えたが、本当にいいのだろうか。

 とりあえずそのことはおいておくとして、契約しなかった理由を話していると司会の声が耳に入ってきた。


「大変長らくお待たせしました。これより結果発表に移りたいと思います」


 どうやら各チームの点数が決まり、いよいよ発表となるようだ。 

 結果がでるとわかると、賭け云々もあってか妙に興奮し思わず口から言葉が漏れる。


「おっといよいよか」


「いよいよね」


 俺の言葉に、エマもつられたように答えたかと思うと、今度はリオが口を挟む。


「生贄準備」


「ちょっとどういうことですの!」


 口を挟んだと同時に、リオはジェシーを俺のほうへと軽く押し出す。

 それにたいして、ジェシーは顔を赤くしリオに向って抗議する。

 う~ん、賭けに勝ったときの条件として本当にリオの提案が心を揺さぶるな。

 そんな感じでリオに抗議するジェシーを見ていると、リットが間に入りジェシーをなだめるのだった。


「まあまあ、とりあえず結果を聞きましょうよ」


「そうそう。まだ勝敗決まってないんだしな」


 なだめるリットにのっかって俺もジェシーに話しかける。

 2人に話しかけられたジェシーは何かいいたそうな感じではあったが、一応納得してくれるのだった。


「……そうですわね」


 とりあえず落ち着いたところで周りの状況を見てみるとすでに、最初の2チームの点数が出されていた。

 評価が出されたのは彼氏募集中チームとバラの踊り子チーム、得点上限を100としてそれぞれ73点と65点となっており、彼氏募集中チームが暫定1位である。

 後残っているのは泣き虫チームに俺達アキラチームと、エマ率いる夜明けの月チーム。

 泣き虫チームは料理自体作れなかったので省くとすると、事実上は後2チームとなっている。


「それでは続きましてっと、おっとこれは驚きですね。彼氏募集チームには残念なことですが、残る2チームはどちらも90点を超えています。しかも点差は3と接戦ですね」


「おおーーー!」


 司会の台詞が舞台に響くと、会場からは感心によく似た声が轟いた。


「次の司会の言葉でけりがつくな」


「そうらしいわね」


 俺達の周りの空気が、微妙に張り詰めた気がした。

 司会が点数を読みあげる口、勝者を指差すその手を俺達は食い入るように見つめる。

 観客たちもきっと俺達と同じように司会の動作を気にしていたことだろう。

 すべての視線を一身に集めた司会は、ついに口を開いたのだった。


「90対93で勝利チームは……アキラチーム!! まさかの黒一点チームの優勝です!」


 司会は俺達のチーム名を読み上げた後、こちらに手で指し示した。

 会場からは拍手が送られる。


「よっしゃー! リットやったぞ!」


「はい!! これで……これで奴隷はなくなりました!」


 盛大な拍手の中こちらも盛大に喜ぶ。

 リットは奴隷になるのが本当にいやだったのか、心底喜んでいた。

 

「ちっ! たった3点じゃない」


 俺達が喜ぶ横で、舌を打ち鳴が聞こえる。

そんな愚痴をたれるエマの横にいるリオは、これからのことを彼女に尋ねた。


「困りましたね団長、どうしましょうか?」


「仕方ない。リオ! 生贄投下!」


「了解」


「ちょ、ちょっと何をしますの!?」


「えい! あっすべっちゃった」


 リオはエマの指示を予見していたのだろう、すでにジェシーの後方へと回り込んでおりエマの返事とともに、むんずと彼女を掴んだ。

 掴まれたジェシーは抵抗して見せたのだが、その抵抗むなしく俺の目の前まで運ばれ、リオのわざととしか思えない言葉とともに押し出されたのだった。


「おっと、大丈夫か?」


 すでに彼女達の考えていることがわかっていた俺は、押されて飛び込んできたジェシーを抱きとめた。

 ふわりと彼女のにおいが鼻腔をくすぐる。

 とりあえず冷静な振りをしてジェシーに声をかけたが、内心どきどきだ。

 だが俺以上にジェシーは動揺していたようで、押されたことに文句を言うこともなく俺にあせりながらも答えたのだった。


「えぇ! そ、その、だ、大丈夫ですわ!」


「さぁアキラあなたの望みは? といってもすでに決定しているかな?」


 ニヤニヤと笑うエマ。

どうやらエマとリオは俺がこれを選ぶものだと思っているらしい。

 できれば俺もそうしたいが、こういうのは本人の意思がないとどうもしっくりこない。


「たしかにこの抱き心地のいいジェシーを物にするというのも非常にそそるお願いではあるが、こればっかりは本人の意思もあるので残念ながら辞退させてもらうとするよ」


 そう俺が返答するとエマはえ!? といった表情を見せた。

俺の否定がよっぽど意外だったようだ。

 否定したことにより賭けの賞品である1つお願い事を聞くというものが、ジェシーをすきにできるというものでなくなったため、願い事が何なのか?

エマ達は分からなくなっていた。


「むっそれじゃ何が望みなのよ?」


「ん~俺をいいかげん夜明けの月に戻してくれ」


「はぁ?」


 エマは素っ頓狂な声を上げる。

意味がまったく分からないといった様子だ。

そんなエマに、俺はもう一度願いを告げた。


「だから俺を夜明けの月に戻してくれって言ってるの。ギルドいった時に気がついたんだが、なんだかんだで俺の所在一傭兵のまんまだろ? ハンマーサイズの依頼はそれが気がかりで契約をしなかったてのも理由であるんだよ」


「あ? あぁ! そういえばそうね、忘れてたわ」


「おいおい、ま、とりあえず俺の願いはそんな感じなわけなんだけど、リット、こんな感じで賭けの賞品使っていいか?」


 どうやら本当に忘れていたようで、エマはぽんと手を叩く。

 その様子に呆れ顔になりながらも、リットに自分が願い事を使っていいか尋ねた。

すると彼は俺に笑顔で答えてくれた。


「別にいいですよ。そのほうが後腐れなくすみそうですし」


 どうやらリットは、はなから賭けの賞品は期待していなかったらしい。

 なんともまぁ欲のないことで。

 とりあえずリットが納得したことにより、願い事は決定した。

 これでようやく夜明けの月に戻ることができそうだ。 


「そうか、そんなわけでこいつが俺のお願い。あっそうそう賞金については夜明けの月の運営資金に回してくれ。俺のせいでずいぶん金を使ったみたいだからな」


 俺は改めてエマのほうへと向き直り、笑みを浮かべる。

そしてついでにとして、賞金についても告げた。

 本当ならリットと割り勘した後なのだが、状況的にすべて差し出すのがかっこいいので、リットには後でおごることで我慢してもらおう。


「そう、アキラがそういうならそうさせて貰うわ」


 俺の提案にエマは笑顔で承諾した。

 リットからも文句は出てこない。

 俺はリットに視線を向けジェスチャーで感謝を告げた後、もう一度エマに対して口を開いた。


「あぁそれとエマ」


「なに? まだなにかあるの?」


 賭けや賞金についてすべてのことが決まった後の俺の発言は、エマに疑問符を浮かべさせるものとなっていた。

 これ以上何か? と言うことだ。

 俺は若干それを口にするのをためらったが、誘惑には勝てず流されるように言葉を発していた。


「いやなんだその~な、1つだけ何でも言うことを聞いてもらうって賭けだったけど、ついでにこれもお持ち帰りしたいんだがいいか?」


 俺はいまだ抱きとめているジェシーを指差してエマにそう発言したのだった。

 その発言を聞いたエマは二ンマリとした笑みを浮かべる。


「本人に聞いてみてら?」


「ということなんだが?」


 エマにそう言われた俺は、ジェシーの顔を覗きこんだ。

 すると今まで俺の顔を赤い顔で見つめていたジェシーはさらに赤くし、俺から顔を隠すように下を向く。

 しかしちょうど向かい合うような形で抱きとめていたため、俺の胸にジェシーは顔をうずめることに。

 かー! もう辛抱たまりませんなこりゃ!

 けれどいまだ舞台の上ということもあり、今回は自重し、ことを起こすことはなかった。

 とりあえずジェシーの返事を待つ間、俺達はいまだ残っている、表彰や優勝賞金の受け渡しなどをこなしていった。

そしてイベントは終焉を迎え、ギルドへと契約をしに行く。

 手続きは滞りなく完了し、晴れて夜明けの月の団員に戻ることができたわけだが、その後ジェシーとどうなったかはご想像にお任せすることしよう。


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