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夜明けの月  作者: びるす
シリウスト
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第五節:決断

 窓の外を眺め続けているダルマさんの背中を、ただ見つめる。

 別段変わったところはない、変わったところはないのだが、妙に哀愁が漂っているようにも感じられた。

 これは俺の持論だが、人は何かを悟ったり、苦渋の選択を迫られた時などはたいてい遠くを見つめることが多くなる。

 その持論に当てはめ、なおかつ今までの話から推測すると、今のダルマさんは苦渋の選択をした後、ある種の悟りに近い感情を開いたのではないかと思う。

 苦渋の選択これはもちろんジェシーの婚約のことだろう。

 おそらく彼としても娘の意思を無視したこの選択は選びたくなかったに違いない。

だが何かと天秤にかけた時、選ばざるを得なくなったのだ。

 そしてある種の悟りとはあきらめ。

 自分ではもうどうすることもできないという、あきらめからくるものだろう。

 ここまですべてが俺の考えであり、根拠もなにもないただの妄想であるがあながち間違いではないはずだ。

 そう確信した俺は、ダルマさんへと話を振った。


「ダルマさん、質問してもよろしいですか?」


 俺がそう呼びかけると彼は今まで外を見つめていた視線をこちらへ戻し、口を開く。


「私のわかることの範囲でいいのならお答えしよう」


「それで結構です。まずジェシーの見合いの相手なんですけど、どこかの国の王族ですか?」


 俺は自分の考えた何通りかの、候補のうち確率の高い順に口にしていく。

 どんな答えであったとしても、驚かないよう努めて平静を保ちながら。

 そんな俺の横顔をジェシーは何も言わず見つめたあと、ダルマさんへと視線を移し質問の答えが発せられるのを待つ。


「いや、ちがうな」


 この返事に俺は顔色一つ変えなかったが、内心ではほっと胸をなでおろしていた。

 もしここでうなずかれていた場合、王族に対応するすべなど見当もつかなかったためだ。

 なにせ元王族のダルマさんでさえ断ることのできなかった見合いなのだから。

 俺はダルマさんの返事から一呼吸置くと、次の質問を繰り出した。


「それでは周辺の貴族または、地主あたりですか?」


「……なかなか君も鋭いな。そうジェシーの見合いの相手はシリウスト領の隣、バウラス領の次男だよ」


 そう質問した瞬間ダルマさんの表情がぴくりと動き、ジェシーの見合いの相手を口にした。

 どうやらこの問題は、SSSランクに厄介とはいかないまでも、Sランクの依頼ぐらい厄介らしい。


「なるほど。よくわかりました。それじゃもう一つ質問させてください」


「今度はなにかな?」


「その見合いには、この屋敷に片手で足りそうなほど人が少ないことと、庭に水が流れていなかったことは関係ありますか?」


 俺の質問に、ダルマさんでなく今まで無言で俺とダルマさんの話を聞いていたジェシーまでも驚いた。

 おそらくダルマさんの驚きは、見事確信をついたための驚き。

 そしてジェシーの驚きは、そんなことが有ったのかという驚きだろう。


「…………本当に鋭いね君は。それほどまでに察しがいいのならいずれこの地域で何が起こっているのかもわかってしまうだろうな」


「それならお話になってくれますね?」


「そう……だね。いずれジェシーにも話そうと思ってはいたことだし、君もあながち無関係とはいかなそうだ。それなら少々真相について話すのは早いかもしれないがちょうどいい機会だ。私の口から伝えるとしよう」


 俺がダルマさんへと事の真相を話してくれるよう説得すると、彼は少し考えた後、ジェシーへと視線を移し、話す決意を固めた。

 そして今まで立って応対していた自分の腰を椅子へと落ち着かせると、淡々と語り始めたのだった。


「鋭い君のことだ、きっとこのあたりの地形のことは知っていると思うが、一応説明しておこう。ここシリウスト家が治める土地は、水と鉄が豊富な土地でね、そのため豊富な水と鉄を使った産業、武器の製造で生計を立てているのだよ。武器が数多く製造されるこの土地には自然とそれを扱う優秀な人材も数多く集まってね、それによりシリウスト領は非常に強固な軍事力を持つこととなり、軍事を司る三大貴族となったのだよ。だがね、今回の件に関してはその豊富な水と鉄が問題となったのだよ」


 ここまで話すとダルマさんは一呼吸置き、立ち上がる。

 そしてこの部屋の入り口近くにあった質素ながらも優雅さの漂う戸棚を開け、3つのグラスとワインを一本取り出し、それぞれの前にそのグラスを置いてから椅子へと腰をかけた。

 彼はその後グラスにワインを注ごうとしたが、ジェシーが立ち上がりそっと手を差し出したので、ダルマさんはワインをジェシーへと渡したのだった。

 ジェシーはワインを受け取ると、まず客分である俺のグラスへとワインを注ぎ、その後ダルマさん、自分といった順に注いでいった。

 すべてのグラスにワインを注ぎ終えたのを確認し、ダルマさんがどうぞと手を差し出して勧めたので、グラスを手に取りワインを口へと運ぶ。

 甘さと酸味の中にあるわずかな渋味が舌を楽しませ、ブドウの芳醇な香りが鼻を抜けていく。

 うまい。

 俺がワインを飲んだのを確認すると、彼もまたワインをぐっと口に含み、喉の渇きを潤していた。

 注がれた半分ほど飲んだところで、ダルマさんがグラスを置いたため俺はさっきの話の続きを促した。


「それはどういうわけなんですか?」


 俺がそう聞くと彼はもう一度グラスを手に取り、残っていたワインをぐっと飲み干して話し始める。

 しかし、それは予想に反して質問を質問で返される形となった。


「アキラ君、ジェシーが見合いをする相手を覚えているかな?」


「……たしかバウラス領の次男でしたね」


「そう、その見合い相手が住むバウラス領が水不足のため、水が豊富である我が領に援助を求めたのがそもそもの始まりなのだよ」


 その話を聞いてなるほどと思う。

 ここまでの話を聞くとシリウスト領というのは、豊かで非常に資源が多い土地という印象を受ける。

 だからバウラス領のように水不足で悩む領にとっては、是が非でも関係を保ちたいと思うだろう。


「話の流れから、大体のことは想像できましたが、なぜ見合いを断れないんですか? 立場上こちらが支援しているのですから、少なからず優位な位置関係だとは思うのですが」


「確かに今までの話だけを聞いてならばそう思うかもしれない。だがね、問題が2つあるのだよ。まず1つは水の量だ。いくら豊富な水源があるからといっても、シリウストとバウラス領はとても大きな領だ。そんな2つの領を補うほどの水はさすがにないのだよ。これに関してはアキラ君、庭の噴水をみたのなら感じることができるだろう? そしてもう1つは、今この領が生活できるのは、バウラス領に水を買ってもらっているためということだよ」


 ダルマさんはそこまで話すとふぅと息を吐き出した。

 それと同時に顔には暗い影が差す。

 しかしどうも妙である。

たしか先ほどの話ではシリウスト領は水とは別のもう一つの資源、鉄により大きな利潤が生まれていたはずなのだから。


「???? ちょっとまってください。確かシリウスト領は鉄の発掘とその鉄を加工して武器にすることで、生計を立てていたんじゃないのですか?」


「あぁたしかにそうだ、シリウスト領は鉄により生計を立てていた。だがそれもいまや昔の話なのだよ。1年前、そうちょうどジェシーが旅をし始めた頃からかな。鉱山から鉄が取れなくなってしまったのだよ」


 鉄が取れなくなった、この一言ですべてがつながった。

 今までこのシリウスト領を支えていた鉄が取れなくなったため、これまでそれだけを産業として発展していったシリウスト領は急激な衰退をみせ、隣のバウラス領に金銭的な支援をもらわない限り、回らなくなってしまったのだ。

 今のところ相手側も水不足のため、水を売ってという形で何とか売買を成立させて入るが、このままでは雨季へと突入した場合、それすらも成り立たなくなってしまう。

 そんな言っちゃ悪いが落ち目のシリウストに、バウラス領当主が目をつけた。

 シリウスト家と血縁の仲となり、うまく王族に取り入ろうといったところだろう。

 そして持ち上がった見合いの話。

 一見立場的強者に見えるシリウスト側も、バウラス領に水を買ってもらう事で何とか生活している状態のため、強く出れず相手の思惑通り見合いをしなければいけなくなった。

 これが今回の真相だろう。


「なるほど……。だいたい話が読めてきました。今現在シリウスト領には蓄えといえる財政はなく、バウラス領へと水を売って何とか生活している。そしてそのことを知っている相手側はこちらの弱みにつけこみ、シリウストという三大貴族の肩書き欲しさのため、見合いという名の策略結婚をさせようとしているということですよね」


「悲しいがまったくそのとおりだよ」


 俺の言葉にうなずき返すダルマさん。

 そしてその見合いをさせられようとしている、ジェシーは暗い顔を浮かべている。

 しかし、俺の次の一言で2人の表情は変わった。


「それじゃ、バウラス領に恩を売り、なおかつ武器の製造に変わる、新たな産業をシリウスト家にもたらせばその見合いはなくなるのですか?」


「まぁそうなるが、そんなことは無理だろう。もしできるのならすでにわたしがやっているよ」


 2人の顔は驚きを表す。

 そして、人生経験の差か、先にその驚きの表情を打ち消したダルマさんが無理だと告げる。

 たしかに、俺1人では無理だろう。

 そう俺1人では。


「ちなみにジェシーとどこぞの次男坊が見合いするのはいつぐらいですか?」


「ん、ジェシーがいつ帰ってくるかわからないと相手側には伝えておいたから、後1ヶ月ぐらいだろうか」


「わかりました。それじゃ1ヶ月、断りの期間も含めれば3週間といったところですか。それまでに、バウラス領に恩を売り、新たな産業をシリウストにもたらせば見合いの件は考え直してくれますね?」


「あぁできるのならね。それができたならジェシーが嫌がる見合いなどさせるものか」


 これで了承は取れた。

 いささか期間に対しては、不安はあるが仕方ない。

 何とかしてやろうではないか。

 意気込む俺とは別に、ジェシーは父親の一言が胸に響いたのかうっすらと涙を目にとどめている。


「お父様……」


「それでは私は失礼します。貴重なお話ありがとうございました」


 俺はあえてそれを見ないようにして、席を立ち礼をしてから部屋を去った。

 これ以上無駄な感情がわくと、俺の作戦に影響が出そうなためそうしたのだ。

 しかしこの作戦は金も、人も使う。

 もしかしたら間に合わないかもしれない。

 だがやるしかあるまい。

 でなければジェシーがどっかの俺の知らない野郎に持っていかれるだけなのだから。

 

「あ、ちょっと待ってアキラ」


 そんな俺の感情を知ってかしらずか、部屋を出て行った俺をジェシーは追いかけるのだった。


「ちょっとアキラ、さっき言ったこと本当ですの? バウラス領に恩を売り、新たな産業をシリウストにもたらすって」


 俺は部屋を出た後、もといた客室へと足を運んだ。

 屋敷の探索とは違い、廊下に置かれている陶器や絵画などには目もくれずまっすぐに。

 そしてちょうど客室まであと少しといった時、あわてた様子で俺の後を追ってきたジェシーが声をかけてくる。

 無論内容は先ほど俺が彼女の父親、ダルマさんへと話しかけた一言だ。


「あぁそのとおりだ。難しいことは承知の上だが、こうでもしないとお前の見合いの話がなくなりそうにないからな」


 声をかけられたときは、後ろからジェシーが言葉を発していたが俺は振り返ることなくそのままのペースで歩きながら答えた。

そして話し出した途中で、早足で駆けてきたジェシーが追いつき俺の横へとつく。

 その様子を俺はチラッと確認すると、また正面を向きただ目的地に着くように歩く。


「あてはありますの?」


 そんな平然とした態度の俺に疑問を持ったのだろう、ジェシーがそう問いかける。

 あては……ないことはない。

 ただまだ確証がもてないため、答えることはできないでいる。

 ジェシーの質問に対する答えを考えている途中で客室まで到着すると、俺はドアノブをまわし扉を開け普段ならやらないであろう行為の一つ、ジェシーを先に招き入れるというレディーファーストを実践した。

 急な俺の対応にジェシーは一瞬驚いたような顔を見せたが、素直に俺の行為を受け止め自分から客室に入り、部屋の中の椅子へと腰を下ろす。

 ジェシーが入った後俺は、部屋のドアを閉めジェシーの向かいの椅子へと腰をかけた。

 ちなみに何でこんなことをしたかというと、場所があまりにもそうしろといわんばかりに訴えかけてきたためだ。

 決してやってみたかったとかそういうわけではない。

 たぶん。


「それで、あてはありますの?」


 椅子へと腰をかけた時に、もう一度ジェシーから同じ質問が投げかけられた。

 俺の口から答えを出していないので当然といえば当然である。

 

「ないわけじゃない。少なくとも新しい産業に関しては、多分うまくいくはずだ」


「それはいったい何なんですの?」


 当然の疑問である。

 ジェシーは、好奇心にも似た期待のまなざしでこちらをじっと見つめ、答えを待った。


「とりあえず産業の方の説明は置いといて、地図を見せてくれないか? シリウスト領のとバウラス領のを」


「……わかりましたわ。少し待っていてください」


 産業についてジェシーに説明をする前に、俺は地図を彼女へと要求した。

 するとジェシーは少しためらった後、素直に俺の要求に従ってくれた。

 彼女にとって俺の作戦で今後の人生が変わるのだ、すぐに作戦を聞きたかっただろう。

だが彼女は、目先のことにとらわれず、次の一手の準備となる俺の要求を呑み地図を探しに部屋の外へと出て行った。

 やっぱりいい女である。

 そんな女が政略結婚をさせられてしまうのはやはり気にいらない。

 今まで気に入らないことはたくさんあったが、今回に関して言えばそれらなんかはちっぽけに思えてしまう自分に、俺はまだこの時は気づいてはいなかった。

 部屋を出て行ってから数分、ジェシーは2枚の地図を片手に持って部屋へと入ってきた。

 そしてそれをテーブルの上へと置く。


「もってきたわ。これで大丈夫かしら?」


「あぁ…………よし! これなら大丈夫だ」


 俺はその地図を確認しながら、ジェシーへと答えた。

 地図を見る限り問題ない。

 恩を売ることも、産業についても何とかなりそうだ。

 俺が笑顔に近い表情を見せると、彼女自身もなにやら安心したのか、作戦についてではなくこれからについて尋ねてきた。


「それで、これからどうしますの?」


「そうだな。まず仲間全員をここへ集めようと思う。期限もあるし、俺ら二人でできることは少ないからな。ちなみにやつらもこの屋敷に泊まっても問題はないか?」


 これからの日程を頭の中で構築した後、立って俺の様子を見ているジェシーに対し、顔を向け言葉を放つ。

 すると彼女は考えることもなく、すぐに返答した。


「大丈夫ですわ。あれぐらいの人数なら何の問題なく泊まれますわ」


「んじゃ、とりあえずやつらに来てもらおう。そん時に詳しくお前にも話すよ」


「わかりましたわ。それじゃリンカを使ってすぐに呼びましょうか」


 俺がそう提案すると、彼女は夜明けの月の団員に語りかけるため、自分のリンカを手に取り話しかけようとした。

 そこで俺はふっとあることを思いついたので、ジェシーの発言に待ったをかける。


「あ、ちょっとまってくれ。少し試してみたいことがあるんだが」


 今まさに話し始めようとしていた彼女は、唐突の待ったに対し肩透かしを食らったかのようにカタっと軽く体を震わせこちらへと、向き直る。


「試してみたいこと? いったいなんですの?」


「ちょっとな。1回部屋の外に出てくれないか? それとかなり大きな音がすると思うけど別に驚かないでくれよ?」


「??? よくわかりませんが、どうせ内容は教えてくれないのでしょう?」


 俺の返答に彼女は悟ったように、答えてみせる。

 そう言われると教えてもいいかなと思ったが、教えずに結果だけ見た方が面白いと思った俺は、ジェシーにこれからするちょっとしたいたずらの内容を伝えなかった。


「まぁすぐわかるし、ちょっとした楽しみのためと我慢してくれ。多分面白いものが見れるはずだから」


「そういうのでしたら、楽しみに待っておきますわ。それじゃ部屋の外で待っていればいいのでしたわね?」


「あぁ」


 素直に俺の言葉を信じジェシーは廊下へと出て行った。

 それを確認すると俺は自分のリンカにエマとリオのリンカが混じった銀をつけ、肺にこれでもかと息を吸い込むと、


「エマ!!!! リオ!!!! 今どこにいるんだーーーーーー!!!!!!??????」


 テーブルもが振動するほどの大声で叫びかけた。

 するとすぐにジェシーがドアを開け、何事かと確認しに俺の顔を見る。

 驚くなとは一応注意したが、驚かないはずはないか。


「な、なにごとですの!?」


「ジェシー、さっきの声、ここ以外に聞こえなかったか?」


「えぇ!? それより今のはなんですの!?」


「いいからいいからどっからか聞こえなかったか?」


 驚きの表情を隠せないジェシーに対して、まぁまぁと落ち着かせるように手を動かしいたずらのターゲットの場所を彼女へと聞く。

 彼女は何のことかわからないといったようだったが、言葉の意味を理解すると軽い沈黙の後答えたのだった。


「えっ……そういえば庭のほうから」


「んじゃ向かうか」


「えっ?」


「そこに奴らはいる」


 疑問符を頭の上にいくつも浮かべているジェシーはわからないかもしれないが、俺は事前にそれらしき影を目撃していたのでやったいたずらだ。

 本当なら黙ってついてきたところを拳骨の1つでもプレゼントして怒りたいところだったが、今回はそれがありがたい。

 これぐらいで勘弁してやろう。

 そんなことを思いながら、屋敷の庭へと行くと、木の物陰で耳を押さえながら倒れる2人と、それを見つめるダルマさんが立っていたのだった。

 そして駆けつけた俺達に対し口を開く。


「これはいったいどういうことかな?」


「あぁ気にしないでください。私とジェシーが所属している傭兵団のメンバーですから。彼女達にはややこしくなって時間がかかると思ううからと、ジェシーが屋敷を見て回るように言っておいたんですよ」


 ダルマさんの質問に俺は少しも動じずに答える。

 ダルマさんがこっちか客室に来ることも想定のうちだったためだ。


「なるほど、彼女達のことはわかったが、さっきの声というか音というのは何だったのかな? 君の声にも聞こえたようだが……」


「それについても気にしないでください。きっと他のメンバーの誰かがいたずらで叫んだんですよ。私がいた客室の方からも聞こえたでしょ? きっとそれのせいで私の声と勘違いしたんでしょう」


「そういうものなのかな?」


「そういうものですよ」


 しれっとした態度で受け答えする俺。

 こういう嘘をつく時のうまさに、ビックリする。

 その様子をなんともいえない顔で見つめるジェシー。

 なんとなく彼女の言いたいことはわかるが、俺達の後をついてきたやつらに対しての罰ということで後で納得してもらおう。

 そんな受け答えが終わると、ダルマさんはうむと軽くうなずいたような動作を見せた後に、口を開いた。


「まぁ、とりあえず不審人物というわけではないので、今日のところはよしとしておこう」


「ありがとうございます。あっ、後で2人からも挨拶させたいと思うので、時間はあいてますか?」


「ん、それについては問題ないよ。庭の手入れも終わってあとは書類整理だけだから、ずっと部屋にいるよ。訪ねてもらえれば応対しよう」


「すいません。お手数かけます」


 ダルマさんへとお辞儀をし、感謝と謝罪を述べる。

 その後、ダルマさんはジェシーへと視線を移し、何か言おうとしたがその言葉を飲み込んで、こちらに視線を戻しこう言ったのだった。


「それじゃ私は部屋に戻るとするよ」


「はい」


 言葉を口にした後、ダルマさんは屋敷へと振り返ることなく進んでいった。

 その様子をダルマさんが屋敷の中へと消えていくまで見届けると、俺はジェシーへと顔を向け、いまだ倒れたままの2人を指差しこう話す。


「さて、それじゃ運びますか」


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