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夜明けの月  作者: びるす
ギルバーン
44/89

閑話:ジェシーが彼を好きな理由

 狩りが終わり、部屋へと戻った私達は皆それぞれ自分の好き勝手なことをしていた。

とは言っても、今回の買出し当番であるアキラとリッドは今この部屋にいないため、この部屋にいるのは私のほかに、団長とリオだけである。

 ハンスは夜明けの月に入ったとしても技術を磨かされているためか、彼が働いていた鍛冶屋に放り込まれていた。

 私は狩りで汗をかいた服を脱ぎ、新しい物へと着替え一息ついている。

 リオは今回は別段動かなかったため、さほど汗もかいていなかったのだろう、そのままの姿でコドラとのんちゃんで遊んでいた。

 団長はというと私と同じように洋服を着替えると、ベットの上で寝転がりながらお菓子を食べ、なにやら本を読んでいる。

 私もそういえばおなかがすいたなと思ったので、お茶でも入れて何かお菓子を食べようかと考えた。


「紅茶入れますけど、飲む人います?」


「あ、私飲む〜」


「私も」


「わかりましたわ」


 お菓子を食べるなら紅茶を入れようと思った私は、ほかにも飲む人がいないか2人に話しかける。

 話しかけられた2人はすぐに返事を返してきた。

 団長は寝転がりながらも、自分が主張していることがわかるよう手を上げてアピールし、リオはこちらに背中を向けたまま、首と背中を顔が若干見えるぐらいに倒して、上目遣いで団長の台詞に続く。

 私はその2人の答えを聞くと、了承の意を返し部屋を出て、宿屋の共同キッチンに向かっていった。

 ここの宿には宿泊客なら誰でも使用することができる共同キッチンが置かれている。

宿屋の1階は食堂兼酒場でもあるため、別に自分たちで作らなくても食事を済ませることはできるのだが、節約したい時や保存食の調理など、非常に便利であるため宿泊客には結構利用されている。

 そのうえお湯が常にポットに注がれており、宿泊した部屋の番号と同じものを使用することができる。

 私は自分たちが宿泊している番号のポットをとり、中身を確かめた。

 お湯は注がれたばかりのようで、白い湯気が立ち昇る。

 そのポットを部屋に持っていくと、部屋の中央にあるテーブルの上にそれぞれいつも使っているカップと、ちょっとした受け皿にお菓子が置かれていた。

 団長は相変わらず、ベットで横になっているのでリオが用意したのだろう。

 リオはお菓子を用意したせいで、コドラから自分にも頂戴と催促されている。

 リオは催促されるままコドラにお菓子を与え、それを微笑んで見ていた。

 そんなリオに視線で感謝を述べると、いつも使っているティーポットにお茶の葉とお湯を注いだ。

 ティーポットからは湯気のほかに、胸をすく清涼感あふれる匂いが漂ってくる。

 私はお茶の葉からよく色が出たのを確認して、それぞれのカップに注いでいった。

 そしてすべてのカップに注ぎ終わると、本を読んでいた団長もベットからおきてテーブルに向き合って椅子に座る。

 私も同じように席に着き、カップに手を伸ばした。

 リオはコドラとのんちゃんを満足させた後、団長が寝ていたベットへと運び寝かしつけると空いている席へと腰を下ろした。


「ん〜やっぱりお菓子食べるなら紅茶がないとね〜。このサクラレってお菓子おいしいんだけどちょっと甘すぎ」


「そんなに甘いんですか?」


「食べてみればわかるわよ」


 それぞれが席に着きお茶会が始まると、まずは団長が口を開いた。

 話の内容は先ほど食べていたお菓子についてである。

 その話にリオが乗っかると、カップに口をつけながら団長は今まで食べていたお菓子をリオに手渡した。

 見た目は円形状で一口サイズ、団長が食べていたときにさくさくと音を立てていたので焼き菓子の一種のはず。

お菓子を受け取ったリオはそのまま口に運び、お菓子を食べる。

 隣に座る私にもお菓子の音が聞こえてきた。

 しばらく口を動かしていたリオであったが、途中で紅茶を一口入れて口の中のものを胃に送り込んでいく。


「うん、甘いですね」


「でしょ? でもなんとなく食感がいいからやめられないのよね〜。けど全部食べきれる自信は無いから皆で食べましょ」


「それじゃ、遠慮なく私も頂きますわ」


 リオのお菓子に対する感想を聞くと、団長はお菓子を一つ手にとってくるくると回していた。

 そしてそれを口に入れて味わうと、紅茶で甘さをやわらげ飲み込む。

 けれどやはり甘すぎたのだろう。

団長は食べきれないからと言ってお茶菓子に自分の持っていたお菓子を分けたのだった。

 若干どんな味なのか気になっていた私は、断りを入れた後一つ口に運んだ。

 味わいはたしかにまずくは無いのだが、皆の言うとおり甘すぎである。

 これは紅茶を飲まなければ食べきれないだろう。

私はリオと同じように、途中で紅茶を飲んで流し込んだのだった。


「それはそうとさ、ジェシー」


「なんです?」


「あんたなんでアキラが好きなの?」


「!?」


 団長に返答した後、私は先ほどと同じようにカップに口をつけ紅茶を飲もうとしていた。

だが、団長からの予想外の台詞を受け、おもわず噴出しそうになる。

 なんとかこぼさずには済んだが、あわてて口に含んだ紅茶を飲み込んだためか、気管に入り思わず咳き込んでしまった。

 それにしてもいったい全体なんなんですの?

急もいいところではないですか?

 咳きこんだ後何とか落ち着きを取り戻した私は、団長に何でそんなことをと尋ねようとした。

しかし私が口を開く前にリオが話し始める。


「それ私も知りたい」


「でしょ? 同じ傭兵団に入ってからならいざ知らず、入る前からアキラ様〜って感じでべた惚れだったし気になって気になって」


 団長の話に乗っかったリオにさらに乗る団長。

 急な展開のせいで私はあせりはじめていた。

 そのせいもあってか、団長を落ち着かせるため口を開くが言葉をかんでしまう。


「べ、べつに入る前から好きになっていても不思議でも何でも……」


「い〜や、不思議! 不可思議! 摩訶不思議! とりあえずちゃっちゃと吐いてもらいましょうか。い〜ひっひっひ」


 かみながらも必死に団長の興奮を抑えようとしたのだが、勢いは止まらず、それどころかさらにヒートアップし、ずいずいと言葉とともに顔を近づけ私のあせりに拍車をかけた。

 いったん距離をとったかと思うと、団長の顔に怪しげな笑みが浮かぶ。

 そしてその笑みを携え、両手何かをもむかのようにわきゃわきゃと動かすと、先ほどとった距離をじりじりと詰めてきたのだった。


「ちょっと、団長さん! な、なんですのその手つきは、地味にその手つき嫌なのですけど!」


「なら吐け〜吐かないなら、どりゃ〜〜〜〜!」


 必死に団長に呼びかけてみても、やめるどころかさらに手の動きを加速させ、座っている私に飛び掛ってきた。

 飛び掛られたことで椅子とともに床に倒れる。

 私は団長から逃げようとしたが、仰向けの状態で団長に馬乗りされてしまい動くことができなくなっていた。

 はっきり言ってピンチですわ。

 とっさに団長の手を押さえることができたが、位置関係からしてその手が開放されるのは時間の問題である。

 そんななか、リオが私の視界に入った。

 彼女は先ほどとかわらず、椅子に座りながら紅茶を飲んでいる。

 そのあまりの落ち着きぶりに、若干怒りを覚えながらも私はリオに助けを求めた。


「ちょ、ちょっと! いや、そこは!! リオ、のんきに紅茶飲んでないで止めてくれません!?」


「却下します。私も知りたい」


 私の呼びかけに気づいたリオは視線をこちらに向けると、笑顔で言い放った。


「ちょ、ちょっとその却下を却下しますわ! あっ! そこは団長! だめってあっ……! はっはっは!」


 リオの方に意識を向けてしまったため、何とか押さえていた団長の右手が外れてしまう。

すると団長の右手はまるで水を得た魚のように、自由自在に動き回り私の体をこれでもかとくすぐったのだ。

 あまりのくすぐったさに力をいれることのできなくなった私には、団長の左手を押さえつけておくことはできず開放してしまう。

 こうなってしまっては私にできることは何一つなくなってしまった。


「うりゃうりゃうりゃ、吐くか吐かんのかどっちなんだい!」


 両腕が自由になった団長は私の上半身を必要以上にくすぐる。

抵抗することができず、手当たりしだいくすぐられた私は目に涙が浮かぶ。

 そんな目で捉えたのは本当に楽しそうに笑う団長の姿。

私が折れなければきっといつまでも続ける気だろう。


「わ、わかりましたわ。言います! 言いますから腋をくすぐるのはやめてくださいっっ! あははははーー!」


「なるほどなるほど。それなら仕方が無い。しっかり聞いてやろうではないか。っとそれじゃ話してもらいましょう」


 笑いの中何とか搾り出した言葉でようやく私は開放されることになった。

 団長は私の上から降りると、元いた椅子に座り私に椅子に座るように手招きしている。

けれどあまりに笑いすぎたせいで、どっとした疲れと息苦しさが残った私はすぐに立ち上がることができなかった。


「はぁ……はぁ……なんで私だけ……」


「気にしない気にしない。それより早く早く」


 愚痴を漏らした私に団長が笑顔で答える。

その笑顔は何か一仕事終えたようなすがすがしさが合った。

 仕方ないですわね。


「わ、わかりましたわよ」


 もうこれ以上の抵抗をあきらめた私は、団長に招かれるまま椅子へと座った。

 するとリオが私のカップに新しい紅茶を注ぎ、目の前に渡してくれる。


「とりあえず落ち着いて」


「ありが……なぜだか素直に感謝できませんわ」


「気にしたらだめよ。とりあえず紅茶が冷めちゃうわ」


 笑いすぎたせいで、のどが渇いていたためありがたいと思い、リオに感謝の気持ちを述べようとしたが、私を助けずのんびり喜劇でも見ているように紅茶を飲んでいた彼女を思い出すと言葉を詰まらせた。

 しかし、彼女にとってはそんなことは些細なことで、表情を変えることなく紅茶を勧める。

 私はそんなリオの顔をじっと見つめていたが、それでも何の変化も起こらなかったので、私はため息を一つ吐き出し、紅茶を飲んで区切りをつけるとアキラが好きになった理由を話し始めた。


「……まぁいいですわ。アキラを好きになったきっかけは私の初恋にありますの」


「「初恋?」」


 団長とリオは私の話しに食いつき、同じタイミングで言葉を発する。

 私はその疑問を解決するべくさらに話を進めていった。


「えぇ、あれは私が7歳の時でしたわ――」


 その当時は、私のお母様が病気で亡くなったばかりで、お父様は非常に忙しい毎日を送っていました。

 そのせいもあってか私の監視の目が緩み、1人で外に出かけることができるようになっていましたわ。

 私は傭兵であったおばあさまにあこがれていたので、それをいいことに家を抜け出し近くの森で剣の稽古をしていましたの。

 家で練習しなかったのは、まだ剣術と呼ぶにはあまりに拙い腕前でしたから恥ずかしかったのでしょうね。

 稽古に使っていた森は、近くに民家もあり、魔物もめったに出ることが無かったので安心しきって練習していましたわ。

 でもそれがいけなかったのですの。

 魔物が出ないと決め付けていた私の目の前に、群れからはぐれた1匹のジャエナが姿を現しましたの。

 もちろん当時の私に倒せるはずも無く、必死で逃げましたわ。

けれどジャエナは私を誘導するように、森の奥の方へ奥の方へと追いやり、そしてとうとう私は追い詰められてしまいましたの。

 私を追い詰めたジャエナは勢いよく私に襲い掛かってきましたわ。

 そんなジャエナを見て、もうだめだと思い怖くなって目をつぶりしゃがみこんでしまったのですけれども、一向に私の体に変化が現れなかった。

 不思議に思った私は、恐怖と戦いながら恐る恐る目を開けてみると、そこには男の人が立っていて私に襲い掛かろうとしたジャエナを捕まえていましたの。

そしてジャエナを近くの木に投げつけて、追い払ってしまいましたの。

 私はあまりの出来事にボーっとその男の人を見つめていたのですけれども、彼はそんな私に手を差し伸べて、起こしてくれましたわ。

 その後私が何でここにいるのかと尋ねられて、恥ずかしながらも正直に答えると私に剣術の指導をしてくださいました。

 襲われたことによってか、助けられたことによってかは、その時はわからなかったですけれども、どきどきしていた私は彼が教えてくれた事を忘れないように、一つ一つ頭に叩き込んでいましたわね。

 彼の指導の通りに必死に稽古をしていると、時間はあっという間に過ぎていき、いつの間にか日が暮れ始めていましたわ。

 日が落ち始めたことに気づいた私は、命の恩人で先生でもある彼にも家に来てほしいと思い、彼を家に招待しようと思ったのですけれど、いつの間にか彼はその場所からいなくなっていましたわ。

1本の剣だけを残して。

 その剣を見てなぜだか私は悲しくなって、泣いてしまいましたの。

 後から気いたのですけれど、あれが初恋なんだなって。


「で、これがその剣ですの」


 私は腰に差してある自分の剣をテーブルの上に置き、皆に見えるようにする。


「へ〜〜〜、それで結局その男の人とアキラにどういう接点が?」


「それがその、見間違いと思うくらいそっくりでしたの」


 剣を見ながら団長が口を開く。

 私はその質問に素直に答えた。

 すると、団長とリオの2人は、なにやら微妙な顔を浮かべる。


「……それじゃアキラさんってその命の恩人にそっくりだったからジェシーに惚れられてるわけ?」


「それだとなんか、微妙にアキラがかわいそうに感じるわね……」


 リオと団長が2人してそれぞれ言葉を放つと、顔を見合わせ『かわいそうよね〜』といいながら私のほうにじとっとした視線を向けてきた。

 なんとなく気まずい気持ちになった私は、思わず勢いで口走ってしまう。


「ちょっとそれはどういう意味ですの!? たしかに最初は似ていたから好きになってしまいましたけれども、今はその、そのですわね……」


「ん〜なんだって?」

 

 話しているうちに恥ずかしくなってしまい思わず、声が小さくなる。

 顔も熱くなり始めたので、もしかしたら赤くなっているかもしれない。

 そんな私を見て団長はなにやら面白いおもちゃを見つけたように、笑みを浮かべると『聞こえないわよ』といいながら耳に手を当て、話の続きを要求してきた。


「今はその命の恩人じゃなくて、彼が一番好きですわ!」


 そんな団長に触発されてなのか、はたまたこのまま勘違いされているのが嫌だったのか、私自身もわからないが、せき止められていた言葉は一気にあふれ出て、かなりの大きなものへとなってしまった。

 もしかしたら、隣に止まっている宿泊客にも聞こえたかもしれない。

 私の台詞を聞いた団長は、さらに笑みを輝かせると立ち上がり私のそばまでやってきた。


「お〜〜〜言うね〜! それじゃ告白しに行きましょうか!」


 そしてそう言い放つと、私の手を取り彼がいる店まで連れて行こうとする。

 

「えっ! ちょっと団長さん、ま、まって、リオも何とか言ってくださらない!?」


「振られないようにね」


 引っ張られる私はアキラに告白することを考えてしまい、さらに顔を赤くしていたことだろう。

 何とか冷静になろうと、あたりを見回すと先ほど同様おとなしく座っているリオが目に付き、団長を止めるようにお願いするが、彼女も団長同様今の状況を楽しんでいるらしく、微笑み返してくるだけだった。


「ちょっとー!」


 その後必死に抵抗し、何とか告白するのに待ったをかけることができたが、今日から1年以内に彼に告白することを私は約束させられてしまうのだった。

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