第十六節:さらば王都
目を覚ましたのは、次の日の朝だった。
場所は熱狂と興奮であふれかえっていた闘技場ではなく、こちらに来て俺が予約した宿屋の一室。
血で汚れた服はいつの間にか真っ白なシャツへと変わっていた。
おまけに清潔な包帯で体中を巻かれていたため、真っ白人間といったところだ。
どうやらあの後、ここに運ばれ手当てを受けたらしい。
それは大変ありがたいことなのだが、怪我人を放って置いて誰もこの部屋にいないとはどうしたものか……愛されていないかね俺は。
ふぅとため息をつく。
すると今まで忘れていたかのように、急なのどの渇きを感じた。
とりあえず水を飲むことに決めた俺は、ベッドから起き立ち上がる。
立ち上がると視界がぐるりとまわり、軽い吐き気をもよおした。
「うっ……気持ちわる。これが俗に言う貧血って奴か……」
その場で倒れることはなかったが、壁に背を預け自然と右手が頭にそえられた。
どうやらシュウとの戦いで血を流しすぎたようだ。
動くことすらできなかったレベアルとの戦いとは違い、動ける程度の傷だったため感じることのできた現象だ。
もし、レベアルとの戦いの後、動けていたら今と同じ状況になっていたに違いない。
同じSSランクと戦って今回はこの程度で済んだのだから、少しは成長したのではないかなと思ったが、相手が自分を殺す気ではなかったことを思い出し、すぐにその考えを改める。
視界から、靄や、発光した丸い虫みたいのが消えるのを待つ間、そんなことを考えていたが、結局は自分の実力不足を思い知るだけだった。
なんとか視界が正常に戻り、気持ち悪さがうすれ、壁に預けた背中を返してもらうと、今度こそ水を飲みに行こうと部屋のドアへと歩き出す。
しかし一歩目を踏み出した時に、部屋のドアが開かれた。
「看病してもらうのはうれしいが、よりによってお前か……」
「そりゃないっすよ」
ドアから入ってきたのは、水桶にタオルをかけて持ってきたハンスだった。
部屋に誰もいなかったのは、看病していたハンスが水桶の水を交換しにいったためか。
ハンスが部屋に来たことにより、看病人がいることを知った俺は、外に行くのをやめデッドへと戻り腰をかけた。
そして口を開く。
「リオかジェシー、それかエマに看病してもらいたいと言うのが俺の率直な意見なんだが、お前はどう思う?」
「おれっちもそれには同意っすけど、今回は我慢してほしいっす」
ハンスはそう言ってベッド近くの棚に水桶を置く。
「で、ほかの連中はどうしたんだ? それと悪いが飲み水をくれ」
「わかったっす。ちょっと待っててくれっす」
そういうとハンスはすぐにドアを開け、飲み水を取りに行った。
ハンスが持ってきた水桶にも水は汲んであるが、さすがに自分の頭に乗せていたと思われるタオルの入った水を飲む気にはなれない。
少し時間がたつとタタタタタッと軽快な足音が聞こえ、ドアが開かれハンスが現れた。
手にはコップと鉄製のポットを持っている。
「どうぞっす」
「悪いな」
ハンスに差し出されたコップとポットを受け取ると、すぐに水を注ぎ飲み干す。
乾いていた喉に冷たい水が流れ込むと、食道、胃、そして腸へと伝わり、しおれた花に水を注ぐと元気になるように、全身に活力が沸いてきた。
と言っても、運動した後に水を飲んだ爽快感と大して変わりはない。
体に十分な水分が回り、渇きがなくなった俺はコップとポットを、ハンスが水桶を置いた棚へと乗せる。
「ふぅ、生き返る。戦ってぶっ倒れた後だから、本当生き返るって感じだな」
「そうっすね」
「それでほかの連中は?」
ハンスと顔をあわせ、軽い笑いを浮かべた後、もう一度ここにいないほかの連中のことについて尋ねた。
ハンス以外ここにいないというのは、どうもおかしい。
同じ質問をぶつけられたハンス、じっくり答えるためか中央にあるテーブルから椅子を引き抜き、ベッドの近くまで持ってきて腰を下ろした。
「えっとエマさんはリオちゃんとリットを連れてどっかいったっす。おそらくギルドと買い物にいったんっすね。それとジェシーさんなんすけど、こっちはわかんないっす。昨日まではアキラさんの看病してたみたいなんすけど、朝になったらエマさんに何か話して、おれっちに看病任せると、どっかにいっちまったっす」
「なるほど」
(おそらくジェシーはセリアあたりに呼び出されたか)
ジェシーがギルドに行く以外、移動する場所の検討がつかない俺は、そうあたりをつけた。
ちなみにもう一方の団体で行動している方は、ハンスの言うとおりギルドと買い物だろう。
リオをつれてったのはギルドの仕事の相談役、リットをつれてったのは荷物持ちとしてだろうからな。
それにしても結構ノリノリでギルバーンを観戦していた連中が、それが終わればちゃんと次の準備をしているとは、なんだかんだでけじめはしっかりしている。
そんなことを考えていると、不意に右肩に痛みを感じた。
見てみると、さっきまで真っ白だったシャツが、肩の部分だけ赤く染まっているのに気づく。
動いたせいで、傷口が開いたようだ。
さすがに回復力が上がっても、大きな傷は1日で完治というわけいかない。
「あっ! ちなみに俺の服着替えさせたのは? さすがに女性陣じゃないとは思うが……」
「そいつはだいじょぶっす。おれっちとリットで着替えさせたっすから」
「そうか、聞いといてなんだが、微妙などきどきとわくわくが、がっかりに変わった気がする」
改めて自分の姿確認した俺はハンスに自分を着替えさせたのは誰か尋ねたが、その答えになぜか不満を抱いてしまっている。
…………なぜかじゃないな、俺はその不満の理由を知っている。
できればジェシーかリオあたりに、いや、男兄弟がいるリオはおそらくある程度、男の裸にも免疫があるはずだから、ジェシーに俺の着替えをさせて、起きた時に赤面した顔を見てみたいというただの妄想のせいだ。
ふぅ、これも一種の男のロマンといったところか。
そんな妄想を抱く俺とは別に何でがっかりなのか、ハンスはわからないようで疑問を浮かべていた。
「と、ともかく、現状はある程度把握したが、俺は怪我をしている。そしてその怪我を早く治したい。さて、ここで導かれる答えは? さぁハンス君」
「え! なんすかいきなり! えっと、えっと~」
「ぶ~~時間切れ! それじゃ飯食いにいくか。ハンスの奢りで!」
「えぇーーー! そりゃねぇっすよ!」
なんとなく、ハンスの疑問の表情を俺の説明で解消してしまうと、変態扱いされそうなので話題をそらし適当な問題をぶつけた。
そしてたいしてシンキングタイムを与えずに、時間切れと奢りを申告した俺は、左手でハンスの襟首を掴むと、引きずるように部屋の外へと出るのだった。
「アキラ、あなたってことあるごとに、食事していますわね」
「ふぬ……んぐ、気のせいだ」
半ばあきれたように、目の前に現れたジェシーの第一声がこれだ。
確かに多いかもと思いながらも、そのコメントに答えるため、口の中に含まれていた食事を一気に胃へと流し込む。
そして返答をしたのだが、ジェシーは予想通りといった表情をしていた。
宿からでて、食堂へ移動したことをリンカで伝えておいたので、用事を済ませたジェシーは誰もいない宿ではなく、俺達のいるこの食堂へと来たのだった。
「ジェシーさん! 何とか言ってくれっす! このままじゃおれっち生きてけないっす」
「あ! おねぇさん。さっき頼んだメニュー3人前ずつ追加で」
「は~い」
今まで俺の食事風景をはらはらと見つめていたハンスは、ジェシーの声に気づくと、助けを求めるようにジェシーへと懇願する。
何事かと思ったジェシーがハンスへと顔を向け、その口から発せられる次の内容を待っていた。
だが、俺にとってはそんなことは関係なし。
我関さずといった具合に、俺はテーブルに乗っている食事を片付けると、近くを通ったウエイトレスにメニューの追加をする。
するとすでに涙目になっていたハンスからは、血の気がうせ青い顔になると力なくテーブルに突っ伏した。
「ど、どうかしまして!」
さすがにその様子は、現れたばかりのジェシーには異様に映りハンスを心配する。
事情を知っている俺としては、ハンスのその行動は別におかしくは感じないがね。
それにしても懐の小さい男だ。
「この店のメニューなんだけど、とりあえず見てみ」
「? これがどうかしまして?」
いったい何事かと心配してハンスの肩を揺らしているジェシーに、俺はこの店のメニューを渡した。
ジェシーもそれが何を意味するのかはわからないといった様子だったが、とりあえずは受け取りそのことについて尋ねる。
そこで俺は1つの質問をジェシーにぶつけたのだった。
「いくつ、品目があるでしょうか?」
「え、……ざっと見て15、6ってとこかしら。で、それがどうかしまして?」
ジェシーが答えると、メニューをテーブルへと置きこちらに目線を戻す。
それを確認した俺はジェシーの疑問に答えようとしたのだが、ハンスが俺よりもはやくその疑問に答えるのだった。
テーブルに倒れこんだまま、青ざめ目には涙を浮かべる顔だけをジェシーに向けて。
「そのメニューの端から端までアキラさん頼んでるっす。しかもさっきの追加で合計10人前に……そしてなぜか支払いはおれっちってことになってるっす。うっうぅ……」
そう言うとハンスはすすり泣き、顔をテーブルにうずめる。
「ちなみにさっき計算したんだが、メニュー全部頼むと2ガルン1シーター500ゾルド。今の支払い金額はさっきの追加で21ガルン5シーターといったところかな」
「……さすがにそれは…………」
そしてハンスの説明の補足として俺が合計金額を告げると、ジェシーの表情はなんともいえないといったものへと変わっていた。
まぁここまで食われればご愁傷様といった感じだろうか。
「いや~俺もまさかこんな食うことになるとは思わなかったんだけど、食うたびに腹減るっていう謎の現象に陥ってね。それでずるずるとこんな風に……あ! おねぇさん、エールも追加で」
「あきれた……私にもエールお願い」
ちょっと笑いを浮かべながらジェシーへと話すと、彼女はふぅと息を漏らし、大量に皿の置かれたテーブルから椅子を引き抜き座るのだった。
そして、俺が頼んだエールの追加に重ねるように、自分用のエールを注文する。
朝っぱらからアルコールを頼むのもなんだが、大仕事を終えた後は別だ。
本意としては昨日の夜飲みたかったが、意識がなかったので繰越でってことにしておこう。
追加の食事とエールを待つ間、俺は隣に座ったジェシーへと話をふった。
「とりあえずこのことは置いといて、ジェシー、お前はどこにいってたんだ?」
「べ、べ、別に、た、た、たいしたことじゃなくてよ」
そう俺が話しかけると、いつもなら冷静に答えるところを、目が泳ぎ、熱くもないのに手で顔を仰いで、しどろもどろの返答をする。
あやしい……。
先ほどの、呆れ顔が一変して狼狽の様子を見せたジェシーは、明らかに何かを隠している。
そんな顔をされたら意地でも聞き出したくなる。
とりあえずカマをかけ、セリア絡みの話かどうか探ってみよう。
そう思った俺は、テーブルに顔をうずめたままのハンスを確認すると、ちょいちょいと手を動かしジェシーに耳を近づけるように促した。
ん!? とした表情を浮かべたジェシーだが、その行動の指す意味を感じ取り、すぐさま耳をこちらへと向けてきた。
「セリアから何か言われたか?」
「!? いや、その、そのね、あの……」
どうやら正解らしい。
動揺が焦りを生み、顔を真っ赤にしてあたふたともがいている。
その姿は音に反応して踊るおもちゃの花のようで、面白く感じるとともにかわいらしくも感じられた。
だが、数十秒たってもその様子は変わることがなかったので、さすがに心配になった俺はもう一度ジェシーに耳打ちをする。
「ほかのやつらにはまだセリアとの関係や、お前が大貴族だって話はしてないから心配するな。それにセリアに何を言われたのか知らないが、困るようなことなら俺に相談しとけできる限り協力してやるから」
そう告げると、ジェシーは先ほどよりも顔を赤くしたものの、あたふたと動いていた体はぴたりと止まり、徐々に冷静さを取り戻していった。
動きが止まって数秒経つと顔の赤みも徐々に引いていき、いつもの冷静な顔へと戻る。
そして一度大きな深呼吸をした後、何かの覚悟を決めたようにこう聞き返してきた。
「本当ですわね?」
「あぁ、俺にできることならな」
どんなことを言われて、あんなふうになったのかはわからないが、ジェシーの面白くてかわいい姿を見れたので俺は満足した笑顔で答えた。
その後もジェシーと適当に雑談していると、追加の料理とエールが運ばれてくる。
そして何に対してなのかわからないが、とりあえず二人で乾杯し、食べ始めるかとフォークを持つと、目の端で店の扉が開き3人の人影が店へ入ってくるのを捕らえた。
そいつらはまっすぐにこちらに向かってくる。
大きさと良い、歩き方と良い間違いない。
「相変わらずね。怪我すりゃ飯。まったくどういう体してんのか、一度調べてもらったら?」
テーブルにダンと手が載せられ、目の前が白いきれいな腕で埋められる。
もちろんこんなことを俺にして、なおかつこんな台詞を吐くのは1人しかいない。
俺は声の主の方へと顔を向けると、ふざけた口調で答える。
「かわいい女の子にベッドの上で調べられるのならどうぞといったところだが、あいにく消毒液くさいベッドの上で男の医者にもてあそばれる趣味はないから遠慮しとく」
「残念ね~。実験体になればお金が入ったのに。あ! そういえば個人戦でぼろぼろに負けて優勝できなかった誰かさんにおしおき、もとい折檻しなきゃ~」
「どっちも同じ意味だから! てか最初の台詞は布石か! 布石なのか! マジで俺は体売らなきゃいけないわけ!?」
「そうね~それでもいいわね~~~~。な~~んてね。とりあえずお遊びはここまでってことにして、とりあえずアキラよくやったわ」
腕を組み口元に右手を添えて考え込む振りをしながら、カツカツとテーブルの周りを歩き意味深に思わせたエマだったが、一周回ると表情は一変し満面の笑顔で、俺を褒めるのだった。
何かあると思いエマのノリに乗ってはいたものの、心の中ではもしかして本気じゃ……などとも考えていたため微妙に焦ってはいた。
だが、どうやらその心配は取り越し苦労のようだ。
褒められた俺は、話をあわせ次へつながるよう言葉を口にした。
「ん、まぁ一応俺のせいでチーム戦台無しにしたからな。でもさすがに優勝は無理だったけどそこそこがんばっただろ?」
「優勝できればそれはそれでよかったんだけど、私としては素直に喜べなかったと思うから、あれでよしね。ん~点数をつけるとしたら夜明けの月の名声を上げるってところは60点ってところだけど、資金面に関しては100点満点。アキラのおかげで資金が100倍近くなったから、万々歳ってところかな」
「へ!?」
いったいどういうことだろうか?
別にエマの採点に対して文句を言うつもりはないのだが、名声に関してはわかるのだが、資金面というのは見当がつかない。
死に物狂いで戦って準優勝したギルバーンなのだが、どういうわけか2位や、3位といった者達への賞金は一切ないのだ。
そんな訳で俺は一切、資金面としては貢献していないのだが…………!? まさか……。
素っ頓狂な声を上げ、おかしな顔になっていた俺は、それを正すと1つの質問をエマへとぶつける。
「エマ。ぶっちゃけ夜明けの月の資金ってギルバーン始まる前っていくらぐらいだった?」
「15ガルンちょうどよ?」
「つぅと……今は1500ガルン?」
「そうよ、正確には1525ガルンとんで50ゾルドね」
恐ろしいなこれは、爆発的な増え方だ。
正攻法で稼いだらいったい何日かかるのだろうか。
これは決定的である。
そう思った俺は確証を取るため、情報収集などを行なっていたギルバーンに1番詳しいと思われる人物、リットへと尋ねた。
「リット、もしかしてエマはやってたのか?」
「はい、やってました」
にこやかに答えるリット。
なんだろう、今はその笑顔の背景には黒い何かがうごめいているように感じる。
「……ちなみに、それって違法じゃない?」
「ん~~~知らなかったってことにしておきましょう」
この台詞も笑顔で答えるリット。
だめだ……純真無垢だと思っていたリットはもういない。
いや、それとも元からいなかったのか……。
どちらにせよ、違法性の賭けをしていたことは間違いない。
この国の最高責任者の娘であるセリアとは知り合いで、そのセリアの従姉妹がいる夜明けの月としては非常に頭を悩ます結果となった。
もしこのことがばれたらと思うと俺の右手は自然と動き、親指と人指し指が左右それぞれのこめかみを押さえていた。
「何、難しい顔してるのよ。とりあえずそんなわけだから、今の私たちは潤ってます。ぽっかぽかです。てなわけで宴会よ! もち支払いは団の資金から出すからどんどんやりましょ!」
そんな俺を見てか、エマが明るくそう言い放つ。
確かにもう悩んでも遅いのだが、悩みたくもなる。
なにせ騎士団長に目つけられているのだから。
犯罪でも犯した日には、俺だけ特別扱いされてしまうだろう。
そんな俺の心配をよそに、先ほどまでずっと顔をテーブルへとうずめていたハンスが急に立ち上がった。
「エマさん! マジッすか! 本当っすか!」
「えぇ。本当よ」
「素敵っす! 天使っす! 救い人っす! 究極の女神っす!」
エマに対しハンスは両手を目の前で祈るように合わせた。
彼が言うように本当に女神でも拝めるかのように。
「なんかえらい言われようだけど、悪い気はしないからいいわ」
ハンスの態度は普通なら引きそうなものではあったが、現在うはうはのエマにはすごく褒められたという感覚になっており、笑顔を覗かせている。
その様子を見ていた俺は、本当に悩んでいるのが馬鹿らしくなったので食事を続けることにしたのだった。
その後は、もうひどいと言うかなんと言うかすさまじいものだった。
朝っぱらから宴会を始めた俺達は、その後食堂で日が落ちるまで飲むと、まだまだ~と言って今度は酒場へ。
この時すでにリットは撃沈しており、酒に一番強い俺が彼を介抱しながら運ぶことになってしまっていた。
そして酒場へとつくと、メニューを片っ端から頼み1人1杯ずつ飲んでは、次の奴が飲むというなんとも訳のわからないゲームが始まり、結局は俺以外の全員がつぶれてしまい1人で宿屋へと運ぶこととなってしまった。
思うのだが回復が早いとはいえ、怪我人の俺に酔っ払いの介抱させると言うのはどうしたものか。
なんだかんだで笑いのある1日を過ごした次の日の朝は、案の定、阿鼻叫喚の地獄絵図とかしていた。
「つっっぅぅ~~、水~~~」
「アキラさん私にも~~」
「はいはい」
ベッドで横たわる、エマとリオへと水を運ぶ。
こうなることはわかっているのに、なぜあそこまで飲んだのだろうか。
ちなみにジェシーとハンスも二日酔い中。
リットは酔うとすぐに潰れてしまう為、二日酔いにかかることはないがいまだ夢の中である。
「こっちにもお願いするっす~~~」
「はいはいはいはい」
完璧に給仕をこなす俺。
これがギルバーン準優勝者のすることなのだろうか。
ポットに水を汲んでは注ぎ、なくなればまた水を汲みに行く。
そうやって俺の朝の時間は消えていった。
日が昇りきる頃になると、薬が効いてきたのかそれぞれ、もぞもぞと起き出した。
寝ていたリットもそれに合わせたかのように目を覚まし、身支度を整えている。
宿の関係上、今日この町を出ることになっているので、二日酔いだろうがなんだろうが関係ない。
俺達は身支度を済ませると、すぐに宿を出て王都の門まで進んでいった。
そして門で手続きを済ませ、王都の外へと出て行く。
それにしてもなんだかんだで、短い期間中にずいぶんといろいろなことがあったものだ。
絡まれていた女の子を助けてみれば、この国の王女様でびっくり。
そして幸か不幸か王女の剣の先生役を命じられてしまうし。
俺からは教えることができないとジェシーを先生に勧めてみれば、王女様と従姉妹って事で2度びっくり。
そのうえ、えらく強い騎士団長には命を狙われ、ギルバーンではぼこぼこにされと、本当に濃い思い出ばかり。
「アキラ行くわよ~」
「すぐ行く」
門を出て王都を眺めていた俺にエマが話しかける。
エマの脇には、荷物を持った夜明けの月のメンバーも俺が来るのを待っていた。
もちろんその中にはうちの癒し系、コドラとのんちゃんもいる。
彼らを見てなんとなく和んだ俺は、もう一度王都の方を向くとまたな、と意味込め、誰にも気づかれないよう拳を作り挨拶すると、彼らの元へ走っていくのだった。