閑話:現世の騎士団
「シグレ、今回はどうしたものかな?」
男がまるで茶化したように向かいに座っている女へと質問をぶつける。
隣にいる女の名前はシグレというようで、眼鏡をかけ後ろで髪を結わえている。
日本の髪型で言ったらポニーテールといって差し支えないだろう。
そのシグレなのだがどうやら何らかの書類を整理していたらしく、その作業をとめ男に向き直りこう答えた。
「はぁ、この庸兵団の団長はあなたでしょう? それぐらいご自身で決めてください」
そう少しにらみを聞かせながら男からまた書類へと視線を戻し作業を再開した。
「そんなこと言われたってな~。俺だって面白い奴がいたなら即決してるぜ? まぁいつもなら断るところなんだけど、どうもギルドの親父から直接出てくれって言われちまってるし、だからといってうちが出たら優勝決定ジャン? そんなの面白くもなんともないだろ?」
椅子に座っていた男は椅子を回転させ、背もたれの部分を前にし体を前のめりにしながらシグレと呼ばれる女へと再度声をかける。
「そいつはそうだ。俺らにかなう奴なんて見てみたいもんだぜ。だけどさすがにルギルドの旦那に言われちゃ出るしかないだろ? まぁお前のことだから旦那に言われても何回かすっぽかしてるみたいだけどな」
ベットに寝転がりながらりんごをほうばっていた男が、体を起こし椅子に座る男へと言い放つ。
「それはいわないお約束って奴だ。シュウそれにジェイラお前らどうしたい?」
「俺はそうだな……とりあえず金はほしいから個人は出とこうかなって感じか」
「私はパス。疲れるのは狩りだけで十分。それに私は目立つのあんまり好きじゃないの」
ベットにいる男の名はシュウ、そしてシグレの隣に座っている女の名はジェイラというらしい。
片方は参加の意をもう片方は不参加の意を示しており、どうも決定しづらい状況となっている。
「ん~~~どうすっかな~~~~。ばっくれてもいいんだけど」
そういって男は正面に座るシグレへと視線を送る。
どうやらシグレというこの女は、この庸兵団のブレーンらしく、その知識や知恵でこの庸兵団を支えているらしい。
「はぁ~~。あと1回くらいは逃げられますけど、今度何かしらで呼ばれたら確実に指示に従わないといろいろと面倒になりますよ。本来ならすべて引き受けてほしいのですけど」
視線を送られたシグレは観念したように頭を抱えながら、今おかれている状況を説明する。
どうも今回は参加しなくてもいいかもしれないという結論に達しているらしい。
「なるほどなるほど、それなら今回は……」
バタン!
廊下に通じるドアが一気に開け放たれ、1人の男が姿を現す。
「ちょっとした面白いニュース持ってきたんだけど聞きたい?」
「んな前置きはいいからとっととしゃべっとけ」
「ちぇ、面白みがねぇなシュウは」
「まぁまぁそう腐るなって、それでガルラドいったいなんだっていうんだ?」
ドアを開け放った男の名はガルラドというらしい。
どうもギルドからの帰りらしく、その手にはギルドから受け取ったのだろう、札束がびっしりと詰まった袋がもたれていた。
「いやそれがよう。どうやら今回面白い奴らが出るらしいんだよ」
ガルラドはシグレへその袋を渡し、椅子へと腰掛ける。
そしてギルドから聞いた情報を語り始めた。
「この前みんなも聞いたかもしれないけどレベアル事件知ってるだろ?」
「あぁたしかどっかの傭兵団の1人が倒したって奴だよな? それがどうかしたか?」
シュウがそういって自分の中にある事件の記憶を口にする。
「そうそれだ。どうやら今回その傭兵団が出場するらしいんだ」
「へ~それで?」
「それでって……それでじゃないだろうよ。まぁたしかにうちらにしたらそれででもすむかもしんねぇけどよ。」
シュウとガルラドのやり取りを聞いていたシグレがある一つの疑問を抱く。
「たしかその事件の当事者はまだCランクになったばっかりでしかも傭兵になってまだ1週間もたたなかったって話よ」
その言葉を聞いた全員の表情が変わる。
そして、いままでなんてことのない場の空気だったのだが、重くそして息苦しい張り詰めた感じへと変貌を遂げた。
「するってーとなにか? SSの魔物が新米ペーペーのどこのどなたとも知れない傭兵に倒されたと?」
「そういうことになるわね。ただ向こうもただじゃすまなかったらしいけれど、でもたった1ヶ月で仕事を再開しているらしいからかなりのものじゃないかしら」
シュウの疑問に対しシグレはそう答えた。
そしてその答えを発すると今まで黙って聞いていた男がフルフルと震えだしていた。
「はーはっはっと、こいつはいい。実にいいね。ガルラド確かに面白いニュースだ。シグレ今回は大会に出るぞ」
「わかったはグレン」
そういってまたシグレは作業へと戻る。
「さて現世の騎士久方ぶりに出陣だな」
グレンの表情は今までふざけていたものとは違い、心のそこから楽しそうな、しかしその楽しさの中にも感じる力強さがにじみ出ているものへと変わっていた。