第三節:最初のBランク者
「とりあえずはBランクの魔物を1匹でもいいから狩ればいいんだったよな?」
「えぇ、ギルドからはそう聞いていますわ」
朝早く、ようやく町が起き出した頃、俺とジェシーの2人は町の外にある草原の道を通って狩り場へと向かっていた。
なぜかと言うと昨日の時点でジェシーがCランクの仕事を10以上こなしたため、ギルド指定の魔物を狩りに来たのだ。
「ふぁ~~~」
大きく伸びをしながら欠伸を1つ。
そして重くなったまぶたを覚ますように目をこする。
すると、その動作が気になったのかジェシーが声を掛けてきた。
「アキラ……さん大丈夫ですの?」
「ふぁんとか。ただできることなら早く済ませて寝たい」
ジェシーの問いに答えながらも、またも欠伸が出てしまった。
ちゃんとした答えを返せないのは申し訳ないと思うが、理由があるので今回ばかりは勘弁してもらいたい。
その理由なのだが、昨日請け負った最後の仕事が原因である。
昨日請けた最後の仕事は、キャンプ場所の確保および防衛についてだ。
本来ならあの仕事はアリゲールを倒した後2時間も経てば終わるはずだったのだが、魔物の肉を焼いてしまったことにより、その匂いにつられ数多くの魔物を招いてしまったのだった。
幸い、匂いに釣られてきた魔物はランクの低い魔物だったため、簡単に倒すことはできたのだが、今度は新たに倒された魔物の血に釣られ、また違う魔物が現れると言う状況に陥ってしまった。
そんな状況が、空の色が黒から青へと変わり朝日が射しこむまで繰り返され、俺とリットの貴重な睡眠時間を奪い去っていった。
できることならそんな無駄な狩りはせずに仕事の終了時間とともに切り上げたかったのだが、切り上げようとしても集まった魔物の数が多すぎて、奴らに囲まれてしまってい、なかなか抜け出すことが出来ず結局はすべて倒すことになってしまったのだ。
もちろん一定期間あの場所を守っていたので、ギルドの仕事としては成功とはなったが報酬が追いついていないのが現状。
埋め合わせとして殲滅証明部位はしっかり取ってきたが、集まってきた魔物のほとんどがDランク以下だったため換金額はやはり労働にあったものではなかった。
そんな苦労を知ってか知らずか、エマは朝帰りの俺とリットを捕まえてギルドへと連行した。
もちろん俺とリットからは不満の声が出たのだが、いいから仕事に行くわよ、と一蹴されてしまいそれ以上の反論は受け付けられることはなかった。
せめて3時間ぐらい仮眠をさせて欲しいものだ。
とは言っても最初に肉を焼いて魔物を引きつけてしまったのが原因なので、自業自得ではあるのだが。
しかし大丈夫と言われるとは…………。
手伝いとしてきているというのに、俺のほうが気を使われてしまうとはなんとも情けない。けれど今はこんな情けないパートナーで我慢してもらいたい。
こんなぼろぼろの状態の俺がパートナーとして選ばれて不安かもしれないが、団長命令での班分けなのだから。
現在、俺達夜明けの月は別々に班を作り行動している。
その理由はジェシーがすでに規定値を達しているため。
いち早く指定魔物の討伐をしてしまおうというわけだ。
そこで今回班を2つに分け行動することになった。
1つは、エマ、リオ、リットの3人で今まで通りCランクの依頼をこなしていくもの。
もう1つは、残りの俺とジェシーで指定魔物の討伐をするというものだ。
ジェシーの実力ならば1人で指定魔物を討伐に行っても問題ないとは思うのだが、一応安全のためということで、俺がジェシーと一緒に狩って来るようにと団長命令で割り振られることとなった。
そんなわけで今はジェシーと2人でBランクの魔物を探しているのだ。
ちなみに、何で魔物の固有名詞で探していないかというと、ギルドからの指定がBランクの魔物なら何でも結構ですといわれたため。
このところ急激に繁殖したりしている魔物がいないため、ギルドで指定する魔物がいないというのが、どうやらこのいい加減な指定の理由らしい。
こちらとしては、一種の魔物に絞らなくていいため楽なので別に問題はない。
「Bランクか……ジェシーここら辺でよさそうな奴とか心当たりあるか? まぁ別にどんな奴でもいいんだけど、できれば早く終わらせたいからな」
「……それは私と長い時間一緒にいたくないということですの?」
「いやそういうわけではないんだがな……」
眠さがピークに近づきつつあったため、早く終わらせたいと言葉にした俺だったが、その言葉を聞くや否や、穏やかだったジェシーの顔が一気に怪訝な表情を浮かべた。
どうも言葉というのは難しい。
俺としてはうちの傭兵団の女性陣はひいき目に見ても綺麗だと思っているし、一緒にいると目の保養になるし何よりも得した気分になる。
そんなプラス要素しかない彼女達と一緒にいたくないわけないのだが、どうもジェシーには自分と一緒にいたくないのではと受け止めてしまったらしい。
とりあえずここはそのことを伝えておいたほうがいいだろう。
誤解されたままでいると、こちらにとっても向こうにとってもいいことはないだろうし。
「ジェシー、一つ言っておくが美人のおまえと一緒にいたくないって奴はそうはいないと思うぞ。わかっているとは思うが俺は昨日、何だかんだで寝てないんだ。それでちょっとばっかり早く帰って寝たいだけなんだ」
誤解を解くためにできるだけ笑顔で、できるだけやさしく話しかける。
「えっ、なぁ……」
それを聞いたジェシーは驚いた表情で、こちらを見返した。
まだ誤解を解くには、言葉の力が弱いのかもしれない。
ならばと、すかさず次の言葉を用意した。
「それにもし体調が万全だったなら、町で一日中デートでも洒落込みたいところだよ」
さすがにこの台詞を言う時は、俺自身恥ずかしさに耐え切れず彼女に背を向けてしまったが、こちらに敵意はなく好意しかないことは伝わったはずだろう。
誤解は解けたと思い、ほっとすると、目の前の草むらが揺れるが見えた。
「それは、その……それじゃこん」
「ジェシー、敵だ」
背中越しに聞こえてくるジェシーの声が聞こえてきたが、彼女の言葉を遮って俺は警戒の言葉を発した。
揺れる草むらの間から顔を出したのは、図鑑でも見たことがある顔。
Bランク魔物の登場だ。
「確かこいつはBランクだったよな? しかもちょうどいいことに4匹とは。2、3日で俺やリオ達もジェシーと同じように、こいつらみたいなBランクの魔物からなきゃいけなくなるわけだし、こいつらの殲滅証明部位換金せずにとっておくか」
「それがいいかもしれませんわね」
自分の話の腰を途中で折られてしまったためか、ややぎこちなさが残るものの、さすがは夜明けの月のメンバーである。
すぐに気持ちを切り替えジェシーは戦闘体制に移行した。
それに倣い、俺もまた戦闘体制へと移る。
敵は4体だ2:2で割り振る感じだろうか。
「それじゃいっちょやりますか。あぁそれはそうとジェシー、さっきなんて言おうと思ってたんだ? こいつら見つけちまったから途中で話の腰を折っちまったが、なんか気になるんだけど」
武器を構え相手に警戒を寄せつつも、俺は先ほどのジェシーの話が気になってしまい、そのことについて尋ねてみた。
中途半端に狩りに慣れてしまったせいか、狩りだけに集中すればいいのにほかのことが気になってしまっているのだ。
今はともかく、あとでこの余裕の感覚を消し去らないといけないな。
そんなことを思いながら返答のない彼女の方へとちらりと視線を送ってみた。
するとジェシーはこちらを見ていたのか、視線がぶつかる。
「な、なんでもないですわ! それよりも早く倒しますわよ」
視線がぶつかった瞬間、ジェシーの顔が少し赤くなったように思えたが、彼女はすぐに動き出してしまったため本当に赤くなったのかどうかはわからなかった。
ただ彼女の動きはすさまじく、一気に敵へと詰め寄り、次々に敵を倒していった。
そして、俺が呆気に取られているうちに、4体の魔物すべてを屠ってしまったのだった。
あまりの早さに何一つ、俺は役に立つことはできなかったが、でもこれですぐに寝ることができそうなのでよしとしておこう。
そう思い、せめてこれだけはとせっせと殲滅証明部位を集めるのだった。