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夜明けの月  作者: びるす
ギルバーン
28/89

第二節:男達の夜

 空には月と星が淡く輝き、虫の声が鳴り響く夜更け、森の一角を照らす焚き火の近くに俺達はいた。


「おい起きろリット、つらいのはわかるがお前が寝ると俺がつらい」


「わかってますよ…………ZZZzzz」


 言葉の意に反してまったく持ってわかっていない。

 リットは俺の言葉に反応して答えるものの、目はうつろでコクリコクリと頭でリズムを刻んでいた。

 もとは農村出身ということでリットとリオは寝るのが早い。

そのせいで夜起きているのは不向きなのである。

だが、今請けている仕事は夜間のものだ。

 本来なら請けるような仕事ではないのだが……。


「たく……うらむぞエマ」


 そんなつぶやき声は、周りから聞こえる虫の声によって呑まれていった。

 ランクをあげると言い出したのは昨日のこと。

目標が決まり一夜明けると、すぐさまギルドへ向かうこととなった。

 ランクを上げるだけなら自分より上位のランクの魔物を狩るのが一番手っ取り早いと思うのだが、それだけでは地力がついていかず大会を勝ち抜くことは出来ない。

そう考えたエマが出した結論は、Cランクの仕事を片っ端から片付けてランクを上げるというものだった。

 そんなわけで朝からずっと仕事詰めである。

 丸一日働いているおかげで、俺達はすでに3つの仕事をクリアし現在4つめの仕事を行なっているほどだ。

 だがここには女性陣はいない。

いるのは俺とリットのみである。

ハンスに関しては、技術屋であるため狩りには参加せず、エマの指示通り鍛冶技術を磨いている。

 ただ、エマが親方に『むちゃな武器は作らないよう、1週間徹底的にしごいて一人前として育ててください』といって、親方もそれを快く了承していたので苦労していると思われる。


「夜更かしは美容の敵だからといって、何も俺達だけにやらせることは無いだろう……、明日違う仕事をやればいいだけなのに……」


 愚痴っぽく言葉が漏れた。

 日付が変わり、昨日受けた仕事は今なお続いている。

何が悲しくてさんざん地球でやっていた徹夜を、ここに着てまでしなくてはいけないのかと考えてしまう。

 こんな仕事を請けたエマを恨みつつ、俺は隣で気持ちよさそうに眠るリットへと声をかけた。


「リット起きろ。起きないとリオに伝えるぞ」


「だ、大丈夫です! 起きてます!」


 スーという寝息が聞こえ、本格的に深い眠りにつこうとしていたリットが勢いよく目を覚ます。

 普段は仲の良い姉弟なのだが、リットを鍛えるという時だけはリオは非常に厳しく、リットにとっては軽いトラウマとなっているようだ。


「後2時間で終わりだから我慢しろ。調査隊が帰ってきた時までここを守っていればいいだけ何だから」


「わかってますよ。ただどうしても夜は苦手で……」


 あくびをかみ殺しながらリットが答えた。

彼が夜は苦手というのはわからないではない。

彼とは逆で俺は朝が苦手であるから。

 苦手といっても8時頃には起きてはいる、ただリットやリオのように6時頃に起きることは非常に難しい。

誰にでも苦手な時間というものはあるものだ。


「その気持ちはよくわかるが、今は仕事中だ。寝ていたら怒られちまう。それに奴らの夜食になるつもりは無いだろう?」


 俺は自分の後ろを振り返らずに親指で指差した。

 指し示した先にいるのは1メートル近いワニのような魔物の群れ。

ワニのようなというかワニといって問題ない容姿をしている。

名前もアリゲールといってワニの科目のアリゲーターとよく似ていた。


「たしかにそんなつもりはありませんね」


 眠っていた時に支えとして抱きかかえていた剣の柄を握り、リットは戦闘態勢へと移行していく。

 俺も余裕をこいてかみ殺される気はさらさら無いので、武器をチョイスし戦闘体制へと移った。


(おそらく外皮はそれなりに硬いだろうが剣で倒せないわけでもないな。けど小回りの聞く武器はリットが使っているから俺のフォローとかにも入れるだろうから――こいつを実践で試してみるかな)


 そう思った俺は背中に背負っていた、スピアと盾を装備し重騎士へと変貌する。


「リット、フォロー頼んだ。俺はこいつを実践で試すからな」


「わかりました。でも、僕が危なくなったらその盾で守ってくださいよ?」


「あぁ、気が向いたらな」


 先ほどまでの眠気はどこへやら、臨戦態勢となったリットからは軽口をたたく余裕ができていた。

 そして会話が途切れると同時に行動が開始された。


(全部でひーふーみーよーっと6体か、まぁ足は遅そうだしなんとかなるだろ)


 頭の中で数を数え敵の個体を確認し、相手の特性をその姿から想像する。 

 しかし、今回はその姿から想像した特性はまったく持って見当はずれなものだった。

 アリゲールは鈍足であると想像したのだが、奴らは意外なほど素早いかったのだ。

奴らのすばやい動きを見て、思い出す。

ワニという動物の足の速さを。


「なっ! く……先手は取られちまったかな」


 一気に距離を詰め、鋭い牙で俺を噛み砕こうと襲い掛かる。

 そんな牙を何とか盾で防ぐとバックステップで距離を取った。

そして、今度はこちらから襲いかかれるようランスを付けている右手に力を込め、繰り出す一撃の準備を整えた。

 一方リットはというと、奴らとは何度か戦ったことがあるのか自分を優位な位置へと進めていく。

 どうやら火にある程度の恐怖を感じる種類らしく、その習性を利用し中心に焚き火をすえ、横から迂回し攻撃しようとしてくる奴を確実に沈めていた。


(はは、これじゃリットに示しがつかないな)


 ここは副団長の尊厳を守るため最低でも半分は仕留めなければ。

そう感じた俺はすぐさま敵の殲滅を開始した。

 ランスの特性、それは突き刺すことにある。

長く鋭利な先端を都合よく並んでいるアリゲールへ、全体重と走ることによって生まれた運動エネルギーを足した力を加えうちはなつ。

 アリゲールは俺の攻撃を見ても動こうとはせず逆に噛み付こうと、大きく口を開けていた。

しかし、それは愚策でしかなく、ランスはまるで豆腐でも突き刺すように、簡単にアリゲール達へと突き刺さっていった。


「こいつはたまげた威力だな。案山子のときも思ったが先端が異様に細いくせに頑丈だしハンスの奴マジで良い仕事しやがったな」


 突き刺したアリゲール達はぴくぴくと機械的に動いていたが、それもランスから払い落とすと動きが止まり完全なる死が訪れた。


「アキラさん終わりました?」


「あぁ、そっちはどうだ?」


「こっちも終わりましたよ。それにしてもすごい威力ですね。3匹まとめて串刺しですもん」


「やった俺もびっくりしてるよ。それにあんだけ力が加わったのに先端が折れてないしな」


 ランスの先端は赤い血で濡れてはいるが、折れた形跡はなく、すさまじいまでの破壊力に対抗できる耐久力が備わっていることを示していた。


「ふう、ちょっとしたイベントはあったがまだまだ時間が残ってるんだよな」


「内容が時間制限のものですからね……」


 アリゲールのおかげで少しばかりテンションがあがったものの、終わってしまえばむなしいもの。

 狩りの時間は数分、残り時間は約2時間だ。

 このまま待つだけではおそらくまたリットが寝てしまうだろう。

そうなればまた1人さびしく見張りの開始になってしまう。

それはどうしても避けたいところだ。

 こんな何も無いところで待つだけというのはつまらなすぎる。

ここは1つ食事でもしておくとしよう。

 そう考えた俺は魔物図鑑にも載っていたこいつらの特徴とは別の補足を思い出し、ある提案をしてみる。


「とりあえず、こいつら焼いて食ってみるか?」


「そうですね、こいつらって見た目よりもおいしいって話ですし」


 リットもどうやら図鑑の補足の部分を知っているらしい。

肉は淡白で美味と。

 俺達の夜はまだ続く。

香ばしい匂いを漂わせる焚き火のもとで。


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