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夜明けの月  作者: びるす
ギルバーン
27/89

第一節:目標

「はい、ちゅうも~~~~く!!」


 今は日が沈み始め、鮮やかなオレンジ色で空が描かれている。

空の下には子供達の家に帰る別れの言葉がそこかしらから鳴り響いていた。

そんな穏やかな夕刻の時間を土足で踏みにじっているエマの大きな声が、部屋全体に響き渡った。


「何だ急に大声を出して、もっと遅い時間だったら苦情もんだぞ」


 部屋にいる夜明けの月の団員達は、今日の仕事を終え各自自由に行動している時だった。

リッドは今日の仕事で負った怪我の治療を、リオは自分の大剣の手入れを、ジェシーはのんちゃんとコドラといっしょに戯れ、先日無理やり夜明けの月に加入させ、またも無理やり今回の仕事に連れ出したハンスは俺の銃の手入れを、そして俺はというと、ハンスに武器のメンテナンスを任せ魔物図鑑を眺めていた。

 そんな俺達の視線は注目という意味を理解しなくとも、その声の大きさにより一斉にエマへと集まっていた。


「本当に何事ですの? あまり大声を出されるとのんちゃんとコドラちゃんがびっくりしてしまいますわ」


「そうですよ。現にハンスさんなんか心臓止まったような表情してますよ」


 ハンスの様子をみてみると、リットの言うとおりびっくりしたような表情で固まっている。

今日の仕事の内容からして無理も無い。

 今日の仕事の内容はザイグルという魔物の討伐なのだが、これが思ったよりも厄介な相手だった。

戦闘能力はあまり高くないのだが、地中に潜るという特性とその異常と言うまでの大音量の鳴き声はこちらの動きを一時的に止め、逃げるという行動を遺憾なく発揮した。

 なんとか退治する事は出来たが、むりやりエマに俺達の活動見学という名目で初陣を飾ることになったハンスにとっては恐怖の根源として成り立ってしまっていた。

もともと技術屋の彼は魔物に対してなれているわけはなく、その大きな鳴き声に当てられ一時的にトラウマになってしまっているのだ。

 時間が経てば治ると思うのだが、治る前に何回か大声を出して遊んでもいいかなと思ってしまう。


「私も剣を手入れしている時にそういうのは勘弁して欲しいわ」


 そういって剣の手入れを中断し、リオが改めてエマを見つめなおす。

一時的な視線ではなく完璧に全員の注目を集めたと判断したエマは注目させた理由を述べだした。


「ごめんね~。とりあえずは何も言わずにおとなしく私の言うことを聞いてね」


 なにやら含みのある言い方ではあるが、ここで疑問をぶつけたとしても話が進まないだけなので首を縦に振り肯定の意を返す。

皆も同じように首を縦に振り、エマの口から紡ぎだされる言葉を待ち受けた。


「それじゃ、おっほん。急だけど1週間以内にみんなにBランク以上になってもらうから。もちろん団長命令で無理って言っても絶対なってもらうからね」


 エマはそう淡々と、しかしはっきりとした強い声でそう告げたのだった。

その言葉には宣言通り反論を許そうとしている様子は無い。


「わかりました。団長、とりあえず理由をお願いします」


 その言葉にいち早く反応したのはリオだった。

もちろん俺もリオと同じように理由を聞くつもりだったのだが、あまりにも突然だったため一時的に思考が停止してしまっていたようだ。


「ん~~~それじゃ問題。後1ヵ月後に何がある?」


(1ヶ月後に何があるというんだ一体?)


 この世界に来て1年と過ごしていない俺にとってそれは答えのわからない謎かけでしかない。

しかし、リオ、ジェシー、リット、そしてハンスは皆思い当たる節があるらしく、驚きの表情と共に顔を見合わせている。


「団長さん、まさかあれの連絡がギルドから来まして?」


「ぴんぽ~~~ん正解! だからみんなBランク以上になってもらうわよ」


 ジェシーの答えにエマはすぐさま反応した。

ジェシーの答えからギルドに関することだと決定することが出来たが、肝心の内容がまったくわかっていない。

 俺以外の全員がエマの答えで納得しているようだが、まったくわかっていない俺は恥を忍んで聞くしかないだろう。


「エマ、みんなわかっているみたいだがどうも俺には見当もつかん。俺が記憶喪失だってことはわかってるだろ? 頼むから教えてくれないか?」


「あぁ、そうだった忘れてたわ。ん~~~実はギルドからギルバーンに参加しないかって連絡があったのよ」


「ギルバーン?」


「そう、Bランク以上の傭兵だけが参加できる、ギルド主催の格闘祭、場所は王都マグワレで行なわれるわ」


 王都マグワレ、ガンザルの中心にありこの町からおよそ1週間ほどの道のりの場所にある。

非常に大きな町であり、この国のギルド本店がある町でもある。


「ちょっとまて、その連絡はエマにしか伝わっていないのだろ? なぜ俺達もわざわざBランクまで上げて参加しなくちゃならん」


「たしかにみんな参加する必要はないわ。でもねそれは個人戦の場合だけよ」


 エマがやけに笑顔でこちらを見返す。

あぁそうか、そういうことか。


「つまり、うちがでるのは傭兵団、チーム戦。だから全員Bランクまで上げろと?」


「正解! ギルドから傭兵団としての功績が認められているところにしか連絡が来ないから、でないてはないわ」


「なるほど。で、それとは別に個人戦での連絡もあったんじゃないか? お前何だかんだでAランクだろ」


 いつも一緒に行動しているため忘れそうになるが、エマのランクはAランク傭兵の中でも数少ないランクの持ち主だ。

そんなやつに対してギルドから話がこないわけがない。


「それは確かに来てるんだけど~私としては団体戦で行きたいかなっと……個人戦で怪我したら団体戦に影響でちゃうし」


 たしかにそれはそうだろう。

数少ないランクの持ち主とはいえ参加者は全員Bランク以上、相手も同等のまたは自分よりもランクが上の連中だ。

怪我をせずに勝ち上がることはまず不可能だろう。

 しかし、だからといって全員のランクを無理やり上げて団体戦で参加するほどのものなのだろうか。

即席のランク上げではランクに対して力不足になりかねないのに。

ましてや団体戦となったら下手したら全員病院送りの可能性も出てくる。

そんな疑問をリオの一言がすべて解決してくれた。


「たしか団体戦は優勝賞金1000ガルン、個人戦が100ガルンだったはず」


「……なるほど、金目当てか」


「うっ! ま、まぁそれはさておき明日から気合い入れていくから覚悟してね。それじゃこの話はおしまい。みんな下でご飯にするよ」


 全員のジトッとした視線を受け気まずくなったのか、そういって急ぎ足で部屋を出て行ってしまった。

 うちの傭兵団の経済状況を俺もある程度知っているので、強くそのことを批判することは出来ないが、だからといってちょいと急である。


「なんか、明日から大変なことになっちゃいましたね」


「あぁそんだな」


「でも仕方ありませんわね。うちの経済状況やギルドからの招待では格闘祭を振るのは何の利益もありませんわ」


「おれっちとしては、武器の宣伝になるから大いに結構何すけど」


「私もランクは上げたいと思ってたし、何よりリットを鍛えられるからいいかしら」


「ねぇちゃん、怖いよその含みを込めた笑い方」


 団員それぞれ色々な思惑があるだろうが、どうやらエマの命令には逆らうことは出来なさそうだ。

全員がギルバーンへの挑戦を納得し、エマの待つ下の階へと移動していった。


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