閑話:絵本
ある森のなかに、とてもきれいで大きな湖がありました。
その湖の近くで遊んでいる子がいます。
名前はロコと言ってとてもかわいらしい女の子です。
ロコにはいつも遊んでいる友達がいました。
ぬいぐるみのポポです。
ポポは、おしゃべりはしないけど、ロコにとっては一番の友達です。
今日もロコはポポと一緒に湖に遊びに来たのでした。
「うわ~、お魚がいっぱいだ~」
湖の中を泳ぐお魚さんたちは、君も泳ぎにおいでよと、まるでロコ達を誘っているようです。
「私も、あんなに早く泳げたら良いのにな」
ロコはついこの間8才になったばかり、まだ泳ぎは上手じゃないので、お魚さん達がうらやましいみたい。
「ポポ、あっちでおままごとしよう」
ロコはお魚さんたちに手を振って、綺麗なお花が咲く広場にままごとをしに行きました。
その時です。
ビューーーー!
大きな風が、ロコとポポに吹き付けてきました。
「うわぁ~~~!」
ロコはびっくりして、ポポを思わず手放してしまいました。
風がやんだあとポポを探してみますが、どこにもいません。
「ポポ、ポポ、どこにいるの~?」
泣きそうになるのをぐっと堪えて、ポポを探しているとロコの上から声がしました。
「ポポはここにいるわよ」
驚いたロコはすぐに顔を上げてみました。
すると、そこには箒にまたがった女の子が1人いるではありませんか。
しかもその女の子は、さっきまでロコが持っていたぬいぐるみのポポを持っていました。
「ポポはここにいるわ。でも私が気に入ったみたいだから、これから私と一緒に遊ぶのよ」
そう言ってポポを抱えた女の子は、どこか遠くへ飛んでいってしまいました。
「ふぇ~~~~~ん」
涙を必死に堪えていたロコでしたが、ポポを連れ去られてしまったことがわかると、ロコは泣き出してしまいました。
かわいそうなロコ。
いったいこれからどうなってしまうのでしょう?
「これこれ泣くのはおよし。かわいい顔が台無しじゃないかい」
どこからともなく声が聞こえてきました。
ロコはその声に気づき、涙で見えなくなった目をこすりながら、辺りを見回しますが誰もいません。
「こっちじゃよ、こっち。私はお嬢ちゃんの後ろに生えている木じゃよ」
ロコは声のするほうを見てみると、そこには大きな木が立っていました。
その大きな木には、おじいさんのような顔がついているではありませんか。
「さっきの子は魔女のクレアじゃよ。クレアはたぶん、自分のお城にお嬢ちゃんのぬいぐるみを連れ去ったんだよ」
「えぇ!」
ロコはすごく驚きました。
それもそのはずです。
箒にまたがった女の子が、とても怖い魔女だということがわかったのですから。
けれど、ロコは盗んだ相手が魔女だとわかっても、ひるみませんでした。
泣きたいのを必死にこらえて話を続けます。
「おじいちゃん、クレアのお城はどこにあるの?」
「この先の森を越えたところに、クレアのお城はあるよ。けれど森はとても暗いし、怖い魔物達でいっぱいだよ? それでも行くのかい?」
「うん」
ロコは大きく返事をして答えした。
ロコにとっての一番の友達を取られてしまったのです、どんな怖い目にあってもロコはポポを取り戻そうと思ったのです。
「どうやら決めてしまったようじゃね。それならばわしが言うことはもうなさそうだ。気をつけてお行きなさい。あぁそうだ困ったらこの葉っぱを破くといいじゃろう」
木のおじいさんはそういうと、体をゆすって1枚の葉っぱを落としました。
ロコはその葉っぱをしっかりとキャッチします。
「うん、ありがとうおじいちゃん。それじゃいってきます」
ロコは、葉っぱを受け取るとずんずんと、森の中に入っていきました。
しかし森の中はおじいさん木が言ったとおり、とっても暗く、ロコはすぐに怖くなってしまいました。
ロコがびくびくしながら歩いていくと、どこからか声が聞こえてきました。
「うわぁぁ~~~~~~ん」
どうやら誰かが泣いているようです。
ロコは泣いているのが誰なのか気になって、泣き声の方に向かっていきました。
するとどうでしょう。
ロコの手と同じぐらいの大きさの、小さな小さな本当に小さな男の子が泣いているではありませんか。
「どうしたの?」
ロコは心配そうに、男の子を見つめました。
その声に気づいた男の子は、泣くのをやめ顔を上げました。
「ひっく……僕のお気に入りの洋服が破けちゃったんだ」
男の子はそういって自分の洋服を引っ張って見せました。
洋服をよく見てみると、男の子が言うとおりところどころ破けているではありませんか。
「う~~~~ん」
かわいそうと思ったロコは、考えました。
お裁縫ができればいいのですが、ロコはまだお母さんのお裁縫をしているところしか見たことがありません。
自分ではどうすることもできないと思い、悲しくなったロコでしたが、ロコは木のおじいさんのくれた葉っぱのことを思い出しました。
ロコは木のおじいさんに言われたとおり、葉っぱを取り出して破いてみました。
するとどうでしょう。
葉っぱが破けたとたん、男の子の洋服に輝きながら飛んでいくではありませんか。
光が収まると、男の子の服はきれいに元通りになっていました。
「ありがとう!」
洋服が直った男の子は大喜びです。
男の子はとてもうれしそうにロコに御礼の挨拶をしました。
「どういたしまして」
笑顔を取り戻した男の子を見たロコは、自分もうれしくなってきました。
「おねぇちゃんはこれからどこに行くの?」
男の子がたずねてきました。
「これから、魔女のお城にいくの。」
ロコはポポのことを思い出し悲しくなりましたが、泣きません。
「あの魔女に会うんだね。魔女はきっとなぞなぞを出しておねぇちゃんを困らせるはずだよ。洋服を直してくれたお礼に、僕がなぞなぞの答えをたくさん教えてあげるよ」
ロコは男の子にたくさんのなぞなぞの答えをいっぱい教えてもらいました。
小さな男の子とさよならした後、ロコは怖いのを我慢して森を抜け魔女のお城までたどり着きました。
「ふぅやっとついた」
がんばってたどり着いたお城に入ると、魔女のクレアがポポを抱きかかえて遊んでいました。
ロコは勇気を振り絞って言いました。
「ポポを返して!」
「いやよ、この子は私と遊ぶんだから。でもなぞなぞに答えられたら返してあげてもいいわよ」
そう言ってクレアはなぞなぞを、出してきました。
けれど男の子になぞなぞの答えを教えてもらったロコは、すらすらとなぞなぞに答えていきます。
すらすらと答えていると、最初は笑顔だったクレア表情がだんだん変わっていきました。
そして10問目の問題を答えた時、クレアはとうとう泣き出してしまいました。
「どうしたの?」
ロコは、急に泣き出したクレアにびっくりしました。
「もうなぞなぞないの! これじゃまた私1人になっちゃうよ」
どうやらクレアはこのお城で1人で暮らしていたようです。
1人でさびしかったのでしょう、だからあんな意地悪をしてきたのです。
ロコはだんだんクレアがかわいそうになってきました。
「それじゃ、私と友達になりましょう」
ロコはそう言いました。
これにはクレアはびっくりしました。
クレアは泣くのをやめて、ロコに聞き返します。
「え! いいの? 私意地悪ばかりしていたのに」
「うん、だから今度は私と一緒に遊びましょう」
ロコはそういってクレアに手を差し出しました。
クレアは恐る恐るロコの手を取り、握手をします。
そして2人で笑いあったのでした。
こうしてクレアと友達になったロコは、ポポを返してもらい、毎日楽しく遊びました。
おしまい。