第十節:最後の仲間
武器を預けてはや十日。
ようやく新武器の完成日だ。
ほかのみんなは、武器の打ち直しだけだったため3日間だけで済んでしまい、武器を受け取った次の日からは普通の狩りへと出かけていった。
ちなみに、武器の打ち直しは俺の新武器作成の場所。
ハンスがいるあの工房に預けていた。
なぜそこになったかというと、深い意味はなくエマがそこでって事で決定したためだ。
そしてみんなが武器を預ける時に俺も残りのパーツとグローブ、銃を預けカートリッジシステムの交換をもっと早くできるよう追加注文しておいた。
そのため俺の手持ちの武器は一切なくなってしまったのだ。
俺だけ武器を持っていないからといって、狩りに休みはない。
ほかのみんなはすでに磨き上げられた武器があるのだ、当然といえば当然といえる。
もちろんその狩りに全員さんかであり、武器無しだからといって仕事をしなくていいわけではない。
しかたなく俺は拳と蹴りのみで魔物とやり合うはめに。
しかし、それだけではやはり決定打に欠けてしまい、サポートについてもらったジェシーにほとんどおんぶに抱っこの状態になってしまった。
「まったくしかたないですわね」
そんな言葉をジェシーから守られ、鼻で笑われながら言われてしまい軽く落ち込んだりも……。
その後エマに、
「あの子の言葉、そのまま受け取っちゃお互いにかわいそうよ」
と訳のわからない慰めも受けたが、どちらにしろ凹むことには変わりなかった。
「だがそれも今日まで! ようやく完成した俺の武器を早速拝見といこうじゃないか!」
武器を預けてからのことを思い出しながら歩いていたため、周りの状況を気にせずに大声を出してしまったのだが、後悔先に立たず、周りから突き刺さる視線が痛い。
とりあえず、視線を振り切るように早足でハンスのいる工房へと急いでいった。
「ハーーーンス! 武器取りに来たぞーーーー!」
ドアを開き中に入っても今日はハンスの姿は見えず、入り口付近で仕事をしていなかったハンスを呼び出すため、大きな金属音の鳴り響く工房の中、声が届くよう大声を出した。
「ういーーーーっす! 今行きます!」
どうやら奥のほうで作業をしていたらしく、その声は何とかハンスのものだとわかる程度だった。
おそらく大声で答えたのだろうが、金属音や炎の音が響いている工房だ。
声がかき消されるのも無理は無い。
奥のほうから人の気配が徐々に近づきはじめ、かすかに足音が聞こえる頃になってからハンスの姿を確認することが出来た。
「久しぶりだな。俺の武器はちゃんと出来てるか?」
「ばっちり! 驚きの出来ばえっすよ!」
「ずいぶん自身ありそうだな。これは期待していいのかな」
「期待してください! なんたって親方に元の鉄くずに戻されること17回、ようやく許しが出たやつっすから」
「……なんかそう聞くと期待していいのかどうか心配になってきたぞ」
「本当に大丈夫っす! 親方もやればできるじゃねぇかってほめてくれた一品っすから」
どうやら本当に期待してよさそうだ、親方の言葉から察するに俺が買った武器同様低い確立のなか大当たりを見事引き当て製作されたものらしい。
「まぁそれなら安心だな。それじゃ早速見せてもらおうか」
「うっす! それじゃいくっすよ。それ!」
そういってハンスは自分の横においてあった布を引っ張った。
どうやら効果的に見せるための演出をしたかったらしい。
しかし、こんな近くにあったとは気づかなかったな。
「盾ッと……ハンマーか。それとこっちの長いのはランスか。」
「そおっす。色々と考えた結果、威力重視でハンマーが生まれて、そのハンマーに合うものとして盾が生まれ、盾に合うものとしてランスが生まれたっす」
鉄の綺麗な黒光りを放つそれぞれは見事な出来栄えだった。
ハンマーは鎖でつながれており投げた後もちゃんと回収可能になっている。
また殺傷力を増すために、ただの鉄の塊ではなくドリアンのようにトゲトゲがついている。
これなら硬い敵でも有効だ。
次に盾だが表面は攻撃を受け流しやすいよう少しカーブがえがかれている。
大きさも縦、横ともに1メートルを超えているので、ほとんどの攻撃を受けることができるだろう。
そして最後にランス。
1メートル50センチはあるだろうか、先端は針のごとく細く鍛え上げられ柄のほうに近づくにつれ太さを増していく。
中世の騎馬で使われていたランスに近い感じだが、騎馬に乗って戦うわけではないのでそこまでは長くしなかったのだろう。
それでもこの長い槍から繰り出される突きの貫通力は、今までに無いものになるだろう。
「なんかいい感じだな。とりあえずつけて試してみたいんだが、どこか広い場所は無いか?」
「それならここの裏庭でやるといいっす。一応そこで武器の最終調整として試し切りやってもらってるところっすから。アキラさん案内しますんでついてきてください」
そういって工房の奥のほうへと進んでいくハンス。
まてまて、もしかしてこの武器は俺が運ぶのかな?
まぁ、俺がもてなかったら武器としては使えないんだけど俺一応お客さんなんだけどな……。
そんなことを思いながらも、早く試してみたいという気持ちが勝ち、立てかけてあった武器を抱えハンスの後を追った。
予想通り、ハンマー、盾、ランスともかなりの重さである。
だが、扱えないほどの重さではない。
むしろ、高威力の武器を持っているという感じがする。
ハンスの後ろを歩いていく時、胸の高まりを感じた。
新しい武器のためしということで感情が少しずつ高まってきているようだ。
工房のドアを3つほど開けると、裏庭に達したらしく外気の風が吹き込んできた。
「やはり工房の中は暑いな。日が出てる外の気温のほうがまだ涼しいなんてな」
「しかたないっすよ。火をつかわなきゃ鍛冶屋なんてなんもできないっすから」
「そりゃそうだ。そんじゃいっちょ試させてもらいますか。ハンス、グローブやほかの武器はどこだ?」
「そこの棚に準備しておいたっす。そいつらもちゃんと改造して付け外しが簡単になったっす」
ハンスが指し示した棚には、以前よりも綺麗になっていたパーツがあった。
よく見てみるとパーツはすべて柄の部分が変わっており、今までグローブに差し込む形でつけていたものが、どうやらかぶせるように変更されたみたいだ。
「ほ~~~。それでどんな感じで付けたり外したりするんだ?」
「つけるときは見たまんまっす。被せるだけで接続できるようになってるっす。外す時は武器をつけているほうの拳を思いっきり握って腕の裏側にあるボタンを押せば取れるっす」
百聞は一見にしかず、とりあえず試してみることにした。
棚においてあったグローブを装着し、クローパーツを被せてつけてみる。
するとガキンと金属音が鳴りしっかりと固定された。
「おぉ! 装着は早いな! それじゃ次は外してみるか」
ハンスが言っていたとおり、拳を握りボタンをたたいてみる。
またもガキンと言う音が鳴り固定されていたクローパーツが重力に逆らうことなく落ちていく。
「おーーーー! よくやったハンス! これならすぐに武器変えることができるな!」
年甲斐もなく大声を出して喜んでしまった。
実際今までと比べると差は歴然だ。
このスピードなら、仲間の援護が無くてもパーツを変えることができる。
「よし今度はハンマーと盾でも装備してみるか。それにしてもハンマーのほうはやけにとっての部分が入り組んでるな。なにか変わった機能でもついているのか?」
「そうっすね。ついているといえばついているっす。とりあえずは装備してみてください」
ハンスに言われるがまま、新パーツの盾とハンマーを装着してみる。
今までのパーツに比べ3倍以上の重さだが十分扱えるレベルだ。
「装備したっすね。それじゃ親指のとこにある赤いボタンを押しながら投げてみて欲しいっす」
「とりあえず投げればいいんだな。それじゃよいっしょっと」
ハンマーについている鎖を持ち、グルグルと遠心力をつけ投げ飛ばした。
するとハンマーの鎖がするするとグローブとの接続部分から出て行っている。
「なるほど、押しながらだと伸びるわけか。でもこんなに長くちゃ使いづらいな。この鎖元に戻すにはどうするんだ?」
「赤いボタンの横にある青いボタンを一回だけ押し欲しいっす。そうすると……」
「ん? これか」
俺はハンスの説明が終わる前に赤いボタンを押す。
するとなにやら、右手が引っ張られる感覚が。
「お、自動で巻いてくれる……の……ガッ!」
引っ張られる感覚はハンマーを引き寄せているために起こったものだった。
その場で動かずにいると、勢いよくハンマーが戻ってくる。
どうやらかなり力の強いゼンマイ仕掛けが組み込んであるらしく、ハンマーをグイグイと引き寄せ空中に浮かせるほどの早さだ。
戻ってくることに感動していた俺はハンマーが戻りきった時の反動を計算に入れていなかったため右手にはあまり力を入れてはいなかった。
それがまずかった。
力の入れていない右手はハンマーの反動に耐え切れず、そのまま半円を描くように体の後ろに持っていかれてしまった。
「いってーーーー! ハンス! てめぇこんなに力が強いなら事前に言っておけよ! 右肩脱臼しかけたじゃねぇか!」
「すまねぇっす。 でもおれっちがそのこと言う前に押しちまうんすもん、どうしようもねぇっすよ」
「お前の言い分もわかるが、それにしちゃずいぶん威力高すぎだろ。早く戻ってきていいけど……」
左手で右の肩をさすろうとしたが盾がついたままだと邪魔でうまくさすれない。
後でランスを試す時もつけるのでそのままにしておこうと思ったのだが、付け外しが簡単になったことを思い出しすぐに盾を外し右の肩をいたわる。
「一応これでハンマーのほうはわかった。後はランスだな。こいつは何か突けるものがあるといいんだが……あの試切り用と思われる案山子突いていいのか?」
「いいっすよ。そのためにある案山子っすから」
「んじゃ遠慮なくやらせてもらうか」
肩の痛みが落ち着きはじたので右肩をさするのをやめ、ランスと盾を装備する。
ランス自体の重さはハンマーよりは無いが、長さがあるためハンマーよりも重く感じる。
「少し重く感じるが、盾と組み合わせるとまさに攻防一体って感じだな」
盾で自分の体を出来るだけ隠し、槍を突く。
この動作だけである程度の魔物なら倒すことができるだろう。
もっと大きくダメージを与えたい時はそのまま突撃といった感じだろうか。
ただすばやい敵には不向きな感じだ。
もっともその時のためのカートリッジシステムなのでよしとしておこう。
「うりゃーーーー!」
ランスの重さを確認しある程度動き回って体にランスの重さを覚えさせた俺は、もっともダメージが取れると思われる攻撃方法、突進を案山子に試してみた。
槍の先端は非常に細いためかかる圧力は相当なものだ。
ランスは深々と案山子に突き刺さりそのまま案山子を二つに裂いてしまった。
「す……すごいっす! あの案山子の中心には丸太が入っているんすけどそれごと二つに裂いてるっす!」
「かなりの威力だな。これならどんなものでも突き破れる気がしてくるな」
「どうすか? 気に入ってもらえたっすか?」
「あぁ、とりあえず満足かな」
そういってハンスのほうに振り返り笑顔を返事として返す。
「ふう、よかったっす。それじゃ支払いお願いするっす。武器の改造、打ち直し、製作、すべて合わせておまけして30ガルンっす」
「…………まじで?」
「まじっす」
笑顔だったのもつかの間、表情が一変する。
予想以上の金額にちょいとばっかり眩暈がし始めてきた。
金が結構かかるとは予想していたがまさかここまでとは……。
(財布の中身は……20ガルンしかないよな)
「……ハンス」
「なんすか?」
「20に負けろ」
「むりっす」
「つか20しかない」
「…………えぇーーー! それじゃ材料費分ぐらいにしかならないっす! 俺の給料アキラさんの支払いからでるんすから払ってくれないと俺死んじゃいますよ!」
詳しくそのことを聞いてみたのだが、どうやら10日間のほとんどを俺の武器作業だけをやっていたらしく、そのため給料は俺の支払い依存ということになっているらしい。
ただそんなことを言われても無いものは無い。
さてこまったものだ。
俺はどうにかならないかと考えてみる。
そうするとひとつの妙案が浮かんできた。
「ハンス」
「今度はなんすか?」
「お前夜明けの月に入れ」
「……えぇーーー!」
「入って専属鍛冶屋として活動しろ。給料は俺らの狩りの出来高って事で。うん、それがいいそうしよう。それじゃ一緒にギルド行こうな」
そう言いきった俺の行動は早い。
ハンスが整備した武器や弾を鞄に仕舞い始めた。
盾やランスなどは鞄に入らないので、背中に背負い込む形で持ち運ぶ。
「ちょ……ちょっとまって欲しいっすーーーー!」
「ああーーーーああーーー聞こえない聞こえない」
何を言っているのかは聞かなくても予想は出来るがそんなことは関係ない。
なんたって金が無いんだしかたないだろう。
俺は驚愕に打ちひしがれているハンスの襟をつかんで引きずりながら、ギルドへと向かったのだった。