第八節:ジェシー
「最悪ですわ……」
ベッドからようやくはいずることはできたものの頭はガンガンと鳴り響き、じっとしているだけなのに吐き気を催す。
このように体の状態も最悪なのだが、私が言葉に出してしまった最悪の意味はアキラ様に醜態を見られてしまったことだった。
「何であんなに、飲んで平気ですの? 私も幼少の頃からホットワインを飲んでいたのでかなり強いはずですのに」
私はベッドに腰掛けそうつぶやく。
すると私の隣で同じようにうなだれていたリオが、辛そうにしながらも体を起こしてそれに対し同意してくる。
「たしかに、異常だったわね。ジェシーもたしか3本はボトルを空にしていたはずなのに、アキラさんその倍は飲んでいたから」
リオが言うとおり、私はアルコール度25%ぐらいはあるだろうお酒のボトルを3本空けていた。
だけど、それと同じ物をアキラ様は少なくても6本以上は空けていたのだ。
普通それだけ飲めば、倒れてもおかしくないはずなのに。
「あんなにお酒は強くなかったと思ったんだけどな~~~~」
私とリオの会話に団長が加わってきた。
彼女もかなり呑んでいたため、私達と同じように二日酔いである。
ただ私やリオよりも体調が悪いようで、まだベッドに横たわっていた。
「団長さん、どういうことですの?」
「いやね、あった頃に1回飲んだんだけど、その時は昨日より飲んでなかったのに、二日酔いになってたから」
団長の言葉に耳を疑う。
あれだけ飲んだのに平気な顔をして買い物に出かけるような人物が、1ヶ月ぐらい前には私たちと同じ状況になっていたなんて。
そんな短期間であそこまで強くなるものだろうか。
あまりの非常識ぶりに、やはり普通の男とは違うと私は心から思う。
「なにからなにまで規格外ですわね。でも、それでこそ私の夫にふさわしいですわ」
「…………ジェシー? なんで私達の前だと普通に好きだ、夫だっていえるのに何で直接アキラに言わないの?」
軽い笑みを浮かべながらそうつぶやいた私の言葉に、団長が疑問を投げかけてきた。
何で直接いえないかなんて、そんなことは決まっている。
「そ、それはその…………なんというか……は……しいじゃない」
「え、なに?」
「ですから、恥ずかしいんですわ! いきなり殿方に愛の告白なんて!」
「「「つぅ……」」」
怒鳴るように大声を上げてしまった私はもちろん、大声によりほかの2人も頭を抱えてしまう。
もちろん二日酔いのせいである。
それはさておきなんで恥ずかしいかというと、私はこれまでに何度か告白はされたことはあるものの、いまだかつて自分から告白したことがないのだ。
そのため私は告白の仕方がまったくわからない。
今までは、この人だ! と感じる人物が存在しなかったためそれでもよかったが、ここに来て現れてしまったのは少し問題である。
「……私としては、みんなにそう言いふらしているほうが恥ずかしいと思うんだけど……」
リオがそう言ってくるが、あの方と他の人間とではまるっきり違う。
「それは別にいいんですわ。あの方以外は、ただの人と同じですから」
「ふ~~~ん、でもさすがにあれだとあなた勘違いされるわよ」
「うっ!」
団長にそう言われた私は言葉を詰まらせた。
そして昨日の飲み会を思い出す。
私は、アキラ様の隣に座ることが出来たのだが、アキラ様に話を振られても、『ふ~ん』『それで?』と高圧的態度を取ってしまったのだ。
しかも、目を合わせるなんてそんな恥ずかしいことは出来ず、視線があってしまった時はすぐにそらしてしまう。
そう私は、アキラ様に対してはいつもと同じような反応が取れないのだ。
「き、きっとやさしいアキラ様なら気づいてくれますわ。そして私の愛も感じてくれるはず…………」
「そうな風にはどうせ考えてないんでしょ? 自分でもまずいと感じてるのに気づいてもらうなんて無理よ」
私の胸をリオの言葉がグサリと突き刺さり、ガクリとうなだれた。
リオの言うとおり、自分が発した言葉とは正反対の答えが頭の中をよぎっている。
「言われなくても……わかっていますわよ……。ただ、やっぱり恥ずかしいんだから仕方ないじゃない!」
「「「つぅ!」」」
またしても3人同じように頭を抱きかかえる。
感情の高ぶりのせいで、二日酔いであることを忘れていた。
けれどその痛みで少し冷静さが戻ってきた。
「大声出してごめんなさい。とりあえず、もうこの話しはやめにしましょ」
「そうね。さて、いい加減もう昼だし起きるとしますか」
団長はベッドをもぞもぞと這い出すと、誰もいないかのように着替えを始めているではないか。
だが、この部屋にはまだ男が1人いる。
「ちょっと団長さん! なに脱いでいますの? まだリットを追い出していませんわ!」
「それなら大丈夫。昨日あなたも見たでしょ? リットのお酒の弱さ。お酒を飲んだリットは1日中寝てるはず」
私の注意に返答したのはリットの姉でもあるリオだった。
彼女いわく、どうやら母親に体質が似たらしく、非常にお酒に弱いとのこと。
「でも……」
「気にしない気にしない。さっさあなたも早く着替えちゃいなさいよ」
それでももしものことがあったらと、一言言葉が漏れるが団長はあっけらかんと答えるのだった。
団長に習うように着替え始めていたリオは、すでに着替え完了しており残るは私1人。
それを見て私は覚悟を決める。
「しかたないですわね。それじゃ着替えますわ」
そう言って私が上着を脱いだ瞬間、ガチャリとドアを開ける音が。
「今帰ったぞ~。まだ、寝てるの…………か…………」
「きゃーーーー!」
思わず私は水が大量に入っている鉄製のポットを、ものすごい勢いでアキラ様に投げてしまいました。
私の下着姿を見て唖然としているアキラ様は、避けることも防ぐことも出来ず、顔面にそれはそれは深くポットをめりこませていました。
「デ、デッドボール……」
ポットをめり込ませたままそういい残すと、アキラ様はリットと同じように次の日の朝まで目を覚ましませんでした。