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夜明けの月  作者: びるす
新生夜明けの月
18/89

第五節:女性陣の試験

(こ、これはきついかも)


 アキラ達と別れてから数分、短時間しか過ぎていないのにそう感じている。

これからパーティーまでやらねばいけないというのは相当きつい。

 引きつった笑顔を浮かべつつ、パーティーの仲間達に気づかれないように私は目的地である狩場まで歩みを進めている。

 なぜ私がきついと感じているかというと、ほとんどの受験者がミーハーだったということだ。

 Aランク以上の傭兵は、数は少ない。

女の傭兵ともなれば余計である。

 けれど私のランクはAランク。

普通の女の傭兵から見れば、憧れの存在なのだ。

 そんなわけで、私は彼女達から羨望のまなざしで見つめられた上、サインだの握手だのをせがまれ、それに答えるたびに『きゃーきゃー』と騒がれている。

 まぁ私の実力からすればそうなってもおかしくはないのだが、うるさいことこの上ない。

 他にもレベアルを倒したアキラを目当てで入団を希望する奴もいたりと、不安が増すばかり。


(こんなんで、倒せるのかしら)


 マイナスに傾く感情は、最初から抱えていた多少の不安を、一気に膨らませ今では頭痛を感じるぐらいになっていた。

できる事なら胃に穴が開く前に、今すぐ帰りたい。


「エマさん、スヌーの行動パターンを教えてくれませんか? 学校で習った事ぐらいしかスヌーについて私は知らないので」


 握手してください、サインをください、と私にかける言葉のほとんどがそれだったのだが、急にまじめな質問をされる。

 振り返って声の主を確かめてみた。

 そこに立っていたのは、たしかリオと名前は言っただろうか。

 髪型は茶系統のショートカットで、身長は140ぐらいと小さく、女の私から見てもかわいいと思う少女だ。

 だがそれ以上に印象的なのが、自分の身長ぐらいある大きな大剣を背負っていることだ。

こんな小柄な少女が、この剣を触れるのか疑問しか浮かばないが、きっと考えがあってこの武器を手にしているのだろう。

 そんなリオはまだあどけなさが残る顔立ちを、まじめな表情で固めて私を見つめている。


(なんかもう、この子だけ入団させたい気分だわ)


 リオは、私にサインと握手を求めてはこなかったため印象が非常に良い。

その上ちゃんと入団テストである狩りについて詳しく聞こうという姿勢が、さらに私の心を動かした。

 ちなみに、サインと握手を求めなかった人物はもう1人いたのだが、その子はアキラ狙いであったためミーハーな子達より印象は悪い。

 まだ10分少々しか経っていないうちに、私の中で入団候補が1人のみに絞られた。


「そうね……一応知っていると思うけど、スヌーは草食の魔物で食べられる心配は無いわ。ただ、彼らは縄張り意識が非常に強くて、敵だと思ったら一直線に突進してくるから、対処法としては見つから無い様に不意をついて攻撃するか、あえて自分が的になり攻撃が当たる瞬間に避けて自爆させるかかしら。今日は人数が多いから不意をつくのは無理そうだから、自爆を狙う感じかな」


「わかりました。なにか彼らをひきつける手段はありますか?」


「たしか、ひらひらしている物を見ると突撃してくる傾向があったわね。そうね――あなたが着けているフード付きのマントとかであおったら間違いなく突っ込んでくるわ」


 リオのマントを指差して、答えると彼女は自分のマントを見つめなにやら考え込んだ。

 しかし、すぐさまその行動は中断させられる。

考え込んでいるリオの横から茶々が入ったのだ。


「大丈夫ですわ。そんな事しなくても私が1匹残らず倒してあげますから。あなたと団長さんはただ見ていてください。そして私の勇士を余すことなくアキラ様に伝えていただければ結構ですから」


 口を挟んだ後、ふふふふと聞こえそうになるぐらい、妄想全開にして目を瞑り天を仰いでいるのがジェシーという子である。

 この子は顔もスタイルも良いのだが、アキラ狙いというかなり不純な動機の入団志望者である。


(アキラもこんな子に好かれるなんてご愁傷様)


 気の強そうな子であり、なにやら色々と問題を巻き起こしそうな人物なので、心の中でアキラへと手を合わせ慰めとしておいた。

 彼女の言動については、あえては突っ込まずとりあえず黙っておく。

 こんな感じの緊張感のない会話が、他の受験者達の間でもなされており、私の不安はまた一段階大きくなったのだった。

 そんな不安を拭う事が出来ないまま、狩場に到着してしまった。

 辺りには、つい最近掘り返されたような穴が無数に出来ている。

 それもそうだろう。

ここはスヌーに襲われた畑なのだから。

 スヌーが犯した罪は、農作物荒らし。

 それはもうひどいありようだったらしく、荒らされた農家の人は今年の収入を期待できなくなってしまったらしい。

おまけに、止めようとした農家の主人は角で突かれ重傷を負ってしまったという。

 スヌーとは獣系の魔物である。

 2本の角を持ち、4足歩行をする魔物だ。

 そういえばアキラにこの魔物のことを伝えたら、ウシが小さくなったようなやつだなと、つぶやいていたけどウシっていったいなんなんだろうか?

 とりあえずそのことはさておいて、攻撃方法なのだがこれはいたって単純、突進のみである。

 けれどその突進は単純だからこそ威力は大きく、下手すれば命を落としてしまうほどだ。

 夜明けの月主催でのパーティー戦で死人はごめんである。

 ここは1つ、気合を入れ直させ、自分の身は自分で守ってもらわねば。

そう思った私は、浮かれ気分を一掃するため注意を促した。


「みんな、よく聞いて。スヌーは突進さえ当たらなければ怖い魔物じゃないわ。だけど、油断していると痛い目にあうから覚悟して」


 すこしドスを聞かせたのが効いたらしく、無駄話がやみ、皆の表情から引き締まったのが見て取れる。

これならまともに狩りが出来そうだ。


「大丈夫ですわ、私がすべて狩って差し上げますから」


 1人いろんな意味で飛びぬけているジェシーに苦笑いを浮かべつつ、狩り開始の音頭を取る。


「よし、それじゃ狩りを開始しましょう。情報によるとスヌーは5匹で1つの群れとして行動しているらしいわ。こっちの人数のほうが多いから1匹に対して2人以上で当たるようにしてね」


 皆がうなずくと、狩場の雰囲気が張り詰めてくる。

 狩りをするのに世間話なんて一切いらない。

ただ騒いでいるだけなら、町娘にだって出来る。

私達は傭兵なのだ、戦えてなんぼの商売なのだからこうでなくてはいけない。


「それじゃ、こっちで割り振る……暇は無いみたいだから隣にいる人と組んでね」


 話しの途中で私の目が、5つのシルエットを捕らえた。

 間違いなくスヌーである。

私が発見してすぐに相手側もこちらに気づいたらしく、鼻息を荒くし今にも突っ込んでこようとしていた。


「みんな怪我には注意してね。それじゃいくわよ!」


 作戦をしっかりとたてないまま狩りが始まったことに、不安が残るもののこちらのほうが数では圧倒的に多い。

油断さえなければ問題ないはずである。

 この予想は当たり、確かに戦闘での問題はあまりなかったのだが、スヌーよりも厄介な出来事が起ころうとは、この時の私には思いもよらなかった。


「足と目線をよく見て。足で突撃のタイミングを目線で走ってくる位置を特定して」


 私はパーティーのメンバーにスヌーの行動の読み方を教えつつ、後ろへと下がる。

 これはあくまでも入団試験、私自身が奴らを相手にしたら意味が無い。


「ほらくるわよ。左右に避けて後ろの柵に体当たりさせて」


 彼女達は言われたとおりに戦闘をこなすものの、ここぞというタイミングでの決定打に欠けていた。

 今の行動も、柵に頭をぶつけたスヌーに対し斬りかかるチャンスだったのだが、彼女達は斬りかかろうとはしない。

 現状で一番のチャンスはスヌーが自爆した直後、このタイミングを逃しているようでは団員もとい、傭兵失格に近い。


(あの子とあの子、そしてあの子もダメね)


 完璧に傍観モードに移行した私はペンをとり、用紙に書かれている名前の脇に×印をつけていく。


(やっぱり、女の子の傭兵ってここぞという時に弱いのよね)


 自分も女なのだが、あまりにもチャンスを生かせていない彼女達を見てそう思う。


「ふう」


 軽くため息をついた私は、注目株のリオに視線を移した。

どうやら、集団とは少し離れた位置にいるようで、いまだに狙われていないらしく、こちらはこちらで攻撃のチャンスがないようだ。


(この子はいいかなと思ったんだけどダメなのかな)


 淡い期待が消されそうなのを残念に思っていると、彼女がマントを脱ぎ、ひらひらとはためかせ始めた。

 あまりにも、狙われないので痺れを切らしたのだろう。

自ら誘い込むつもりらしい。


(おお! これは面白くなってきたわね)


 その行動に、私はワクワクと心を弾ませながら、彼女をジッとみつめた。

 ようやくリオの行動に気づいた一頭のスヌーが、鼻息を荒くし一直線に突っ込んできた。

距離は見る見るうちに縮まり、後5mといったところまで近づいてきた。

だがリオは避ける行動を一切取っていない。


「リオ! 避けて!」


 回避するにはすでに遅いとわかっていても彼女の対応のしなさに、あせった私はすぐさま回避行動を取るよう大声を出した。

 しかし、リオはその場から一歩も動こうとせず、代わりに腕を背負っている大剣までもっていき一気に振り下ろしたのだった。

 振り下ろされた大剣は、突っ込んできたスヌーを、まるバターを斬るように真っ二つにした。

二つに斬れたスヌーの体は、リオの横を通り抜け柵にぶつかるとそのまま引力に逆らうことなく崩れ去った。


「おぉ! かっこいいー!」


 私は危険を冒して攻撃したことを咎めることもなく、そのあまりにも綺麗だったその一振りに素直に賞賛の意を表した。

 私には、あんな攻撃が出来ないのですごいと思う。

あの体であんな大剣を軽々と振り回すなんて、下手したらアキラよりも力があるのではないだろうか。


「なかなかやりますわね。次は私の出番といったところかしら?」


 そうリオに話しかけたのは、アキララブのジェシーであった。

 どうやら、近くにいたものと2人組みになるようにと言ったため、リオと一緒になったらしい。

かなりの自信たっぷりに私達に見ていればいいといっていたが、本当に大丈夫なのだろうか。

 私はリオから今度はジェシーへと視線を移し、観察しはじめた。

 ジェシーの武器はリオとは対照的にあまりにも細い剣、レイピアである。

 レイピアを胸元近くに持ってきたジェシーの構えは、立ち振る舞いからして優雅で、今から社交ダンスでも始めるかのようにきっちりとしていた。


(おぉ! あんまり期待してなかったけど結構掘り出し物かも)


 そのビシッと決まった立ち振る舞いを見た私は、第一印象を改めることになりそうだ。


「さあ来なさい! この下種どもが!」


 あまりにも高圧的で、相手の神経を逆なでする挑発がスヌーへと向けられた。

 挑発に2匹のスヌーが反応し、勢いよくジェシーへと突撃してくる。

それを確認したジェシーは、何を思ったか勢いよくスヌーのほうへと駆け出した。

距離は一気に縮まり、ぶつかる! そう思った瞬間ジェシーは勢いよく地面をけり空へと舞い上がった。

 そして突っ込んできたスヌーに手をついて、華麗に体を逆立ちさせると、スヌーの首筋へとレイピアを突き刺した。

 急所を突かれたスヌーは、ジェシーが地面へと着地するのとほぼ同時に地面へと突っ込み、体をぴくぴくと痙攣させて、仕舞いには動かなくなった。

 突っ込んできたもう1頭は目標物が急に消えたので、戸惑いその動きにブレーキをかける。

 

「こっちですわ」


 後ろからジェシーが声をかける。

 その声に反応し振り返ったスヌーだったが、振り返った直後に首にレイピアが突き刺さった。

体勢を立て直したジェシーがレイピアを投げはなっていたのだ。


「ふぅん~どうかしら? こんな事あなたに出来て?」


 自慢げに笑みを浮かべながら、ジェシーがリオへと振り向いた。

しかし、リオはジェシーの方に顔を向けず、違うほうへと視線を向けていた。


「ちょっと! ちゃんと私の話を聞いていまして!?」


 無視されるのがすごく嫌いらしい。

 無視されたジェシーは微妙になみだ目になりながら、体をフルに使って自分に向き直るようにアピールしている。

 もしかすると、挑発的な態度を取っているのは実は誰かにかまって欲しいだけなのかもしれない。


(口は悪いけど、悪い子じゃないっぽいわね)


 私は第一印象で彼女の名前の横に記入した×印を斜線で消す作業を行うと、ほかのメンバーへの観察に移る。

 こっちで3頭ほど倒しているのだから、1頭ぐらいはと思ってはいたのだが、彼女達はいまだに手をこまねいているようで、チャンスを生かそうとすらしていなかった。


(うわ~~~こっちは全滅だわ。とりあえずはあの2人だけになるのかな)


 使えないと判断した受験者達から視線をはずし、また彼女達へと視線を戻すと、その2人はなにやら先ほどのことで言い争っていた。

 言い争うと言っても、一方的にジェシーがリオに難癖つけているだけのようではあったが。


「いいですの? 今度からはしっかり私の活躍を確認してくれます? そうでなければ誰がアキラ様に私の勇士を伝えるというのですの?」


「危ないわよ」


「ちょ、ちょっと何をしますの!」


 リオがいきなりジェシーを突き飛ばした。

 大剣を軽々しく振るうリオの突き飛ばしは、軽く押しただけなのに、ジェシーを結構な勢いで吹き飛ばしていた。

 だがそれでよかったのだろ。

 ジェシーのすぐ目の前をスヌーが一直線に通りぬけていった。

あのまま動かなければ、間違いなく直撃していただろう。

 通り過ぎていったスヌーは、そのまま柵にぶつかり動きを止める。

そこにリオが大剣を振るいしとめ、ジェシーへと向き直った。


「……一応感謝しますわ。ですが最後の1匹は私が仕留めますわよ?」


「私がやるわ」


「そう、なら早い者勝ちですわね!」


 お互いに得物を構え、突撃してくるスヌーを迎え撃つ。

すでに、ほかのメンバーは避けることに疲れて彼女達に任せている様子だった。

 自分よりも強い2人に迎え撃たれたスヌーは、その生を許されることなくこの世から消え去っていった。


(うん、き~めた)


「みんなご苦労さん。討伐も終わったことだし、ここらでお待ちかねの結果発表~~~~パフパフドンドン」


 すべての魔物が狩り終わり、皆を一箇所に集め試験の結果を告げることにした。

 半数以上の受験者達が息を切らし暗い顔をしていたため、私自ら、効果音をつけ場を盛り上げようとしたのだが、いまいちノリが悪く、驚いたように目を丸くさせるだけとなってしまう。

そんなんじゃ、社会人としてやっていけませんよ。


「コホン、それで夜明けの月入団合格者なんだけど、リオ、ジェシー、あなた達2人に決定ね」


「ありがとうございます」


「まぁ当然の結果ですわ」


 少し気まずくなった私は、咳払いをして気を取り直すと、合格者を発表した。

 合格を告げられたリオはお辞儀して答え、ジェシーは口元に手の甲を当て今にもおーほほほほほと笑い出し、って笑い出した。


「そんなわけだから、ほかの人達は残念だけどまたの機会って事で。それじゃみんな町に帰りましょうか」


 ジェシーの笑いが止まるまで待ってから、残りの受験者達に残念な結果を伝える。

合格者がいれば不合格者がいるのだから仕方あるまい。

 結果を伝えた私は町へ帰ろうとしたのだが、急に後ろが騒がしくなり始めた。

 何かと思い振り返ってみると、いきなり怒鳴られてしまう。


「ちょっと待ってください! そんなんじゃ納得できません!」


 怒鳴りつけてきたのは、私の指示通り動いていた傭兵の1人、たしか名前はシアといっただろうか。


「たしかに、あの2人でスヌーを倒したと思います。ですが、私達だってエマさんの言うことをしっかり守って、あいつらの攻撃を一切受けることなくやり過ごしたのですよ? それに、もっと数がいたなら私達だってスヌーを倒してます。というか、あの2人がでしゃばらなかったら確実に私達が倒していました」


(うわ~~~~すごい理論飛び出してきたよ。これは)


 その意見にあきれはてた私は、次の言葉が思い浮かばなかった。

それを肯定の返事と見たシアが畳み掛けるように話を続ける。


「ですから、私達の合格も絶対に必須です。それじゃなきゃ納得して町に帰れません!」


「そうよそうよ!」


 彼女の取り巻きのように一緒にいる受験者達も声をそろえ、彼女の意見に賛同する。

 私は何も語らずただ黙って彼女達が自分で悟ってくれることを期待したのだが、その期待はもろく崩れ去った。

 彼女達は、あぁじゃなかったら、こうじゃなかったらといい訳ばかりし、その上こんな試験じゃなければと言い出す者まで出始めた。


(うざい…………)


 私は私の中で何かが切れる音がしっかりと心のそこから感じ取ることが出来た。


「あのね、あんた達がなんと言っても合格者はこの2人、リオとジェシーだけ、それ以外は認めないわ」


「そんなの横暴よ! 私達の合格か、再試験を要求するわ!」


 その要求がきっかけで彼女達に対し、私は完璧にキレる事となった。


「わかったわ。それじゃ再試験してあげる。あなた達全員で私を倒しなさい。倒せたら夜明けの月丸々あなた達にくれてあげるわ」


「…………その言葉取り消せませんよ?」


「いいからとっととかかってこい、ガキ」


 私は、ナイフを逆手に構え受験者達に殺気を放った。

私の殺気にあてられた受験者達は、自らは動こうとはせず冷や汗をたらしながら武器を構える行動しか取れていない。

言いだしっぺであったのシアすらも私から離れるように、武器を構えつつじりじりと私から遠ざかっていく。


「こないならこっちからいくわよ?」


 待っても来ないと判断した私は、一番近い受験者へと一気に走り寄る。

距離を詰められた受験者は「ひっ!」と声を上げ、目をつぶってしまっていた。


(こんなんで何が合格にしろよ!)


 目をつぶってしまえば回避行動など取れるはずもない。

私が放った右の拳が、がら空きになっていた鳩尾に深く突き刺さった。

受験者は「うっ!」と、うめき声を上げるとその場に崩れ落ち気絶してしまう。

 その様子を見ていた、ほかの受験者達は恐怖で顔が崩れ始めていた。


「あんた達が、合格にしろ! 再試験しろ! なんて言ったからこうなったのよ? 自分の技量もわからないでね。だから、この試験はあなた達が私と戦うまでやめてあげない」


 私は次々に受験者達に襲い掛かった。

ある者は最初の受験者と同じように鳩尾を、またある者は首の後ろに手刀を、そしてある者は顎を捉えられ次々と気絶していく。

 そしてついにシアのみが意識を保った状態となった。

 これは私が意図的に、最後に持ってきたのだけれど。


「こ、こっちこないで。ひっ、ご、ごめんなさい! ゆるして!」


「だ~め。ゆるさない」


 懇願する彼女の願いを却下すると、思いっきり横腹を蹴り吹き飛ばす。

吹き飛ばされた彼女は、その力に逆らうことなく吹っ飛び地面へと転がり動かなくなった。

 そんな感じで、リオとジェシーを除く受験者全員が気絶してしまった。


「は~~~~~すっとした~~~」


 日頃から溜まっていたストレスも一緒に吐き出した私は、ご機嫌である。

 私は腕を空に向け背伸びをすると、怒りの表情は笑顔へと切り替わった。

 その様子を見ていたリオとジェシーはというと、なにやら2人で話し合っている様子。


「団長は怒らせないようにしましょう」


「そ、それがいいですわね」


「ん? あなた達何か言った?」


「「なにも言ってません!」」


「? まぁいいわ。そうね~、気絶させたまま帰ってもいいんだけれど、さすがにかわいそうだから起こしてから帰りましょうか。あなた達も起こすのを手伝って」


 息のあった返事を疑問に思いながらも、私は気絶していない2人に手伝いを頼むと、一人一人、起こしにかかった。

 リオとジェシーに起こされた者は、そのまま彼女達に抱きつき『怖かった! 怖かった!』と泣き始め、私に起こされたものは『ごめんなさい! ごめんなさい!』と涙を流しながらすごい勢いで謝りだした。

 まったく、こんな風にされてしまっては、私が悪魔かなにかみたいではないか。

 とりあえず、気絶していた彼女達を起こした私達は、泣き続ける彼女達をその場に残し、アキラ達男どもと合流するため町へと戻っていった。


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