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夜明けの月  作者: びるす
新生夜明けの月
17/89

第四節:決着

(一体はリットに任せたからいいとして、自分から言ったとはいえ兵隊四体と女王ってのはさすがにきついよな)


 先ほどからお互いにらみ合いが続いている。

 どうやら兵隊コロラドは酸を吐けるが、糸を吐けないらしく動きを封じるような遠距離攻撃はしてはこない。

それならばこちらから鞭で遠距離攻撃を仕掛けてもいいのだが、どうも間合いを把握されたらしく微妙な位置で奴らは止まっている。

 近づいて鞭を振るっても、おそらく避けられ体制を崩しているところに酸の嵐が襲ってくるだろう。


(ここは女王の空腹になるまで待って、兵隊コロラドの始末をしてもらおうかな)


 そんな淡い期待を持ちながらとりあえずは現状維持、下手に動いて餌にされたらたまったものではない。


「リット、しばらくにらみ合いを続けるぞ。相手が痺れを切らしてからが勝負だ」


「はい!」


 その言葉どおりにリットは従い、にらみ合いを続ける。

 そして5分ぐらい経っただろうか、女王に変化が現れてきた。

もごもごと口を動かし始め、なにやり粘り気の強い液体が流れ始めている。


(あれだけ仲間食っていたのに、もう腹ペコでよだれでてきたのかよ)


 どうやら、開始の時間が近づいてきているようだ。


「シューーーーー」


 ついに痺れを切らしたのか、けたたましい威嚇音を女王が発する。

すると、にらみ合いを続けていた兵隊達がいっせいに向かってくるではないか。


「始まったな、気合入れていけよ。今までの奴らとは格が違うようだからな」


「えぇ、なんとかやってみます」


 そんなやり取りが終わったあとすぐに俺は鞭を振るった。

鞭はうなりを上げ、勢いよく迫ってくる兵隊達に向かってその役目を果たそうとしている。

しかし、やはり普通の奴とは違いその攻撃をかわしてくる。

 下半身のばねを使い、いっきに飛び越すもの、体を伏せてかわすもの、自分の甲殻部分にあてうまくそらすものと避け方はそれぞれ違ってはいたが、クリーンヒットしたものは1匹もいない。

 だが、こちらとしては想定の範囲内、俺がやりたかったのはこの攻撃でリットがタイマンできるように誘導させるためのものだった。

鞭を振るい当たるようにしたのは4匹、そしてかわす必要の無い1匹がこちらに順調に進んでいる。


「そいつ頼んだぞ」


「頑張ります!」


 リットが飛び出し、兵隊コロラドと対峙する。

さっき感情をわり切ったはずなのだが、いざ対峙させると不安がよぎってしまう。

 Eランクに任すには荷が重いと思うが、こちらも余裕が無いのだ仕方のないことである。


(任せたんだ。わり切れ俺)


 なんとかもう一度自分に言い聞かせ、自分の戦いへと意識を戻す。

体制を崩してこちらに向かわせる速度を遅くしたとはいえ、鞭を振るった俺も体制はあまりよろしくはない、ちょうど奴らが攻撃を仕掛けるころに俺の体制が整うので、今のところ五分五分といったところだ。


(なるべく早く数を減らしたいんだが、どうするかな……)


 五分から少しでも優位に立つため、できるだけ体制を整えるのを早め、4体の兵隊達を迎え撃つ。

秒数的には0.5も違わないだろうが、そのちょっとの時間が大きな成果を生んだ。

向かってきた4体のうち1体が、転んでいるのを視認する事が出来たのだ。

 その1体は高く飛び上がり避けたコロラドだった。

地面がコロラドの血で埋め尽くされているところに着地したため、転んでしまったのだろう。

 これは間違いなく好機。

転んで立ち上がろうとしている兵隊コロラドめがけ、懇親の右ストレートをお見舞いしてやる。


グチャッ


 なんとも言いがたい感触が右腕から伝わり、緑の血が勢いよく飛び散っていく。

 どてっ腹に大きな風穴が開いた兵隊コロラドは、そのまま二度と立ち上がる事はなくその生涯に幕を下ろした。

残りは3体、すぐさま右腕を引き抜き残りの兵隊コロラドのほうへと目線を移した。

 残りの兵隊コロラドは、すぐそこまで迫っておりこのままの状態で酸を吐きかけられたら危険だ。

 急いでバックステップをし、距離をとろうとしたが…………つるん、さっき倒した兵隊コロラド同様転んでしまう。


(やばい! やられる!)


 酸の攻撃が飛んでくると思い、致命傷になる顔を必死で隠す。

だが、酸が飛んでくることはなかった。


(いったいどうしたんだ?)


 おもわずガードを解いて奴らへと目線を移すと、あろう事か死体の兵隊コロラドを女王のもとまで運んでいるではないか。


(これはもしかして…………)


 案の定、女王が食す。

 どうやら、あいつらは獲物を狩るよりも女王の腹を満たすという行為のほうが、優先順位が高いようで、獲物の俺を無視していったのだ。

これはこれでさびしいものはあるが、確実にやりやすくなった。

 1匹ずつ倒していけば、そのたびにインターバルがもらえるのだから。

 少しばかり1匹に対し体力を使ってもそのインターバルで回復出来る。

そうとわかれば、常に全力で1体ずつ撃破だ。

 女王の下へ、食事を届け終わった兵隊達が俺の元へと勢いよく戻ってくるのを、しっかりと体制を整えた俺が待ち構える。

 先ほどと同じように絶妙な位置でのこう着状態で、女王の空腹をより強いものにしてやってもいいのだが、インターバルがもらえる事がわかったのだ、多少無茶かもしれないけれど今度はこちらから飛び出していってやる。

 勢いよく飛び出した俺は3体の兵隊コロラドの真ん中をすり抜ける。

もちろんその攻撃チャンスを逃すわけはなく、兵隊コロラドたちは通り過ぎていこうとする俺に対して、その鋭い顎で攻撃を仕掛けてきた。

攻撃はちょうど俺の両肩に当たり、アンダーシャツと肉を引き裂く。

両方の肩に痛みを感じたが、傷は浅い。

 すり抜けると同時に、俺の後を追うようにしてついてくる鞭を、そのまま左側にいる兵隊コロラドへの攻撃としてぶち当てた。

 走ったスピードと、左腕を振るって生まれたスピードが合わさり、俺に攻撃を仕掛けた兵隊コロラドは避けるまもなく鞭の餌食となった。

 兵隊コロラドの体は真っ二つに引き裂かれ、切り口からは絶えず緑色の血がふつふつと湧き出している。

1体分の餌が出来上がった事により、ほかの兵隊コロラド達はその死体へと群がっていく。

 一緒に戦っていた仲間を餌として運んでいるのはなんともシュールな光景である。

 その様子を、体力を回復させながら見ていようと思ったのだが、死体を運んでいる兵隊コロラド達はあまりにも無防備な事。


(今ならやれる!)


 そう思った俺は急いで駆け寄り、背後から思いっきり1匹を蹴り飛ばし、もう1匹には右フックでその横腹をぶち抜く。

 腹をぶち抜かれた兵隊コロラドは、最後の足掻きといわんばかりに口から酸を吐き出し俺のシャツを焦がすも、それもすぐに終わってしまい女王に食事を届けられないまま絶命する。

蹴られたもう1匹は、蹴られた事に怒り出すかと思えばそんな気配はまったく見せず、また仲間の死体をせっせと運ぼうとしていた。

 ここまでくると哀れにしか見えない、その忠誠心には脱帽だがやはり度が過ぎるのはいただけないということか。

 最後の1匹も背後からクローで切り裂き、忠誠心からの開放を促した。

すべての兵隊コロラドを始末した俺は、おそらく苦戦しているだろうリットの方へと注意を向ける。

 リットはいたるところに傷を負っていたが、何とか倒せたらしく兵隊コロラドが1体、屍となり地面に転がっているのが見えた。

位置関係から、どうやら背後からの一撃で勝利したようだ。


(あっちの兵隊さんも、律儀にこっちに散らばっている餌を女王の下に届けようとしたようだな)


 そんな事を思ったが、まだ女王が残っている。

ここで気を緩めてやられたら洒落にならない。

 先ほどから食うことしかしていない女王だが、その体格から繰り出される攻撃力はかなりのものだろう。

 おまけに仲間はすでに全部いなくなり、食事が出来ない状態が続いていく。

そうなれば飢餓状態になった女王の凶暴さは格段にあがるだろう。

 油断した瞬間、ほかのコロラドと同じ運命をたどってしまう。


「ふぅ、ここまできたらごちゃごちゃ考えても始まらないか。とりあえずぶっ潰す」


 仲間の死体を食べている女王を見つめ、その言葉が現実になるよう俺は集中力を研ぎ澄ました。


「さて、いよいよ決着の時が来たようだな」


 すでに仲間をすべて完食し終えた女王とのタイマンが、今まさに始まろうとしていた。


「まったく、お前の食欲にはあきれるよ。だが、そのおかげでこっちは何とかやってこれたんだ、感謝するよ。いや待てよ……そもそもお前がいなければあいつらはいないはずなんだから、感謝する意味なんてないか。とりあえず、無理だとは思うけど1つ言っておく。このまま引き下がってくれない?」


「キシャーーーーー!」


 女王は奇声と共に一番近場にある餌へとその歩みを進める。

無論餌とは俺の事だ。


「やっぱり、無理だよな」


 かなりのスピードで突撃してくる女王をかわし、後ろから鞭での攻撃にうつる。

鞭はうなりを上げ女王の背中へとその威力を発揮しようとしたのだが。


カキン!


 甲高い金属音と共に、その攻撃ははじかれてしまった。

奴の装甲は鉄並みらしく、鞭のような武器でははじかれてしまう。

鞭での攻撃ではダメージを与えられないので、威力重視の武器に変えようとしたが、武器を変えようにも、ハンマーのような武器は持ち合わせてはいない。


(うまく関節狙ってダメージ与えるしかないか)


 鞭ではダメージを与えられないため、ウィップパーツは邪魔でしかない。

 うまく移動しながらパーツを取り外す作業にかかった。

 少しでも早く外そうとするのだが、激しく動いても外れないようしっかり固定されているためなかなか外れない。

かた結びしてある紐を走りながら解く感じだ。


「だーーーーー! 追ってくるな! 外せないだろうが!」


 女王に追いかけられながら必死に外そうとしていたのだが、あまりにも外れないためむかついた俺は反転して思いっきり女王を蹴飛ばした。


「いってーーー!」


 蹴飛ばされた女王は、バランスが崩れそのままヘットスライディングするように地面へとダイブ、いっぽう思いっきり蹴飛ばした俺は、女王のあまりの硬さによって悶絶させられる。

 しかし、痛がるのもほどほどにしておかないとウィップパーツを取り外すことが出来ないので、足をさすりたいのを我慢して切り離し作業へと移る。


(ここを思いっきり上に上げて、ここを右にってあ~~~~いてぇ! 泣いちゃうぞこれ)


 蹴った時に弁慶の泣き所も打っていたので目に涙をため必死にこらえながら、作業を続けようやくパーツを取り外すことに成功した。

 それにしても、レベアルとは違い、なんだか女王との対決は余裕がある。

一度、必要以上の恐怖体験をしたため、怖いという感覚が鈍っているのかもしれない。

 だがそのおかげでハイテンションになり、いつも以上に動けている感じなのでよしとする。


「さて女王よ。お仕置きの時間だ」


 そう言い放つと女王にすぐさま近寄り、甲殻の間接部分にワンツーをくれてやる。

カキンカキンと金属音が鳴り響くがそんなのお構い無しだ。

今俺に出来る最大の攻撃がこのもっとも原始的な攻撃手段、手でぶん殴る事だけだからだ。

 女王は俺をなんとしてでも食おうと体当たりしてつぶそうとするが、身軽になった俺には単調な体当たり攻撃はあたるわけもなく、右へ右へと回りながら同じ部分を何度も何度もぶっ叩いては避ける。

これの繰り返しだ。

 同じ部分を叩かれている甲殻は、次第に欠けはじめその肉体をあらわにしてきた。

そして幾度目かの攻撃を食らわせたそのとき、大きく甲殻が外れ左のジャブがそのやわらかいボディーへと突き刺さる。


 ブシューーーーー!!


 勢いよく、血が噴出し全身に緑色の血が降り注ぐ。

その生暖かい感触と強烈な臭いは気持ち悪さが際立つ。


「悪食なだけあって、血の臭いが最悪だ」


 普通のコロラドの血も強烈な臭いをしていたが、女王ほどではない。

こいつは、本当に見境なく食事をしているためその影響がもろに血に現れていた。


「ピギャーーー!!」


 甲殻が破れ、その体には異物が進入した女王は奇声を上げる。

 そしてその状況で、もっとも行おうとする行動。

女王はその異物を取り外そうと急激に体を反転させ遠心力で排出しようとした。

 まだ左腕を抜いていなかった俺は、その行動に巻き込まれ大きく飛ばされてしまった。

そのとき、今では少なくなった地球からの品眼鏡も飛ばされてしまう。

こちらの世界にきて視力は戻ったものの、ずっとつけていたものだ。

 なんとか受身を取り、眼鏡を拾いに行こうと顔を上げると、眼鏡は女王の体の下敷きとなっており、通り過ぎたときには無残な姿を晒していた。


「ぶっ殺す!」


 普段余りキレない俺だが、さすがに愛用品を壊されて黙っているわけもなく気合が入り、力を思いきり加えた攻撃が始まった。

その攻撃は容赦なく無慈悲に淡々と繰り返された。

 むき出しになった体の部分に、次々とラッシュを決めていく。

左、左、右、距離をとってまた左、左、右と繰り返される。

 女王も何とかその攻撃をやめさせ、俺に一撃を加えようとするのだがむき出しの体に攻撃が食らわされるたびに悶絶し、その機会を失っていた。

 そして1分ぐらいだろうか、数十発の攻撃を受けた女王からは絶え間なく流れ出していた血がほとんどでなくなり、動きが止まりついにはその巨体を横たえたのだった。

 女王の最後である。


「終わったな」


 一言だけつぶやく。

 そして顔についた血を手で拭うと、俺と女王との戦いを邪魔しないよう遠くへと移動していたリットへと向かっていった。

 リットはところどころ酸をかけられたのか、洋服が焦げていたが致命傷は無いようだ。


「お疲れさん。それじゃ、こいつらの殲滅証明部位とって帰るとするか。つっても女王とリットの倒した兵隊コロラドしか残ってないけどな」


「ですね。全部食べられちゃいましたしね」


 2人して、向き合い苦笑い浮かべた。

その後、少し休み息を整えると殲滅証明部位の顎を取って町へと戻っていったのだった。

 ちなみに町に着いた時に、ドロドロに汚れている俺を見て町人から白い目で見られ凹んだのは内緒である。


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