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夜明けの月  作者: びるす
新生夜明けの月
15/89

第二節:選考開始

「退院おめでとう」


 朝早く荷造りを終えた俺は病院の前で待っていたエマに迎えられ、そう告げられた。


「ずいぶん早いな、てっきり俺の事を忘れて寝てるもんだと思ったんだがな」


「いやまぁそれでもよかったんだけど、今日用事あるしね」


「用事? いったい何があるんだ? ここは普通に俺の退院祝いじゃないのか?」


 おそらく退院祝いではないだろうな、とわかっていながらもあえて聞いておこう。

 さすがに退院した直後に、仕事って事は無いだろうし。

そんな俺の淡い期待を裏切るように、エマが重大な発表を繰り出した。


「えっと、今日は夜明けの月の入団試験を実施します」


「はい!?」


 静かな朝に俺の声が鳴り響いた。

これはあまりに予想外な展開である。

 俺は軽くパニックになっている頭を落ち着かせるべく、エマへと聞き返す。


「ちょっとまて。ちゃんとわかるように順々に説明してくれないか?」


「いいわよ、説明しましょう。うちみたいな、設立して間もない傭兵団に入団希望者がでてきた訳を」


 エマはそう言って、病院の入り口から移動し庭のベンチへと腰掛ける。

俺も同じように移動すると、エマの横へと腰を下ろした。


「この前、私がレベアルの換金をしてきたのは知ってるわね」


「あぁ、コドラに頭をかじられた時に聞いたな」


 エマのいたずらに、少し嫌味を込めて切り返す。

するとエマは少し顔をゆがませたが、すぐに元の顔へ戻り続きを話しだした。


「コホン、まぁ、そのことはおいといて、大事なのはレベアルを倒したって事なのよ」


 いたずらに関して完璧にはぐらされる感じではあるが、これ以上突っ込んでも話が進まないので自重する。

 たしかにレベアルはSSランク、多少騒ぎが起きても不思議ではない。

そんなことを思っていると、エマが説明を続けた。


「アキラも知っている通り、レベアルはSSランクでも上位の魔物よ、それをたった2人の傭兵団で討伐。しかも実質Cランクのあなた1人で倒したのよ? これが噂にならないわけ無いでしょ」


「なるほど」


 俺はうなずいて一言返した。

 たしかに、いわれてみればレベアルは俺1人で倒したように見える。

実際は誰かに助けられたはずなのだが、今のところはその事を伏せているので、エマでさえ知らない事実だ。


「夜明けの月には、レベアルを倒す凄腕がいる。あの傭兵団に入れば安心だ。て噂が瞬く間に広がっちゃって、ギルドに行く度に入団を希望してくる傭兵が後を絶たないのよ。確かに、仲間が増えればより安全に仕事ができるけど、やっぱり人って相性ってあるじゃない? だからすぐに入団させるって訳には行かないと思うの。だから入団テストを行うことにしたのよ」


 エマはそう言って右の人差し指を立てながら、事の発端の説明を済ませた。

 この説明で大体のことは把握することはできたのだが、如何せんなぜ今日出なければいけないのか?

 そのことを疑問に感じ、エマへと質問する。


「とりあえずは入団希望者と、入団テストについてはわかったが、何で今日なんだ? 明らかに俺病み上がりなんですけど」


「なにが病み上がりよ。病院で筋肉トレーニングしていたくせに、でも退院初日からってのは私もどうかとは思ったんだけど、最初に入団希望を出してきた人って3週間も前なのよ、さすがにこれ以上待たせるのはどうかと思ってね」


「たしかにこれ以上またせると悪いな。うん、わかったそういうことなら仕方ないか。それで、試験の内容はどうするんだ?」


 一通り話の内容はわかった俺は、今度は試験内容のほうが気になってきた。


「それについては、ギルドについてから話すわ。希望者のみんなが待っていることだと思うし」


 そう言い終わるとエマは立ち上がり、『行きましょう』と一声かけた後、ギルドへの道を進み始めた。

 俺はというと着替えなどの入った袋を両手に持つと、遅いとわかっていてが『少しぐらい持ってくれよ』と愚痴をこぼしながらその後を追っていった。

 ちなみにコドラはというとエマに抱かれていたのだが、朝早くということもありいまだに寝ている。

退院したんだから、少しはコドラからも祝いの言葉を聞きたかったな。


「女の人は私に、男の人はこっちのアキラについていってね」


 途中俺の荷物に気づいたエマは『ごめん忘れてた』と笑いながら答え、まず荷物を置くため宿屋へと目的地を変えた。

 俺の不必要な荷物が、宿屋へと置かれると今度こそギルドへと出発。

 予定よりも少し到着は遅くなってしまったが、集まっていた入団希望者達はそんなことは気にすることなく、エマの入団テストの説明を文句もいわずに聞いてくれていた。

 入団テストの内容は、パーティーを組んでの魔物退治。

最近被害が多い、Cクラスのコロラドとスヌーがターゲットだ。

 選考基準については、より魔物を倒したかではなく、チームプレイがちゃんとできるかどうかというもの。

確かに個人技は重要だが、これから一緒に仕事をしていくのだ、何よりも相手の事を考えた動きが出来なければダメということだ。


「はい、これ男の人たちの名前の一覧表とランクね。一番高い人でCランクだからアキラと変わらないわね」


 レベアルを倒した事になっている俺だが、ギルドの自分よりも強い魔物を3匹以上倒すという規定があるため、SSランクの魔物を倒しても俺のランクはまだ変わっていない。

まぁランクが上がらなくても、仕事はエマが請けるからいいんだけど。

 エマから受け取った表には、14人ほど名前が書かれていた。


「あらためて見てみるとかなり多いな。女の子はどれぐらいいるんだ?」


「こっちは11人かな? そっちよりは少ないけど、もともと傭兵自体男性が多いから、これでも相当集まったほうよ」


 全部で25人、いったいどれだけの人数が残るのかな? と自分が審査員なのにもかかわらず、傍観者のような気分でいる。


「あ、アキラ、そっちはコロラド狙いでお願いね。私あいつなんか生理的にちょっと無理だから」


 さてそれじゃ行こうかと思った時、エマがそう耳元でつぶやいた。

傭兵をやっていて標的のえり好みをするのもなんだが、確かにあれは女の人にとっては受け入れがたいかも知れない。

 コロラドという魔物、いわゆる虫系の魔物である。

芋虫のような胴体と、バッタのような顔がついた形をしている。

 動きが遅いために本来は動物の死肉を食べているらしいのだが、このところ異常繁殖し食べ物が少なくなったため、群れで行動し強力な顎を武器に行商人を襲っているらしい。

 あまり綺麗とは言いがたい魔物なので、芋虫が苦手という奴にはきっと受け入れられないだろう。


「たしかに、あいつは見た目がグロテスクだからな……。うん、わかった。あいつらのところへはこっちのパーティーで行くとするよ」


「良い返事。それじゃよろしくね」


 倒すターゲットの割り振りも決定し、いよいよ入団試験が始まる。


「みんな今から魔物退治に行くわよ。くれぐれも怪我の無い様に気をつけてね。それじゃしゅっぱーつ!」


「おーーーー!」


 エマが拳を握り、腕を振り上げて音頭を取ると、周りも同じように腕を振り上げ気合いの一声をあげた。

 気合は十分。

 エマと俺は、それぞれのパーティーメンバーをつれ、エマは南、俺は北の入り口へと向かい、町の外にある狩り場へと歩みを進めていった。


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