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夜明けの月  作者: びるす
新生夜明けの月
14/89

第一節:新たなる始まり

(困ったわね)


 医者との交渉の末、アキラを1ヶ月で退院できるようにできたのだが、それでも困るものは困る。


(この人達どうしようかしら)


 私は胸ポケットから1枚のメモ用紙を取り出して、じっとそれを見つめた。

 そこに書かれているのは、ざっと20人ほどの名前。

 これはアキラがレベアルを倒したことにより、知名度は一気に急上昇した夜明けの月に、入れて欲しいと依頼してきた傭兵達の名前だ。

 今でこそだいぶ落ち着いてはいるが、レベアルを倒しそのことがこの町全体へと伝わった頃には、ギルドに行くたびに何人にも声をかけられていた。

 団長としては団員が増えるのは結構ではあるが、その数があまりにも多い。

すべて受け入れてしまっては、作りたての傭兵団には手に余る。

 それに何もしないで受け入れるのは大変危険である。

 以前自分が所属していた傭兵団では、ろくに選別もせずに新人を団に入れたところ、チームワークは最悪になり報酬の分配はもめにもめ、ついには傭兵団の解散になってしまったのだから。

それだけは、どうしても避けたい。

 そう決心して入団テストをしようと思ったのだが、人数が多く1人ではすべての傭兵を見ることはとてもじゃないがやっていられない。

 何日かに分けて入団テストをおこなってもいいのだが、この人達との連絡方法はギルドの掲示板のみ。

何日も前から連絡しておかないと伝わらない可能性もあるので、やはり1回で済ませてしまいたい。

 そのため、すぐにでもアキラの退院が必要だったのだ。


「う~ん、仕方ないか。テストはアキラの退院日にするとしよう。最初に入団希望だしてきた人は2週間も前だし、これ以上待たせるのも悪いし。それじゃ日程決まったし、ギルドの掲示板に書いてくるとしますか」


 メモ用紙を元の胸ポケットへしまうと、私は病院を出てギルドへと向かう。

もちろん最高の抱き心地のコドラを忘れずに。


「それにしてもあんた、あれだけダゴサクだっていっても、一回も返事してくれないんだもんね」


 私はそういってコドラの頬をつついた。

 コドラは、『コドラ』というのを自分の名前だとすでに解釈してしまっていて、すんごくきゃわいい『ダゴサク』という名前を受け入れてはくれなくなっていた。

 アキラが入院している間言い続けてはいたのだが、結局反応してくれないので半ばあきらめ、今では私もちゃんとコドラと呼ぶようになっている。


「でも、ゴハンのときだけはしっかり返事するのよね~」


 そうつぶやいてみせると、コドラはゴハンの言葉に反応して、私を見つめてきた。

その表情は、ゴハンくれるの? とそのクリクリとした目で期待のまなざし。


「ん~~~~かわいい~~~~! やっぱり、ギルド行く前に寄り道して食べ歩きましょう」


「きゅいーーーーー!」


 ギュッとコドラを抱きしめて、食べ歩きを提案すると、うれしそうに返答するコドラ。

この子、野生から飼われ始めたというのに、ちょっと食い意地はりすぎているかも。

 ギルドから急遽屋台めぐりに変更した私達は、屋台が立ち並ぶ町の中心へと歩を進める。

中心に近づくにつれ徐々に人が増え始め、屋台からはいい匂いが漂い、活気ある声が飛び交う。


「なんだかいつもよりも人が多いわね。それに、なにやら飾りつけも多いし…………あぁ! 今日って新春祭だったけ」


 いつも以上に活気づいていた通りには、さまざまなオブジェが飾られていた。

そのオブジェの中で、一番きらびやかに飾り付けられた大きな看板が目に飛び込んでくる。

看板の中には、でかでかと新春祭の文字が春を思わせる鮮やかな色で書かれていた。

 この新春祭という祭りは新しい春の訪れを祝い、無事実りの秋を迎えられる事を祈るイベントである。

もともと新春祭は農村地域で行われていたのだが、それがいつの間にか各地に広がり、今ではどこへ行ってもこの時期行われるイベントとなっていた。

 そんな有名なイベント日だったのだが、この頃アキラの事やギルドの事で忙しくて忘れてしまっていた。

 ここは1つ日頃の事を忘れて楽しんでしまおう。

そう思った私は、コドラに向かって微笑み食い倒れ計画を提案するのだった。


「コドラ、あなたついてるわね。新春祭ってことはおいしいものが豊富に取りそろってるわよ。屋台の食べ物を食べつくしちゃおうか?」


「きゅきゅーー!」


 そんな私の提案に賛同したコドラは、早く早くとせかすように私と屋台のほうを交互に見つめて合図を送る。

普段でも愛くるしいのだが、期待されたまなざしで見つめられると、再度ギュッとしたくなる。

 コドラにせかされた私は、人を掻き分け屋台を一軒一軒回っていった。


「これ2本お願いね」


「はいよ、800ゾルドね」


 最初にたどり着いた屋台は串焼き屋、おいしそうにジューと音をたて、香ばしい匂いを漂わせてくる。

色々と焼かれている串焼きの中で、ちょうど焼きあがったタッブの串焼きを目にした私は2本ほど購入し受け取った。

 コドラを抱えたままだと多少受け取りにくかったが、この混雑している中でコドラを下ろしたりしたら迷子になること必至なので、このままの体制維持。

 そして右手で受け取った串焼きの1本を、早く早くとねだるコドラの口にくわえさせ食べさせた。

むしゃむしゃとかぶりつくコドラを見ながら、私もおいしそうな肉汁が出ている串焼きにかぶりつく。

 噛み付くと口の中に、肉汁が一気に広がってくる。

網焼きで適度に油抜きされた串焼きは、油っぽすぎず、うまみだけを口の中に広げ、絶妙な塩加減と、香辛料のハーブがアクセントとなり非常においしい。


「うん、おいしい~~~」


 この味なら私も、コドラも大満足である。

 与えた串焼きはすでに半分ほど消えていたが、それでもコドラの勢いはとまることなく、串についている肉を次々とその口へと消していく。

 日頃ご飯を与えない訳ではないのだが、それにしても早い。

この分だと私が半分食べ終わるころには全部食べ終えてしまうだろう。

 それにしてもこの子はいろんなものをよく食べる。

アキラは人間の食べ物は体に悪いかもしれないといって、コドラにフルーツばっかり与えてはいたけど、この子じゃそんなの関係ないって感じで何でも食べてしまう。

 この前、普通に私と同じメニューの食事を平らげてしまったし、お酒も飲ませてみたらぐびぐびと飲んでしまっていた。

 この事に気づいたのは1週間ほど前の事。

ギルドの仕事を終えた後、食事をしている時に何気なく与えたのがきっかけである。

 先に串焼きを平らげたコドラがうらやましそうに見つめる中、その視線を見ないようにして串焼きを平らげ、見つめていたコドラの口周りをハンカチで汚れをふき取り、次の屋台へと足を進めていった。

 そして食べ歩きを始めてから3時間、端から端まで歩いた頃には、新春祭も終わりへ近づき人通りがさっきよりも少なくなってきていた。


「ふ~~~ちょっと食べ過ぎたかも……」


 頼んでは食べて次へ行くというパターンを繰り返していたため、かなりの量を食べてしまっていた。

 おそらくこの3時間で1日分の食事を一気に取ったぐらいには食べただろう。

 食べ過ぎのせいで体が重い。

もちろん私と同じように食べていたコドラの体重もかなり増えていて、支える手がきつくなっていた。


「とりあえずは、満足したかな?」


「きゅいきゅい」


 食べ歩きの終了宣言をつげ、素直にコドラがコクコクとうなずく。

話すことは出来ないが、もうある程度の人間の言葉を理解しているようで、このように反応してくれるのは少しうれしい。


「それじゃ帰りますか」


 私とコドラは地面に半分消えかけている太陽に背を向けて、まばらになった人通りをゆっくりと進みながら、宿屋へと向かっていった。

 宿屋に着くとお風呂に入って、コドラと晩酌、そしてほろ酔い気分になって気持ちよくなったらふらふらとベッドイン。


「ふ~~~、今日も楽しかったね~」


「きゅぃ~~~Zzzz」


 たくさんの屋台を巡ったので疲れたのだろう、そう返事した後、すぐにコドラは眠りについていく。

 怪我で入院中のアキラには悪いが、祭りを存分に楽しんだ私達は充実した1日を過ごすことが出来た。

コドラを抱えながらだったため、すこし疲れはしたが狩りをするときと比べればどうという事は無い。

 今日の事を振り返りながら、コドラを見つめ微笑んだ後、私もコドラと同じようにゆっくりと目を閉じて意識を手離………………って


「ギルド行ってねーーー!」


 次の日、私は寄り道することなくまっすぐギルドへと向かいました。


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