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夜明けの月  作者: びるす
傭兵
11/89

第四節:SSの魔物レベアル

「ここね」


「ここだな」


 歩くこと30分、俺達はココアラの森に着くことができた。

 途中木こりと思われるおっさんを捕まえて森の構造を聞いてみたが、それほど森はでかくないらしく、1時間も歩けば抜けられるらしい。

ほかにもリンリンの好物だと言っていたモロコについて聞いてみると、川沿いに生えているのだそうだ。

 ココアラの森には川が一本掠めるように通っているので、その周辺を探れば見つかるだろう。

 気合を入れなおし、川を目印に森の中へと歩みを進めていく。

 川の近くはよく規定外魔物なども通るのか獣道が出来ていて、普通に森を進むよりも歩きやすかった。

ただ人が通るようには出来ていないため、整ったコンクリートの上ばかりを歩いていた俺にとっては結構しんどかったりする。

ところどころ石に苔が生えていて踏みつけて転びそうになったりもした。

 俺の前を行くエマは慣れているのか、足取りは軽く黙々と進んでいく。

俺が前を歩かなくてよかったなと思う、エマの前を歩いていたら俺の失態をモロに見られて笑われていただろうから。

 奥のほうに進んでいくと、少し開けたところにでた。

およそ直径15メートルほどの円状に開けたそこには、太陽が降り注ぎ森の中では見なかった、背が低い花が咲いていて、なんとも神秘的な雰囲気をかもし出していた。


「なんだか、綺麗なところにでたな」


「今まで薄暗い感じだったから余計そう感じるわね」


「ちょっと、ここらで一息つかないか?」


「そうね、ザマス夫人と話してからずっと歩きっぱなしだったから、疲れたし休憩いれとこうか」


 そういってエマは、腰を下ろし川の水で顔を洗う。

 俺も疲れたので、水筒の水を飲み干した。

なれない道を歩き疲れた体に水分がいきわたるのを実感することができる。

 余裕があるようにエマに休憩を申し入れたが、実際のところ体力は結構いっぱいいっぱいだ。

もとの仕事はデスクワークだ、普通の人よりも体力は少ないのはしかたあるまい。

 それにしても異世界にきた特権として筋力増強があったのだから、体力増加もよかろうにと思う。

 体力増加が無かったことを残念に思うが、異世界に来たことによってもたらされた特典は筋力増強のほかにもあった。

1、視力の上昇

2、癖毛がストレートに

3、怪我の回復速度

現在、俺が確認している特典はこんな感じだ。

 視力はもともと0.1以下だったが、異世界にきて徐々によくなり今では裸眼で4.0ぐらいはあるのではないだろうか。

当然眼鏡をかけているとクラクラするので、レンズをはずしてかけている。

レンズをはずさなくても眼鏡をかけなければいいだけなのだが、子供のころからずっと眼鏡をしているので、無いとなんとなく落ち着かないのでかけているのだ。

 次の癖毛がストレートには、ありがたいといえばありがたいのだが実際はあんまり役には立っていない。

朝起きたときセットが楽だなと思える程度だ。

 最後に怪我の回復速度だが、これはこの前のドーガーとの戦いで怪我をしたので気がついたものだ。

 左腕の内出血や、深くはない傷とはいえ針で縫った右足。

 これらは、それなりに時間がかかるだろうと思っていたが左腕の内出血は、包帯をはずせばすでに元の肌色の左腕に戻っており、右足も傷はふさがって抜糸しても大丈夫なぐらいにくっついている。

 むしろ抜糸が遅すぎて、糸が肉に引っ付いてる感じだ。

どうやら抜く時は縫ってもらった時よりも痛そうである。

 このほかにも癖毛のようにどうでもいいような特典もありそうだが、まだ気づいてないのでもう無いと思うようにして期待しないでいる。

 過度に特典を期待してありませんよりは、もともと無いと思っておいたほうが精神的負担は小さいのでそうしているのだ。

 それでも未練たらたら体力の特典は欲しかったなと思っていると、俺の背中が何者かによって押される。

何事かと思い、振り返ってみるとそこにはリンクスが1頭いるではないか。

 リンクスは俺のにおいを嗅いだあと、俺の顔をぺろりとなめた。


「むぐっ、エマ、こいつじゃないか?」


 べとべとになった顔を袖で拭きつつ、リンクスの容姿を捉えエマに同意を求めた。

 リンクスは純白の毛がふさふさと生えていて、その中で鬣だけが綺麗な黒で染まっている。

おまけに、ザマス夫人が言っていた首飾りもしっかりついている。


「…………この子ね、それにしてもこんなに早く見つかるなんて、思わなかったわ」


 エマも急な発見に驚いている。

 さすがにただ休んでいるだけで見つかるとは思わなかったのだろう。

俺も驚きだ。


「それにしても楽な仕事だったな、本来の仕事よりもザマス夫人との会話のほうが長かったし」


 リンリンの首輪に縄を通し、また逃げ出さないようにしながら会話を続ける。

 一応逃げないように首輪へと縄をつけたのだが、リンリンは嫌がる様子を見せず、自然に縄をつけさせてくれた。

さすがに人に飼われていたことはある、人を見て逃げ出さず逆に近づいてきたのだから。


「ふう、あの人ともう一度話さなきゃいけないとなると、頭が痛くなりそうだけど、この子届ければお金も入ることだし、すぐに帰りましょう」


 エマがそう言って立ち上がり帰ろうとした時、俺達は森の異変に気がついた。

それまで聞こえていた、鳥の鳴き声が一切聞こえなくなっていたのだ。


「…………鳥の声が消えた?」


 途切れただけかと思ったが、まだ鳴き声が聞こえない。


「消えたわね。どうしたのかしら」


 俺達が疑問に思っていたとき、真っ先にそれに気がついたのはリンリンだった。

 

「ヒヒーーーーーーーン!」


 リンリンは高らかといななき、首輪とつないだ縄を持っていた俺を引きずりながら急に走り出した。

たまらず、俺は手を離してしまう。


「つ、いきなりどうしたんだ!」


 縄を持っていた手のひらをさすりながら、走り出したリンリンを追いかけようとした時、俺の目の前に黒い大きな影が現れた。


「アキラ! 危ない!」


 エマがとっさに俺に体当たりをして、俺をその場から動かした。

 まったく大胆な人だな。

そんな積極的にやられたら俺もその気に…………なんて冗談はさておき、体勢を立て直しつつ、もといた場所を見てみると軽いクレーターのようなものが出来ていた。

 もしその場で動かずにそのままだったらと考えると、ぞっとする。

 さらにその先を見つめると、クレーターを見て流れ出した冷や汗がさらに勢いを増した。


「おいおい、こいつはまずいだろ…………」


 クレーターの先にいたものは、体長3mはある熊とライオンを足して2で割ったような生き物が、大きな口で骨の芯まで響く唸り声を上げそこに立っていた。

 やばい、やばい、やばい、頭の中でその言葉だけがグルグルと回っている。

体もそれに呼応するように、体中の毛が逆立ち、熱くも無いのに汗が流れ始めている。

 対峙しただけで感じるすさまじいプレッシャーは、俺の元いた位置に一撃を食らわしたこの大型の魔物から発せられている。

 この魔物は図鑑の最後のほうにたしか描かれていた。

そいつのランクはSS、必要討伐人数はAランクが10人と。

 今の俺達の戦力では到底勝ち目の無い魔物、名をレベアルという。

獰猛で、凶暴、非常に好戦的で、大食漢。

その巨体から繰り出される攻撃は、人間にとってすべてが致命傷となる。

説明文のところにはそう簡潔に書かれていた。

 ほかの魔物と違い、情報が少なかったこいつだが、相対した事によりその理由がすぐにわかった。

 出会ったら死ぬ。

それが理由だろう。

 この場に居たくないと、体が拒絶し吐きそうになる。

 エマもやつのプレッシャーに当てられ、表情には恐怖の二文字が浮かび上がっていた。


(くそっ、なんでこんなこと思っちまったんだろ)


 俺は恐怖に震え上がっている最中、とんでもない答えが浮かび上がってきた。

その答えが俺の生存を1%も許しちゃくれないことを俺は理解している。

だが俺はその答えを選んでまった。

なさけない、本当になさけない。


「エマ! さっきのリンクスとっ捕まえて町まで戻れ! そんで救援呼んで来い!」


「!!! ちょっとまって! それじゃアキラが!」


「いいから早くしろ! このまま一緒に死んじまってもいいのか! 俺が考えた中で、一番俺達が生き残る確率が高いのがこの判断だ! わかったらとっとと行け!」


「ちょっと待ちなさい! それなら私が!」


「だめだ! 団長のお前に何かあったら、俺はこの後どうやっていけばいいんだよ!」


「死ぬんじゃないよ!」


 そう言い放つとエマは奥歯を強くかみ締めて、リンリンが逃げていったほうへと向かい走り出した。

 幸いにもレベアルの注意はこちらにあったためエマを追う事は無かった。

 

「くっそ……」


 俺は小さくつぶやく。

 さっきエマには、1番俺達が生き残る確率が高いとかいったがありゃ嘘だ。

まず間違いなく俺は死ぬ。

 俺が導き出した答えはエマを生かす、ただそれだけの答えなのだから。

偽善だろうが、自己犠牲による陶酔なのか、そんな事は知ったこっちゃ無い。

無数に存在した答えの中でこれが一番輝いていたんだ、選びたかったんだ。

 俺は俺だけが生き残る答えも、合ったのに選ぶことを拒否してしまった。

おそらくレベアルのプレッシャーにあてられたのだろう、きっとそうだ、そうに違いない。

でなければ自分が死ぬ選択肢を真っ先に選ぶはず無いじゃないか。

 そう考えた俺はプレッシャーを跳ね返すのではなく飲み込む形で、吹っ切れた。

俺はここで死ぬ。

だがただで死んでやるものか!

 そう思った時、俺の体は自由に動くようになった、完璧に自分の思い通りの形に動くようになった、まるで体が最後の最後まであがき生を掴み取ろうとするかのごとく。

 右手でベルトに挟んである銃を取り出し、左手で補充用の弾を胸のポケットから取り出す。

 その様子を見てまるで強者が弱者をいたぶるように、ゆっくりと近づいてきていたレベアルの動きが急変する。

強者という者は、特に危機感知能力が優れているものらしい。

 俺の取り出したものを危険と判断したレベアルは、俺へとその全体重と突進速度をプラスした体当たりをかましてきた。

 その動きは、まるでスローモーションのように俺には見える。

人間死ぬような体験をすると、回りが遅く感じるというがこれがそれなのかもしれない。

 体当たりしながらも右手を上げ、その鋭い爪で引き裂こうとするレベアル。

 俺はレベアルの振りかざした右手に2発、そして動きを止めるためその巨体には威力不足だろうが残りの4発を顔めがけて撃ち抜いた。

連続した爆音が森に響く中、最後に音が響くと同時に左へと回避行動に移る。

 最初に撃たれた弾は見事にレベアルの右手に当たり、第1の攻撃を防ぐことに成功する。

しかし顔に向けて撃ちはなった残りの4発は、かなり近い距離で撃ったのにもかかわらず、レベアルの右頬を掠めただけにとどまった。

 その凶暴さや、巨体からは想像もつかないほどの反射神経だ。

ただ凶暴なだけならば頭を使えば勝てる、ただ巨大なだけならばすばやさで翻弄すれば勝てる、その両方ならば頭を使いすばやさで追い込めば勝てる。

だがやつは違う、凶暴で、巨大で、すばやい。

 俺の攻撃手段の中で最も早いのはこの銃による攻撃。

地球の物よりは格段に性能は劣るが、それでも普通の魔物には致命傷の怪我を負わせられるのに、こいつには当てることすら難しい。

 左に回避することにより、突進をなんとか避けることが出来た俺は、すぐに次弾装填し相手の出方を伺った。

 残り18発、これらすべてを当ててもおそらくやつは倒れないだろう。

レベアルは先ほど右手に当たった弾によるダメージを、おそらくかすり傷程度にしか思っていないようで、ぺろりと傷をなめて怪我の手入れを終えていた。

 右手から赤い血が少しではあるがまだ流れているのにもかかわらず、痛がる様子もなく、俺だけを見つめている。

 ちょっとは痛がってくれてもいいだろうに……。

 そう愚痴をこぼしたくなる。

傷の手当てを終えたレベアルと、体勢を立て直した俺が見つめ合う。

もちろん奴に隙など見出すことはできない。

 しかしこのままでは先ほどと同じように、襲われる。

そう思った俺は、今度はこちらから動きだした。

 レベアルはこちらの出方を伺っていたようで、俺に合わせて動き出す。

 奴の動きは早い。

 背中にゾクっとした悪寒が走る。


「!?」


 俺は思わずその悪寒に気を取られ、地面に生えていた木の根に躓き転んでしまった。

だがそれでよかった。

 俺が感じた悪寒はすぐに何なのか把握することになる。

何か重量感あるものが風を切る音が、頭上を通り過ぎていく。

 振り返って確認した時、それはすでに無かったが状況が教えてくれた。

俺の頭上を通り過ぎたもの、それはレベアルの左の張り手だ。

空振った左手は近くの木に当たり、深々と爪あとを残していた。

 体中から汗が一気に噴出し、パニック状態を引き起こそうとしている。

俺はそのパニック感情の1つ、走れというものだけを信じて当初の目的であるポイントへと走った。

 俺が目指したポイントは、近くにあった太い木がある場所。

狙いは俺と奴の間にこの木を挟み、この木で攻撃を避けながら、反撃にしようというものだ。


「はぁ……はぁ……ここなら」


 レベアルの素早さに、ここまで移動することができないかもと思ったが何とか成功し、気持ちが落ち着く。

これで木に当たって自爆する体当たりは、回避することできるだろう。

 しかしそんな俺の拙い考えは意味がなかった。

 奴は俺に攻撃を加える事だけを考えていたのだ。

 レベアルは俺との直線状にあった2本の小さな木にためらいなく突っ込むと、その木々をただの木材に変え、スピードを一切落とさず一直線に向かってきていたのだ。

 その時の俺は奴の攻撃にはまだ気づいてはいなかった。

太い木に隠れたことが裏目に出て、レベアルを確認することが出来なくなってしまっていたのだ。

 目の前の太い木がドガッ! とすさまじい音を立てヒビが入った。

木に背中を預けていた俺は、振動でようやく自分の危険を感じたのだった。

 だが感じ取っても時すでに遅し。

 かなり太い木であったため体当たりだけでは倒れなかったが、奴の攻撃はそれだけで終わらず、奴の左腕が風を切る音を出しながら振り下ろされ、俺ごと木の幹を吹っ飛ばしたのだ。

 幹を削り取られた木は自重を支えることはできず、あたりの木を巻き込みながら倒れていった。

木の裏側にいた俺は、奴の左手の振り下ろしの力を受け、吹き飛んでいった。

2メートルほど吹き飛ばされる。

 もしあの木が無かったら、いったいどれほどまで飛ばされていたのだろうか。

 全力を尽くして攻撃してくる奴は、空中を舞い踊っている俺を見逃さなかった。

更なる攻撃を食らわせるため、すぐさま走り出し俺との距離を詰めてきたのだ。

 その動きを空中で捉えることができた俺は、覚悟したはずなのに死への恐怖がまたも蘇る。

空中から落下した俺は、運良くすぐ立てる体勢であったためすかさず回避行動に移った。

 今度は右へ思いっきり飛びのき、レベアルの攻撃から何とか逃げようと試みる。

着地してすぐに回避行動に移ったためぎりぎりのところで交わすことが出来た、と思ったのだが、無情にも左足がレベアルの肩へと触れてしまっていた。

 左足にすさまじいパワーが加わったことにより、空中にいた俺は勢いよく回りだす。

1回転半周り今度は背中から落下する。

肺の中の空気はすべて吐き出され、呼吸をするのもつらいほどの痛みが脳へと伝わってきた。

 自然と目に涙が浮かぶ。

けれど俺はそんな状態になっても、右手の銃だけは手放しはしなかった。

なぜならば、俺の考えられる作戦の中でこの鋼色に輝く銃だけが、俺の生をつなぎとめられる唯一の存在だとしめしていたからだ。

 痛みに必死に耐えながら、立ち上がる。

先ほどの攻撃のせいで左足の感覚が鈍い。

アドレナリンが出ているため、動けなくなるほどの痛みは感じていないが、おそらく捻挫かひびが入っているだろう。

 だがこの左足の代償分ぐらいには、生をつなぎとめることが出来た。

 レベアルは俺が飛んだ地点を予測していたのか、真っ先にそちらに向かうように走り出したのだ、だがそこに俺は存在しなかった。

 左足が奴の肩がぶつかったせいで軌道が変わり、俺を見失ったのだ。

本来なら追撃を受けて死んでいただろう。

不幸中の幸いである。

 しかしそれも一時、奴の鼻が俺の臭いを感じ取り、すぐさまこちらに向き直ろうとしている。

若干俺のほうが立ち上がるのが早かったため、レベアルは背中を俺に向けるような形になっていた。


(今しかない!)


 俺は必死に右手を上げ、標準を合わせいっせいに銃口から弾を発射する。

避けられることも想定し、最初の二発は奴の中心に、ほかの四発は奴に当たるか当たらないかの位置に発射した。

弾は勢いよく飛び出し、レベアルの方へと一直線に飛んでいく。

音に反応してレベアルは必死に回避行動を取ったのだが、避けることを想定としていた弾にぶち当たる。

 当たった弾は3発ほど中心を狙って撃った1発が奴の左わき腹に、はずして撃った2発が右肩と、右の太ももあたりに命中し赤い血を流れさせる。


「ガゴルァァァァァ!」


 骨まで響く唸り声が、森を埋め尽くす。

安全な位置にいるはずの鳥達も、いっせいに青空へと飛び立っていく。

 確かに、3発ほど命中したのだが見る限りどれも致命傷には至らない、それどころかただ怒らせているだけに感じられる。


「くっ…………決定力不足か」


 それでも銃に頼るしかない俺は、再度弾を詰め込む。


(弱らせるために使える玉は後6発、それで隙を作らなければ奴を倒せない……)


 俺に奴の隙が作り、なおかつ決めの一撃を食らわせることができるのか不安で仕方が無い。

 怒りを感じているレベアルは、これからどんな行動に移るのだろうか。

おそらくまた体当たりを仕掛けてくるであろうと考え、俺はその攻撃を避けるために爪先立ちで待ち構える。

左足が痛むので取りたくない体制ではあるが、自分の命と比べたらと我慢するしかない。

 しかし奴は俺の予想をあざ笑うかのように、攻撃方法を変えてきた。

 レベアルは近くにある細い木を思いっきり殴り飛ばし、木での攻撃を仕掛けてきたのだ。

すさまじい音とともに、木が回転しながら向かってくる。

直接打撃を食らうよりはダメージは少なそうだが、もともとの攻撃力がでかいため俺にとって直撃は致命傷だ。

 最初の一撃は距離があったため予想外の攻撃でも避けることが出来たが、レベアルは自分の近くにある木々を連続で殴り飛ばしてきた。

 右へ、左へと命からがら避けてはいるが、木の枝や奴の殴る威力が強すぎて粉砕した木片などにより、手、足、体、顔、すべての部位に切り傷が増えていく。

 休むことなく木を殴り飛ばしたことにより、もともと開けていた場所はよりいっそう日の光を通す場所となった。


(まずい……光に照らされただけで立ちくらみがしてきたぜ……)


 1つ1つの傷は小さいものだが傷の数が多い、その傷から流れ出した血は、俺の服を2倍以上の重さへと変動させていた。

 おまけに無酸素運動の連続、休むことの許されない状態での死へのプレッシャー、その他もろもろが重なり俺の体は限界へと近づいていった。

 このままにらみ合ってレベアルの攻撃を許せば許すほど着実に俺の死が近くなっていく、そう感じた俺は死か生かの賭けに出た。

 次のリロードをすばやく行うため弾を左手へと握らせ、レベアルに向かって一気に走りだす。

 奴もただ待ち構えるという気は無いのだろう、こちらへと向かって走り出してきた。

 俺の狙いは奴の脚、なんとしてでもこの6発で奴の機動力を奪わなくてはいけない。

徐々に二人の距離は縮まり後5メートルとなったときに、レベアルは大きく両手を振り上げ、俺を殴りつぶす準備を完了させた。

 その様子をしっかりと見ていたのにもかかわらず俺はここぞといわんばかりに、脚に力を込めさらに加速させ、ヘッドスライディングのような形で奴の懐へと飛んでいく。

レベアルの腕が振り下ろされる、それと同時に俺も銃の引き金を引き奴の左足へとすべての弾を撃ち尽くす。

全弾命中! 喜んだのもつかの間振り落とされた両腕は、怪我のためうまく踏み込めずに遅れてしまった左足を飲み込みおかしな方向へと曲げてしまった。


「がぁぁぁぁl!!!!!」


 猛烈な痛みが、全身を駆け巡る。

捻挫かヒビのどちらかだと思っていた左足は、奴の攻撃により骨は完璧に砕かれ、肉は爪により抉られてしまっていた。

 機動力を奪うつもりが、こちらの機動力を完全に奪われる形に立ってしまった。

だが完全に無駄というわけではなかった。

 左足に集中して打ち込んだ弾は、レベアルを地面へと転がらせてうめき声をあげさせたのだ。

 奴にとっても、俺にとっても、最大のチャンスである。

痛みで気がふれそうな体にさらに鞭打って、俺は先ほど左手へ移しておいた最後の6発を震える手で詰め、攻撃に移ろうと必死にあがく。

奴までの距離はおよそ2メートルだが、左足が使い物にならない俺にとっては、永遠に続く道のごとく長い。

 俺がもがいている中レベアルも行動を開始する。

 野生動物というのは強い。

俺と同じように左足が使えないというのに残りの足で立ち上がるのだ。

先ほどのように2足歩行のように立ち上がることはできないが、はいはいのように4足歩行はすることができる。

 はいずるように匍匐前進しか出来ない俺と、左足をかばいながらだが4足歩行できるレベアルとでどちらに勝ち目があるだろうか。

 近づいてきたレベアルに銃を向け撃とうとするが、奴の右腕により吹き飛ばされる。

右腕は銃で撃たれ左足が使えないため踏ん張れない、そのため威力は落ちているはずだが、それでも俺は勢いよく転がされ木にぶつかった。


「がは!」


 ぶつかったせいで声が上げる俺に奴はゆっくりと近づいてきて、同じように今度は左腕で、俺を吹き飛ばした。

 右へ左へと吹き飛ばされた俺の体は、まるでサッカーボールのように跳ね回る。

ところどころ、殴られたことにより、骨にひびが入り、裂傷が増えていく。

 意識が朦朧とし始め痛みの感覚がなくなり、死を覚悟したとき奴が動きを止める。

何かにおびえるように一点を見つめ、そちらから視線をそらそうとはしない。

 レベアルが見ている方向になにがあるのか気になったが、こちらはそれどころではない。

おそらく最後になるだろうチャンスが回ってきたのだ。

 先ほどから撃っている銃では力不足、だからといって俺の今の状態で繰り出す攻撃でも倒すことは出来ないだろう。

ならば混ぜればいい。

 俺は最後の力を振り絞り、左ストレートを放つ。

左につけられたソードは、俺から意識が外れていたレベアルを捉えた。

 奴の左胸に突き刺すことが出来たが浅い、このままでは奴につぶされて殺されてしまう。

俺は左手のグローブに銃口を押し当て、残りの弾をすべて発射した。

 銃の攻撃では決定力不足、しかしほかの攻撃でも威力が足りない、そう思っていた俺が考え出した答えがこの合わせ技だ。

 この攻撃を繰り出すために、最後まで取っておいた6発の弾丸は1発ごとに奴の胸へと、ソードをめり込ませるために消費していく。

手から伝わる振動が体全体を揺らし、その振動によって発生する痛みによって気絶しそうになりながらも全弾撃ちつくす。

 レベアルも必死に俺を引き剥がそうとするが、こちらも命がけだ。

撃ちつくすまでは、意識を手放さず、暴れられてもその体からソードを引き抜かせることはしなかった。

 全弾撃ち尽くしあたりが静かになると、レベアルが揺らぎ崩れ落ちようとする。

それと同時にすべての力を使い果たした俺もまた、崩れ落ちていく。

 倒せた、そう思い安心して意識を手放そうとしたが、この目で最後に捉えたのは崩れかけていたレベアルが、持ちこたえこちらへの最後の一振りをかざしている所だった。

 俺は自分が死ぬとわかっている一撃を見ても、気力を振り絞り立ち上がることも出来ず、意識が遠のき瞳を閉ざしたのだった。

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