第一話
かつて、この大地は魔王のものであった。
魔王は生きることに飽いて、死を望んだ。しかし、魔王は自殺することができなかった。魔王の自動回復が魔王の自殺を阻んでいたのであった。魔王がもし自殺できるのであれば、生物は存在しなかっただろう。
魔王は人間を創造し、その副産物として動植物を創造した。こうして、無機物ばかりのこの世界に有機物が突如出現した。これがいいことだったかどうかは分からない。
こうして勇者は生まれた。
僕は勇者の子孫だった。
勇者の子孫はあまりにも多く、全人口の3%程度は直系の勇者の子孫だ。希少価値はあまりないけれど、それでも時折先祖返りして初代勇者並の力を発揮する勇者の子孫もいるそうだから侮れない。
未だに魔王を倒すことはできていない。人類はただ、魔王を封印することができるだけだ。
魔王は100年に1度ほど封印を解いて暴れ回る。そして、魔王の封印は来年100周年を迎える状態で、いつ魔王の封印が解けてもおかしくない。
ぼくはニートだった。学校に通うこともなければ働くこともなかった。ぼくはニートでいることを後悔していないが、このままでは、ぼくは魔王討伐に巻き込まれる羽目になる。政府としても学生や職を持つ人間は魔王討伐に送りにくいらしいが、生憎ぼくのような穀つぶしには政府は冷たい。
「働きなさい!」
「おはよう。死ね!」
今日もまた母親が働けとうるさい。やれやれ。もううんざりだ。