変わらぬ月、変わるもの
「では、ギムレ……また会おう。我々は暫しここに留まる」
「すぐ会うと思うがな……PKに気を付けろよ」
「滅ぼしてくれる」
イワンと別れ、ギムレント達は町に戻ることに、気付けば月が、完全に昇っていた。くたくたの様子の三人とまだまだ元気なギムレントが町へと帰路に着く。
「疲れましたね……ギムさん」
「そうだねえ……食事をせずに戦ってたしなあ」
「明日はどうしますか?ギムレントさん?」
「アコニトちゃんを育ててあげないとね。PKが横行してるし……モンスターも怖いし」
「あー、ドラマどうなったのかな……」
「まだドラマの話かい?葵君?」
「だってー……」
町への道はモンスターに出会わず、PK連中にも会わなかった。恐らく吹雪の森騎士団が総出で町の外に出たのを警戒して身を隠したりしてるのかもしれない。また彼らの仲間を襲撃してしまったら……PK連中もバカではないらしい。ジーフェンは苦笑いを浮かべて鳴るお腹をさすり、カリンは明日のことを気にする。そして、いつも通りの葵はやはり、ドラマのことを気にして肩を落とす。そんな彼らと話しながら、ギムレントは月を見上げた。
「美しいのにな……世界は……」
~◆~
「あの飯知ったら、ギムさんどんな反応するっすかね……」
「はじめは駄々をこねると思いますよ。ガラン君」
「そうっすよね……俺もショックでしたから……」
事は数時間前のこと、ロシアでの活動拠点として所有してるギルドホールに戻ったガラン、大地、アコニトはこの世界でのはじめての食事を取った。食べ物は予め大地が購入していた美味しそうな料理の数々、見た目は素晴らしく、空腹のガランにとっては腹八分目など気にせず平らげたいところだった。
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「わ、私もいいんですか?」
「ええ、いいですよ。それよりガランに食べられないうちに食べないとです」
「さ、さすがにそこまで考えないバカじゃないっすよ大地さん」
アコニトは遠慮がちに用意された席につき円形のテーブルを大地とガランも囲んで座る。遠慮がちなアコニトを気遣いガランをダシに食事を勧める。ガランは大地にそこまで酷くないとひきつった笑顔見せる。
「どうですかね?では、いただきますか」
「大地さん……はぁ、いただきます」
「い、いただきます」
大地はガランを目の笑わない笑顔で言葉を付けたし口に運ぶ。ため息混じりのガランもアコニトも料理を口へなんだかんだ言いながらもやはり、がっつくガランであった。だがその一口、数口で、悲劇に初めて気づく。
「んっ……!?」
「っ!?」
「………………」
がっついたガランは硬直し、アコニトは表情が曇る。大地は黙り込んで眼鏡を直す。そして、口を揃えて出た言葉は一つ。
「味がねえ」
「味がない……」
「味がしない」
まるで、地獄の責め苦に有りそうなこの現実。その後も他の物を食べてみるが、どれを食べても料理は味がなく、試しに飲み物はと飲んでもどんなものも水である。
「この世界……やだ……」
ガランは机に突っ伏してしまい涙を流す。その様子にアコニトは思わず笑ってしまうがすぐに顔が曇る。大地はこの状況を静かに考え、顎に手を当て思案する。思案するが。
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ギルドホールはギルドのメンバーと許可されたものしか入れない。町の中でも安全なセーフゾーンのひとつである。その安心できる場所。ガランがふと見つめる扉の向こうの一室で、寝息をたてて眠るアコニトがいる。食事は最悪だったがやっと安心できてこと、突然突きつけられた現実の疲れがきたのだろう。
そんな彼女を守る騎士と侍は今後を考え、窓辺から見える月を眺めながら話をしていた。
「後で倉庫の素材アイテムを食べてみたのですが……それには味がありましたね……」
「マジ!?なんで教えてくんないっすか大地さん」
「これから貴重品になるものをあなたに教えるわけないじゃないないですか……」
「貴重品?」
「恐らく市では買い占め、品切れ……それにより素材アイテムは値段が高騰……下手したら、略奪行為が起きてるかもしれませんね。そしてここはハバローフ。農作物がとれるのは恐らく八月から、仮にモンスターのドロップ品があっても、この状況では供給量が少ないすぎるでしょうね……」
味があるものが貴重になった今、起こり得ることは現実もう起きてしまっていた、昼間のうちに、生産系ギルドや大手のギルドが買い占めに走り一部の場所では略奪に発展していた。その略奪で衛兵に斬られたものもいた。外ではPK内では、食料問題。ゲームの世界は無慈悲にも人を変えていくようだ。
「ギムレントさんの悩みの種が増えましたね……」
「特に状況が悪化する一方だと……なに始めるやら」
「我々も考えなくてはなりませんね……」
きれいな月を見上げ、暗い廃墟に似た町を見る。希望のない世界を
あの見た目で味がないって某地獄の補佐官が考えそうな責め苦だね




