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妖刀怪奇譚  作者: かずくん
現代編
2/12

第一部 第二話 『駐車場』

 「これより、第六十二回全国高等学校剣道大会の表彰式を……」


 厳かな雰囲気に包まれた武道場で、今大会の表彰式の始まりを告げるアナウンスが響いた。


 女子団体の三位から一位、同じく個人戦の三位から一位が呼ばれる。


 続いて、男子の組も同様に団体戦と個人戦それぞれの入賞者や代表者が登壇してゆく。


 最後に、男女の優秀者の発表である。


 「女子優秀選手は、京都錦華女子高等学校、藤原千歳さん……」


 チトセが、綺麗に手入れされた長い黒髪を靡かせながら、表情を固くしたまま登壇して賞状を受け取る。

大会主催者の脇に流れて、控えるように進行係に促される。


 「最後に、男子優秀選手は、北海道札幌中央高等学校、佐藤一三くん……」


 カズミがニコニコと笑顔を浮かべ、時折後にいる学校の仲間たちを振り返っておどけている。

やんわりと主催者に窘められ、神妙に賞状を受け取った。

チトセと同様に、主催者の空いている脇に控えるように促される。


 主催者を挟んで、チトセとカズミは壇上から周囲を見下ろす形になった。


 「藤原さんは、三年連続で個人戦の優勝を成し遂げ、また、佐藤くんは二年連続個人の部で優勝、今年は団体戦優勝校の一員としても目覚ましい活躍をしました。皆さま、もう一度両選手に盛大な拍手を……」


 本日一番の歓声とともに拍手が贈られ、チトセとカズミは一礼を以って喝采を受け止めている。


 両名が降壇の後は閉会の辞へと続き、本大会の締め括りが為され、全国から集った若き剣道家たちは家路につくこととなった。


 しかし、優秀選手に選ばれた二名は解散という訳にはいかなかったようである。

大会関係者から特に声を掛けられ、再度武道場の中央に招かれる。


 同じ学校の者たちからの好奇、或いは嫉妬の目を感じながらも、囲み取材のような状況に追い込まれてしまった。


 大会関係者で剣道高段者、どこ其処の師範だなんだという人物に囲まれながら、複数の雑誌や新聞社のカメラマンに目線をせがまれる一幕が続いた。


 なにせ両名ともに、高校入学から毎年優勝なのだ。

 著名な有段者の目から見ても、両名の実力は飛び抜けていた。


 昨今の景気の悪い時事ニュースや、又は胸糞悪くなるようなゴシップニュースの類に比べれば、余程健全というものである。


 カズミは身長178cm体重72kg、平均よりやや大柄といったところだが、目を惹くのはやはりその引き締まった肉体そのものであろう。

道着の上からはそうと判じるのは難しいが、およそ無駄な贅肉の類とは無縁で、鋼のような質の良い実用的な筋肉で絞られている。

顔立ちもそれなりに整っており、なかなか見栄えも良い。


 チトセはと云えば、こちらもまた容姿はそれなりに整っている。

平均的な女性に比べればやや筋肉質だが、引き締まった身体ではあるものの、女性らしい肉感を失わず、また彼女のトレードマークでもある長い艷やかな黒髪は見る者の目を惹きつける。

最近の濫造アイドルにも決して遜色ない姿形だが、飛び抜けたルックスというよりは、その清廉な雰囲気と挙措が彼女の最大の魅力であろう。


 とは云え、両者の内面を知る者など皆無であるので、外面の良さがばかりが目立っている格好ではある。


 写真撮影が終わり次第に、記者からもインタビュが畳み掛けられる。


 「三年連続優勝は快挙ですね! しかも美人女子高生剣士だもんなぁ。絵になりますよ!」

 「剣道を始めたのは高校に入学してからというのは本当? あの独創的な技の数々……天才だねぇ」

 「大学は決まってるのかな? 進学先でも剣道を?」


 「見事に二年連続個人優勝かぁ! しかも今年は団体優勝も決めて、去年の悔しさをバネにってトコかな?」

 「ご実家が剣道場なんだよね? もうご家族には伝えたのかな? お父さんも著名な剣士だから、喜んでる?」

 「来年も優勝目指して、女子の藤原さんに続く快挙をね!」


 記者からの質問に愛想良く振る舞いながら、カズミはふと、隣で取材を受けているチトセに目を遣った。

偶然か、彼女もついとカズミに視線を送ったところだった。


 慌ててチトセは目を背ける。

目を逸らす直前に随分強く睨まれた気がしたが、気のせいだろう、とカズミは受け流した。


 記者たちはこの些細な遣り取りには気付かず、およそ一時間に渡って取材と写真撮影が続けられた。






 時刻は午後三時を少し過ぎたあたりか、ようやく大会優秀者への取材も終わり、記者たちも三々五々に出てゆく。


 「遅えよー、佐藤! 早くホテル戻ろうぜ! 祝勝会だよな、祝勝会!?」

 「悪い悪い! ちょっと取材が長引いてよ?」

 「おめー……なに業界風に言ってんだよ!?」


 お互い笑い合い、冗談を言い合いながら武道場を出てゆくカズミたちを尻目に、チトセは一人で荷物を担いで出て行った。


 「なぁよぉ? やっぱ藤原さん美人? 近くで見たらどうよ?」

 「あん? どうだべな? あんま意識してなかったかんな……」

 「マジかよお前……俺はああいうお姉さん系がタイプなんだよねぇ」

 「ふーん……連絡先聞いてきてやろうか?」


 そう言って、カズミは駆け出して仲間たちの輪から外れる。

 先ほどから自分たちの視界の端に彼女の姿が認められていた。

 カズミが追い掛けた先では、彼女は武道館併設の駐車場の入り口で、しきりに辺りを見渡していた。

 

 「こんちはっ! さっきはお疲れ様でした! 藤原さん記者さんらに大人気でしたね!」

 

 気さくに話し掛けるカズミに驚いて振り返ったチトセの、凛々しい顔立ちが僅かに歪んだ。

 

 なんだよ……こっちが下手に和みやすく話してんのによ……


 カズミは本音とは裏腹な笑顔をふりまきながら、チトセに更に近づいて行く。

 気さくな人柄で、頭の回転も良く、運動神経は抜群。

 カズミはそうそう人様に嫌われるような人間ではない、と自らを認識していた。


 「……お疲れ様でした。優勝おめでとうございます……」

 「あざーっす! 藤原さんも、三年連続とか凄いっすよー! あっ俺、佐藤一三っていいます。初めましてです!」

 「……覚えてます?」

 「……えっ?」


 なに言ってんだ、この女……どっかで会ったか?

 前にヤッた女とかだったら最悪だけど……京都だっけか、有り得ねえな……

 ……なに睨んでんだよ、この女は……



 ふわぁぁぁぁ!!?? やっぱりこの人だーー!!

 うぅ……よりによって男子の優勝者に恥ずかしいトコ見られたなぁ

 ……ってか、この人覚えてないの!? わたしをあんな辱めておいて!?


 やや僻みじみた考えに囚われているチトセだが、あの昼間の一幕は思い出すだけで顔が赤くなりそうだった。

 やけにハキハキと小気味よく話し掛けて来るが、どうしても嫌悪感が先に立つ。

 あの昼間の遣り取りがあったからだろうか。


 いや、違う、と気付く。

 この人の、笑顔はハリボテだと思った。

 根拠は無い、だがどうしても、自分はこの目の前の好男子が生理的に受け付けられない、そんな気がした。


 しかしそれよりも、目下喫緊の問題が彼女の思考を滅茶苦茶にしていた。

 彼女の顔色は心なしか優れない。


 「いえ……気にしないで下さい。変なこと言ってごめんなさい」

 「いやー、いいんすけどね。あのですね、もしよかったら、携帯のぉ……あれ、まだ話してて大丈夫です? 他の皆さんは?」


 気遣いも出来る男の子……でも駄目だ、わたしはこの人は無理だ……


 「あの……もしもーし?」

 「あっ、はいっ? なんでしょう?」

 「いや、他の人たち待たせてます? バス……もう無さげですけど」


 そうなのだ。

 チトセたちを今朝送って留め置いていた筈のマイクロバスが、見当たらない。


 最悪だ。

 だが、容易に想像はついた。

 同級の者たちが待つのは嫌だとでも騒いで、顧問を無理やり引き立てたのだろう。

 もちろん携帯電話を確認もしたが、メールもなにも連絡はない。

 下級生らも、これを限りに引退するチトセを気遣うこともなかったのだろう。


 そういえば部活仲間たちの誰一人として、電話番号もメルアドも知らないな、と気付き、自嘲気味な苦笑が浮かんだ。


 「たぶん……先にホテル戻ったんだと思うから……」

 「ふーん……じゃあこのまま俺らと遊び行きません?」


 どうして初対面に近いというのに、こうも図々しく誘えるのだろう、とチトセは内心驚きをもって聞いている。

 少なくとも、自分には理解出来ない感覚だとも思う。


 「そんなこと……初対面でいきなりそんなこと言われても……」

 「嫌です? 俺のダチも藤原さんと剣道トークしてえって言ってんですよ?」

 「あー……いえ、困ります」

 

 「どうせ置いてけぼり食らったんでしょ? 藤原さん、あんま学校の人らに好かれてないでしょ? 表彰ん時、おんなじガッコの人ら、めっちゃ冷めた目ぇしてたもん」


 え……なにを言ってるんだろう……え?

 わたしが……え?


 「藤原さんに僻んでんでしょ? そんな連中は放っといてさ……」

 「そんなこと関係ないでしょっ!? 放っといてよ!?」


 チトセの口から、自分でも驚く程の大声が飛び出していた。

 目の前の男は大声に動じること無く、僅かに口角を吊り上げてボソリと、しかし確かに聞こえるように、呟いた。


 「図星なんだ?」


 甲高く乾いた音が二人の立つ場所から響いた。

 カズミの取り巻きは遠目で見守っていたが、いきなりのことに驚いている。

 藤原が、佐藤の頬を張ったのだ。


 取り巻きたちがいきり立って駆け寄っていくのを尻目に、藤原は駆け去って行った。


 「お前! なにやってんだよ? なに話したんだよ!?」


 悪い癖が出たな、と内心でカズミはほくそ笑んでいる。

 昔から、外面を取り繕っている人間が気に喰わなかった。

 それは同属嫌悪のような感覚ではあるが、だからこそ他人を洞察出来る感覚を養ってきたとも言える。


 「いや、普通に一緒に遊ぼうって誘っただけだぜ?」

 「それだけでお前の顔面張るのかよ!? おっかねえんだな、藤原さんって……やっぱ俺はパスだわ」

 「だよなぁ? 俺らのホテルに来ませんかって言っただけなのによ」

 「いや……それお前の誘い方がおかしいから」


 ケラケラと笑って、もう気にしていないという風にカズミは歩を進める。

 取り巻きらを従えて、ホテルへと戻っていく。






 クハハハ……おもしれえ女だな、あいつ。

 裏表がある人間は好かねえが、こいつらみてえな雑魚とは違う感じがしたな。

 もういっぺん弄ってみてえなぁ……弄り甲斐のありそうなヤツだ。

 ……祝勝会とかめんどくせえな……早く地元帰れよこいつら……

 展示会、明日からだったよな……こいつらと寝台特急なんざ冗談じゃねえよ。

 適当に理由考えなきゃな……



 なによなによなによなによなによ!!

 なんなのよ! アイツはっ!?

 信じらんない……なにが解るって言うのよ……見透かすようなこと、勝手に言って……

 ……ムカつく……みんなムカつくっ! 自分もっ!!

 勝手に厨二病こじらせて友達はゼロ、知らない土地で一人ぼっちで……どうしたらいいのよ! 

 今更ホテル帰るのも億劫だな……またブツクサ言われるだけだし、夜までどっかで時間潰そう。

 明日もみんなで新幹線なんて絶対無理だ……やっぱり仮病でもなんでもして遅れて帰ろう。



 二人は奇しくも同じ予定を立てていた。

 明日は、ともにそれぞれの学校が東京を離れて帰郷の予定である。

 カズミの学校は、寝台特急を利用して北海道へと。

 チトセの学校は、新幹線で京都まで。


 しかし、カズミはと言えば、本心では程度が低くて付き合い切れぬと見下している取り巻き連中と行動するのを避ける為。

 そして、チトセは本心では皆と仲良くなりたいと願いながらも、これまでの振舞いからそれが許されないと自覚しており、無用な軋轢を避ける為。


 運命ともいうべき不思議な縁によって、二人は東京滞在を伸ばすことになる。


 そして、この両名は、この先の人生においても奇妙な縁を絡ませ合いながら、時に対立し、時に協調しながら、大いなる怪奇に立ち向かってゆくことになる。


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