交渉
カイ「俺はまだ、首相になるとは言ってないぞ」
シャル「何が気に入らないと言うのですか? 何でも言ってみてください。私のできる範囲であれば考慮します」
シャルは根気強くカイと交渉した。
シャル「どうですか? 私がレオの言い成りや、思いつきで言っているわけではないと、わかってもらえたと思いますが」
カイ「ああ……」
シャル「私の言に嘘があると思っているのですか? フィーリオンに乗っているのですから、嘘でないことがわかるのではないかと」
フィーリオンに乗っていると、他の搭乗者の思考が混じることがある。
それどころか、本人が忘れているような記憶や感情が流れ込んでくることさえある。
カイ「本当にそれでいいんだな?」
シャル「ええ。王と首相は強い信頼がなければなりません」
カイ「わかったよ。首相、引き受けよう」
シャル「これで、あなたは今よりアリエス王国首相となりました。この国のために尽力してください」
カイ「……? なんか儀式みたいのはないのか?」
シャル「カイはそういうのに拘る人なのですか? ちょっと意外ですね」
カイ「俺には好都合だが、そういうものじゃないのか?」
シャル「当然、任命式はありますが、首相としての全ての制限が解除された時に改めて行うこととします」
ミネルヴァ「うぅ……ここは?」
シャル「気が付きましたか? ミネルヴァ」
ミネルヴァ「はい。シャルロット様」
カイ「傷は完全に塞がっているようだな」
カイはミネルヴァの傷のあった場所を見る。
ミネルヴァ「な、何だ貴様は! 人の体をじろじろとみるな!」
ミネルヴァが暴れる。
カイ「痛い、痛いって。暴れるなよ!」
シャル「ミネルヴァ、病み上がりなのですから……」
ミネルヴァ「きさまのような、わけのわからん輩とシャルロット様を同席させるわけにはいかない」
カイはコックピットから追い出されてしまった。
カイ「なんで俺が……」
ミネルヴァ「さあ、シャルロット様、首都に帰りましょう」
シャル「ミネルヴァ、あなた、この機体を動かせるのですか?」
ミネルヴァ「フィーリオンコピーと見た目は大分違いますが、動かし方は、おそらく同じでしょう」
シャル「……」
数十分後。
ミネルヴァ「私には動かせないというのか……」
シャル「……。試しに、カイとミネルヴァの組み合わせで乗ってみてください」
ミネルヴァ「シャルロット様、お言葉ですが、嫌です」
シャル「これは命令です」
ミネルヴァ「はい……」
シャルロットが降り、カイが後部に乗り込む。
カイ「全く反応が無いな」
ミネルヴァ「な、なぜだ……」
シャル「今度は、ミネルヴァが後部座席に行ってください」
カイが操縦席、ミネルヴァが後部座席に着く。
カイ「ちゃんと起動した。慣れてきたのか、割と簡単に起動できるようになってきたな」
ミネルヴァ「そんな……幼い頃から、あらゆる英才教育を受けてきた私にできないことがあるとは……」
ミネルヴァはがっくりと肩を落とす。
シャル「やはりそうですか」
カイ「何かわかったのか?」