なに、こいつら。
「ボクハココニイルヨ」
画面右下に常駐のアイコンをタップすると、デフォルメされた猫の上に吹き出しでそう表示された。
設定された属性にそってランダムなセリフが出る仕組みで、音声がオンなら鳴き声も有る。授業中に鳴り出すと取り上げられるので、学校ではマナーモードな為残念ながら聞けない。
「可愛いでしょ? 決まった時間にメールも出してくれるんだよ」
風呂にまでスマホを持ち込む程そのアプリにはまっている彼女を見て、彼氏は口をへの字に曲げる。
「俺もここに居るけど」
「大人気ねえな。アプリに張り合うなよ」
からかう声に、口をとがらせた彼が振り向く。
「風呂にまで持ち込んでるんだ。風呂にまで」
「なに二回繰り返してんの」
重々しく言ってみせても内容がしょうもない。彼女はアプリに夢中で、タップする度アニメーションの猫がゴロンと転がったりあくびをしたり、愛らしく動く様とセリフにほのぼのして彼氏そっちのけ。
柔らかな春の日差しと昼食後の満腹感が眠りを誘う、緩い午後に見合う光景だ。
「授業したくないな~」と言う空気があちこちで漂っている。
「アプリのくせに生意気だ」
真顔のセリフにクラスメートは「え~」と顔をひきつらせる。
「ペット飼う感覚じゃないの?」
ペット、しかもアプリに嫉妬するとか。
「アプリより俺をもっと構え」
何か要求し出した彼にクラスメートは「うわあ」と引くが、彼を恋人にしているだけあって鈍いのかなんなのか、スマホから顔を上げた彼女は「うん?」と小首を傾げ。
にっこり笑って「よしよし」と彼氏の頭を撫でた。ぐずる子供を適当にあやす母親の様に軽い調子で。
だが、彼氏は「よし」と重々しく頷いた。
「満足?」
小首を傾げる彼女がうっかり大物にみえる。
彼氏は「アプリより俺をもっとかわいがれ」と偉そうにしょうもない要求してるし、こいつらなんなの、とクラスメートは二人をうろん気に見やった。
「だあめ。今はまーくんが優先」
うふふ、と彼女は笑う。
「なっ、何、だと……?」
衝撃を受けたらしい彼氏は、まーくんと名付けられたアプリをじとりとうらめしげに睨む。
彼氏の肩をポンと叩いて、クラスメートは「ドンマイ」と笑ってサムズアップして慰めた。
「うるさい!」
ムスッとへの字口になった彼氏に手を払われた。
解せぬ。