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ゲーム名「オセロ」  作者: wise
ライン編
2/14

二話「ブラックライン」

 双子だった俺たちは何をするにも一緒だったていうのに、全く別人のように育ってしまっていた。他者との関わりを嫌って不愛想な俺とは違い、弟の陸は笑顔の絶えない優しい子だった。多くの友人に囲まれ、場の中心にいつもいる様を見て内心嫉妬している自分もいたかもしれない。


 しかし、変わってしまった。


 俺たち家族は中学二年の夏に引っ越すことになった。それは父方の祖母の持病が悪化したことを受けて母が看病をしたいと言いだし、家族皆で田舎に帰ることになったからだ。急な話ではあったが、引っ越し先の家はすぐに決まった。祖父母の家から一軒挟んだ隣に真新しい借家があり、全員がその綺麗さに驚き即決だった。


 新しい学校での新生活も当初は順風満帆だった。陸はいつも笑顔でいる。だから新しくクラスメイトになった人たちも気楽に声をかけてきたし、陸の方からも良く声をかけた。中学も半ばの時期なのでグループが出来上がっていはしたが、そんな不安など大して気にはならなかった。全てが上手く行く予感がしていた。


 だが、それは長くは続かなかった。


 越してきて一週間と経たない内に事態は急変したのだ。祖母の死、そして不可解な母の死。祖母の死は正直覚悟が出来ていた。しかし、母は余りに急だった。


 それだけでは、終わらない。


 事態が落ち着き、学校に復帰した陸の顔には笑顔があった。無理をしていた訳ではない。ただ、笑っていたのだ。それに対して周囲の奴らは貼り付けられたような笑顔に、同情や憐れみよりも気味の悪さを感じた。そして、起こる。次の死が。


 それは実業家の死だった。彼はこの町全体に顔が広い人物で反響は大きかった。そしてあろうことか、クラスのリーダー的存在であった生徒の父親でもあった。


 それは母と祖母に挟まれた死、俺達と祖父母の家に挟まれた家で起きた出来事だった。


 これが拍車をかける。


 死神の家だと言われ始めた。それに飽きた頃、呼び名が変わる。


 「オセロ」


 これは長く続いた。応用が効くからだ。特に席替えは一番盛り上がる。陸のクラスにはもう一人ターゲットがいる。陸が来る前からいた、言わば古株だ。この二人に挟まれるとアウト。ギャーギャー騒いで楽しんだ。教師も黙認だった。いや寧ろ、そのゲームのプレイヤーの一人だった。


 それでも陸の笑顔は離れない。


 逆に怖くなった奴らは、陸を空気として扱うようになった。それでも陸に当たることを止めない隣の家の子、そう実業家の息子が、次のターゲットとなりオセロというゲームだけが継承された。常に輪の外に居た俺とは違い、内側しか知らない陸には耐えられるものじゃなかったのだろう。そしてその頃には、父も家庭では空気になってしまっていた。


 自らの覆面を剥がす為に、部屋で叫び続けた。


 何時間も、何時間も。


 それが、陸のクロを呼び起こした。


 陸は商店街に買い物に来ていた。そこで出会ったのだ、はくの一人と。奴は、陸の目の前で人の首をはねてみせた。そして次の瞬間には奴の目の中には陸が写っていた。殴られれば、それだけで昇天を免れないような腕や、圧倒的な体躯、そして感じたこともないおぞましさを放つ武器。それら一つ一つが周囲を戦慄で凍らせていた。


 しかしその時に陸は怯えなかった。ましてや、覆面を被ったわけではない。心の底から笑い、近くにあった棒で左腕を叩き折ったのだ。


「奴は左利きだよ。だから誰かさあ、僕と一緒に左腕壊してよ。ねえ、お願いだから。ねっ、それで助かるよ、皆」


 周囲には恐怖に怯える愚図しかいない。


「分かった。じゃあそこの君さあ左腕前に出してよ。それで、隣に居るお母さん、そいつの腕叩き折っちゃってよ。ヒヒヒヒ」


 誰も動かない。早くしろよ。しかし動いたのは前の男だけだった。


「わしはグレーは殺らん主義じゃけどなあ、お前は真っ黒過ぎる」


 モブの叫び声とともに、陸の心臓はいとも簡単に貫かれた。そして、奴は手を合わせていった。


「お前の命を奪ったのは、はくの殲滅隊特命組組長、御剣みつるぎだ。全ては同胞が為。あと、すまんが、わしは両利きじゃ」


 「   死にたくない   」


 陸の頭には、この言葉が虚しく響いていた。

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