十一話「ザ・サード・サイド×THREE」
「何言ってるんですか?猪ちゃんには指一本たりとも触れさせやしませんよ。」
虎太はかなりの深手を負っているようだったが何とか立ち上がって、その声を絞り出した。
「ハハっ!流石だね。攻撃だけじゃなく、防御にまで力を分散させていたのか。そんな芸当が出来る奴見たことが無い。」
「いえ、違いますよ。手応えがおかしかったので、すぐにガードに力を回しただけです。」
奴が能力を発動させる前に腕を使って内臓を守った。しかし、力の制御が不十分で虎太は腕を一本折ってしまっていた。有り得ない方向に曲がっているその腕を見て、男は既に勝った気でいる。
「素晴らしい、素晴らしいが故に実に惜しい。君の選手生命を終わらせる役目を頂けて、私は光栄だな。」
「いくぞ、ふうちゃん!!」
虎太は残った腕で棒を操り、奴に向かっていった。
「血迷ったのか?」
男は笑う。だが、次の瞬間には捕縛されていた。虎太の棒がまるで虎の前足のようになり、締め付けられている。
「どういうことだ、何だこの棒は?」
「雲は竜に従い風は虎に従う、そんな言葉を聞いたことがありませんか?立派な君主には優れた臣下が現れるというたとえです。クロは先天的にその身に宿している存在から力を与えられる。しかし、シロは文字通り真っ白なキャンパスなんです。すきなものを宿せる。僕はね、全てを抉る”力”の竜と、獲物を確実に捕らえる”技”の虎、それら可愛い部下たちをこの棒に宿してるんです。僕の攻撃が突きだけだとでも?」
なおも虎太は話し続ける。
「クロが能力を使うには代償がいる場合がある、それをビクティム・スキル(V・S)、制限がある場合はリミット・スキル(L・S)、何もいらないのはフリー・スキル(F・S)、そして、禁忌、タブー・スキル(T・S)。あなたの使っているのは一方向の反射、それはおそらくF・Sでしょう。けど、それじゃあふうちゃんによる圧迫という全方向からの攻撃は防げません。L・SかV・Sに変更されたらどうでしょうか。」
「ハハっ!言われなくてもそうするさ。ついでに今私が受けているダメージもお前らに返して………」
「どうしました?」
「くそ。交渉が出来ない!!お前ら何をしたっ!!!」
猪が二人の戦いの場に割って入ってきた。
「おっさん、あたしのこと忘れてない?虎太に時間稼ぎして貰ってる間に能力発動させちゃった。ゾーンに捕まってるのに気付かなかった?このゾーンの中では、あらゆるクロは交渉が出来なくなる。つまりスキルの変更が行えないってこと。」
「ハハハハハっ!!もう私は終わりのようだ。しかし一体その年でどれだけの修羅場を潜り抜けてきたんだ?」
「あなたの想像の及ばない程、ですかね。」
虎太は更に力を込めた。奴の身体中から悲鳴があがる。だが、口は動き続ける。
「ふっ。お前ら、分かってるのか?色の幹部連中は無駄な争いを無くす為だとかほざいてるが実際は違う。ルールテキストに込められた力を欲してるだけだ。それは今よりも悲惨な未来を作り出す。それを阻止する、それが私の正義だ。お前らは何故色に従う!!」
虎太は答えた。
「友の為だ。友の信じる道を僕は信じる。」
締め付ける力が少し緩む。
「正義の反対は別の正義って良く言ったもんだ。私以外の過激派は厄介だぞ、奴らは悪の芽を潰すことしか頭に無い。正義の芽を育てる意識が無いんだ。それに、立場が違えば同じ力も意味が違うと信じようとしてる。害虫が消えた土壌でも根が腐ってたら何も収穫出来ないってのに。そうだ、最後にお嬢ちゃんの正義も聞かせてくれよ。」
「あたしにはそんなのないよ。だけど、倒れた人の掲げる正義をすべて背負う。それが戦場で最後に立っている者の役目だとは思ってる。」
「ハハハハハっ、ヒヒヒヒヒヒっ!鍵は車の中を探せばすぐ見つかるだろうよ。金庫の中にはルールテキストの悪しき力を封印するための研究成果も入ってる。使ってくれよ。あと、マチオは私の何倍も強いぞ。早く行かないと手遅れになる。それにしても、太陽とはこんなに気持ちの良いものだったのか。ありがとう。若造。すまない。」
「ターゲット抹殺完了。海斗の支援に移ります。」
一度静まった夜に、今度はサイレンが鳴り響く。この夜はまだ明けない。




